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    はちがつ

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    転生したフラシュミ
    現代でもまた裏切る気でいるフライ君の話
    最終的にハッピーエンドになる二人の再会シーン

    #フラシュミ

    運命という言葉に、やはり信憑性はあるのだ。
    神が引き合わせてくれたんだ。
    彼と出会った時、そう思わずにはいられなかった。
    それはさながら、恋愛映画のワンシーンのような美しい出会いだった。秋の日のことで、眩い夕日に照らされて私たちは出会った。
    もし私たちが恋愛映画の登場人物だったなら、きっと恋に落ちていた。出会った瞬間に惹かれあって夢中になり、時にすれ違い時に衝突しながらも、どうしようもなく求めてしまう……私たちが恋愛映画の登場人物ならば、きっとそんな恋をしたに違いない。
    だが私は髭を蓄えた若くない男だし、彼にしたって――私にとって彼はそれなりにいい男なのだが――世間一般的に見れば決して美青年と呼べるほどのルックスというわけでもない。そういう点では、私達は恋愛映画というよりアクション映画向きだ。
    若くもないし、目を引くような外見を持たない私たちだったが、恋愛映画のようなロマンティックな予感に満ちた出会い方をした。
    それは運命的と言っていいほど、美しく忘れ難い出会いだったのだ。

    k駅のコンコースだった。
    私たちが、印象に残る恋愛映画の出会いのシーンランキングならば、必ずや上位三十位以内には入っているような出会い方をしたのは。
    地方都市のk市は出張でよく来る街で、歴史ある古い街でありながら必要な商業施設は全て揃っており、主要都市への交通アクセスもよく、何より自然を身近に感じられるこの街全体を、私は好ましく思っていた。
    中でも、この街を象徴しているとも言うべきK駅は、私の好きな場所の一つだ。
    K駅の好きなところ一つ目。
    天井が高く設計されている為閉塞感が軽減され、自然の中にいるような開放感を感じられるところ。
    K駅の好きなところ二つ目。
    壁と天井に配置された大きなガラスパネルによって駅全体に自然光が降り注ぎ、自然と調和しているような清涼感が得られるところ。
    彼との出会いによって、K駅の好きなところは三つに増えた。
    K駅の好きなところ三つ目。
    彼と初めて出会った美しい思い出の場所だというところ。

    映画の印象的なシーンには必ずと言っていいほど素晴らしい音楽が響いているものだが、それは私たちの出会いにおいても同様だった。
    K市内での仕事を終えた私は、乗車予定だった電車が遅れていることを知り、少し外の空気でも吸おうかと、駅のコンコースを歩いていた。
    その時、思わず足を止めてしまったのだ、懐かしさを感じる旋律が流れてきたから。
    まだ学生、といった風の若いアカペラグループだった。
    男女六人組の混声で、楽器の伴わない彼らの伸びやかで透明感のある声は、ゆっくりと重なり、絡み合って響いていた。
    私は音楽のことには全く明るくないのだが、彼らが歌っているのが古い時代から綿々と歌い継がれた伝統的旋律だということは、聴けばすぐ分かることだった。郷愁を誘う旋律に足を止めて聞き入ってしまう通行人は、私の他に何人もいた。
    何か、不思議な一体感がそこにあった。
    伝統的旋律というのは、やはり多くの人に歌い継がれてきただけあって、感情に直接訴えかけてくるものがある。
    私を含めた聴衆は、この郷愁を帯びた旋律に様々な感情を呼び起こされていたのだ。悲しみや喜びを思い出して浸り、あるいは穏やかに感情を鎮め……ただ駅に居合わせたというだけなのに、私たち聴衆は音楽に導かれ、同じように静かに心を震わせている、そんな一体感に包まれていた。
    おりしも秋の西日が、金の光となって駅のコンコースに差し込んでおり、それはまるで私達聴衆を祝福するかのようだった。

