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    妄想マリアージュ

    温周小話置き場。

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    POIPOI 43

    ドラマ2〜3話あたりif。

    #山河令
    mountainAndRiverOrder
    #温周
    temperatureMeasurement

    廟の一夜鏡湖派の襲撃から逃げ延びた私たちは、山の外れの廃れた廟で夜を明かすことになった。

    周子舒。
    この男は実に面白い。

    髪は乱れ、口元には髭が残り、衣は血と泥にまみれているのに、その目の静けさと端整な輪郭は、どこか艶めいてさえ見える。
    警戒心を剥き出しにして、常に私を疑い、なのにどこか脆い。

    何もしない手はない。

    「阿絮、寒くないか?」

    「……別に」

    短く返されても、構わない。
    私の距離の詰め方に、こいつはまだ慣れていない。だが、それもまた良い。

    「そうか。だが、そのままでは風邪を引くぞ」

    私は阿絮の肩に手を伸ばす。ぐっと掴んで、ゆっくりと胸元の襟を緩めた。

    「おい、何を——」

    「服を乾かすんだ。ほら、焚き火のそばへ」

    「……触るな」

    そう言いつつも、抵抗はそれほど強くない。
    襟を引いた拍子にあらわになった鎖骨が、ほの赤く火に照らされて艶やかで、思わず目を奪われた。

    (……これは、堪らんな)

    「……な、何をじろじろと」

    「いや、少し思っただけだ。阿絮、おまえ、本当に綺麗な肌をしているな」

    「………はあ!?」

    嫌そうに顰めた顔も、実に愛おしい。
    剣呑で無愛想なくせに、年若い小娘のように動揺する。
    思った以上に、こいつ色事に疎いと見える。

    私はさらに近づき、自然を装いながら肩に手を置いた。

    「冷えてるな。焚き火の傍に寄れ」

    「……充分ぬくもっている」

    「そうか。私は少々冷えてしまった。もっと近くに寄らせて貰おう」

    距離を詰める。
    このまま腕を回せば、きっと逃げられない。

    だが、阿絮はこの状況に色事の気配など微塵も感じていないのか、ただ呆れたように眉を寄せるだけだ。

    「おまえ……寒がりか」

    「私の手は、温かいだろう?」

    「……」

    ほら、否定しない。

    (このままなら、唇くらい奪えてしまうのでは)

    そう思い、手のひらでそっと頬を撫でた。

    「っ……」

    き、と私を睨みつけてくる。
    だがその睫毛は戸惑うように震えている。
    ほんの少し潤んだ瞳が私を映した。

    (いい顔だ)

    私は指先を耳の裏に滑らせ、顎を掬い上げる。
    けれど、阿絮はただ不審そうに瞬くばかりで、自分がどうされようとしているのか分かっていない。

    「阿絮」

    「なんだ」

    「……いや」

    (今ここで、無理矢理に奪ってしまうのは、面白くない)

    だってこの男は、色事に疎すぎる。
    こんな至近距離でも、私が何をしようとしているのか、まるで気付いていないのだ。

    「……よし、やめてやろう」

    「は?」

    唐突に手を離し、私は微笑んだ。

    「阿絮のそういうところ、嫌いじゃない。だが、今はやめておく」

    「……おまえ、本当に妙な奴だな」

    阿絮は顔を顰めながらも、まだ何も理解していない様子で火に手をかざす。
    私はただ、その横顔を眺めながら、次の機会を思い描いた。

    ——いずれ、必ず唇を奪ってやる。

    この夜の静けさに、心の中でそう誓った。
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