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    音羽もか

    @otoha_moka

    書いたものとか描いたものを古いものから最近のものまで色々まとめてます。ジャンルは雑多になりますが、タグ分けをある程度細かくしているつもりなので、それで探していだければ。
    感想とか何かあれば是非こちらにお願いします!(返信はTwitterでさせていただきます。)→https://odaibako.net/u/otoha_moka

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    音羽もか

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    センチネルバースの彰冬シリーズ3作目。独自解釈を多分に含みます。少し体調不良表現的なものがある。

    #彰冬
    akitoya
    ##彰冬
    ##彰冬センチネルバース

    無理は禁物「冬弥、最近まずい気がするんだよな」
    「まずい?」
    「なんというか、能力の使いすぎのような……」
    冬弥が自身のセンチネルをクラスの人に打ち明けたいと話した時、冬弥のしたいようにしろよ、なんて返したことを、彰人は今更になって後悔していた。
    センチネル、それは冬弥の持っている少し特殊な体質だ。魂に特定の生き物(スピリットアニマルという)を有し、五感が人並外れて鋭い。冬弥の場合は、猫(なぜか尾が分かれている)の魂を有していて、特に聴覚が鋭かった。もちろん、特に鋭いと言うだけで、他の五感もまた、並外れている。ただ、その特異体質は諸刃の剣だ。鋭すぎる感覚に、体がついてこれなくなる。それがセンチネルが生まれ持った呪いだった。そのため、冬弥は常日頃からシールドと呼ばれる膜のようなものを自身で張って、五感を意図的に抑制している。そうしないと、冬弥の命は一週間と持たないらしい。
    冬弥の家は代々センチネルの家系らしく、冬弥も例に漏れずセンチネルだった。だから、シールドの張り方も能力の使い方も無駄がなく、完璧であるように見える。そう言われなければ、少しばかり目がいいだとか耳がいいだとか、そういう得意不得意の範囲で収まる程度の、『普通の人』だ。冬弥はそうするように言われて生きてきた、と言っていた。そう、センチネルは、その特異体質を利用されたり、あるいは暴走したセンチネルの『ゾーンアウト』や『野生化』現象のため恐れられたり、という理由でその特性を隠して生きていることも多いのだ。
    けれど、そんな冬弥がカミングアウトを選んだ。だから、彰人はその選択を応援するというスタンスでいた。
    しかし、カミングアウトしてからの冬弥は何かと忙しそうにしていた。聞けば、色々なことを頼まれるようになってしまったとのこと。噂と悪事は千里を走る。センチネル:青柳冬弥という噂はあっという間に学校中に広まった。幸い、妙に気味悪がられたりはしていない(少なくとも、彰人の目の前でそのようなことを言う人は目にしていないし、冬弥も気にしている様子はない)が、その能力を良くも悪くも重宝されることが増えた。

