悪夢気がつくと目の前には女の子がいた。
青いワンピースがよく似合っている、そう言うと眉を垂らして照れくさそうに笑った。
今からデートだという。
「ほら、行こう」
差し出した手は白く小さい。彼女の手を覆うように握った。
お金がないからと近くの公園のベンチに腰掛ける。なけなしのお金で買ったアイスクリームはオレがいちご味で彼女はソーダ味。半分食べたらお互い交換し合った。
食べてるときでもやけに前髪を触るからどうしたか聞くと
「前髪を切りすぎちゃって眉毛が隠れないのが恥ずかしい」
との事。サロンに行っていっその事眉を整えようかなと言いながら眉を撫でる彼女に変わらなくていい、そこがカ████のいいところじゃんと告げると
「……良かった」
とふんわり笑った。その頬が可愛らしくて思わず人差し指でつついた。
少し歩幅が小さい彼女に合わせて歩く。
柔らかな髪とスカートの裾が揺れる。彼女と目が合えば恥ずかしそうに笑いながらオレの腕に腕を絡ませてきた。
小さな子どもがよちよちと右へ左へ動き回る少し後ろをお母さんが両手を前に出しながら追いかける。噴水の水が勢いよく飛び出す。太陽の光を受けてきらきら光る。名前を知らない白い花が風を受けて揺れる。
「こんないい天気におそ松と二人でこうしていられるのが幸せ」
胸元のボタンがきらりと光る。オレはその内側に隠されたEカップの胸の色と形を考えていた。
鳥が青と赤の混じった空の中を巣に向かって帰っていく。
彼女を家の近くまで送っていき、別れ際電柱に隠れてそっとキスをした。艶やかな長い睫毛がゆらめいて音がしそうだった。ごくりとつばをのみこみながら、手を振る。
家に帰ると玄関で四人の弟達が仁王立ちしている。
「なーんでおそ松兄さんだけがあんな可愛い子と付き合ってるのさ!」
トド松がこれ以上ないぐらいの力でオレの肩を掴む。そうだそうだと十四松がバットを振り回し、チョロ松が聞くに堪えない罵詈雑言をわめき、一松が藁人形を片手にオレの髪の毛を抜こうとしてくる。
へへっ、やっぱり長男様にはカリスマオーラってのが溢れ出てくるもんなのよと指で鼻の下を擦ると一斉に弟全員がオレに飛びかかってきやがった。おとうと、ぜんい、ん……?
「はっ!」
黄ばんだ天井と照明が目に映る。慌てて身体を起こすと馴染みのホテルの一室、ベッドサイドの壁紙がべろりと剥がれているアレ。自動販売機の明かりが鬱陶しくて大きく瞬きをする。
うぅ……とうめき声が聞こえる。
隣で眠る男が寝返りをうつ。こちらに寄せた顔、苦しそうに眉をしかめていたのでそっと眉間を撫でてやる。
「夢、か……」
あれは、ゆめ、そう気づいた途端、視界がぐらりと揺れる。ぼたぼたと涙が垂れてくる。床に散らばった赤と青のパーカーが視界の端にちらつく。
やけにリアルな夢だった。握った手の柔らかさ、照りつける太陽の眩しさ、様々な感覚を思い出して、それらがぐちゃぐちゃと丸まって、黒く塗りつぶされてくしゃりと潰される。
「よかったぁ……」