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    さいじょう

    いさくろが好きです。

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    さいじょう

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    半ゾンビになってしまったkrnと、元に戻すために頑張るisgのお話です。(その③)iskrです。

    ⚠️krnが半ゾンビ化してます。欠陥等はなしですが、自我が弱めです。⚠️ゾンビがテーマですが、グロ描写は極力カットしてます。目指せ、ゆるゾンビ。

    #潔黒

    isgと半ゾンビkrnのゆるゆる世紀末③




    目を覚ました頃には、黒名は起きていた。

    にぶい光が瞼に刺さり、潔は目を開ける前に早朝が来たことを悟った。森の中の澄んだ空気を吸いながら、ゆっくりと起き上がる。

    黒名は遠くに見える、雲海の向こうに連なる山々に目を向けていた。その視線の先に、光を吸い込んだ雲に包まれた太陽が昇りかけており、まるで天国が近くにあるような神々しさがあった。

    自然が見せる美しい早朝に、潔は息をのむ。そして、その景色を眺める黒名に顔を向けた。
    淡いオレンジ色に照らされた黒名の頬はとても血色が良く見える。まるで何事もなかったように、静かに佇んでいる横顔に思わず潔は声をかけた。

    「………黒名」

    その響きに、黒名が日の出から目を外して潔を見る。
    光を見ていた細い瞳孔は、顔に影が入ると丸みを帯びて大きく散瞳した。血の通った生き物そのものを感じる動きだったが、黒名はなにも言わない。
    しかし潔が気に病むことはなかった。寝起きの悪い黒名の方から挨拶をすることは滅多になかったのだ。

    「おはよう、黒名」

    そう言って微笑んだ潔を、黒名はじっと見てから口を開く。

    「………………おは、よ……」

    喉が詰まったのか、低い声を出し直した黒名を潔が笑う。
    やはり挨拶は黒名にとって身に染みたものなのだろう。潔が声をかけ、黒名がそれに応える。
    場所と状況は変わったが、いつも通りの朝の風景だった。

    人間らしく咳払いをした黒名に、潔がリュックから水の入ったペットボトルを取り出す。

    「み、ず」

    プラスチックを指しながら、潔が教示する。黒名は「み、……ず」と繰り返した。
    コクンと頷いて、潔がフタを開けたペットボトルを渡す。

    両手でそれを受け取った黒名は、常温の水を少量ずつ口に含んだ。喉を鳴らしては口を開く様子を、潔がぼーっと遠慮なく眺める。ペットボトルのフタを手のひらで転がしながら、あの大きな歯に対してずいぶん小さい口だな、と取り留めもないことを考えていた。

    「よし、行くか」

    立ち上がった潔は黒名に声をかけながら、自身も鼓舞するような振る舞いをした。

    街中がどうなっているのか、見当もつかなかった。
    山を下りながらラジオをつけてみたが、放送を休止しているのか砂嵐のような音が流れただけだった。
    目下に道路が見えて、潔が唾をのむ。
    深呼吸をして、黒名と共に人の道に降り立つ。周辺には誰もおらず、鳥のさえずりが嫌に響く朝だった。

    潔は記憶をたぐり寄せ、監獄へ向かうバスが走っていた景色を思い出した。確か、向かって右側に山があったはずだ。
    そう思い至り、おぼろげながら左に歩き始める。

    しばらく道に沿って歩いていると、古びた自動販売機を見つけて潔が駆け寄った。返却口に視線を落とすと、都内の外れに該当する住所の記載があった。
    おおよその感覚だが、やはりここは実家とそう遠くない。
    しかし、家にたどり着くにはまだ方角すら定かではなかった。

