銀高ss授業時間の真っ最中。じっとりと汗をかく気候の中、日陰で一人屋上で空を見上げる。
澄んだ青空には、雲が浮かんでいる。真っ白な雲。大きな塊のもの、ちぎれたもの。
(わたあめ)
通学路の掲示板に貼られていたあのチラシを見てからだ。今日の思考はずっと夏祭りに傾いて、授業もイマイチ集中(は普段からしていない)出来なかったので、抜け出して今に至る。
行きたい、と思っている。夏祭りに。浴衣は涼しくて好きだし、特有の賑やかさも嫌いじゃない。でも、あいつはどうだろう。
雲を見つめて、銀時を思い出した。ふわふわのくるくるで、真っ白で。あいつがわたあめ食べたら、共食いみたいだな。……なんて、しょうもないことを考えてしまうのは、日陰でも感じる熱のせいだろうか。
そろそろどこか室内に戻るか、と足元に目をやった時。
同じ、上履きが目の前に立っていた。
「なにしてんの。こんなあっちーとこで。」
「……べつに。」
「別にじゃねーよ。熱中症でぶっ倒れてぇのか?おぶって帰んのなんてごめんだぞ。」
授業中なのになんでここにいる、と聞こうとして自分が言えた立場じゃないのでやめた。
「なんで、ここ」
「分かったのかって?…分かるよ。お前のことだもん。」
銀時はよく同じ事を言う。それで、何処にいても、俺を見つける。
「んで、わたあめが何?」
「聞いてたのか。」
「共食いがどうとかって。」
「……なんでもない。」
口に出てたとは。これも暑さのせいか。
でも、むしろ今ならちょうど良かったのかもしれない。
「ぎんとき。」
「なーに。」
「夏祭り、行きたい。」
「あ?」
「今度、神社である。それ、行きたい。」
銀時はポカンと口を開いて、それからガシガシ頭を掻き回して言った。
「ダメ。」
やっぱり。予想していた通りの答えだ。
銀時は人混みを嫌う。正確には、俺が人混みへ行くのを。デートだって行っても映画館くらいで、後は互いの家に行くのが殆どだ。前に誘われてプールに行くと言った時も、大いに揉めた。
だが、行きたいと思ったのだ。こちらも簡単に引き下がるわけにはいかない。
「なんで。」
「あんな人ばっかの所何がいいんだよ。あっちーだけだろ。」
「冬の暮れ市の時も同じ事言ったな。あの時は寒いから、だったか?」
「そーだっけ。忘れたわ。とにかくダメ。」
気候の問題ではないらしい。銀時はこれ以上説明する気もないらしく、保健室でも行こうぜとこちらに背を向けて歩き出してしまう。
「じゃあいい。一人で行く。」
「……あのさあ。」
さっさと先に進んでいた銀時がこちらに足を向ける。
目は、いつもより鋭い気がした。
「高杉くん、ほんと何も分かってないね。」
「ああ?」
呆れた様な物言いに、馬鹿にされた様な気がして腹が立ってきた。お前がその気なら、と銀時を睨みつける。
「祭りは諦めろ。」
「だから、なんでだ、っ、む」
やっぱり何も説明しないのかよ。本格的に腹が立ったので噛みついてやろうとした所で、先に口を塞がれてしまう。
ぬるい舌が絡まり、ぐちゅりと水音が鳴る。
口蓋も舌根も気持ちいい場所を知り尽くした銀時の舌が口内を愛撫して、最後にあまくこちらの舌を喰んだ。
「ぷは、ぅ、なに、」
「やっぱダメだわ。祭りは。」
「なんで。」
「なんでも。……隣の街にりんご飴のお店出来たんだって。そこ連れてってやる。クレープも食べよ。腹空いてたらたこ焼きだって。だから、人がいる所はだめ。」
腰を引かれて、自分より少し広い腕の中に抱かれる。あつい、と思いながら背中に腕を回した。
銀時の手が首筋に回る。銀時にしか許さない場所。直接肌と肌が触れ合って、よわい電流が背中を走った。
「おれの。」
銀時が言った。顔は見えないけれど、なんだか苦しそうな声だった。
結局なにも分からないままだ。
それでも、まあ代わりのデートプランも悪くわないかなと思って、銀時に抱かれながら空を見上げた。