ズル休みして海に行ったりするフロジェイ(かきかけ)「おはようございます。お隣、失礼しても?」
「!……ああ、い、いいよ」
「ありがとうございます」
教室に入ってすぐ、一番後ろの端の席。今日は良い位置が空いていて良かった。……どうやら僕は陸では体長が長い方らしく、前方に座ると他の方々の視界を遮ってしまうようで。席順が決まっていない授業では、出来るだけ後方を選ぶようにしていた。
鞄を机に下ろして、椅子を引く。黒板の上に掛けられた時計は、始業までまだ暫くの猶予があることを示していた。室内に響く歓談の声に溶け込むように、僕とお揃いの腕章をつけた隣のクラスメイトへと話し掛ける。
「宿題、やってきましたか?」
「あー……。一応は」
「ふふ、僕も一応、終わらせました。今回はなかなか難しかったので自信はありませんが」
「…………」
親しみやすい印象を抱かせるように、柔らかく微笑んだ。……沈黙。
「オクタヴィネルは特に勉学に力を注いでいるそうなので、僕たちも頑張らなければいけませんね」
「そうだな」
趣味嗜好を知らない者同士でも話を続けやすいだろう、と共通の話題を振ったつもりだったのに、まるで会話が弾まない。会って日が浅いとはいえ、同じ学生の身。それほど緊張する必要などないと僕は思うのだけれど。
先ほどから目も合いませんし、このヒトは人見知りなのかもしれません。……なんて、とぼけてみたって虚しいだけだった。
今まで交流が苦手だと感じたことは一度だってなかった。どころか、得意な方だとさえ思っている。フロイドみたく人を惹き付ける才があるわけでもアズールみたく弁が立つわけでもないけれど、感情の機微を読んで相手に敵意を持たれないよう立ち回ることには自信があった。それなのに近頃は、少々認識を改める必要があるのかもしれない、とさえ思い始めるような始末。
右隣のブラウンの瞳は、筆箱とノートの表紙を意味もなく行き来しては、チラチラと揺れている。もういいか?きっとそう言いたいのだろう。予想通り、僕が口を閉ざせば途端、会話が止まる。
「先生がいらっしゃる前に、お互い予習をしておきましょうか」
ならばお望み通り、お喋りは終わりにしましょうか。こちらだって、楽しくありませんし。
ニコリ。ささくれ立った本心は笑顔に隠して教科書を開けば、彼はホッと息を吐き安堵した様子で紙へと静かに目線を落とした。眺めていても、そのページは捲られることもない。とても素直で、分かりやすくて、そして礼節に欠けている。
「それで昨日さぁ……」
「マジ?ディアソムニアってやっぱヤベえな!」
「放課後もし暇なら、麓の街に行ってみない?」
ワイワイと楽しそうな級友たちの話し声があちこちから聞こえてきて、思わず出そうになったため息をそっと飲み下す。別に、羨ましいとは思いませんけれど。
──ナイトレイブンカレッジに入学して、もうじき2週間。陸の生き物たちに囲まれたクラスルームでの日々は、いっそ恐ろしいほどにつまらなかった。
授業の終わりを告げる鐘が鳴ると、手早く筆記用具や教科書をまとめ、隣のヒトが席を立った。そうして、足早に僕の傍を離れていく。
……その肩を別のクラスメイトがポンと叩き、彼の足が止まる。何か一言二言交わして、二人してこちらを向いた。視線が合って、バッと慌てたように逸らされて。最早、何か?と尋ねる気すらも起きない。──陸に来てから、こんなことばかり。すっかり慣れてしまった。
次のオリエンテーションは確か、図書館に集合だったはず。校舎からは距離があるから早めに移動しておこう、と僕も教室を後にする。
他の者たちと同じように制服を身に纏い、靴を履き、訓練学校で習った通りに2本の尾ビレを交互に動かしているだけなのに、何がそれほど気になるのか。彼らは僕を遠くから眺めては、ヒソヒソと囀るのだった。
陸では僕たちのような人魚は珍しい。ヒトや獣人に比べてそもそもの個体数が少ない上に、住み慣れた快適な海を出てわざわざ陸に行こうなんて考える人魚は、余程の物好きだからだ。支援制度が整って高価で希少な変身薬も手に入れやすくなり、昔よりグンとハードルが下がったとはいえ、その事実は依然変わらない。
だから、多少好奇の目で見られるだろうことは予想していたし、承知の上だった。……けれどこうも毎日毎日飽きもせず続くとなると、煩わしくもなってくる。
「それほど人魚が気になるのでしょうか。不思議です」
「あーね。ウザかったら絞めちゃえばぁ?そしたら黙るでしょ」
「フロイド、無駄に事を荒立てるな。……暫くは仕方ありません。飽きるまで放っておけばいい」
「害はありませんし、元よりそのつもりですよ」
ナイフで一口大に切り分けて、髪すき、ではなくフォークで刺したチキンソテーを口へと運ぶ。ハーブとレモンの香りが鼻を抜けて、目を細めた。うん、美味しいです。