    聴衆の中で、たった一人の横顔が目を引いた。
    西日を受けながら、彼はそこにいた。控えめで少し所在なげに、風景に溶け込むように。
    彼は、アカペラグループの合唱に静かに耳を傾けていた。見たままを率直に言うと、彼の外見に特徴的なところは、ぼなかった。年齢はおそらく私と同じくらいか少し下で、疲れたような気怠げな表情を含め、どこからどう見てもよくいる感じの普通の男だった。
    それなのに気付けば、私は彼の佇まいに見入ってしまっていた。
    ふと、彼が顔を上げる。誰かに見られていると気づいたのだ。彼は自分に向けられた視線を探し出そうとして、注意深く周囲を見回しーーすぐに私と目が合った。彼が私を認めて、私は息を止めた。
    彼は私と目を合わせたまま、私の方へ歩き出した。
    金色の夕日に照らされて、彼は私の方へと歩いて来る。
    駅のコンコースは広く設計されていて、立ち止まって音楽に耳を傾ける人々もいれば、忙しなく移動し続ける人もいる。そんな中、彼は表情一つ変えず、迷うことなく、ただ私の方へと向かって歩いて来た。まるで、彼にとって、ここが唯一の居場所であるかのように。
    目が離せなかった。少しの間も彼から目が離せない。
    引き寄せられるように私は彼を見つめた。時間は止まり、彼以外の景色は流れていく。
    この光景を目に焼き付けて永遠にこの目に留めておきたい、たぶん私はそんなことさえ思っていた。
    私にとって、夕日を浴びながら私の元へとやってくる彼の姿、その光景は間違いなく美しいものだった。

    彼の装いは黒一色だった。黒のカジュアルジャケットに、インナーに合わせたタートルニットも黒。彼が歩く姿を見ながら私はなんとなく、黒なんだな、と思っていた。彼が白ではなく黒を纏っていたことに、少しだけ違和感を覚えたのだ。でも黒の色は彼によく似合っていた。
    彼がすぐそばまでやってきて、私たちは顔を見合わせた。
    情けないことに私は、何を言えばいいか分からずにいた。
    彼の方も特に何か言うわけでもなく、私たちはそのまま隣に立ち並び、アカペラを聴いた。妙な話だが、見ず知らずの人間が隣に来て、面識のない人間にしてはやけに近い位置に立っているというのに、私は感慨深いものを感じていた。あるべき事象が元の状態に戻ったというか、やはり君の立ち位置はそこだね、みたいな。
    そんな思いがあったせいか、曲が終わった時、私は彼に昔からよく知っている人物のように話しかけてしまった。

    「素晴らしかったな……曲も美しいしパフォーマンスも見事だった」

    ええ、と彼は言った。
    古い曲はいいですよね、郷愁があってーー彼もまた私のこと昔からよく知っているような口調で返す。私たちは会話を続けた。

    「駅で聴くにしては本格的なアカペラだった。彼らを知ってるか? 地元のグループだろうか?」
    「K市内に音楽大学があるんですよ。彼らはそこの声楽科の生徒じゃないかな。声楽科の生徒に限らず、駅で学生が演奏しているのを度々見かけます。練習成果を発表する場として、この駅でよく演奏会を開いているんですよ」
    「そうなのか……知らなかった。駅での音楽演奏なんて初めてだ。素晴らしくて思わず足を止めてしまったーー君はK市の住民か? この素晴らしい演奏を間近で楽しめるなんて、K市民は幸運じゃないか」
    「いえ……そうなら良かったんですが、俺はこの街の住民ではないんです。俺は仕事で来てて。この駅にはよく来るから、音大の学生による演奏会のことを知っているだけですよ」
    「仕事で? なら私と同じだ。しかし、私もこの駅にはほとんど毎週のよう来ているというのに、演奏会をやっているなんて初めて知ったよ」
    「神様のいたずら、というやつですかね? あなたも俺も同じように仕事で度々この駅を訪れているのに、俺は何度か音大生の演奏を聴いて、あなたは今まで一度も聴かなかった。俺はたまたま運が良かったんでしょう」
    「じゃあ、私はたまたま運が悪かったんだな」
    「でも……俺はいつも一人でした。こうして誰かの隣で演奏を聞くというのは初めてです。悪くないですね、隣に誰かがいるということは」
    「……ああ、悪くない」
    「俺は神に感謝したい。今日ここで、古く懐かしい音楽があなたを立ち止まらせたのは、きっと神の思し召しだ」
    「……ああ」

