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    nicola731

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    nicola731

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    生前の顕光殿と道満の顕道。捏造。息抜き。
    おれのかんがえたさいきょうの顕光殿。

    #顕道
    keyence

    内裏から帰る道中、顕光はうとうとしながら牛車の揺れに身を任せていた。もう日が暮れ始めていた。牛が一声吼えた。早く帰らなければ、夜はすぐに迫って来る。牛にさえ、夜の都は恐ろしいのだ。外の従者達も不安であろうと主人は案じる。
     顕光は微睡みを振り払おうと頭を振った。その時、揺れる牛車の音に混じって女の啜り泣きが聞こえた。空耳かと思って耳を澄ます。やはり、若い女が啜り泣いている。
    「おい、止めてくれないか」
     顕光が声を掛ければ車は止まる。家令が外から主人を呼んだ。
    「顕光様、何かありましたか?」
    「何処かで娘が泣いておらんか? 声が聞こえる」
    「見当たりませんが。もう黄昏ですよ。この辺りに住まう者であれば疾く帰る時分です」
    「お前、少しその辺を探してみなさい。いなければいないで構わんから」
     家令は主人の言葉に溜息を吐く。それから従者達の中から一人呼んで、二つ先の通りまで見に向かった。
     鬼の出る都で女の啜り泣きが聞こえる。娘を持つ顕光にとっては他人事ではないのだ。心配にもなる。
    「本当に心配だ。聞き間違いであればそれが一番良いのだが」
     誰に聞かすわけでもなくそう呟けば、若い女の声が物見の向こうから聞こえた。
    「後生でございます、後生でございます・・・」
     そう涙声で縋る声がする。顕光はそれに警戒もせずに応えた。
    「おお、どうしたどうした? 先程の声はお前か?」
     女が直接、顕光に語り掛けるのはおかしい。従者達が先に応えるか、咎めるかしているはずなのだ。だが何の音もしない。顕光は持ち前の迂闊さで気付かない。



     昼過ぎに「仕事を手伝え」と陰陽寮から呼び出しを食らった道満は嫌々顔を出して、案の定天敵の晴明に絡まれた。道満は半ば怒鳴るように返答をする。晴明は道満を煽ったかと思えば異国の書物の話をする。道満の神経を逆撫でし興味を引く。平時のやりとりだった。
     二人は暫くそうして戯れ合っていて、はたと側に来ていた男に気付いた。道満が懇意にしている顕光の家の家令だった。
     家令は道満に話し掛ける機を伺っていた。
    「おや、どうなさいました?」
     道満が綺麗な外面で声を掛けると、家令は安堵したようだった。
    「道満法師、良ければ頼まれてくれないか?」
     晴明のほうを見て、家令は少し口籠る。晴明は顕光と仲があまり良くない道長と懇意にしている。要らぬ喧嘩の種になるのが嫌だったのだろう。仲の悪い従兄弟同士、何が火種になるか分からない。
     道満は気を利かせて家令に近付く。酷く上背のある道満は身を屈めて家令に顔を近付ける。家令はそっと耳打ちする。
    「昨夜から顕光様が体調を崩されている。医者には風邪だと言われたが・・・」
    「違うと?」
    「・・・・・・なんで風邪を引いた老爺の寝所から見知らぬ女の声がするのを、誰も指摘しないのか分からん」
     それを聞いた途端、道満は背筋を起こして歩き出した。家令を引き摺るようにして足早に廊下を進む。
    「おーい道満や、仕事は?」
     後ろから追い掛けて来た晴明の言葉に、道満は振り返らずに返事をする。
    「顕光殿のところへ行きます」
    「えー? あ、じゃあ術比べしよう! 今から!」
    「しません! 拙僧は所用が出来ました故!」
    「別に構うこと無いだろう? 死にはしませんよ」
    「五月蝿い!」
     空気が震える程の声で道満は怒鳴る。柱に罅が入る。あまりの剣幕に晴明は呆気に取られてしまい、結局追い付けなかった。