海では生食が基本で海草と魚介類が中心だったから、味わったことのない料理や食材が多く並ぶ食堂での食事はこの学園生活における楽しみのひとつ。ランチタイムは好きだった。
……と、不意に目の前に座るアズールがにこやかに手を上げ、隣のフロイドが上機嫌に振り返る。
「あ、ジャミルさん!奇遇ですね、ご一緒にいかがです?」
「ウミヘビくんじゃん~!何それ美味しそうなの持ってんねぇ。一口ちょーだい」
「ゲ……!お前ら……!」
合わせて僕も首を向ければ、そこにはトレーを持った褐色肌の生徒が立っていた。ジャミルさん。ウミヘビくん。ふたりの話に何度か出てきた覚えはあるけれど、実際にお会いするのは初めてだった。
……しかし、初めまして、と僕がご挨拶するよりも先。
「お断りだ!」
そうにべもなく告げて、彼は僕たちの集うテーブルからスタスタと離れてしまった。やれやれ。アズールが両手を広げ、残念そうに呟く。
「彼とコネを作れたら便利……いえ、お近づきになれればより充実した学園生活が送れると思っているのですが、上手く行きませんねぇ」
「ちぇ~。一口くらいくれたって良いじゃんね?」
「……お二人は、今の方とはどういったお知り合いでしたっけ?」
尋ねれば、フロイドとアズールは同時に口を開いた。ふふ、仲良しですね。
「バスケ部の見学行ったらいたヤツ」
「使えそうなクラスメイトです」
なるほど。フロイドがその程度の繋がりで顔を覚え、アズールが有用だと認識している。面白そうな方だというのは間違いなさそうだった。ジャミルさん、僕も記憶しておきましょう。……それにしても。
「ウミヘビくんの持ってた食べ物なんだろ。変な器に入ってたけど、スゲースパイスのニオイしたぁ」
「あれはカレーという料理ですね。熱砂の国のものが有名だったはずです」
「へ~!どんな味なのか気になる、今度食べてみよ」
「僕も一度試してみたいですね。ジャミルさんとの話題作りにもなりそうですし」
それにしても、ふたりは僕より随分と上手くこの学園に、陸に馴染んでいるようだった。アズールは兎も角、気分屋のきょうだいのことは密かにちょっぴり心配していたのだけれど、楽しそうで何よりです。くすくすと笑えば、彼らが怪訝そうに顔を歪める。
「何急に笑ってんの?コワ……」
「突然何です?不気味だからやめなさい」
「おやおや、酷い言われようですね……悲しいです……」
しくしくと泣き真似。僕はただ、お二人が楽しそうで良かった、とそう思っただけなのに。返せば、フロイドがきょとんと首を傾げてストローを齧る。
「ジェイドは楽しくないの?」
「……。いえ、そんなことはありませんが」
「ふぅん?」
ぶくぶくとフロイドの前に置かれたしゅわしゅわの液体が泡立った。あれも、海にはなかった飲み物だ。
未知の食事には胸が踊るし、一歩校舎から足を踏み出せばそこかしこに目にしたことのない植物が自生していて興味を惹かれる。フロイドやアズールと初めての場所を探検するのだって、面白い。楽しくないわけではない。
というより、文化の違いに戸惑うことはあっても、陸は楽しい。何といっても、僕の好奇心を刺激する知らないもので溢れている。そこに偽りはない。
「あぁ!お前は性根がひん曲がっていますからねぇ……。可哀想に、大方お友達の一人も出来ないのでしょう」
ハン、とアズールが勝ち誇ったように鼻を鳴らした。おや、酷い言われようですね。流石の僕も傷付きました。
「アズール」
「何ですか、ジェイド?」
「そんなに自虐をなさらないで」
「そうだよぉ、アズール」
「何でそうなる!」
ああ、懐かしい。小気味良いリズムで続く軽口の応酬が、こんなにも愛おしく感じるなんて。彼らと同じクラスだったなら、今とは違う気持ちで教室の扉を潜れていたのでしょうか。先程のフロイドからの問い掛けに、躊躇せず答えられたのでしょうか。……考えても仕方のないことだった。
アズールが僕を眺め、それからスムーズな動作でくるりとフォークにパスタを巻き付けて、口に運んだ。そうしてナプキンで唇を拭った後で、いつもの落ち着く口調で僕に言う。
「まあ、そのうち慣れますよ。周りもお前も」
キンコン、と予鈴が鳴った。ハッとして残っていた二切れを舌の上へと放り込む。気が付けばふたりの前に置かれた皿は、既に空っぽになっていた。
「う…………」
眩い陽光に目を側める。
──午後一番の授業、飛行術。ついこの間歩けるようになったばかりだというのに、魚に空を飛べだなんて無茶を仰るこの時間は、どうしても好きになれそうにない。
「はぁ……」
零れたため息は、気乗りしないからではなくて。……先ほどから、何だか息苦しかった。準備運動と慣らしの真上への軽い上昇。たったそれだけしか行っていないのに、全速力で泳ぎ続けた後のように息が上がって胸がドクドクと早鐘を打っていた。