    アカペラグループは次の曲を歌い始めていた。これも古い曲のようで、テノールが主題をとっていた。
    私たちは再び、アカペラに耳を傾けた。
    親しみやすく、だがどこか少し危うさを残した旋律だが、心に迫るものがあった。
    切実に、どうしようもなく痛いくらいに。
    音楽の感情に直接訴えかける力には抗えない。感傷的な陶酔は、心地よさよりも痛みを味わっているような感覚に近かった。
    私は、無意識に彼の方に視線を向けていた。きっと彼がどんな顔をしているのか見たかったのだろう。彼は目を伏せて静かに耳を傾けていた。気のせいかもしれないが、わずかに唇を震わせているようにもように見えた。
    彼も同じだろうか、と思わずにはいられない。この古い旋律は、抗い難く得も言われぬ郷愁を呼び起こし、彼の心を痛ませているのではないかと。
    曲が終わる頃、彼は言った。

    「古い時代の曲が、いまだに歌い継がれるなんて……何だか不思議な感じがします」
    「いつの時代の曲なんだろう」
    「ルネサンス以前からある旋律ですよ。民衆の間でよく歌われた曲です。この旋律を元にして、多くのミサ曲が作られたんです、教会で神への祈りを捧げる為に」
    「へえ……そうなのか」
    「今ではもう、ミサで歌われることなど、なくなってしまいましたけどね」
    「良く知っているんだな。君は音楽家なのか?」
    「いえ、エンジニアです。熱心でまじめな信徒というだけですよ、今の時代にはそぐわないかもしれませんが」
    「そんなことはない。いつの時代であろうと信仰を持つことは大切だ……感心するよ」

    それって、と彼は私の目を覗き込むように顔を傾けて言った。

    「それって、褒めてます?」

    この時の彼の冷たい微笑みは、実に魅力的だった。
    私はきっと見惚れていたのだろうと思う。値踏みするような煽るような視線も、口の端を歪ませた微かな笑みも、引き込まれるほど魅力的だった。
    無意識にやってるんだろうか……こういう、反応を試すような、それでいて真意を掴ませないような、惑わせる素振りは。妙な色気があった。端的に言えば彼は私のタイプだった。

    「ああ、もちろんだとも」 

    そう答えながら私は、彼はセックスをする時どんな感じなんだろう、なんてことを考えていた。熱心でまじめな信徒だという彼は、セックスの時もこの魅惑的な冷たい微笑みを崩さぬまま欲情するのだろうかとか、黒い服は彼の肌に映えそうだから全部脱がない方がいいとか。

    「今、俺とセックスしたいと思いました? いいですよ。あなたとそういう関係になっても。どっちがボトムをするかコインで込めます?」

    彼が唐突にそう言ったので、私は思わず喉から妙な声を出しそうだった。動揺をかろうじて堪え、おい待ってくれ、と彼に言った。

    「ちょっと待ってくれ。いくらなんでも、そういう話題は早すぎるんじゃないか? 私たちは今、出会ったばかりでお互いのことを何も知らないのに」
    「別にお互いを知らなくても楽しむことは出来るんじゃないんですか?」
    「出会ったその日のうちに、初対面の相手とそういうことはしない主義だ」
    「……お互いを知る為には、ありでしょう」
    「ありじゃない。話題にだってしないぞ」
    「相手がどういう人間か知るには手っ取り早いですよ、セックスは。相手を知る手段だと思えばいいんです」
    「……そういう考え方もあるとは思うが……まあ、確かに行為自体を目的とするのではなく、手段とするという点には同意するよ」
    「同意してくれるなんて、嬉しいですね」
    「だが、手っ取り早い、とは全く思わない。そもそも手段というのは目的の為にある。目的に属していると言ってもいい。ならば手段はその目的に応じた適切さを持っていなければならない。恋愛の初期衝動として相手がどういう人物か知りたいと思うのは当然のことだが、それを目的とする場合、最良の手段がセックスだとは思えない」 
    「そうですか? セックスって案外、人となりというかその人の本性が見えてくるものじゃないですか……前戯ひとつとってみても自分本位な人間かそうでないか分かる。身体の相性含め、今後の関係をどうしたいのか判断する上で有効な手段だと思いますよ」
    「君の意見は尊重するがーー」