    「家の鍵落としちゃったみたいなの」
    「今日の数学小テストあるかどうか聞き取れるか」
    「校舎内に逃げ込んだ犬の捕獲を手伝って欲しい」

    ……エトセトラエトセトラ。
    ちょっとは自分でやれ、と言いたくもなったが、何せ頼みごとの向かう先は彰人ではなくあの冬弥だ。そういうちょっとした出来事の何でも屋と化すのに時間はかからなかった。
    結果、冬弥が必要以上に能力を使いすぎている気がするのだ。そのくせ、「誰かのためになることをできるのなら気分がいい」などと言い出す始末。彰人から見れば、疲弊しているはずなのに、気力でその感覚が麻痺しているように感じる。初めは、楽しそうならいいかと思っていたけれど、これはまずい気がしていた。その上、本当ならガイディングをすべきなのに、「俺は大丈夫」の一言で逃げられ続けているのだ。いくら冬弥の精神が大丈夫だろうと、このままでは体が持たない。
    「確かに、最近の冬弥ってすごい人気者っていうか、先輩達からも引っ張りだこっていうか」
    「センチネルが珍しいからって、能力を見たいだけのやつもいる気がしてるんだよな……」
    「あー……いそう。まあ、悪気はないんだろうけどね」
    「それが厄介なんだよ」
    「確かに、悪意があれば跳ね返すこともできるものね。はい、注文していたフルーツティーとコーヒーよ」
    「あ、メイコさん、ありがとうございます」
    今日も今日とて、冬弥は少し『手伝い』をしてから行くと言っていた。その上、今日の手伝い先は先生だと言い出す。これが見ず知らずの先輩や同級生ならまだ、いい加減断らせようとも思えたのだが、先生からの頼まれごとなのだと使命感に満ちた様子の冬弥を見ては、無理だけはするなとしか言えなかった。
    そうして、すぐに来るという冬弥の言葉を信じて、先にセカイに来たわけだが。
    「でもさ、すごい頼りになる人がチームにいたからって、その人に色々任せてたら、その人が大変になっちゃうだけだよな。冬弥のは、チームのことではないけどさ」
    「そうだね。負担が偏るとそこから崩れるのは確かにあるよ」
    「でも、冬弥くんの気持ちもわかるなあ。リンも、いっぱい頼られたら、嬉しくなって、もーっといっぱい頑張ろうって思うもん」
    「オレも、それはわかってんだよ。だから、やめさせにくいっていうか……」
    リンとレン、それからミクが口々にそう話しだす。わかっている。わかっているんだ、これではまずいということは。でも、楽しそうにしている冬弥を止めるのも気が引けてしまう。何か悪いことをしているわけではないのが余計に。ガイディングだって、彰人と出会う前はほとんど受けていなかったというし、冬弥だって自分の限界くらいわかっているだろうと、彰人は心配になりつつも自分に言い聞かせて続けているのだ。
    「それにしても、冬弥遅くない? こはねは委員会で遅れるって話だから、いつももう少しかかるけど」
    「それもそうだな……」
    杏の言葉に頷いて、彰人は更新されていないスマホのメッセージアプリ画面を見る。やっぱり、昨晩の内容から更新されていない。
    「わりぃ、やっぱ気になるから冬弥探してくる」
    「うん、こはねが先に来たらそう話しておくよ。それに、私も冬弥のこと心配だしね」
    なんだか、嫌な予感がする。杏に伝言を任せると、彰人は席を立った。Ready Steadyの再生を止めると、幾何学模様と共に光に包まれる。それから、瞬きの間に学校近くの路地裏が目の前に広がっていた。

