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    かとうあんこ

    赤安だいすき

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    かとうあんこ

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    なんでも祓える赤井と、そんな彼と紆余曲折あって結ばれた降谷が人形に纏わる都市伝説に遭遇する話です。全然怖くないですが一応出ます👻

    #赤安

    『セッ…しないと祓えない人形』赤井秀一はマイペースな男である。
    他者を蔑ろにするというわけではないのだが、同棲している恋人の降谷が素肌の上から彼のシャツを羽織り、いわゆる彼シャツ姿で「赤井」と声を掛けても読書がいいところだった赤井は「待て」と言って降谷を二時間放置した。
    赤井が降谷に魅力を感じないのではと思われるかもしれないが、そういうことは全くなく、放置されて身も心も冷たくなった降谷は本を読み終えた赤井から「もういいっ」と叫ぶぐらい熱く熱く愛された。
    本人いわく「君から誘われた時点でスイッチは入っていたが本の続きが気になって君とのセックスを百パーセント楽しめないのは嫌だった」らしい。
    そんなわけで降谷は赤井の読書中は声を掛けないようにしていた。
    しかし、今はそういうわけにはいかない。
    ずっと電話が鳴り止まないのだ。
    降谷がソファで本を読んでいる赤井の前に仁王立ちしている今も。
    「いい加減に電話に出てください!ハロが気になって落ち着かないでしょう!」
    主語のハロというのは降谷と赤井の愛犬だ。でも実際に落ち着かないのは降谷のほうで、ハロは電話が鳴り止まないというのに本を読んでいる赤井の膝でうとうとしてる。
    一度だけ、降谷の声に愛らしい耳をぴくんと跳ねさせたが、瞼を開けることはなかった。ハロの心中を察するに、まあこの二人の喧嘩は慣れてますからといったところだろうか。
    そんなわけで、ひとり腹を立てているのも降谷は面白くないのだった。
    降谷が帰宅したとき、赤井はすでに帰宅していて、鍋焼きうどんの具を用意してくれていた。えびの天ぷらにかまぼこ、温泉卵にほうれん草の茹でたやつ。赤井が切る以外の調理をしたのはほうれん草だけだが、昔の赤井はまったく料理をしなかったことを考えると大進歩だ。
    手洗いうがいをした降谷がそこから先を引き継ぎ、つゆを作り二つの土鍋に麺と具を盛り付けた。
    本格的に交際を始めてまだ数ヶ月。こうして赤井と家事を分担できている事実がまだ新鮮に嬉しかった。何といっても出来上がった鍋焼きうどんの湯気の向こうに赤井がいる。一度は諦めて、でも諦めきれなかった相手と一緒に夕食をとれているなんて、奇跡としか思えなかった。
    そんな降谷のセンチメンタルにスマホのバイブ音が割って入ったのは二十二時を過ぎた頃だった。
    最初赤井は、スマホを手に取りディスプレイを見た。相手を確認したのだろう。スマホを下向きにしてテーブルに戻した。
    それから一時間、スマホはずっと震え続けている。
    「気にしないでいい」
    「気にしないでいられるわけないだろ!……まさかお前」
    「ん?」
    「僕に聞かれてまずい相手なのか?」
    降谷がそう言うと赤井はようやく本から顔を上げた。スマホに手を伸ばしかけたが、降谷のほうが早かった。まるでいろはカルタのようにスマホの上に素早く手を置く。
    「そうなんだな?」
    「君の考えてるような相手じゃない」
    「じゃあ、誰からの電話なのか教えてください」
    「……」
    赤井の沈黙に降谷はゆっくりとスマホを裏返す。その間に赤井が「わかった」と言って事情を話してくれたら降谷は手を止めるつもりだったが、赤井は口をへの字に曲げているだけだった。
    赤井のスマホに表示されていたのはどう見ても女性の名前だった。被害者のプライバシーを保護するために、ここでは仮にモブさんと呼ぶことにする。