「次は旋回の練習だ。お前たち一年はスピードよりコントロールを意識して励めよ!」
笛の音と先生の声。その姿は視界に捉えているというのに、いやに遠くの方で響いている。
立っているだけでも体力が削られていくようで柄に体重を預ければ、気に障ったらしくホウキさんが穂先をバサバサと揺らした。すみません。小さく謝罪をして背筋を正す。……けれど、やはり酸素が上手く取り込めていないような感覚がして、申し訳ないとは思いつつも再び身を凭れさせ、俯いた。額に沸々と汗が滲んでいく。寒い訳でも暑い訳でもなく、ただ苦しい。深呼吸をして落ち着けようにも、大きく息を吸い込むことすら難しかった。
「リーチ。あの、おれたちペアだって」
「…….え。……あぁ、はい……」
いつの間にか目の前に立っていた小柄なクラスメイトに驚きつつ、何とか声を絞り出す。柄を右手に持ち替えて顔を上げたが、ぐわんと脳が揺れてすぐにまた下を向いた。
「……っ、……は……っ」
「リーチ?」
ゼエゼエと喘鳴にも似た音が肺から聞こえ始め、胸元を摩る。掻き毟るように何度も何度も己の手のひらを動かした。……これは不味いかもしれない、とそう焦りを覚えた頃にはもう遅く。
「おい、大丈……、わっ!?」
「かっ、ぁう……ッ!?」
耳、手指、尾ビレに激しい痛み。パキパキと薄い氷を割るように骨が鳴り、皮膚が破れそうな程に引き攣れる。それから、からだの中身が無理矢理に動かされてグチャグチャと並び替えられていく表しようのない気持ちの悪さ。
この感じは知っている。訓練学校で「万が一のときに慌てないように」と実践形式の授業を受けた。これはヒトから人魚へ、あるいは人魚からヒトへと変化する、つまりは自身の姿が作り替えられるときの副作用だった。
……とはいえ、普段自らタイミングをコントロールして変身する際にはこんな風に苦しむことはまずない。併せて飲むよう処方されている魔法薬が、打消しの効果を担ってくれているからだ。それに変身薬の効果が意図せず切れたとしても、全身が元の姿に戻ってしまうことは稀であり、大概は耳がヒレになったり、指の間に水かきが生えてくる程度で済む。コンディションや周囲の環境等々の要因に、その程度は左右されるのだ。……要するに、僕は非常に運が悪かった。
じっとりとした雫が頬を垂れ顎を伝って、ぼたぼたとグラウンドに染みを作っていく。立っていられず地面に伏せば、ビタン!と脚だった部位が大きく跳ねた。粘液を纏った一本のヒレで陸地を踏みしめることなど、広大な海で溢した一滴のワインを掬い上げるに等しい。
──それから一分、いや、数十秒と掛からずに苦痛はまるで嘘のように引いていき。……そう、変化が終わったのだ。
は、と我に返って急速に冷えた頭に浮かんだのは、「やってしまった」という後悔。
どうすることも出来ずに、どうしたら良いのか分からずに、尾ビレの先をくるりと丸めてぎゅうと抱き、ヒトよりも2倍ほど大きい体躯を丸め込んだ。フロイドやアズールがもしこの場にいたのなら助けを求められたのだけれど、残念ながら彼らはここにはいなかった。ここに頼れる相手なんて、存在しない。
「は……っ、は……っ」
駄目だ、本当に息がしづらい。水かきのついた手で必死に胸を撫で摩る。鋭利な爪が濃緑の肌にプツリと刺さり小さな穴を作った。
勿論、人魚にも肺は備わっている。だから、呼吸困難で死んでしまうだとかそんな惨事にはならないけれど、あくまでもその機能は補助的なもので、メインは鰓だった。水中で暮らしているのだから、当然といえば当然のこと。
鱗がピリピリとひりついて痛い。光なんて届く筈もない深海に生息する僕らのような人魚の皮膚は、寒さに滅法強い代わりに陽射しに酷く弱かった。厳しい生存競争に打ち勝つため、暗闇に適応した対価だった。
──どちらも、故郷で過ごすには素晴らしい長所だったのに。
「うわっ、何だ!?」
「えっ、人魚じゃん!俺初めて見た!」
「アレ、リーチだよな?人魚って話、マジだったんだ……」
「うお!実際見るとビビるな……」
何て鬱陶しい。騒ぐばかりで何の訳にも立たないくせに。……それに僕は、人魚は、見世物ではないというのに。
いつの間にか周りには、サークル状の群れが形成されていた。巻いた尾ビレに顔を埋めて、彼らの不躾な目線をやり過ごす。……じっと、ざわめきが過ぎ去るのを待つ。未だ落ち着かない呼吸を整えるため、浅く息を吐いては吸ってをそっと繰り返す。
「先生!こっちです!」
それから、どれほどが経ったのか。バタバタと慌ただしい足音が近付いてきて、周囲の気配が離れていった。何でしょう、と軽く首を動かして様子を窺えば、まるで天敵に出会った小魚の大群のようにクラスメイトの輪が散っていた。