    「えーっと……。太陽はあそこから出たから東、てことは北はあっち……。いや、無理だって」

    前に、同じチームだった千切豹馬に評された潔の空間認識能力も、情報がないのでは役に立たない。
    仕方なく、蜘蛛の糸のような記憶の手がかりで街を目指した。







    「あっ、コンビニだ。……うーん……地図ってあるかな……」

    この辺りは登山として人気なのか、シャッターは下りているが、観光客向けらしき店がポツポツと並んでいた。
    その中でそびえ立つ細長い看板に、見慣れたロゴを発見した潔がぽつりと呟いた。

    とりあえず店に近付き、自動ドアの前に立ってみる。予想に反して、ドアは簡単に開いた。
    雑誌コーナーに進み、先ほど自動販売機に記されていた地名が大きな文字で書かれている冊子が目についた。

    都外からやって来た客用に用意されたであろう観光誌は、丁寧にマップと共に隣接県の経路、そして各地で食べられるおすすめグルメが掲載されていた。

    「っしゃ」と声に出し、内心でガッツポーズをした潔は入り口に向かい、きょろりと目を動かして壁に書かれている住所を見つけた。
    手元の雑誌と見比べながら、現在地である都内の外れから目的地までの距離を計算する。
    大人の足で約四日、黒名を連れて歩くなら一週間はかかる。

    途方もない時間に感じるが、潔はとっくに腹を決めていた。

    「行くか、黒名。ちょっとしたプチ旅だ」

    そう声をかけ、店内から食料と水、その他諸々を拝借して鞄を膨らませた潔たちは駅へ向かった。





    小さな駅は静まり返っており、電車どころか人もいない。
    予想通りの光景を見回してから、潔は線路へ下りた。

    突っ立ってその動きを見ていた黒名を「来いよ」と手招きする。僅かに眉をしかめる表情の黒名は今しがたの行動を咎めているようで、潔は頭を掻く。

    「こっちのが迷わないし、近道だろ」

    荷物を下ろした潔は線路から、黒名の立つホームを見上げながらトントンと黄色い線の外側を叩く。
    ぎこちなくホームの端っこに座った黒名を、潔が持ち上げるように脇に手を伸ばす。グッと足元に力を入れ、抱きかかえるように黒名を線路に下ろした。

    この状態の黒名に常識を問われるとは、と荷物を背負いながら一人で笑う潔をじっと見つめる瞳はまだ何か言いたげだ。

    いつもなら、「マナー違反、マナー違反」とでも言っていただろうか。存外、いい育ちなのかもしれない。
    潔がごまかすように、今日の昼食は黒名の好物だと告げると黒名はピクッと反応した。先ほどコンビニで見つけたツイストパンは、持ってきて正解だったようだ。




    線路を歩きながら休憩を挟み、ときどき駅に着いては距離の長さに辟易する。黒名は従順に潔のとなりを歩き、文句ひとつ漏らさない。

    文句があるかも分からないが、黒名が「いさ、ぎ……。みず……」と言うたびに潔はじんわりと満たされるものがあった。

    そうやって日が暮れるまで歩き続け、暗くなるころには足が棒のように疲労していた。慣れない砂利道は足場が悪く、普段のトレーニングとはまた違った負荷がかかる。全身の動きが硬い黒名も、心なしか疲れているように見えた。

    線路から外れた二人は程よい芝生を見つけて、潔が身に着けていたコートを地面に敷き、黒名がノロノロとそれに倣う。

    リュックに詰め込まれていたブランケットを取り出した潔は、コートを敷き終えて横になった黒名にふわりと被せた。ふらふらと隣に敷いた自分のコートに倒れた潔は、疲れを吐き出すように「はぁ~」とため息をついた。

    これがあと数日続くと思うと気が重かった。
    監獄にいた頃とは異なる重荷を感じながら寝返りを打って大の字になった潔は、目に飛び込んだ景色に息が止まった。

    寝っ転がって見上げた空には、一面に星が輝いていた。
    しばらくその輝きに目を奪われて、先ほどとは全く意味の違う感嘆の息を吐く。
    頭を動かして、空全体を瞳に収めようとするが星はどこまでもぎっしりと詰まっている。
    円形を描くように瞬く夜空を見て潔は初めて、地球の天井は丸いのだと理解した。

