2月30日部屋のドアをドカドカ叩いて返事を待たずに扉を開ける。
部屋の主は珍しくパソコンの前でだるそうにモニターを見つめていた。
「おい、リバル」
声を掛けるとリバルはゆっくりと顔をこちらへと向け、俺の姿を確認すると目を輝かせた。
「マイタス! 何? 何か面白いことでもあった?」
「残念だが面白くねーよ。ピアスが月報さっさと出せってよ」
俺の言葉に彼の表情がみるみる険しくなる。
「何でマイタスが……」
「年が近くて仲が良いから俺が言えばやるんじゃないかってさ。んなわけあるかって」
舌打ち混じりにここへ来た理由を説明するといよいよリバルの表情が怪しくなる。
何だか背中に炎を背負っているような気迫すら感じる。
多分相当怒っていると見た。
「へー……」
聞いたことのないような低い声にため息が漏れた。
かえって逆効果だって、何でピアスには分からないのだろう。
無視すると面倒だから仕方なしにリバルのところへ来たが想像通りの展開に薄笑いすら零れない。
いつも報告書だ何の書類だと煩くて、どれだけ書類が好きなんだよといつか突っ込んでやりたい気持ちになった。
「その気になれば直ぐ終わるだろ? ピアスのヤツが煩えから早めに片付けろ」
「はぁ。調子でないんだよねぇ。何で二月って三十日がないんだろう」
ああ、なるほど、リバルのぼやきに合点が行く。
ここにいるとただでさえ日付やら曜日やらの感覚がバグりがちになる。
いつもより早い締切に気分が上手く付いていっていないんだろう。
気持ちは分からなくはないが早いところ片付けてもらわないとまたピアスから声が掛かりかねない。
どうしたものかと考えていると、俺の様子を眺めていたリバルが長くため息を吐いた。
「分かった。やるよ、やればいいんだろ」
リバルは不服そうにモニターに向かい合うとキーボードに手を置いた。
そしてまたため息を吐く。
「悪いな、頼むわ」
彼の肩をぽんと叩き、リバルの部屋を後にする。
全くやる気はなさそうだが、あの調子ならちゃんとピアスには月報を提出してくれるだろう。
そういえば職場改善で書類削減とか、秘密結社だとそういう提案は無しなのだろうか。
すこし真剣に考えたくなった。