「リーチ、大丈夫か?」
掛けられた声に静かに頷く。相容れない教師代表だと思っていた彼のバリトンボイスに安心する日が来るなんて。バルガス先生は僕の前に膝をつき、ふむ、と呟き神妙な顔をして自身の顎を擦った。
「変身薬が切れたのか。担当の魔法医術士から摂取間隔を遵守するよう、指導があっただろう」
「……申し訳ありません、失念していました」
咳き込みそうになるのを押さえ込んで、喉奥から返答を絞り出す。自室のカレンダーに印をつけておいたのに、すっかり頭から抜けてしまっていた。言い訳のしようなんてどこにもない、防げたはずのミスだった。
「まあ、叱るのは後だな。保健室へ行くぞ。……十分な筋肉のない一年生に運搬は任せられんし、このオレが直々に運んでやるから感謝するように!」
「……はい、ありがとうございます。……っ……?」
礼を述べるのと殆ど同時。からだが水に包まれてふわりと浮き上がり、直後大きな泡の中に僕はいた。酸素が体内を駆け巡り、クリアになった思考と治まりを見せた動悸にほっと息を吐く。……そうして具合が落ち着けば、嫌でも注目を浴びている事実に意識が行ってしまって、頭が鈍く痛んだ。
「何だあれスッゲェ!」
「リーチ、でけぇな……何メートルあんだよあれ……」
「海ってあんなんがウヨウヨいんの?ヤバくね?」
何が凄いんですか?僕の全長とあなたに何の関係が?ヤバいとは一体何ですか?
鼓膜を揺らす不快な言葉たちに、疑問符が次々と浮かぶ。水中から彼らに問い掛けたところで、その耳には届かないのが些か腹立たしい。姦しい雑音は止む気配がない上に、僕を指差す者までいた。全く、陸の生き物は哀れなほどに躾がなっていない。
……しかし。
「静かにしろ!……お前たちは授業を続けているように。オレが戻るまでに基礎練習を終わらせておけよ!」
ピシャリ。雷鳴のような怒号が響いて、静寂がグラウンドを満たした。瞬間、それはそれは楽しそうに歓談に勤しんでいた方々の肩がガクンと落ちた。バツが悪そうな表情でホウキにまたがり始めた姿に少しだけ胸がすっとする心地がして、僕はくすりと笑んだのだった。
結局、僕はあれからすぐに早退することになった。念のために、と携帯している変身薬を保健室で服用し、脚が生えて動けるようになるやいなや、「今日はもう帰って休むように」と言い付けられてしまったからである。
生地に掛けられている魔法のお陰で破れるようなことはなかったけれど、粘液で濡れてしまった運動着をナップサックに詰め込んだ。グラウンドに放置されていたはずのそれらと枕元の制服は、バルガス先生に頼まれたのかペアだった方が持ってきてくださったものだった。
薄橙の色をしたヒトの皮膚を包む大きなバスタオルを取り去って、ワイシャツを羽織りボタンを留め、スラックスに通したベルトを締める。海では服を着る習慣など無かったから始めは戸惑ったが、今ではすっかり慣れたものだった。
「ありがとうございました。それでは、失礼いたします」
ゆっくりと戸を閉め、保健室を後にする。喧騒から離れた授業中の廊下は、故郷を想起させる静けさがあった。知らず知らずのうちに張り詰めていた気が弛んでいく。
いつもこうだったなら、なんて思ってしまうのは我が儘に違いなかった。
「じゃーん!やれば出来るし~!」
「……!おや」
不意に聞こえた楽しげで得意気な声に、はた、と脚が止まる。……きょうだいだ。通り掛かった教室のプレートには実験室と記されていて、そういえば今日は、きらきらの結晶を作るのだと上機嫌に彼が話していたことを思い出す。上手に出来たようで良かった。
「グッボーイ!純度も高く、質も良い。やるな、仔犬!」
「やったぁ、せんせぇに褒められたぁ~!」
「今のどうやったんだ!?なぁリーチ、もっかいやってくれよ!」
「俺たちのと全然ちげぇじゃん!何だその透き通った色!」
廊下に漏れ聞こえてくる声音はどれも弾んでいて、僕まで嬉しく……なれれば良かったのだけれども。自分で思っていたよりも予期せぬ変身の解除に体力を消耗しているようで。賑やかなそれは、こめかみにズキリとした痛みを生んだ。逃れるように足早にその場を離れ、寮までの帰路を往く。
「……何だか、疲れちゃいましたね」
ぽつり、独り言。それは誰に聞かれることもなく、高く澄んだ青空へと消えていった。……未だ僕には馴染まない明るいブルーが、酷く目映い。
「ジェイド、起きて。夕飯食いっぱぐれるよ」
「んん……」
「起きろってぇ~」
ゆさゆさと揺すられ渋々瞳を開けば、不満そうに眉を寄せたきょうだいが眼前にいた。あれ、と記憶を辿りながら目を擦る。確か、早退してきて自室に戻って仮眠を取ろうとベッドに横になって……。……あれ、彼は夕飯と言いました?
