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    さいじょう

    いさくろが好きです。

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    さいじょう

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    半ゾンビになってしまったkrnと、元に戻すために頑張るisgの話です。(その②)

    まだ続きますが、ハピエンです。

    #潔黒

    isgと半ゾンビkrnのゆるゆる世紀末②「絶対大丈夫だ、黒名。今度は俺がお前を助けるからな」

    そう言った潔を、黒名は黙ったまま見つめ返す。どうやら、黒名という響きに反応しているようだ。
    潔は体育座りをしている黒名に小声で語りかける。

    「これ痛そうだな……。お前、よく自分で血止めたな。噛まれたら感染するって知ってたのか?」

    黒名の腕を見ると、傷口に巻き付けられた布の血の滲みが少し濃くなっていた。
    あたりを見回した潔は代用品を探すが、書類やファイルばかりで役に立ちそうなものはない。
    テーブルの下から這い出た潔は、机の上の文房具立てからハサミを掴み、ついでに近くのティッシュを数枚抜き取って元の場所に戻る。
    バスタード・ミュンヘンの上着を脱ぎ、その下に着ていた長袖のインナーシャツにハサミを立てた。
    黒名に見守られながら、手首から肘に向けて抵抗なく鋭い刃を進める。
    二の腕まで切り込んだ潔は、グルっと肩まわりを一周させると赤い布が床に落ちた。
    それを二等分に切り分け、ひとつを黒名の腕に持っていく。
    巻かれている布より根本に、出来上がった赤い布を少しきつく巻き付けて、元の汚れた布をほどく。
    現れた傷口は予想よりも浅く、すでに出血は止まっていた。
    考えてみれば、血液感染ならば黒名を噛んだ犯人が口の中に傷を負って出血でもしていなければ感染はしないはずだ。
    黒名はただ出血を止めようとしただけで、結果的に効果のある処置をしただけかもしれないと思い至る。
    冷静な行動を取ってくれてよかったが、襲う側が傷を負うほどの激しい攻防戦を想像して胸が痛む。

    手当てを終え、潔が「よし」とやりきった顔で白い腕を解放すると、黒名はジッと包帯を見ていた。
    そして潔に視線を戻し、なにを思ったか口を開き、数秒間そのまま固まっていたが再び口を閉じてしまった。
    どうしても喋らない黒名に潔は顔を曇らせ、ごめん、と呟いた。様々な感情の混ざった謝罪だった。

    そうして一時間が過ぎ、変わらない黒名に潔は安堵し、ドアの鉄壁を解除して慎重に部屋を出た。
    黒名が後ろから着いてくるのを確認し、モニタールームに向かう。
    リモコンで時間帯をリアルタイムに設定し、他に非感染者が残っていないか入念に目を光らせる。
    だが映っていたのは見る影もない複数名の職員のみで、潔はその姿に苦しげに眉を寄せた。

    治療薬の開発とやらに希望を託すしかないが、早く救ってあげたかった。もちろん、隣で無表情にモニターを眺める黒名も。

    大まかな確認はできたが、寝室や浴室などカメラが入らない場所は目視が必要になる。
    しかし、黒名だけ拾って終わりにするには潔の気が済まない。

    決死の覚悟で息をまき、モニタールームを出た二人は近くの寝室に入った。
    無人のその部屋に目覚まし時計を見つけた潔は、「……いけると思うか?」と手に取り、黒名に尋ねる。
    当然、黒名から返答はない。潔はそれでも構わないと、決意を固めた顔で寝室を出た。

    そして二部屋並びの外開きのドア、という条件を満たす場所を見つけ、アラーム設定した目覚まし時計を部屋の奥に放置した。
    近くの手洗い場に隠れた潔は、黒名とともに息を潜めていた。

    五分後、けたたましい音で鳴り続ける目覚まし時計にあちこちから集まる足音が聞こえた。
    集まった面々は部屋に吸い込まれ、やがてアラーム音がくぐもった音を出す。
    おそらく手に捕まえている者がいるのだろう。