    降谷が電話の相手を「被害者」と決めてかかっているのは、彼自身もある意味で被害者だと思っているからだった。
    赤井はモテる。とにかくモテる。高校生の頃は近くの女子校の生徒からラブレターを貰っていたし、組織に潜入していた時だって人妻からサイコパスまでライに熱を上げる女性は何人もいた。
    モテる理由は、彼の外見的魅力は言うまでもないが、内面的な魅力となると降谷はうまく言葉にできない。
    最初の印象は最悪だったにもかかわらず、彼を知るにつれてその印象はひっくり返されて、降谷は赤井にずっと囚われ続けている。
    恋が呪いだとしたら赤井は凄腕の呪術師だ。手に負えないのは本人にその気がなくても呪いを振り撒いているところで、きっと赤井に鬼電をかけているモブさんも呪いに掛けられたひとりなのだろう。
    「君は『人形からの電話』という都市伝説をしっているか?」
    「はぁ?なんで今、都市伝説!?誤魔化すならもうちょっとマシな……」
    そう言いながら、降谷は子どもの頃に聞いた怖い話を思い出していた。
    何パターンかあった気がするが、そのうちの一つは女の子が人形を拾うところから始まった。ゴミ捨て場から人形を拾ってきた女の子に彼女の母親は「戻してきなさい」と怒る。ゴミは所有者が所有権を放棄しているとみなされる場合もあるが、自治体によっては持ち去りを禁止している。衛生的にも気になるところがあるので母親の訴えは最もだと幼心に思ったものだ。
    女の子はその人形をとても気に入っていたが、母親の言う通り人形を元の場所に戻す。
    異変が起きたのはその後、女の子がひとりで留守番していた時のことだった。家の電話が鳴り、母親からの電話かと思った女の子が受話器を取ると、電話の向こうから自分くらいの女の子の声が聞こえた。
    『もしもし、私、〇〇ちゃん、今、ゴミ捨て場にいるの』
    女の子は思わず受話器を戻す。その名前は彼女があの人形に付けた名前だったのだ。
    それからも女の子が家にひとりでいるタイミングで電話が鳴り、女の子が恐る恐る出ると人形が同じ内容を話す。しかし人形のいる場所は徐々に女の子の家に近づいてきて……
    『もしもし、私、〇〇ちゃん、今、あなたの後ろにいるの』
    というのが『人形からの電話』という都市伝説の顛末だ。
    まさか赤井は、この電話が自分のところに掛かってきたと言いたいのだろうか。
    いやいや、騙されないぞ、と降谷は思う。
    赤井と知り合ってから数々の怪奇現象に出会してきたから人形が喋ったって別に驚かない。いや、びっくりはするが、そういうこともあるだろうとわかる。
    しかし、赤井が祓えなかった怪異はひとつとしてない。
    こうして電話を鳴らし続け、最愛の降谷を怒らせるような幽霊を赤井が放置するとは思えなかった。
    「浮気を誤魔化すのに幽霊を利用するなんて……見損なったぞ、赤井秀一!」
    「ホォ……では聞くが、俺が浮気していたとして、その相手の電話番号を登録すると思うか?君にいつ見られるかもしれないというのに」
    「それは……」
    降谷も赤井も記憶力がいい。電話番号を覚えることなど造作もない。
    赤井が浮気相手の電話番号を登録するわけないと思いながらも降谷の胸には別の不安が湧き上がった。
    「そうですね……あなたの頭には美女の電話番号がたくさん登録されてるんでしょうね……」
    「おいおい、どうしてそうなる」
    赤井は降谷を引き寄せると自分の膝の上に座らせた。
    「愛してるよ。世界中の誰よりも……証明して見せようか?」
    「押し付けるな!下半身で愛を証明するのはジゴロのすることですよ。身の潔白を訴えたいなら、その電話をさっさとどうにかしてください!」
    「そのうち向こうが飽きるさ」
    「電話に出て『膝の上に世界一かっこいい恋人を乗せてる。二度と掛けてくるな』って言った方が早いだろ……」
    「それは真実だし君がそうして欲しいなら電話の向こうの相手にそれを教えてやってもいいが……いいのか?」
    「え?」
    「来るぞ」