    ***

    ガイド、なんて名前がついていても、別にパートナーの居場所を探し出せるわけではない。
    彰人はまず、先生に頼まれていたというなら、と職員室に向かった。けれど、「青柳くんなら山崎先生からの頼まれ事を終えて帰っちゃいましたよ」と返ってくる。それなら、山崎先生はどこかと訊けば、音楽準備室にいるはずだと言われた。仕方なく、今度は音楽準備室に向かう――はずだったが、その途中でお目当ての山崎先生とすれ違った。
    「あ、すんません、冬弥……青柳くんのこと知りませんか?」
    「え、青柳くん? 彼に頼んだことならもう終わっわたから、下校したんじゃないかなあ……」
    先生は他に行きそうなところを思い浮かべるも、何も思いつかなかったらしい。ごめんねと謝られてしまった。仕方ない。先生とは軽く挨拶を交わして別れて、今しがた登ってきた階段をおりていく。先生の口ぶりから、音楽準備室に冬弥はいないだろう。
    「はあ……あてがなくなったな……」
    どこを探せばいいのかと思いながら空き教室をひとつひとつ覗いていく。生徒が残っていたり、誰もいなかったり、そんなことはあれど冬弥の姿はない。
    そうこうしているうちに、辿り着いたのは彰人自身の教室だった。
    「……わざわざ放課後まで教室に来たくねぇんだけど」
    そうひとりごちて、教室の扉を開ける。スライドがガラ、と音を立てるのと彰人がその姿を見つけたのは、ほとんど同じだった。
    「……っ、冬弥!」
    見つけた! 彰人はすぐさま探し人であった冬弥に駆け寄った。けれど、その様子は何だかおかしい。
    冬弥のいる場所は、丁度彰人の席だった。彰人の席に座って、耳を塞いで目を瞑っている。顔色は悪く、呼吸も荒い。そして何より、すぐ側で呼びかけた彰人に気付く様子もなかった。
    それに、冬弥のそばにいる冬弥のスピリットアニマルもまた、ひどくぐったりとした様子で、ぶるぶると震えている。
    「冬弥、おい、聞こえるか、冬弥……っ」
    「……ぅ、あ、あき、と……ッ、うぅ……」
    肩を叩いたり、揺さぶったりしながら声をかける。何度かそうしていると、冬弥はようやく僅かに目を開けて、彰人の姿を確認した。けれど、すぐにまたぎゅっと目を瞑ってしまう。
    これがどういうことなのか、彰人にはすぐに理解できてしまった。こうなりかねないと、あれほど心配していたことが起きてしまっているのだから。
    (これ、完全にゾーンアウトしてやがるな……)
    感覚の暴走。それがゾーンアウトだ。能力の使いすぎやセンチネル本人の精神状態の悪化によって引き起こされる、センチネルの五感の暴走。今の冬弥は多分、目を開けば何キロ先までもの情報が入り込み、耳を済ませれば何十キロ先までもの時計の音までもが全て聞こえてきて、自身の制服の衣擦れすらナイフで裂かれるような痛みになり、空気にすら明確なにおいと味を幾重にも重なるようにして感じてしまっている。今だって、目を少し開けた途端に飛び込んできた視覚情報の多さに一瞬にしてやられてしまったのだろう。
    普段はうまく抑制し、使いこなすことのできているそれらが、一斉に冬弥に牙を剥いているのだ。
    原因なんて決まっている。能力の使いすぎによる極度の疲弊だろう。
    「……くそ、やっぱ、止めればよかった」
    「……っ、は、……ぅ、ぐ……」
    「いいから、ほら、ガイディング始めるぞ」
