地中の揺籃 ――周囲は最後の最後まで、考え直す気はないかと尋ねてきた。
それこそ、棺に釘を打つその直前までも。
けれどもジルは、首を縦に振る気などさらさら無かった。
事が決まるや速やかに身辺の整理を済ませ、後事の憂いは全て絶っている以上、もはや今生に未練など一つもないのだから。
『……ほんと、意外と馬鹿なんだよね。……知ってたケド』
そう言った男は背を向けていた為、どんな表情していたのかは見えなかった。
とりあえず言葉そのものは否定が出来なかった為に、甘んじて受け取ったけれど。
――そんな自身の取った行動に、そしてじきに訪れるであろう結果に対し、恐怖は一切なかった。
強いて言えば、棺が閉じられて地中へ収まり土が被せられた直後、視界が失せた瞬間に僅かな心許なさを覚えたくらいか。
だがそれも、決して暗闇が恐ろしい訳ではなかった。
隣で眠る姿が見えない、それが彼を喪失した瞬間そのものを彷彿させたからで――まあそれも、暗さに目が慣れさえすればすぐに払拭されたのだが。
(……文句、言われんだろな……)
闇で満ちた狭い棺の中、ジルはそっと隣で眠るリゼルの頬へ指を伸ばす――その、以前はあった温もりが失われ、凍えるほどに冷たい肌。
形のいい唇も、胸の上で組まれた指も、全ての時が閉ざされた痩躯。
(……けど、……)
実際ジル自身、呆れてはいたし、愚かだとも思っている。
けれどこの瞳が自身へ向けられず、この唇が自身の名を紡がない――そんな世界で生きるなど、とても耐えられなかった。
耐えたくも、なかった。
棺内の空気など薄いもの。
そう時間もかからずに全てが失せ、同時に自身の命も潰えるのだろう。
彼の傍へ寄り添って、眠るように、痛みもなく――それはむしろ、幸いな事とすら思った。
既にもう、自身へ差し迫る死よりも恐ろしいものを知っているから。
(…………早く、連れてけ)
宝石のようなアメジストが瞼で遮られ、永遠に閉ざされた――あの瞬間。
あれほどの絶望感と、喪失感と、竜の爪に裂かれるよりも鋭利な痛みなど、恐らく存在しない。
――だから、共に。
不帰路でさえも、彼を守れるように。
――……君は本当に、仕方のない人ですね。
ふと、徐々に朧になっていく意識の中で、リゼルの声が聞こえた。
少しだけ咎めるような、それでいて僅かに呆れたような――そしてどこか、くすぐったそうな声で。
幻聴か、それとも。
知らず、口元には苦笑いが浮かんだ。
そんなもの――。
「……置いてったお前が悪い」
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とかとかこういうーーー……??。
あまりにもすぐ追いかけてきた一刀氏に対し、
「俺がいなくなった後、皆がどんな風だったか教えて欲しかったのに」
「それは他の奴に聞けば」
みたいなやりとりするのかなとかとか。
一刀はこれくらい重いことをしそうと言う偏見。