    「えっ……もしかして本気で?」
    「あぁ」
    赤井が心霊探偵としての仕事を終えて家路についていた時だった。どこからか強い視線を感じた。幼い頃から幽霊が見えていた赤井にとって人ならざるものからの視線は珍しくなかったが、なぜか気になり横にあったゴミ捨て場に目を向けた。そこには捨てられた人形があった。
    「どうやら持ち主が死んで処分されたらしい。持ち主の無念が残っていたのだろう。通り掛かりの人間を恨めしげに見ていた」
    「……その人形があなたに電話を掛けてきていると?」
    「あぁ。気に入られたようでな」
    「それならさっさと祓えばいいのでは?」
    赤井は優しい男だがこの世にとどまる霊、とりわけ害をなすものには容赦ない。このままでは仕事の電話だって受け取れないだろうに、放置している理由が何かあるのだろうか。
    「物に憑いた霊を祓うのは色々と面倒なんだ」
    「そうなんですか……?」
    「ああ。初めて君の前で霊を祓ったときのことは覚えてるか?」
    「ええ……」
    当時、降谷は男の霊に下着を盗まれ続けていた。それを解決してくれたのが同じ男子校の先輩である赤井だった。
    赤井は降谷を眠らせ、その上に覆い被さりキスをすることで除霊した。
    「あれは君を眠らせて意識レベルを下げ、その間に俺が霊と君の間に割り込んで距離を作り、霊が一番嫌がるであろう光景を見せることで自ら成仏するようにし向けたんだ。そうじゃなければ、君の人格に影響を及ぼす危険があったんだ」
    降谷はこの話を聞くまで、赤井は除霊するところを知り合ったばかりの降谷に見られたくなくて自分を眠らせたのだとばかり思っていた。
    しかしそう言われてみると確かに赤井にしてはまどろっこしい真似をしている。本来の赤井は手を翳すだけで大抵の霊を祓うことができる。降谷の後ろに何かいるだけなら降谷の背後から手を翳すだけで良かったはずだった。
    「モノに憑いてる場合もそうなんですか?モノには人格はないと思いますけど……」
    「人間よりはずっとリスクは少ないが、下手をすると憑いていたときより暴走する場合がある」
    「今よりも……」
    それは困る。しかし、こうして女の名前で赤井に電話が掛かってくるのは嫌だ。物凄く嫌だ。こんな嫉妬心が自分の中にあるなんてできれば知りたくなかったと思うぐらいに。
    「……つまり、人形が嫌がることをすれば祓えるんですよね?」
    「それがわかればな。しかし、相手が女であることと、名前しかわからない以上、それを調べる術はない」
    「いや、わかりますよ」
    降谷は赤井の電話を手に取ると赤井の目の前に突き出した。
    「どうしろというんだ?」
    「とりあえず、一度出てください。都市伝説の通りなら一度ではここまで辿り着けないでしょうから」
    「……なるほど、俺はまだ疑われてるわけか」
    赤井は肩を竦めたが、降谷の言う通り通話ボタンをタップした。
    「わたし、モブ。今ゴミ捨て場にいるの」
    スピーカーから聞こえたのはまだ若い女性の声だった。台詞は都市伝説の通りだ。
    「これで信じて貰えたかな?」
    「まあ……」
    「それで、この後はどうしたらいい?」
    赤井にそう尋ねられるのは不思議な気分だった。こういうことは赤井の専門分野だし、同じ警察官として働いていたときも、赤井は降谷に「どうしたらいい?」なんて聞いてこなかった。むしろ勝手に敵と対峙して降谷に心配させるぐらいだった。
    降谷は赤井に愛されてることを実感する。股間を押し付けられるよりずっとロマンチックな気分だ。
    「もう一度電話に出て、僕の好きなところを、そうですね、十個ぐらいかな、電話の向こうにいる彼女に教えてあげてください」
    赤井に惚れてるのならばかなり堪えるはずだ。
    降谷の案を聞いた赤井がニヤリと笑い、降谷の頬がカッと熱くなる。
    「そんなに言えない?」
    「まさか。百でも軽いよ」
    そう言って赤井は再びスマホをタップした。
    「わたし、モブ。今、パン屋さんの前にいるの」