    んん! と咳払いの音がして、会話は中断された。
    いつの間にか演奏会は終わり、立ち止まって会話しているのは私たちだけだった。
    皺が深く刻まれた、いかにも厳格そうなご年配の女性が、私たちをじっと見ていた。彼女は、皺に埋もれた鋭い目つきで私たちをひと睨みすると、皺だらけの口元をすぼめて人差し指を立てた。
    彼女の言いたいことは明白だ。シーッ、そんな話をしたいならもっと相応しい場所に行きなさい。彼女の仕草だけで、私たちがバツの悪い思いをするのは十分だった。
    若くもないのに悪さをした子供のように叱られた私たちは、彼女が去っていくのを黙って見送ってから顔を見合わせた。私は片方の眉を引き上げ、彼は肩をすくめて、二人で苦笑いした。
    確かに、ひどい内容の会話だった。駅という公共性の高い場でこんな話をするなんて全く品位にかける行為で、迂闊だった。
    だが私はまだ、彼と会話を続けたかった。もちろんセックス談義をしたいわけじゃない。ただ彼と話していたかっただけだ。会話の中身など何だっていい。彼と同じ時間を過ごしていたかった。有意義な会話を交わせて楽しかったよ、ではまたいつか会えるまでお元気で、なんて別れてしまうには早すぎる。

    「駅で立ちながらする話じゃなかったな」
    「そうですね。でもあなたとセックスについて語るのは非常に面白かったですよ」
    「……この後予定は? 良かったら一杯付き合ってくれ」
    「どうして?」
    「……もう、演奏会も終わったし、腹も減ったし。誰かと共にする夕飯は美味しいものだし……」
    「帰らなくていいんですか?」
    「もう仕事は終わったから、いつ帰ってもいいんだ。電車も遅れているようだし」
    「それで? なぜ俺を誘うんです?」
    「……それはつまり、なぜ君を誘うか私に言えということか」
    「ええ。そうです。言ってください」
    「……君のことを知りたいから」

    言ってから気づくーーしまった。言わされてしまった。だがもう遅かった。私としたことが彼の誘導尋問につい、のせられてしまった。これでは彼に、主導権をはいどうぞと手渡したようなものだ。きっとこの時の私は、苦々しい表情をしていたに違いない。彼の方といえば、またあの魅力に満ちた冷ややかな笑みを顔に浮かべて言った。

    「それは恋愛の初期衝動ですか? 俺のこと口説いてます? 随分ストレートに言うんですね」
    「君が言わせたんじゃないか」

    ははっと彼は噴き出して笑った。勝ち誇ったように、心底楽しげに。私は彼がそんな風に笑うのが嬉しかった。

    「いいですよ、行きましょう、付き合いますよ。せっかくあなたが誘ってくれたんです、断りません」

    やはり、完全に彼に主導権を握られてしまった。私と彼との関係は始まったばかりだが、今のところ完全に彼が優位だ。
    だが、悪くはなかった。こういうのも悪くない。
    なんかーーいい感じなんじゃないか? 結構いい感じに距離が近づいているんじゃないか?
    彼と話すのは楽しかったし、彼の方だって楽しんでいた。私達は際どい話もできる大人の男同士として、ちょっとした駆け引きさえ、気負わずに楽しんでいた。
    実際、私はもっと彼のことを知りたかった。これは恋愛の初期衝動によるものだとしても全くおかしくはない。そうなる可能性を秘めた要素は多々あった。
    それに夕日に照らされて私のところに来た彼の姿に、言葉も出ないほど胸がいっぱいになってしまったのは……やはり、これが運命の出会いだからじゃないのか?
    私達が運命に従い、深く愛し合う恋人同士になるのだとしたらーーいや、恋人でなくても……友人としてでもいい。友人として彼ともっと深く知り合えたなら、いい関係を築けるんじゃないか? 隣同士にいるのが居心地がよくて自然体でいられるような、彼との会話が何より楽しいと思えるような、この先もずっと長い間を共に過ごすことが出来るような、そんな素晴らしい関係になれるんじゃないか?
    淡い甘さを含んだ期待が私の胸に広がっていた。
    しかし同時に慎重にならなければ、という思いを感じたのも確かだ。期待というのは、例え僅かであろうと何かしらの揺らぎを含んでいるものだーー不安という名の揺らぎをーーもし、彼との関係がうまくいかなかったら?
    私は彼のことをもう既にとても好ましく思っているが、彼は? 彼にとってこの出会いはどんな意味を持つんだろう。
     
