隠居○○年後の高銀冷ややかな夜明けの空気が肌を撫でる感覚に、高杉は瞼を開けた。まるで、ひっそりとした脆弱が、確かな重さをもって高杉の肌を包み込んでいるようだった。
朧気な意識のまま体を起こし、かじかむ指先を障子にかける。
そっと引き開けると、庭一面が真っ白な雪に覆われた光景が広がっていた。
昨夜、高杉が布団に潜り込んだときには、まだ兆しはなかったはずだ。眠りについた後に、密やかに振りはじめたのだろう。
空から綿毛のように落ちてくる雪が、陽の光を浴びてキラキラと輝きながら、未だに降り積っている。
道理で寒いわけだ、と高杉は得心しながらむき出しの肩をさすった。吐く息も、心なしか白い。
「辺り一面、銀世界ってか……」
その言葉が口から漏れた瞬間、世界が闇に包まれた。
1991