    完全にゾーンアウトを引き起こしたセンチネルへのガイドは難しいとされている。それもそのはずだ。ガイディングの際は、ガイドはセンチネルの精神とシンクロを行う。つまり、センチネルが今感じている痛みを共有することになるのだから。
    (手、めちゃくちゃ冷てぇな……感覚を遮断する直前だったのか……)
    彰人がいつもの様に冬弥の耳元(今は冬弥自身が塞いでいるから、手を重ねるようになってしまっているが)を両手で塞ごうとすると、冬弥はいやいやでもするように首を横に振った。彰人に自身の状態を共有したくない、そういうことだろう。
    「ゃ、」
    「おいこら、嫌がんなって。このままだとお前、昏睡状態に陥る危険があるし、最悪死ぬぞ」
    「……ぅう、」
    「あーあー聞こえねぇな」
    彰人の言葉に、冬弥の肩がびくんと跳ねる。『死ぬ』。それは、冬弥にとって、決して遠い世界の話ではなかった。幼い頃から何度も言い聞かせられていたことだったから。
    冬弥は唸るような声を微かに発したかと思うと、彰人の胸に自身の頭をぐりぐりと押し当ててくる。彰人に痛みを共有したくはないが、このまま死ぬのも嫌だった。だって、そんなことをすればボンドを結んでいる彰人の立場はどうなる? もちろん、ガイドはセンチネルがいなくてもなんの問題もなく生きていける。けれど、センチネルの希少性から、センチネルの命を奪うようなガイドは責め立てられるのだ。彰人にそうなってほしくはなかった。
    そんな冬弥の主張は全部聞こえないふりをして、彰人はいつもの様にガイディングの前段階であるシンクロをはじめた。
    「いいか、オレの声をよーく聞けよ、他の音は聞くな」
    「……ッ」
    「ったく、冬弥。シールドで邪魔すんなって。さっさとオレを中に入れさせろ」
    緊急事態だという自覚はあるのだろうか。彰人はさすがに少々苛立った調子て冬弥にそう言い放つ。冬弥の方も、強情を張っている自覚はあったのだろう。彰人の言葉に、観念したようにシールドを外して、ようやく彰人を受け入れた。
    「いッ、気持ち、わる……」
    途端に、莫大な情報があちこちからなだれ込んでくる。情報量に溺れて、窒息しそうな気分になる。強い眩暈も覚えて、吐き気が込み上げてくる。それを何とか耐えて、彰人は冬弥の意識に集中し続けた。
    この莫大な情報に溺れているのは、その実彰人自身ではなく、冬弥の方なのだ。この中から、冬弥自身を探して、引っ張りあげてやらないといけない。それがガイドの仕事だ。まずは、感覚を研ぎ澄ませて、冬弥自身と完全に一致させる。それから、冬弥が冬弥自身を探し出すのを文字通り『ガイド』する。
    「……! あき、」
    そうして感覚の共有を行っている最中だった。突然、冬弥がはっと我に返ったように目を見開いて、彰人を見た。それから、今行っているガイディングがどういうものなのかを理性で理解してしまい、青くなっていた顔色をさらに青くした。
    意識がはっきりと戻ったということは、どうやら、最悪の状態からは脱することができたようだ。
    「っぐ……なんだよ、はは、もう喋れるまで回復したのか、早ぇな」
    「だ、だが……彰人が……」
    「だーもう、まだ終わってねぇから、オレに集中しろって」
    冬弥のいらぬ心配に、集中力が乱されてシンクロが解けかけている。最悪の状態は脱したとはいえ、まだ予断を許さない状況に変わりはない。彰人は冬弥に目を閉じるように言って、シンクロを再開する。
    そうしていくうちに、情報の波がおさまって、彰人の視界には見慣れた白い闇が広がっていた。