「……フロイド。今何時ですか?」
「ん~?ハイ」
「えっ」
ずい。差し出されたスマートフォンの画面に浮かぶ数字を見て、びっくり。放課後になったばかりの時刻だったとしてもよく眠っていたなと思うのに、どころかその4つほど大きい数が示されていた。どうやら僕は、よーく眠ってしまっていたようだった。
「急がなければ、食堂の料理が片付けられてしまいますね」
「そだね、だから早く行こ?オレちょーお腹ペコペコ」
「ええ。お待たせしてすみませんでした」
気怠さに流されて帰寮してすぐに眠ってしまったから、部屋着にすら着替えていない。立ち上がり、シャツやスラックスに気になるほどの皺がないことに安堵する。
椅子に掛けていたブレザーに袖を通して、一番上のボタンだけを穴にはめた。下のボタンは留めないのが礼儀だと訓練学校で学んだからそうしているのだけれど、実際に入学してみるとフロイドのように全てのボタンを外していたり反対に全部を閉めていたり、様々だった。寧ろ、僕やアズールのような着こなしの方が珍しい気さえする。まあ、別に何だって良いのだけれど。
「まだ何か残ってるかなぁ。アズールにオレたちの分も取っといてって言っときゃ良かった」
「……わざわざ僕を待っていて下さらなくても、良かったのに」
食堂へと向かう道中、お腹を擦りながら歩くフロイドに思わず漏れた声。パチパチと彼が僕とお揃いのオッドアイを瞬かせ、首を傾げた。
「何でぇ?」
「何でって……」
「ジェイドと食べた方が楽しいし、一緒のがいいじゃん。……それに、起こさなかったら後で文句言うでしょ。僕だけ食べられませんでした、しくしく~って」
「ふっ……!」
「あ?何ウケてんの」
雑な声真似と共に紡がれた言葉に、思わず吹き出す。僕ってそんなイメージなんですか?
「そんなこと言いませんよ」
「いーや、絶対言うし。何なら一週間くらい根に持つでしょ」
「……持つかもしれません」
「ほらぁ~!」
言って、今度はフロイドも吹き出した。海底に位置する寮の中は灰暗く、ガラスの外側には魚が泳いでいる。この向こうは生き慣れた海だった。
「ジェイド、どうしたの?」
「……いえ、どうもしませんよ」
「そぉ?ならいいけど」
意味もなく伸ばしてしまいそうになった腕を、そっと下げる。……全く、海が恋しいだなんて。ホームシックにしたって随分と早すぎる。
トマトの冷製パスタにエビピラフ。それから、ホウレン草とベーコンのキッシュとスコッチエッグ。他の皿は残念ながら綺麗に空っぽだったけれど、好きなものを好きなだけ食べられるバイキング形式故にいつも戦場のような食堂を思えば、これだけ残っていれば充分幸運だろう。
もう誰も来ないだろうし全部食べてくれると助かるよ、というシェフゴーストさんに甘え、大皿ごとテーブルへと運んだ。僕とフロイドのふたりでなら、この程度平らげるのはとても容易い。
「そういえばさぁ、ジェイド今日変身解けて早退したんだって?」
「おや、ご存知でしたか。ええ、うっかり薬を飲み忘れちゃいまして。お恥ずかしいです」
取り分けることもせず、スプーンで掬ったピラフをそのまま口に放り込む。行儀が宜しくないのは分かっているけれど、どうせここにはフロイドと僕しかいないのだから、構わない。
同じように米粒をかきこんだフロイドが、ごくんと口内のものを飲み込んでから唇を動かした。
「そりゃ、知ってるよぉ。うちのクラスまで大騒ぎだったもん」
「……そうでしたか」
「そーそー。何か結構ヤバかったらしいじゃん、水もないグラウンドで全身戻っちゃったって」
サクリ。フロイドに齧られたキッシュが軽快な音を立てる。僕も頂こうかとフォークを向けて、その先が止まった。……そんなに詳細に伝わっていたのか、というより、広まっているのか。
「ジェイドがそんなヘマやらかすなんて珍しいねぇ」
「そうでしょうか?」
「ウン、訓練学校での合宿中も飲み忘れて事故ったこと無かったでしょ。オレは2回くらいやったけど」
「言われてみればそうですね……」
「ンフフ、レアジェイドだぁ」
くるくるくる。軽妙なテンポで巻いたパスタをフロイドが僕へと差し出した。
「フロイド?」
「はい、あーん」
「……んむ、……!美味しいです」
「アハ、もう一口あげる~」
「ありがとうございます」
