地中の揺籃 ――周囲は最後の最後まで、考え直す気はないかと尋ねてきた。
それこそ、棺に釘を打つその直前までも。
けれどもジルは、首を縦に振る気などさらさら無かった。
事が決まるや速やかに身辺の整理を済ませ、後事の憂いは全て絶っている以上、もはや今生に未練など一つもないのだから。
『……ほんと、意外と馬鹿なんだよね。……知ってたケド』
そう言った男は背を向けていた為、どんな表情していたのかは見えなかった。
とりあえず言葉そのものは否定が出来なかった為に、甘んじて受け取ったけれど。
――そんな自身の取った行動に、そしてじきに訪れるであろう結果に対し、恐怖は一切なかった。
強いて言えば、棺が閉じられて地中へ収まり土が被せられた直後、視界が失せた瞬間に僅かな心許なさを覚えたくらいか。
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