    「顕光殿!」
     此処まで引き摺られてきてぐったりとしている家令を放り出して、道満は家主の寝所へ向かう。不安で何度も彼の名を呼ぶ。嫌な臭いが漂っている。腐った肉の臭いだった。
     寝所に着けば腐臭が濃く漂っていた。几帳の中からぼそぼそと女の声がした。「にくしかなし」と泣く女の声がした。
    「そうか、それは難儀したなぁ。うんうん、そうかそうか。可哀想になぁ」
     単姿の顕光は浜床の上で体を起こし、脇息に寄り掛かっていた。女の形をした暗がりに向かって相槌を打っている。顕光が何処かで拾ってきた死霊だと、道満には分かった。
     女が顕光の体に手を伸ばす。爛れた指が彼の着物に触れそうになった時、道満の脳内で「ぷつり」と何かが切れる音がした。
     最低限の動作で印を結べば、女の死霊は弾け飛んで消えた。腐臭は消えて、不思議そうに首を傾げている顕光の顔色が良くなった。
    「顕光殿!」
    「うおっ!? あ、ああ、道満か。なんだ、今日はどうした?」
     どすどすと重い足音を立てて道満は彼の眼前に進み、跪いた。その頃になって置いていかれた家令が漸く寝所に辿り着いた。道満は美しく整った顔に羅刹女の如く怒りを乗せて、翁を叱った。
    「またあのようにお拾いになって! 前も同じようなことがあったでしょう!?」
    「そうだったか?」
    「ありました! あの時は狗神で、それに比べれば今回のはまだマシでしたが・・・」
     主人と法師の様子から解決したことを理解して家令は安堵する。顕光は胸を撫で下ろす家令に言い付けて、道満への支払いを用意させる。
    「今回もお前のお陰で助かった。ありがとう道満」
     顕光が人畜無害の顔で礼を言うと、つい道満は口を噤みかける。だが心を鬼にした。
    「あのモノ達は貴方様のお優しいお気持ちが欲しいだけで御座います。情けを掛けて憐んで欲しいだけで御座います。どうぞそうしたお気持ちはあまり他には向けずに・・・」
    「つまり?」
    「優しくするのは儂だけにしてくだされ」
     明け透けに言われて顕光も苦笑いしか出来なかった。道満は獣のように唸り蹲る。「守護の符を渡しておけば」やら「結界をもっと強固に張っておけば」やら、反省点が山のように頭の中で巡る。そうすれば顕光は熱に害されずに済んだし、穢れに触れさせることも無かった。そう思って道満は唸る。
    「道満、道満や」
     父親のように名前を呼ぶ声を聞いて、のそりと道満は顔を上げる。顕光に手招きされ、遠慮がちに床へ上がる。高い位置にある頭を下げれば撫でられた。顕光の手は道満の頭を軽く押して自分の膝へと置かせる。大きな体を巻きつけるようにして道満は彼の腰を抱き込んだ。
    「本当に道満がいてくれて助かった。いやぁ、あの女御は同じ話を何遍も繰り返すものでな、相槌を打つのが大変だった」
    「顕光殿がお拾いになった場所、後で教えてくださいね。弔ってやらねば」
    「そうか。じゃあついでに女御の想い人に呪詛でも掛けてやりなさい。経を上げるより手っ取り早く成仏するだろうよ」
     大きな猫を撫でながら顕光が嘯く。彼の腹に当たる道満の耳に、「ぐう」と腹の虫の鳴き声が聞こえた。
    「お食事は?」
    「食う気がしなくてな」
    「お食べになって。顕光殿は唯でさえ食が細いのに」
    「うん、お前も食べていくだろう? 用意させるよ」
     よしよしと顔の輪郭や耳殻をなぞれば道満は喉を鳴らした。
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    nicola731

    DOODLE顕道(顕蘆)現パロ
    顕光殿がヤーさんで道満が腹心兼愛人みたいなポジの話。らくがき。https://twitter.com/nicola731/status/1367080549974609922?s=21 設定は上記の通り。参考文献は「デストロ246」と「来世は他人が良い」です。
    そろそろ鰆の旨い季節だと思いながら、顕光は夜の執務室で決算書類を処理していた。表稼業の不動産と輸入会社の書類だけで机は一杯になる。なのに裏稼業のほうまで膨大な書類になるのだからうんざりしてしまう。ただサインをするだけなのに朝からやってまだ終わらない。
     万年筆を広い机に放り、顕光は立ち上がった。卓上の電話で隣室にいる秘書に内線を掛ける。
    『はい、橘で御座います。お茶ですか? 旦那様』
    「まだ何も言ってないだろ。今日はもう仕事しないぞ俺は。疲れた、飯食ってくる」
    『お供しましょうか?』
    「いや、お前はもう帰りなさい。道満と寿司食ってくる。あれは今どこにいるんだ?」
     顕光が一番の腹心の居所を聞くと秘書は『地下で作業中です』と答えた。顕光は秘書に礼と労いを言い、電話を切った。上着を羽織って彼は執務室を出る。顕光が所有するこのビルには地下がある。執務室は最上階、道満がいる作業場は地下の一番下にある階だ。エレベーターに乗り、一番下へと下りていく。
     スマートフォンで最寄りの寿司屋を探している内に、エレベーターの箱は地底へと辿り着いた。
    「寿司、寿司屋……舟盛り出してもらえるところが良いな……道 2576