トマトの酸味とバジルの風味がオリーブオイルの爽やかさによく合っていて、香ばしいガーリックもアクセントになっている。
目を細め嚥下して、口許を拭う。僕はまだ少しだけ、上手にこのカトラリーを扱いきれていなくって。刺したり、掬ったり、基本の動作は問題ないのだけれど、巻くだとかの応用的な使い方には若干の苦手意識があった。そして、きょうだいはそれを知っている。
「フロイド、口を開けて。お礼にこちらをどうぞ」
「ん?……あ~」
ぱかりと大きく開いた口に、半分に切ったスコッチエッグを差し入れる。……何だか、稚魚にエサを分け与えているようで面白い。先ほどまでの僕もこんな風だったのか。
「これも美味しいねぇ。中の卵トロトロ~」
「ふふ、フロイドのお口にも合ったようで嬉しいです」
きっと明日には忘れているような他愛もない話をしながら食器を動かしていれば、気付いた頃には皿は殆ど空になっていた。残るはキッシュとスコッチエッグがひとつずつ。……普段ならじゃんけんでもして、片方ずつ分けるところだけれど。
「フロイド。良ければ、どちらも食べてしまってください」
「えっ?」
「僕はもうお腹がいっぱいなので」
フロイドが信じられないとでも言うような怪訝そうな顔をしたが、嘘ではない。空腹はすっかり鳴りを潜め、胃が少し重たいくらいだった。普段よりも食べていないのに、とは自分でも思うけれど、実際にもう入らないのだから仕方がない。今日は色々あったから、お腹も疲れているのかもしれなかった。
じい、とフロイドの瞳が僕を見つめる。何だか凄く見られているけれど、何も裏などないというのに。食べていただけると助かります。促せば、フロイドは未だ疑念を滲ませつつ、それでもフォークをスコッチエッグに刺した。
「……後でグチグチ文句言ったら部屋追い出すからな」
「おや、そんなことしませんよ。ありがとうございます、フロイド」
「ん~。まぁ、美味しいし良いけどさぁ……」
最後の一切れ。キッシュを中指と親指で挟み、ぺろりと大口を開けて一口。ごちそーさま。指先をナプキンで拭い、きょうだいが言った。
「皿片して部屋戻るかぁ。もうすぐ消灯だし」
「……そうですね。ごちそうさまでした」
並んで廊下を歩いている最中、くぁ、とフロイドが欠伸を溢した。すっかり夜も深まり、お腹も満たされた。眠たくなるのも頷ける。
「ねみー……。帰ったらソッコー寝よ」
瞼を擦ったきょうだいに笑い掛けながら、早鐘を打つ心臓には見ない振り。
さて、明日は楽しいでしょうか。
「ジェイド?」
「……フロイド、どうしました?」
「いや、ジェイドこそどうしたの。急に黙るじゃん」
「ああ、いえ。少し考え事をしていました」
アズールは先生に用事があるらしく、今日のお昼はフロイドとふたりきりだった。怪訝そうなきょうだいに、気にしないで、と伝えてサンドイッチに齧りつく。
あいつら、人魚だっていう……。あぁ、あの何か大変だったらしい奴……。様々な会話が飛び交う騒がしい食堂でも、優秀な僕の耳はそんな言葉を拾い上げる。あの一件から一週間が経って、そろそろ風化するかと思えば寧ろ逆。僕はこれまで以上に、陸の生き物たちに警戒されるようになっていた。
あの日の夜にフロイドの言っていた『他のクラスでも大騒ぎ』というのはどうやら本当だったらしい。クラスルームに限らず図書館に廊下、中庭など人がいる所であればどこであっても、鬱陶しい視線と耳障りな声が僕に纏わり付いた。
いい加減にしろ、と言いたい気持ちがなくもないけれど、別段危害を加えられた訳でも悪意を向けられた訳でもないのだ。そう、恐らく彼らに僕に対する嫌悪感はない。きっと、悪気もないのだろう。ただ、物珍しいだけ。だからこそ、厄介だった。
僕としては、他の皆さんと同じように接していただければそれで構わないのに。……別に贅沢な望みではないはずだ。
ジェイド。もう一度片割れに名前を呼ばれ、顔を上げる。
「はい、何でしょう?」
「何かスゲーボーッとしてるけど大丈夫?体調悪いなら保健室行く?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ならいいけど……」
チラ、と僕を見つめるフロイドの目線はやはり心配そうで。本当に大丈夫ですから。念を押して、パンを咀嚼した。作業のように顎を動かしそれを飲み込んで、フロイドへと笑い掛ける。