    部屋の前に飛び出した潔は勢いよく扉を閉め、先ほど使ったホウキやドアストッパーで中から出られないように閉じ込めた。

    そしてまた手洗い場に隠れると、他に足音がやって来ないか耳をすませた。
    しばらくそうやって待っていたが、監獄は静まり返っていた。

    音に反応する感染者をひとつの場所に集め、手の届かないように閉じ込める。
    簡単な作戦だったが、怖いほど狙い通りに事が運んで潔が胸を下ろす。

    もうひとつの部屋は使わないで済みそうだ。そう思いながら、感染者を閉じ込めた隣の部屋に潔が入り、無造作に置かれていた水と食料をリュックに入れていく。

    食堂に侵入して手に入れた食料と、寝室で見つけた誰とも分からないリュックを使って脱出の準備をする。
    隣の部屋にも食べ物は大量に用意しており、腹を鳴らした黒名を思い出して潔が施した配慮だった。

    感染者のいなくなった監獄内を歩き回り、小声で呼びかけながら残り全ての部屋を確認したが、人の気配はなかった。
    ガッカリしたような安心したような気持ちで、潔は黒名に「行くか」と声をかけた。
    おとなしく潔の後ろを着いてくる黒名は大変協力的で助かった。





    施設から出ると、入り口はもぬけの殻でがらんとしていた。
    あれから数時間経っているので、当然バスも一台も残っていない。
    潔はため息をつきながら、山道を下りるべくリュックの紐を握りながら足を踏み出した。

    歩きながら、考える。
    他の皆はどうなっただろうか。大人と一緒だから、きっと大丈夫だろう。ふと、後ろを振り向く。

    身体の状態が分からない黒名には、負担をかけないように手ぶらにさせて荷物は全て潔が運んでいる。
    それでも、病人のようにゆっくりと動く黒名は身軽とは程遠かった。
    普段の俊敏さとの差に歯がゆい気持ちになり、潔は正面を向いた。

    完全に染まってないとはいえ、感染者である黒名が集団の中にいるのはリスクだ。
    確認されていない感染経路の可能性もあり、そして黒名がこのまま人を襲わないという保証もできない。

    全員の安全のためにも、皆のところに黒名は連れていけない。
    山を下りながら、潔は途方に暮れていた。そして、実家の両親も気掛かりだった。

    なるべく電力を節約するべきだろうが、困り果てた潔は小さくラジオを付けた。
    なにか少しでも役に立ち、そして進む先の判断材料になるような情報が必要だった。

    ラジオでは都内の感染拡大がいかに急速であるかを語っており、交通機関は壊滅状態で、街が封鎖される可能性を示唆していた。
    人の多い場所ではそれだけ感染リスクが高く、できるだけ地方に留まるのが利口であるのは潔にも分かる。
    極端な話、こうやって山奥に籠っているのが一番安全かもしれない。
    だが潔にとって、両親の安全は最優先だった。
    黒名を連れている以上、面と向かっては会えないが、自宅を一目見て両親の無事を確認したかった。

    自分勝手だと分かっていたが、黒名の両親は遠く離れた地域にいて会うのは不可能だ。
    申し訳なく思いながら、潔は行き先を埼玉の実家に決めた。
    ここがどこかも分からないが、行き来していたバスの距離から予想するに都内か、その付近であるはずだ。

    街が見えたら地図を探して、自宅を目指そう。潔がそう決意した頃にはすっかり暗くなっており、ライトを取り出すために手に持ったラジオを黒名に「持ってて」と手渡す。黒名は条件反射のように目の前に差し出された物を持ち、その間に潔がリュックからタブレットを取り出し、「ありがと」と黒名からラジオを受け取ってリュックにしまった。寝室から持ち出したタブレットはネットに繋がらなかったが、メインの機能が不能でも夜道を歩くには大活躍だった。

    パッと道を照らし、いざ進もうとした瞬間、隣から音が聞こえた。「あ……」とか「う……」など控えめなそれは確実に黒名の声で、潔は目を見開いて立ち止まった。恐る恐る、横を向くと黒名が開口して何かを伝えようとしていた。

