どうぞ毒まで平らげて「よ、4代目……? そのお怪我は、いったい……」
これが、桐生がその日いちにちで最も多くかけられた言葉だった。
すれ違いざまだったり、書類を届けに来たときだったり、声をかけられるタイミングは様々であったが、強面の男たちは皆一様にか細い声で桐生の様子を伺ってくる。いつもなら、野太い声で叫ばれる「ご苦労様です」がいちばんよく耳にする言葉なのにな、と少し愉快に思う。
「ああ、なんでもないんだ。ちょっとな」
聞かれるたびに桐生はそう答えて、適当にやり過ごす。シャツやジャケットで隠れて見えないだろうと高をくくっていたのだが、失敗だったようだ。なにせ自分で見る機会もないし、鏡でも確認しづらい部分なのだ。それでもガーゼくらいは貼っておくべきだっただろうかと、今朝の自分の行動を反省すると同時に、うなじに手をやってみる。指で触れると、かなりくっきりと歯形がついていることがわかった。
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