    他の人のガイディングをおこなったことがないので、彰人にはどれが標準的なものなのかなどは知る由もないのだが、とにかく、冬弥のガイディングを行うときは必ず、この白い闇の空間に来ることになる。それは、他ならぬ冬弥の内側、精神世界だ。
    何もない空間の中にいるのは、幼い冬弥と、それから黒い猫。猫は少し、冬弥のスピリットアニマルに似ている気がする。
    幼い冬弥は大抵は歌っているが、日によっては眠っていたり、あるいは何もせずぼーっとしていたり、黒猫と話したりしている。以前、よく歌っていることについて、見つけてもらいやすいからと話していた。つまり、彰人がこの世界に探しにくることを、幼い冬弥は待っているということだ。だから、彰人自身もまた、冬弥の歌声を道標に、この白い闇を歩いている。
    けれど、今日はなんの歌も聞こえなかった。眠っている日なのだろうか。辺りを見回すが、あるのは白、白、白。白ばかりだ。何の音も聞こえないし、何の姿も見えなかった。
    しばらく歩き回っていると、黒猫を見つけた。
    「お前、いつもの……っておい、待て!」
    猫は、みゃあと一声だけ鳴くと、ぴょんと跳ねるように走り去っていく。彰人はそれを慌てて追いかけた。そうしなければいけない気がした。
    しばらく猫を追いかけて走っていると、ようやく猫が止まってくれる。そして、その隣には小さな体を丸めて、さらに小さく蹲っている冬弥の姿があった。
    「冬弥、とうや。迎えに来たぞ」
    「……あきと、」
    幼い冬弥は、そっと顔を上げて、彰人の姿をたっぷりと時間をかけて見つめた。それから、両腕を広げて、「ん」と小さく声を漏らす。何をしてほしいのかは明白だった。彰人は立膝をついて、冬弥をぎゅっと優しく抱きしめる。何せ、見た目が幼い冬弥だから、高校生の彰人ではそれだけでもその細い体がすっぽりと包まれてしまった。
    「どうした、寂しかったのか?」
    「……ううん、ただ、急にぜんぶ、こわくなった」
    「そっか」
    「うん。だから、あきとが来てくれて、よかった」
    幼い外見をしてこそいるが、これこそが冬弥の精神だ。この真っ白な世界こそが、冬弥の心で、そんな中にぽつんといるのが冬弥の心そのもの。今彰人が触れて、抱きしめているのはゾーンアウトを引き起こしたあの冬弥自身でもある。そして、それはつまり、この幼い冬弥の言葉こそ、冬弥の本心そのものということでもある。だから、彰人は細心の注意を払って、冬弥の言葉に耳を傾けた。
    「……なんで、キャパオーバーしたのか、聞いてもいいか?」
    「おっきい僕には聞かないの?」
    「ゾーンアウトになったことの方でいっぱいだろうからな」
    この冬弥は、普段彰人が接している冬弥自身のことを、大きい冬弥と呼んでいる。そして、精神世界の冬弥は外界を認識しているが、冬弥本人は、この精神世界をぼんやりとしか記憶していない。だから、少しずるいと思いつつ、冬弥が話しにくくしていることを、こちらの冬弥から聞き出すのは、これが最初というわけではなかった。
    「で、話せるか? もちろん、あいつがオレに話したくないなら言わなくてもいい」
    とはいえ、無理に聞き出すこともしたいわけではない。彰人は必ず、冬弥自身が本当は知って欲しいと思っているけれど、何かしらの理由でそれを躊躇っている時に、この方法を使っていた。
    今回は特に、知られて困ることはなさそうだ。未だ腕の中にいる冬弥は、こくりと頷いてぽつぽつと話し始めた。
    「いやな、音を思い出してしまって」
    「嫌な音? それは、音楽室でのことか?」
    「うん……ピアノの音、が、専門の人を呼んだ方がいいか確認するために、一緒に見てほしいって」
    ああ、なるほどな、と納得する。今回の『お手伝い』がそういう内容だったのだろう。学校の方も予算がどうだとか、大人の事情が色々あって、調律師を呼ぶ予算も削っているのかもしれない。それで、聞くに耐えないかどうかを確認した、と。とはいえ、そのくらいなら、冬弥の耳ならば、センチネルの能力を抑制していてもできそうなものだけれど。
    「聞いているうちに、ずれてる音が気持ち悪くなって、でも、お手伝い頼まれたから、頑張らなくちゃって……それで早く終わらせようとしたら、ぜんぶ、こわくなった」
    なるほど、責任感とキャパオーバーの合わせ技ときたか。まったく、無茶をする。しかし、それならば本人も予期しないゾーンアウトだったのだろう。彰人は心配していたけれど、以前ガイディングを提案した時の冬弥は本当に、まだ平気だったのかもしれない。
    「じゃあ、冬弥は頑張ったんだな」
    「ん……」
    抱きしめたまま冬弥の頭を撫でてやると、冬弥は少し嬉しそうに頬を緩めた。けれど、すぐに浮かない顔に戻ってしまう。
    「……でも、もっと、頑張りたかった」
    「あのなあ、冬弥」
    「センチネルはいっぱい頑張って、役に立たないといけないのに……こんなことで、だめに、なってしまって」
    「何言ってんだ、いっぱい役に立ってんだろ。クラスのやつらも、今日の先生も、それにオレも、お前が頑張ったから、助かったって思ってんだし」
    センチネル全体がそう言われているのか、はたまた冬弥の家の教えか、あるいは、どこかで聞いた話を真に受けているのか、その辺はわからないが、とにかく冬弥は「自分はセンチネルだから、能力を誰かの役に立てなければならない」と思い込んでいる節がある。それはもはや、使命感を通り越して強迫的とまで言えるほどのもので。普段はその生真面目さもプラスに働くことが多かったのだが、今回ばかりは裏目に出てしまっている。
    「役に立ててる……? 迷惑、かけてない?」
    「当たり前だろ。まあ、心配にはなるから、無茶はこれきりにして断ることも覚えてほしいけどな」
    「……うん、ごめんなさい」
    冬弥がそう謝るのとほぼ同時に、また景色が白に染まる。次の瞬間、抱きしめていた小さな体が、高校生の冬弥に置き換わって、何もないその場所は自分の教室になっていた。それと同時に、ひどい疲労感が彰人を襲うのだった。