    「……あ、……あり、がと………」

    そう言って、自分の腕を力なく掴む。それは潔が包帯替わりの布を巻き直した腕だった。

    「お前喋れたのか」や、「さっき言いかけたのはこれか」と口に出したいことは山のようにあった。黒名の思考は完全に止まっているわけではないが、こうやって言葉が出てこない場合にフリーズしてしまうと潔は仮定した。包帯を巻いた際に礼を言おうとしたが言葉に詰まり、潔がその答えとなる単語を言ったのでようやく思い出したのだ。ならば、と潔が意気揚々と口を開く。

    「黒名、黒名!」

    名前を呼ばれて、黒名が潔を見る。やはり簡単な言葉は理解している。こうやって自己認識があるのがそうだ。潔は自分を指さして、「いさぎ」と丁寧に伝えた。学ぶようにゆっくと瞬きをする黒名に、もう一度試す。黒名を指さし「くろな」、自分を指さし「いさぎ」と伝える。

    「い、……さ、ぎ……」

    青い目に向かってまっすぐとそう言った黒名の手を、勢いに任せて潔が握る。そうだ、あってる、偉いぞ、と黒名を褒め称えたい気分だったが、余計なことを言うとせっかくの学習がムダになるかも、と口には出さなかった。久しぶりに黒名に名を呼ばれて顔をほころばせた潔を、黒名は不思議そうに見つめた。





    歩き始めて三時間が経過した。まだいつもの就寝時間までは早いが、黒名の動きが鈍くなっているのを感じる。
    重そうな身体を動かす黒名に疲労は見えないが、歩くスピードが落ちて目つきがとろんと半開きになっている。

    「眠いか?」

    黒名にそう問いかけて、潔は両手を頬に沿えておやすみのポーズをする。懇親のジェスチャーは黒名に伝わらなかったようで、潔を一瞥すると再び歩き始めた。この道を下らなければいけないことは理解しているようだ。しばらくして目を擦った黒名に、リュックを前に構え直した潔が声をかける。

    「ほら、乗れよ」

    おぶされ、と黒名の前に膝をついて空いた背中を差し出す。
    夜が明けるまでに山を抜けたかったので、多少の労力はいとわない。黒名への恩に比べればなんてことはないが、できることは全てしてあげたかった。
    首を斜めにかしげている黒名に、手をちょいちょい、と招くように動かす。

    正解の行動が分からないようで立ち尽くしているので、仕方なく潔は黒名の目の前に向き合い、前習えの構えをする。
    それを真似して両手を前に出した黒名にくるっと背を向けて腕を掴み、引っ張りあげるように無理やり背中に乗せる。

    黒名は驚いたように身を動かしたが、潔は手早く太ももを己の腰に固定し、ガッシリと掴んだ。
    二、三歩と歩き始めると黒名は諦めたように、潔の肩にそっと手を置いた。

    しばらくそうしていると、東屋を見つけて潔はふらふらと近寄った。
    まだ夜は長かったが、休憩を取らなければ体力が尽きてしまいそうだった。
    簡素だが、屋根があって座る場所がある造りに感謝しながら、黒名をそっと木のベンチに寝かせるように下ろす。
    揺れで少し目を開いた黒名はまだ覚醒していないようで、「あ、……ありがと、……ありがと…」と消え入るように呟いて、また目を閉じた。

    「どういたしまして」

    礼儀正しく、挨拶を大事にしていた黒名を思い返す。そして普段と何も変わらないように二度寝する姿に苦笑して、潔も欠伸をする。
    静かにしていれば大丈夫だろうか、と呑気すぎる結論を無理に出すほどには疲労と眠気が限界で、潔はゆらゆらと船を漕いでいた。

    「おやすみ、黒名」

    少し仮眠を取ろうとベンチに横たわる黒名の隣に座り、目を閉じる。学習能力の高い黒名がいつか返事をしてくれることを期待しながら、潔は眠りに落ちた。


    (続く)
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