    都会では味わえない壮観な闇にしばらく見とれていた潔が、ふと横を見る。
    隣にいる黒名は、口を結んだまま潔と同じく静かに空を眺めていた。

    今朝の日の出を見ていた時も感じたが、美しいものを美しいと思う感性が残っていることに潔は深く感謝した。
    黒名は、この景色をなんとも思わないような人ではないのだ。実際には黒名が何に興味を示しているかは断言できないが、きっと普段の黒名もこれを気に入るだろうと、根拠のない自信があった。

    それにしても、と再び視線を空に戻した潔は内心で苦笑した。

    試合中に、潔の周囲をサポートすべく走り回る黒名を思い出す。その軌道を惑星のようだと称したことがある。
    基盤上の布陣を脳内で整理しやすいように、潔はそうやってイメージで固めるのが好きだったのだ。

    しかし、こうして煌めいている星々を見ると、ずいぶんとロマンチックな例えをしていたのだと分かる。
    それに黒名が惑星というのならば、潔はパラメーターとなる恒星だ。
    遠くにある、特に強く光を放つ二つの大きな星を見て、潔はこの話を誰にも話さないでおこうと心に誓った。
    もちろん、隣にいる本人にも。

    「……ッくしゅっ」

    山と違って風の多い更地に、潔は身体の体温が下がっていくのを感じる。顔に当たる冷風が徐々に熱を奪っていく。どれだけ自然が美しくても、厳しい部分も当然ある。

    小さなくしゃみをする潔に、黒名がゆっくりと布をめくった。今度は潔が首をかしげる番だった。

    「……ん?入れってことか?」

    懐を見せたまま微動だにしない黒名に、潔が思わず問いかける。どうせ答えは返ってこないのだ。潔はおそるおそる黒名に近付いた。「お、お邪魔します」と謎の掛け声をして、黒名のブランケットに入り込む。

    パサッと潔にも布がかかるように手を離した黒名は、いったいどこまで物事を理解しているのか。

    当初の想定よりかなり理性を見せる黒名に、潔は少しばかり緊張する。黒名の体温、匂いすら分かるような距離は本人的には構わないのだろうか。

    そんなことを考えていると、黒名がモゾモゾと頭を動かした。
    怪我をしていない方の腕を枕替わりにしているが、しきりに摩っているのが気がかりだ。潔がその腕に触れると、枕にしていた黒名の腕がひどく冷たい。
    この状態になってから体温は元々低いが、重い頭を支えたことによってさらに血の巡りが悪くなったのだろう。

    枕の代打案として真っ先に思いついたのはリュックだったが、パンパンに膨らんだ荷物を取り出す気力は残っていなかった。

    潔は「ほら、使えよ」と黒名に腕を伸ばした。黒名はすぐにその意図を察し、遠慮なくゆらりと潔の腕に頭を乗せた。

    布越しにも分かる、氷で冷やしたような黒名の人肌を感じて、潔が身震いする。だが黒名は物ではなく人間であり、全体を温めれば解決する。

    潔は空いている方の腕で自分のコートをたぐり寄せ、黒名に被せた。そして冷たくなった黒名の腕に触れて、温めるように手のひらで擦る。しばらくそうしていると、黒名の腕は潔の体温が移ったように多少熱を取り戻した。

    一仕事終えた気分で潔が手を離すと、黒名がその手首を掴んだ。驚いて目を丸くした潔をよそに、黒名は自分の首元にその手を運んだ。
    潔が温かい手で黒名の細い首にやんわりと触れると、黒名は目を細め、それから満足そうに瞳を閉じた。

    猫のような要求の仕方に潔は「ふっ」と笑い、寝る前の挨拶をした。黒名はその言葉を聞く前に、眠りに落ちていた。


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