    甘い期待とそれに付随する僅かな揺らぎを胸に、私は彼と共に駅を後にした。
    互いを知り、他愛ない会話を楽しむために。
    私たちが駅を出た時には、あの眩い夕日はもう沈んでしまっていた。薄闇が私たちを包み込む。夜の訪れがもうそこまで来ていた。



     美しい夕暮れでしたね。
    あの時と同じですよ。あなたが俺を突き刺して殺した六百年前も、眩しいほどの夕日でした。
    あなたが俺の裏切りを知って、間抜けな表情で立ち尽くしていたことを思い出します。あなたがあの時と同じ呆けた顔で俺をずっと見ているから、笑いそうになりましたよ。
    でも、ちっとも覚えていないんですね。あなたが俺を突き刺して殺したことも、俺とあなたの間に何があったのかも。
    あなたが、俺のことを何も知らない、と言うので少しがっかりしました。俺たちの間に起こったことは、そうそう忘れることなんて出来ない事ばかりだったのに。
    あの曲を聴くと、今でも俺は思い出しますよ。かつて一度だけ、あなたと体を重ね合わせたことを。俺もあなたも必死でしたよね。あなたの淫らな声を覚えています。せつなげな息遣いも湿った肌も。
    今でも正面で抱き合うのが好きですか? 顔が見えるから、というバカみたいな理由であなたはその体位でしてくれと言ったんですよ。
    事を終えても俺たちは離れられず、ずっと肌を触れ合わせていました。その時に聞いた曲です、あの曲は。誰かが外で歌っていたんです。誰もが口ずさむような、他愛もない曲でしたから。
    あんなに必死でひとつになろうとしたのに、結局あなたも俺もお互いのことを何も知らないままでしたね。
    あれから六百年ですか……随分長い時間が経ったんですね。
    今日の出会いが運命的だと思うなら、あなたは本当に間が抜けている。
    あなたがこの駅にいることを俺は知っていました。俺はあなたに会う為にここに来たんです。あなたを再び裏切るために。
    あなたが過去のことを覚えていたら、もっと違うやり方もあったでしょうけど、覚えていないなら仕方ないですね。俺はやはりあなたに取り入って騙して裏切ることになる。
    もし、運命なんていうものがあるとしたら、俺たちはいつも同じ運命を辿るのかもしれません。逃れられないんですよ、きっと。俺があなたを裏切り、あなたが俺を殺す。そういう宿命なんです。
    ですが今の俺には裏切りの理由にするほどの信念なんてものはありません。信仰は持ち続けていますけどね。
    ただの汚い裏切りですよ。
    あなたには悪いと思ってますが、仕方がないんです。
    あなたは傷つくかな……それとも六百年前と同じように、冷静なままでいるんでしょうか。
    今になって、少しムカついているんです。あなたが俺の裏切りにさほど動揺をみせなかったことに。もう少し驚くとか怒るとか悲しむとか、そういう反応を見せてくれても良かったんじゃないんですか? 
    まあ、何事にも動じないのがあなたらしいんですけど。
    運命なんですよ、俺たちの。俺たちの間にはいつも、裏切りがあるんです。
    昔と同じことを繰り返したとして、結末はどうなると思いますか……俺はあなたを裏切るけど、あなたはどうするかな。
    今のあなたに人を殺すことなんてこと、出来ますか? 俺と違って過去を忘れ、今を生きてるあなたに。
    それでもやはり運命は、あなたに俺を葬る道を選ばせるんでしょうか? 例えそれが殺人というやり方ではなくても、運命に従ったあなたは、俺という存在を徹底的に消し去ろうとするんでしょうか?……きっと俺たちにはそんな結末こそが相応しい。そう、思いませんか?
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