    nicola731

    DOODLE顕道(顕蘆)現パロ
    顕光殿がヤーさんで道満が腹心兼愛人みたいなポジの話。前回の話
    https://poipiku.com/IllustViewPcV.jsp?ID=1112421&TD=4197
    https://twitter.com/nicola731/status/1367080549974609922?s=21 設定は上記の通り。参考文献は「デストロ246」と「来世は他人が良い」です。
    顕光は表向き、ビル屋の社長で中古車販売も手掛けていて飲食店を小規模ながらチェーン展開している、つまり実業家だった。だからその付き合いでパーティーに呼ばれることもする。人付き合いは疲れるが華やかな場は好きだ。可愛がっている自分の腹心を飾り立て、隣に侍らして来場客全員に自慢できる折角の機会が与えられる。可愛い養い子を自慢できるとなれば顕光も俄然行く気になる。秘書の呆れた視線を気にすること無く仕立屋を呼んであれこれと生地を体に当てさせて、それこそ道満が飽きてふて寝するまで注文を付ける。月一でパーティーにお呼ばれしたいくらいだった。
     反面、裏稼業の会合やら商談やらは嫌になる。駆け引きも面倒だし金勘定で一々ケチを付けてくる奴もいるので苛立つ。顕光は自分が賢い人間だとは思わないが馬鹿馬鹿しい話し合いはうんざりする。それに護衛の数は限定されるのでいつも道満を連れて行くのだが、相手方が道満を見て怯えるのもムカつく。


     今夜は嫌いな裏稼業の会合がある。顕光は行く前から嫌だったし、会場に到着してからも気分は底に落ちていた。壁の花を決め込んで、供に連れてきた道満の顔を眺めていないとやっていられない。道 1746

    nicola731

    DOODLE生前の顕光殿と道満の顕道。捏造。息抜き。
    おれのかんがえたさいきょうの顕光殿。
    内裏から帰る道中、顕光はうとうとしながら牛車の揺れに身を任せていた。もう日が暮れ始めていた。牛が一声吼えた。早く帰らなければ、夜はすぐに迫って来る。牛にさえ、夜の都は恐ろしいのだ。外の従者達も不安であろうと主人は案じる。
     顕光は微睡みを振り払おうと頭を振った。その時、揺れる牛車の音に混じって女の啜り泣きが聞こえた。空耳かと思って耳を澄ます。やはり、若い女が啜り泣いている。
    「おい、止めてくれないか」
     顕光が声を掛ければ車は止まる。家令が外から主人を呼んだ。
    「顕光様、何かありましたか?」
    「何処かで娘が泣いておらんか? 声が聞こえる」
    「見当たりませんが。もう黄昏ですよ。この辺りに住まう者であれば疾く帰る時分です」
    「お前、少しその辺を探してみなさい。いなければいないで構わんから」
     家令は主人の言葉に溜息を吐く。それから従者達の中から一人呼んで、二つ先の通りまで見に向かった。
     鬼の出る都で女の啜り泣きが聞こえる。娘を持つ顕光にとっては他人事ではないのだ。心配にもなる。
    「本当に心配だ。聞き間違いであればそれが一番良いのだが」
     誰に聞かすわけでもなくそう呟けば、若い女の声が物見 2814

    nicola731

    DOODLE顕道(顕蘆)まで行かない現パロ
    元ネタ
    https://twitter.com/nicola731/status/1382088577497001984?s=21
    「現パロ晴明さんの職業を映画監督にするともれなく主演俳優の道満がずっと「何言ってんだコイツ」って顔してるメイキング映像が浮かぶ(テネットのあれ)」
    今後道満は同級生の納言ちゃんに「それは推しだよ」とか教えてもらう。
    夏休みの間に行われる夏期講習は半日で終わってしまった。高校一年生だから今から必死に受験勉強をするのも、と教師はやんわりと生徒達を宥めた。道満もその一人で、真夏の昼過ぎに学校の外へと放り出された。図書室や自習室を使えれば良かったのだが三年生達で一杯だった。仕方なく道満は日陰を渡り歩いて駅まで向かう。
     まだ高校で友人はできていないし、そもそも道満はあまり人付き合いをしなくても平気だったから遡って友人らしい友人がいたことはない。だから一人で図書館にでも行こうと思った。駅まで真っ直ぐ大通りを進んでいく。道の日当たりは良くて、歳の割りにかなり身長の高い道満の頭はじりじりと灼かれた。酷く熱くて参ってしまう。
     涼しいところに行きたいと思った。それでふと駅の近くにある劇場の掲示が目に入った。平時であれば何とも思わないが、暑さのせいで変な気紛れを起こした。財布にはチケット代分の金額が入っている。高校生になったのだから「観劇」を経験してみるのも良いだろうと思った。子供らしい背伸びだった。
     チケット売り場で当日券を買い求めて、フライヤーと共に受け取って席へと向かうと最前列だった。道満は「マズい」と思っ 2331

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