    彼女がこの部屋に向かって移動しているとしたら、近所の小学校の前にあるパン屋だろう。この時間に子どもたちがいるわけはないが、訳あって残業していた教師やパン屋の二階に住んでいるオーナー夫妻が彼女の移動を目撃してないといいと降谷は思った。
    「やあ、モブ。俺には世界より大切な恋人がいる。彼がどんなに素晴らしいかわかれば君はこの無駄な電話を掛けてこなくなるだろう。まず、彼の外見から」
    赤井はスマホを持っている降谷に手を伸ばす。
    「彼はとても美しい髪を持っている。例えるなら蜂蜜が一番近いな。それもその年に収穫されたフレッシュな蜂蜜の色だ。瞳は初夏の海の色だ。まだ海水浴客に荒らされる前の、大きくなり始めた太陽の日差しを受けて輝いている……」
    自分で言い出したことながら降谷はスマホを落としそうになっていた。よくもまあ、そんな歯が浮きそうな賛美がスラスラと思い付くものだ。褐色の肌は手首まで赤くなっている。
    赤井は、降谷の様子を楽しむようにひとつひとつ丁寧にポエミーに、降谷の愛してやまないところを述べ続ける。
    どうやら効果はあったようで、赤井のスマホから「ー」とか「ゔぅ」とかうめき声が聞こえる。さっきまでは幼女のような声だったのに今は病で床に就いている老女のようだ。
    降谷の背中に冷たいものが走る。熱ったり冷えたりと体温が変化するせいか、それともスマホから漂う気味の悪い気配のせいか、降谷は軽い目眩を覚えた。
    さっさと十個言ってしまえ、と口パクで伝えると、赤井はもう降参かといわんばかりの表情でこう言った。
    「こんなに美しい彼だがベッドの上だと結構激しくてな。そこも最高だ」
    「赤井、貴様っ……!」
    相手が幽霊でも言っていいことといけないことがある。どうやら赤井はそれがわからないらしいからわからせてやろうと降谷は立ち上がった。
    「何ぞ……見だ」
    「え?」
    「ん?」
    その一言を最後に電話は切れ、再び鳴ることはなかった。不穏な台詞ではあるが、やっと静かな夜が戻ってきたのだ。時計を見ればもう零時近い。降谷と赤井はベッドに入った。
    「続きを話そうか?」
    「いいですっ!」
    「ホォ……君のほうは言うべきことがあるんじゃないか?」
    「……疑ってごめん」
    「許すよ。嫉妬する君は新鮮で可愛かったからな」
    「何を言って……」
    どちらからともなく顔を寄せ合い、枕と枕の間でキスをした。出会ったばかりの頃は赤井から求められる時にキスをしていたが、最近は降谷から求めることも多くなった。
    赤井の手が降谷のスウェットの隙間から忍び込む。少し嫌がる素ぶりをしてみてはいるが、降谷とてもうその気分は出来上がっていた。
    「赤井……」
    「ん?」
    降谷の乳首の横で赤井が返事する。濡れた先端に鼻息がかかり、上擦った声が出た。
    「僕って……淫乱ですか?」
    「……そうだな」
    「えっ!?」
    赤井の経験人数を正確に把握しているわけではないが、降谷はその誰かたちと比べて性欲が強いということになる。セックスを教えたのは赤井なんだから赤井が悪いと言いたいところだが、元々才能があったのではという疑念も浮かぶ。元来降谷は何をしても優秀で出来ないことのほうが少なかった。まさか天から授かったギフトがセックスにおいても開花するとは、神様だって予想していなかったに違いない。
    「だから俺以外とセックスしてはいけないよ」
    赤井はそう言うと反対側の乳首へと唇を移動させた。
    「……赤井って」
    「ん?」
    「案外、嫉妬深いんですね?」
    「はは……知らなかったのか?」
    赤井は降谷を見上げ、形のいい歯を剥き出しにして笑う。その間にある降谷の乳首に甘い痛みが走る。
    「あっ、それ好き……」
    降谷のスマホが震えたのはその時だった。
    急な呼び出しになれた降谷は自分の上にいる赤井を押し退けるとベッドサイドに置いてある端末をすぐさま手に取った。
    「はい、降谷」
    「わたし、モブ……あなたの後ろにいるの……」