「フロイドは何だかご機嫌ですね」
「んぇ?そぉ?……あ~、でも、ウン。そうかも」
「何か楽しいことでもありましたか?」
「んー、さっき授業でやったマジフトってヤツが結構面白くってさぁ。魔法アリ乱闘オッケーのスポーツ!ジェイドも好きだと思う、アズールは嫌いかもだけど」
「おや、それは興味深い……」
「ね。海じゃゼッテー出来ねえし」
陸もいいねぇ、とフロイドが言った。そうですね、と返そうとして、けれども口が動いてくれずに困ってしまって、僕はただ目を細めたのだった。
……どうしましょう。いつも通りの時間に起床して、まず思ったのがそれだった。いえ、どうしようも何もないことは分かっているんだけれども。
「ジェイド?そろそろ準備しねーと遅刻しちゃうよ」
布団から抜け出そうとしない僕を、不思議そうにフロイドが軽く揺すった。はい、と応じながらも、僕は身を起こすことはせずにいた。
「なに、どうかした?具合悪い?」
「いえ……」
「じゃあ、なぁに?」
不審そうな声が鼓膜に刺さる。どうかしたか、なんて僕自身が一番知りたい。こんなの、今までの人魚生で初めてのことで、僕だって訳が分からないのだ。
「も~、黙ってちゃ分かんねぇって。オレに教えて、ジェイド」
頭にぽんと柔らかな手のひらが降ってきて、髪をわしゃりと掻き回される。もう一度優しい声音で教えてよ、とせがまれて、僕は包まれていた白い布からおずおずと顔を出した。
「あ、出てきた。おはよぉ」
「……おはようございます」
「ジェイド、寝癖ヤベー!」
きっともう彼も遅刻に違いないというのに、ゲラゲラと笑うその姿に柄にもなく安心感なんてものを覚えてしまって、本当にどうしようもない。
水掻きのない指先で僕の跳ねた髪の毛を整えた後で、フロイドがこちらを眺める。僕の言葉を待っているのだ。いやに渇いた舌先が同じくカラカラの咥内に張り付いた。言わなくては、伝えなくては。思うのに、喉が震えない。
「……い、」
「い?」
「行きたく、なくて……」
やっとの思いで絞り出したのは、そんな情けない言葉たち。自然と下を向いてしまって、皺のついたシーツを無意味に見つめる。……フロイドの言う通り、体調不良であればどれだけ良かったか。からだは頗る健康で、今の僕は正当な理由もなくただサボりたいと駄々をこねる稚魚だった。
──単なるその他大勢に過ぎないクラスメイトや上級生からの扱いを、それほど気にしていた自覚はない。関心を向けるに足るものではなかったし、陸に上がって1ヶ月、2ヶ月と過ぎれば植物の観察やテラリウムの作成といった新しい趣味もでき、そちらに精を出していたからそんな下らないことに頭を悩ませる時間が勿体ない、とすら感じていた。それは嘘ではないのだけれど、どうにもからだは適応してくれなくて。
以前よりも眠れるまでに少しだけ時間が掛かったり、何だか食事が億劫になったり、お腹がちょっぴりチクチクしたりモヤモヤしたり。一つ一つは小さな不調でも積み重なれば、やがて大きなイヤになる。平日ばかり起こるそれの原因に気付かないほど、僕は愚鈍でもなかった。
それでも自分を誤魔化して、騙して、目を逸らし続けていた結果が今日だった。
二つに分かれた尾ビレがどうしても、陸地を踏みしめることを許してくれない。僕たちだけの巣穴に隠れていたいと強く訴える。
フロイドからの返事は未だ無く、部屋には規則的な秒針の音だけが響いていた。……彼は一体どんな表情をしているのだろう。予想のつかない事柄は普段なら喜ばしいのに、今はこわいだけだった。
沈黙がおそろしくなって、大きな後悔が降ってきて、ドクンドクンと心臓が跳ねる。耐えきれず、纏わりつく気怠さを振り払うように起き上がり、唇を動かした。
「すみません、大丈夫です。何でもありません。急いで準備しますね」
…….僕は何を口走ってしまったんだろう。儘ならない現状に気が滅入っていたとはいえ、失態だった。嫌だと駄々を捏ねる心中を無視して、床へと足を下ろそうと横を向いたときだった。
「…………やっぱり!も~、ジェイド熱あんじゃん!今日はお休みね」
「え?」
突然伸びてきた彼の手が僕の額へと置かれ、そしてすぐに離れていった。熱?そんなものはないと思うのだけれど。だって、寒気も頭痛も何もない。
