銀高ss「お、満点。」
「当たり前だ。」
「うーん素行さえ良けりゃ優等生なのにね。全く。」
提出された解答用紙に迷い無く100点、と付ける。頭は抜群に良いんだから補習なんて回避してほしいものだ。先生だってメンドイんだぞ。と、素直に言わないのは、この問題児と学校という場所で二人きり過ごす時間がこのくらいしか無いからだ。貴重な時間。これこそ絶対に言えないのだが。
だが、今日の高杉はどこかいつもと雰囲気が違う。澄まし顔なのは通常だが、なんか、不機嫌オーラが隠せていない。美人はどんな顔をしても美人だが、もっと違う表情をしている方が好みだ。
今だって此方をチラリとも見ようとせず、そっぽを向いている。全く、思春期は分かんねーな。
「よし、満点の高杉くんに何かご褒美をあげよう。」
「いらん。」
「なんだよせっかく人が甘やかしてやろうと思ってんのに。」
つれねぇな。ため息を吐いて、いつものように。そう、己の行動で機嫌を損ねてしまった時にするように、いつものように頭に手を置こうとした時である。
「っ、触んな!」
ばしっ、と音がするくらいに強い力をもって手をはたき落とされた。
こういった抵抗を見せることは始めてではない。むしろ通常だ。しかし、ここまで明確に拒否されるのは随分久しぶりだ。
例えるなら、猫科の動物がシャーと牙を剥いている。毛は逆立って、目がギラギラして。
「なに、どしたの高杉くん。」
内心は結構驚いているのに、相手を落ち着けようとする為か。思ったより冷静な声が出た。
当の高杉は振り払った俺の手と自分の手を交互に見つめてから気まずそうに目を逸すだけで何も言わない。
ぎゅうとシャツの袖を掴んで、何かを耐えているような。
「言わなきゃ分かんないんだけど。センセーだけ痛い思いしてさ〜。ひどいねぇ。」
「……ぅ、悪い。」
声ちっさ。
高杉はしゅん、と効果音が付きそうなくらいに肩を落として、それから袖を強く握りしめて立ち尽くしてしまった。
ワザと相手の非を強調するような言い方をしてみたが、残念ながら逆効果だったようだ。
「ウソ。怒ってないよ。でもどうしたのか教えてくんないと。銀八センセーのこと嫌いになっちゃった?」
「……違う。」
嫌い、という単語にぴくりと高杉が反応して顔をあげた。
「やっとこっち見た。」
「……。」
ぎゅうと唇を噛む高杉。後になるからやめてほしい。何をそんなに思い詰めているのだろうか。
「触ってただろ。」
「何を。」
「他の奴の、頭。触ってた。」
「そうだっけ……。」
思い当たる記憶がない。
うーんと考える素振りをしてみれば、わざとらしさに気付いたらしくじとりと睨まれた。
「俺だけだと、思ってたから。違って、ちょっと、………イヤ、だ。」
「………!!!!」
衝撃。
そして、緩む頬。
「おい何だその顔。今この場でしていい表情じゃないだろ。空気読め。」
「ご、ごめ……でもさぁ、高杉くんがさぁ、やきもち、やきもち焼いてんだもん……。へへ……。」
顔が引きつる高杉と、ニヤケ顔をどうにかしようとして失敗している俺。ひどい図だ。
でも仕方ない。だってあの高杉が!やきもち! 嬉しい。
こんなの初めてだ。めちゃくちゃに嬉しい。
「……っ、もういい。帰る。」
鞄を引っ掴んで背を向ける高杉。その腕を今度こそしっかりと繋ぎ止めて、此方を振り向かせる。
「だから、触んなって…!」
再び牙を見せた高杉の、かわいい唇へ口づけた。
「ん、ぅ!ふ、…ぁ、ぅ…っ」
威嚇の姿勢を見せても、躾けられた身体は従順な様で。ねじ込んだ舌で上顎を擽り、舌を甘く喰んでやれば、くたりと抵抗の力も抜けた。
気が済むまで口内を愛撫して、最後に唇をひと舐めして開放してやる。
目が潤んでいるのは酸欠のせいだけじゃない、かもしれないと思うのは幾ら何でも自惚れすぎだろうか。
「ご褒美。まだあげてないのに帰ろうとするから。」
すっかり大人しくなった身体をぎゅうと抱きしめる。今度は、振りほどかれなかった。
「やきもち焼いてくれて嬉しい。」
素直に伝える。結局この子にはこれが一番よく効くのだ。
「他のやつの頭撫でたって、ちょっとマジに記憶ないんだけど……高杉くんの頭なでなでと比べたらどうでもいい体験で忘れたわ。」
高杉は何も言わない。ただ、背中にゆっくりと腕がまわされた。あったかいな。
「嫉妬されて嬉しいのも、頭なでなでして満たされんのも高杉くんだけ。分かった?かわいいかわいい高杉くん。」
でも、と最後に付け足してやる。
「まだ思い知りたいなら、今晩うちにおいで。」
僅かに赤い耳へ吹き込んでやれば、こくり、とまあるい頭が頷いた。