    「ぎゃーーーーーっ!!」
    色っぽさからはかけ離れた声を上げると降谷は赤井に抱きつき、恐る恐る後ろを振り返った。
    いる。
    人形が、暗い部屋の、宙に浮いて『いる』。
    しかし降谷が想像していたよりもずっと小さく、全長は十センチほどで、薄黄色の髪はおそらくフェルトで出来ていて、二頭身というか頭が全体の六十パーセントをしてめている。元のキャラクターをデフォルメしたと思しき人形だった。
    「どことなく君に似てるだろう?それで気になってしまったんだ」
    赤井は怪異を目の当たりにしているというのに甘い空気を保ったまま、降谷の腰を手を回した。
    「ちょっ、どこを触ってるんですか!まずはあれをどうにかしてくださいよ!」
    「さっきも言っただろう?憑き物落としは一か八かなんだ。うまくいくかわからん」
    「それでもやるしかないでしょう!?あれをこの部屋にずっと放置するっていうならもうセックスしませんから!」
    「ふむ」
    赤井は気乗りしない様子で人形に手を翳す。
    人形は逃げることも呻くこともなく、ただポトリと床に落ちていった。
    「……祓えた?」
    「あぁ、持ち主の霊は成仏したよ」
    「さすが、僕の赤井!」
    降谷は赤井に抱きつくと、キスで赤井を労った。浮気を疑ったのと同じ口で赤井を褒めたたえ、舐めて、喘ぎまくった。
    降谷なりにいつも以上にサービスしたつもりだった。赤井も興奮してくれたようで「どこが一番いい?」「ほら、自分で腰を振るんだ」と言葉責めにして、降谷の形のいい尻をペチペチと叩いた。
    「やん、叩かないでっ、ちゃんと動くから」
    「泣いても許さないぞ……ほらほら、もうこんなに涙を溢して……」
    「ちが、それ涙じゃない……あっ、どうしよ、止まんな……っ」
    「そうだな、涙じゃないな。なんて言うんだ?」
    「僕のお、おしお……気持ちいいよぉ……!」
    よくリビングで寝ているハロが起きなかったものだ。
    目が覚めた降谷が一番に思ったのはそのことだった。
    赤井はまだ寝ているのでそっとベッドを抜け出すと、降谷はリビングに続くドアを開けようとした。
    その時、床で何かが動いた。ハロじゃない。小柄な愛犬よりさらに小さい、その何かは降谷に向かって歩き始めた。
    「ぎゃーーーーー!」
    降谷二度目の悲鳴に赤井は飛び起き、リビングで目を覚ましていたハロは飼い主の危険を察知して降谷が開けたドアの隙間から飛び込んできた。
    「どうした、零!」
    「アンアンッ」
    「人形、人形が……!」
    床で動いていた何かは昨日赤井が確かに祓ったはずの人形だった。小さな足でフローリングをトコトコ歩いている姿は愛らしくもあるが、普通の人形は歩かないので異常であるのは間違いない。
    「あー……ほらな?」
    「何が!?」
    「憑き物落としは一か八かって言ったのはこういうことなんだ。憑いている霊を落とせてもこうしてモノが意思を持ってしまう場合がある」
    「それを先に言え!!」
    「レアケースなんだよ。大抵はモノのほうが耐えられなくなり破壊される。この人間は君に似てタフなようだ」
    赤井はそう言うとまるでハロにするようにひとりでに動く人形に手を差し伸べた。人形は赤井の手に乗ると「ぬっ」と声を上げた。
    「しゃべった……」
    「ますます君みたいだな」
    「僕がお喋りだって言いたいのか!?」
    「声が似てると言ったんだよ。よし、契約を結ぼう」
    「はぁ?」
    降谷の声を意に介さず、赤井は人形をじっと見つめて指差した。
    「君に名前を与える。君の名は……ぬいだ。君は決して人間に害を為さず、俺たちのセックスの邪魔をしない。その契約を守るなら俺の式にしてやる」
    式がなんなのかわからないが、赤井の庇護の下に置くという意味なのだろう。提案した契約にぬいと名付けられた人形は大きな頭を縦に振った。
    つまり、これから一緒に暮らすっていうことか?動く人形と!?
