全ては夢の中春の温かな陽気を感じ、朝起きると、そこは暖かいベッドの上。しかし、知らない天井と知らない壁に囲まれた非日常的な空間で。体を埋める布団の中には俺以外の物体が確かにあった。
何気なく動かした足がその物体に触れると、物体はかすかに動き生きていることを証明する。物体こそ、俺と一緒の布団に寝ていた人物。顔を覗くと、見覚えのある顔が気持ちよさそうに寝息を立てていた。
黒名だ。
どういうことだろうか。記憶はないが俺は全裸で黒名と一緒の布団で寝ていた。言うまでもなく、黒名も全裸であり、困ったことになったらしい。そう、すぐに察せた。
程なくして、黒名が目をこすりながら体を起こす。すぐに黒名を問いただし、どう言うことか聞くと黒名は流暢に、悪気はなく、そしてにこやかに話し出した。
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「『愛してる』なんて呪いを俺にかけたのは、誰でもない、潔。お前だ。責任はとってもらうぞ。つまり…俺と潔は一生一緒だ。あはは、言うだけで頬が熱くなっちゃうな…なんだ?そんなの身に覚えのない顔は。
うわっ?!飛びついて、揺すって。どうした、どうした?…まさか、本当に覚えてないのか?ハハっ、潔は冗談が上手いな。あんなに盛り上がった熱い夜は、初めてだったぞ。まったく、俺も初めて男に抱かれたのは初めてだったが。あんなに愛を囁き合って、口づけもして、体を重ねたのに。
本当に覚えてないのか?あぁ、そんなふうに赤面しなくても…事実なのは確かだろう?
男としてのプライドを捨てた俺の方が、最初は恥ずかしいかったぞ。でも、あんな風に求めてくる潔にだったら良いかなって。泣かないでくれよ、俺たちは体を重ねた者同士…分かりやすく言うと、セックスをした同士なんだ。恋人と、そう変わりない関係なんだ。
恋人なら、責任持って俺と一緒に居てくれよ。
覚えてなくても大丈夫。また俺を抱いてくれ。きっと思い出すから。種付けしてくれよ、次はきっと子供ができるぞ。ははっ、泣くほど嬉しいか?潔。ふふっ、俺たちの子だ。サッカー好きの可愛い子に違いない。3人でサッカーをしながら、のんびり海辺で暮らそうよ。…考えるだけで、口角が上がる…な、潔。
…だから泣くなよ。嬉しくてもここは泣くところじゃないだろ?まるで俺がお前をイジメて、脅してるみたいじゃないか。
泣かないでくれよ、泣かないで、泣くのをやめて、泣くなよ、泣———」
———バチンッ
「おい、泣くな。
世界一のストライカー、潔世一なんだろ?『世界一のストライカー』は、『世界一のエゴイスト』なんだろ?
元チームメイトとして、『世界一のストライカー』の玉座はお前にやるから。だから、伴ってついてくる『世界一のエゴイスト』としてその面は、恥ずかしくないのか?惨めでみてられないぞ、潔。
この様、おい、泣くなよ潔、潔。
ぶって悪かったから。泣くなよ、ほら俺と一緒に寝よ?大丈夫。
この先、俺は犯罪者なんて生ぬるいものにはならないよ。
もっと怖いものになって、潔を幸せにするから。」
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黒名の話を聞いてるうちに、顔面蒼白になったのは誰でもない俺だった。少なからず、俺が黒名を抱いたと言う事実がここに、このベッドで二人して全裸と言う事実にあるわけで。もしこれが、黒名の自作自演だとしたら、相当怖い。
事実に対する犯罪者のような言い訳を、内心に溢れさせる。そんなことをしている場合じゃない。黒名につかまれた腕が、ミシミシと締まっている。黒名の細い腕からとは思えないほどの、力。
締まり、うき上がる血管と変わりゆく手の色に、一刻も早い決断を強いられる。黒名は、もう俺の知る黒名じゃない。貪欲、強欲、邪悪をそろえた、独占欲、自己中の化け物だ。逃げたいと思っても、この俺の腕を掴む手からは乗れそうもない。
下手をして逃げようとしているのがバレると、次は腕を折られる。
この状況と課せられたタイムリミットで、俺は首を縦に振ることしか出来なかった。
黒名を抱いてわかったとこ。俺は黒名を抱いたことは———