首を捻り、ぱちぱちと瞬きを2回。そうしていると、トン、と軽く肩を押され、マットレスへと背中が沈み込む。
「わっ!あの、フロイド……?」
「何?……コラ、起きちゃダメだって。病人は寝てくださぁい」
「ええ……?」
僕、病気ではありませんよ、なんて言う間もなく、あやすように腹部をトントン叩かれて、大人しく目を瞑った。こうなったフロイドを止めるのは骨が折れるから、仕方がない。それに、訪れた安寧にほっとしてしまったのも事実だった。イーコだね。そんな台詞が鼓膜をくすぐる。
体調なんてどこも悪くはないはずなのに、酷く疲労したときみたく眠たくなって逆らえない。久方ぶりの心地の良い睡眠に脳が侵されて、どろりと思考が溶けていく。
再び眠りに落ちるまで、そう時間は掛からなかった。
「起きた?具合ど~ぉ?」
「……ええ、大分良いかと」
「ん。顔色も悪くねぇな。ご飯は食べれそう?」
「はい、お腹が空きました」
くぅ、と鳴ったお腹を摩りながら答えれば、フロイドは愉快そうに笑ってから、ちょっと待ってて、と部屋を出ていった。
時刻を確認しようと枕元に置いていたスマートフォンを掴む。画面をつけると、丁度お昼休みを示す数字が浮かび上がった。
随分ぐっすり眠ってしまっていたらしい。けれどそのお陰か、頭がすっきりと冴えていた。
「お待たせぇ~」
ガチャリ。扉が開いて、トレーを持ったフロイドが姿を現す。両手が塞がっているから、足先をドアの隙間に挟み器用に広げて身を滑り込ませていた。流石、フロイド。脚の使い方が上手ですね。
……なんて、感心している場合ではない。ベッドに掛けていた腰を上げ、彼の元へと歩み寄る。
「持ちますよ、貸して」
「いいよ、ジェイドは座ってな」
「では、せめてドアを閉めておきますね」
「あ~、ありがと」
僕の机の上、持ってきた一式を置くフロイドは、制服ではなくネイビー色をしたオープンカラーのシャツとジーンズというカジュアルな格好をしていた。お昼休みだから戻ってきた訳ではなく、もしかすると僕に付き添って授業を欠席したのかもしれない。
それは何だか申し訳なかった。
「こっち来れる?ベッドのがいーい?」
「いえ、大丈夫ですよ」
言って、フロイドが引いてくれた椅子へと移る。そうして、目に映ったメニューに僕はわ、と歓声を漏らしていた。
「じゃーん、オレ特製美味しいモノだけぶちこんだリゾットでぇす!あとおまけのタコのカルパッチョ~」
「これは……!色々な食材が沢山入っていてとても美味しそうです!お肉も、エビも、お野菜も……。ふふ、本当に何でも入っていますね。それに、僕の好物まで!」
「んふふ、元気出そうなものぜーんぶ入れちゃった!タコのカルパッチョはぁ、やっぱ好きなモンが一番でしょーって思って」
全部食堂の余りモンだけど、めちゃくちゃ美味しく出来たから食べてぇ。
得意気にスプーンを差し出され、一口。続けて、フォークでタコも一口。そこからはもう止まらなかった。
ご馳走さまでした。
空っぽのお皿にカトラリーを乗せれば、この最高傑作を生み出した天才シェフのきょうだいの瞳が嬉しそうに歪められた。
そうしてそのままの表情で、隣の机に肘を付き頬を片手のひらに乗せたフロイドが、あのさ、と口を開く。
「午後ちょっとオレと出掛けない?まあ、キツいなら無理しなくて良いんだけど」
……僕は至って健康で、キツイなんてことあるはずもなくて、どころか眠気すらもなくなってしまって。病人という建前を保持しつつ、退屈な午後をどう過ごそうかと思案をしていたところで。とどのつまり、深海にアンコウだった。
「はい、ぜひ。体調はすっかり良くなったので平気です」
「やった!じゃあ、皿片したら出よっか。ジェイドは着替えてて」
「分かりました」
スキップなんてしながらドアを潜ったきょうだいを微笑ましく眺めつつ、クローゼットを開き適当なシャツとジャケットを手に取った。
パジャマのボタンを外しつつ、頭に渦巻く疑念が具現化されていく。
「気付いています、よね……」
ぽつり、独り言。でなければ、いくら自由奔放な彼でも、出掛けようなんて言い出さない。思えば、初めから妙だった。
僕をズル休みさせて、共にズル休みしたきょうだいは、一体何を考えているのだろう。けれどひとつだけ確かなことは、彼とのお出掛けはきっと楽しいということだった。