    「心配はいらん」
    赤井は降谷の胸の内を見透かしたようにそう言うと、指をパチンと鳴らした。すると確かにそこにいたはずの人形はどこにもいなくなっていた。
    「俺の仕事の助手にするだけだ」
    「はあ、そうですか」
    いちいちビックリすることに疲れた降谷は間の抜けた声でそう言うとハロを腕に抱いた。
    今日は天気がいい。絶好の散歩日和だ。ハロは今日も可愛いし、赤井が降谷とは別の摂理の中で生きているのも昔からだ。
    「散歩に行くなら俺も行く」
    赤井はベッドから起き上がるとノソノソと降谷の元にやってきてハロと降谷を抱きしめる。
    まぁ、こうして一緒にいられるならいいか。
    なんだかんだ言って降谷も赤井を愛している。人形が動いたぐらいで手放すつもりは毛頭ないのだった。
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    かとうあんこ

    DOODLE一度別れた赤安がバディを組んで幽霊退治(?)をする話、第三話。
    「その日のことはよく覚えてます。パパと姉貴とわたしの三人でママの誕生日プレゼントを買うために出掛けていたんです。姉貴は小学生、私は保育園に通っている頃で、パパが贔屓にしているアンティークショップに……え?名前?なんだったかなあ。随分前に倒産しちゃったから、もうありませんよ。……いえ、ママはドールハウスには全然興味なくて。アンティークショップのガラスの戸棚に飾られていたワイングラスをプレゼントすることにしたんです。それをお店のひとがラッピングしている間に、オーナーさんが『お嬢様たちにこちらはいかがですか?』と言って見せてくれたのが、そのドールハウスでした。本物の西洋のお屋敷を小さくしたみたいですごく素敵だったから、私も姉貴もすぐに気に入りました。ふたりでパパにおねだりして、買ってもらえることになったんですけど……パパがお会計している間、奥さんが、あ、オーナーの奥さんです、がこんなことを言ってたんです。『このドールハウスに人形は絶対に入れないで』って。私たちは不思議に思いましたが、奥さんがあまりに真剣な表情だったから「うん」と答えました。でも家に帰ってドールハウスを広げて、別に梱包してもらった家具を並べているうちに……人形を入れて遊びたくなったんです。ほら、子どもってダメって言われるとやりたくなるところあるじゃないですか。それに……人形がないほうが変な感じがしたんです。とても精巧にできていたから……ううん、そうじゃないな……人がいる気配がするのに誰もいない……そんな感じでした。でも、うちにあるのは着せ替え人形ばかりで、そのドールハウスのサイズにちょうどいい人形がなかったんです。そしたら姉貴が「紙のお人形を作ってドールハウスに入れよう」と言ったんです。「紙の人形なら約束を破ったことにはならないだろうから」って。私はすぐに部屋にあった画用紙に黒いマジックで女の子の絵を描いてソファに座らせました。その隣に姉貴が書いた猫の絵を置いたところで夕飯の時間になって、私たちはドールハウスをそのままにして部屋を出たんです。……あはは、大丈夫よ、真さん。子どもの頃の話だから。それに、もし何かあっても真さんが守ってくれるでしょう?……はい。そうなんです。夕飯を終えてドールハウスがある部屋に戻ってきたら、紙の人形が切られていたんです。バラバラに……。「やっぱり人形を入れたのがいけなかったのかし
    9903

    かとうあんこ

    DONE一度別れた赤安がバディを組んで幽霊退治(?)をする第二話
    烏丸怪談②友人の話「え?僕には怪談はないのかって?う~ん、そうだなあ……僕の友人の話でもよければ。はは、そういうことが多いね。まあ、どちらでもいいじゃないか。これは友人が保育園に通っていた頃の話だ。彼はいつもお迎えが一番最後でね。母親の仕事が忙しかったんだ。彼は保育園では周りの子どもたちとうまくいってなかったから、園児が少なくない遅い時間のほうが遊びやすかった。だから、母親の迎えが遅くても気にならなかった。嬉々として居残っている彼を見て羨ましかったのか、園児のひとりが意地悪を言ったんだ。『あいつはいらない子だからお迎えが遅いんだ』って。気丈な友人もこれにはショックを受けた。いつもは独り占めできて嬉しい積み木も全然楽しくない。今すぐに母親に抱っこしてほしかった……。そんなことを考えてると、友人の前に見知らぬ男の子が現れた。『キミ、いらない子なの?』友人は当然ムッとして無視をした。ちょっとだけ泣いてたかもしれない。その寂しさを見抜いたように男の子は『じゃあ、一緒に遊ぼうよ』と言った。友人は少し悩んでから『ウン』と言った。それから二時間、彼は行方不明になった。保育園の先生はもちろん彼を探したし、お迎えに来た母親も一緒に探した。家に帰ったんじゃないか、散歩で行った公園にいるんじゃないか。いろんな場所を探したが、見つからない。いよいよ警察に連絡しようとなった時、子ども用トイレから友人が現れた。『やっと帰ってこれた』と言いながらね。二時間だけの神隠しだ。……どう?名探偵の君には物足りなかったかな」
    8690

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