    ***

    「あきと、彰人! 聞こえているのか!」
    「……あ、冬弥?」
    「よ、かった……このまま、ガイディングに失敗していたら、俺は……俺、は……」
    「そんなこと、お前がいるのに起こすわけねぇだろ」
    さっきとは真逆に、冬弥が彰人を揺さぶって声をかける。彰人はようやく、自分が座り込んでしまっていることに気がついた。ガイディングには強い精神力が必要になる。それがゾーンアウトしたセンチネルならば、尚のことだ。
    それがわかっているから、冬弥は心配だった。もしも自分のせいで彰人がガイディングに失敗し、精神崩壊を起こしたら、とどうしても考えずにはいられない。
    彰人はそんな冬弥の心配もわかっていた。ゆっくりと立ち上がって埃を払うと、安心させるように冬弥を抱き寄せる。五感全てを使って、彰人自身を感じられるように。
    「ほら、ちゃんと見て、聞けよ。オレはなんともないだろ?」
    「……っ、ああ」
    戸惑うような声が、行き場のない腕にまで伝わってくるようだ。冬弥は、彰人の少し迷う様は素振りを見せてから、そっとその手を後ろに回した。
    「オレに異常が起きてるように見えるか?」
    「……いや」
    「心臓の音、聞こえてるだろ」
    「ああ……だが、普段より少し早いな」
    「……それは普通だから気にすんな」
    それから彰人は、冬弥にひとつひとつ、何も問題など起きていないことを確認させていく。そうしていけば、段々と冬弥も落ち着いた様子を見せてきた。
    「な、大丈夫だったろ」
    「……うん」
    「ボンド結んでる分負担も小さいんだから、いちいちそんな心配すんなって」
    ぎゅう、と背中にまわした冬弥の手が、彰人の制服に皺を作る。彰人の存在を確かめるように。不安を全部、拭うように。
    「……彰人、ありがとう」
    「おう」
    「それと、すまなかった……必要とされるのが嬉しくて、少し、調子に乗っていた、のかもしれない。能力の使いすぎを咎められるのが怖くて、ガイディングも断ってしまって……」
    「調子乗ってたっつーか、お前のはもっと……今はいいか。まあ、こんな無茶はもうすんなよ。あと、ガイディングはちゃんと受けろ……誰も、頑張ってるお前を怒ったりしねぇから」
    「……すまない」
    「だからそう謝んなって。謝られるとオレが被害者みたいになるだろ」
    ぽんぽん、と冬弥の頭を軽く叩く。それから少し体を離して、スマホを取り出した。杏に、冬弥が見つかったことを連絡しなければならない。
    「なあ、冬弥。センチネルだって、確かに人並外れたとこはあるけどさ、普通の人間だってこと、忘れんなよ」
    「……え?」
    メッセージを送信しつつ、彰人はそう切り出す。冬弥は首を傾げて聞き返した。
    「あんまり、センチネルだからこうしなきゃいけない、みたいなこと、考えすぎんなってこと」
    「……」
    「お前のその能力は確かにすげえし、それで皆の役にも立ってる。けど、たとえ役に立てなかったとしても、それでお前がだめとか、そんなことはねぇからな」
    「それは……」
    「あー……オレが言いたいのはそうじゃねぇ。その、なんだ、能力なんかなくても、お前はすげえやつだと思うし、そもそも、必ず誰かの役にたち続けないといけないってこともねーだろってことっていうか……クソ、うまくいえねぇな……」
    「……ああ、肝に銘じておこう」
    冬弥は小さく微笑む。その笑顔があまりにも綺麗で、思わず見惚れてしまいそうになるけれど、それよりも早く返信が来た通知音の方が早かった。どうやら、もうこはねも来ているらしい。
    冬弥にとっても、セカイの方が居心地がいいだろう。何せ、想いでできた特殊な空間だ。冬弥がその鋭すぎる五感で感じ取ってしまうような、気持ち悪く感じるものがない。
    「……さて、向こう移動するぞ。歌うにしても休むにしても、お前にとってはその方がいいだろ?」
    「それもそうだな」
    彰人と冬弥は、揃って歩き始める。冬弥の隣を歩く猫は、すっかりリラックスした様子で「みゃあ」と嬉しそうに鳴いた。
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