メイド喫茶で働く坂田の話(高銀)メイド喫茶といえば、オタクくんに向かってメイドさんが萌え萌えきゅんとオムライスにハートを書いたり……なんてテンプレートも今は昔の話。
世は戦国メイド喫茶時代。生半可な店は生き残れない。
それぞれが武器を持ち、戦うことが強いられているのだ。
「おかえりなさいませ、ご主人様♡」
可愛らしい声と笑顔で迎えてくれる
カウンターに並ぶのは可愛らしいぬいぐるみやお菓子などではなく、焼酎や日本酒、ウィスキーといったゴリゴリ酒瓶たち。
メイド喫茶というか、メイド居酒屋である。
客層もオタクや物見遊山の観光客のほかに、仕事帰りのサラリーマンという風体のおやじたちがガーリックサイコロステーキをつまみながら酒を飲んでいる。
「お客さまー、メイドの生搾りレモンサワーでございます」
まずは客の胃袋を掴むをコンセプトに、メイドさんたちと愉しくおしゃべり。
そうして生き抜く道を選んだのだ、このメイド喫茶「お登勢」だ。
そして、俺こと坂田銀時は厨房として入ったのだ。
そう。厨房だ。
提供する料理を調理するのが仕事だ。
それなのになぜか、メイド服を着せられて、ツインテールのウィッグをつけられて、奇異の目にさらされている。
悪ふざけでさせられた、明らかにゴツイ男の女装姿。なのに、なぜか常連たちは、
「あの料理いつも君が作ってくれてたの?」
「僕、ナポリタン好きなんだよね」
「パー子ちゃん、萌え萌えきゅんやってよ〜」
「こうやるんだよ、パー子ちゃん」
「パー子をちゃん、せっかくだらチェキ撮ろうよ」
と、受け入れモードだ。
だから俺もヤケになった。同じアホなら踊らにゃ損という言葉もある。
たった一日の悪ノリ。
そう思っていた。
そしたら、なぜか評判が良かったからと、またさせられた。
「いやもう、これなんて店?」
ここは可愛いメイドを愛でて楽しむ店だ。
見た目華やかな女装男子なら百歩譲って分からんでもないが、こんなどう見ても「ムキムキの男」をなぜチヤホヤするのか。
しかし、給料に色をつけてもらえるようになった。貰えるものを貰えるなら話は別だ。
頻度は月一から、月二、三へと増えていった。
そしたらバレた。
誰にって?
同棲中の彼氏に。
そいつは今、奥のテーブルに座って、俺のことをじっと見ている。睨んでいる。圧をかけてきている。
いや、まあな。
飲食店のキッチンでバイトしてるとは伝えていた。
それがまさかメイドの女装してほかの男に接客してるなんて知れば、そりゃもう嫉妬深いアイツは怒り心頭だ。
「お、お待たせしましたご主人様」
声が裏返る。
俺の彼氏様はじつに艶のある声で、メニューを指さしながら「この、美味しくなる魔法とやらを頼まァ」と言った。