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    nicola731

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    nicola731

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    「顕光殿が死んだ時の道満書きたいけど怒られそうだからやめとく」と言ったがあれは嘘だ。生前顕光殿と道満の話。捏造過多。閲覧非推奨。

    北天に沈まず光る星 ともに滅びるという約束もまた /松野志保

    #顕蘆
    dazzlingReeds
    #顕道
    keyence

    心中に能わず 顕蘆(顕道) いよいよ明日は納棺であるが、顕光の臨終は物寂しいものだった。臨終の瞬間まで傍にいたのは道満と僅かな使用人ぐらいのものだった。老爺の死に水を取った道満は死の穢れに触れることのできない家人達のために湯灌を施した。そうして出棺の日も墓所の場所も占を行って指定した道満は、おいおいと泣きながらずっと骸の傍に侍っていた。殆ど物音のしない屋敷の奥から「顕光殿、顕光殿」と啜り泣く声が微かに聞こえてくる。使用人達は主人が道満にとても良く目を掛けていたことは知っていたので、二人きりにしてやった。あの化生のような見た目でも真面目で恩義に篤いことは分かっていた。
     道満は大きな体を横たえて小さな老人の骸の傍で滂沱していた。板間に水溜まりができるほどに涙を流し、念仏を唱えることさえ忘れていた。遺骸は生前よりも痩せて縮まった気がする。既に顕光の魂はそこには無く、残り香が漂うばかりだった。
    「顕光殿……顕光殿……」
     水分の少ない彼の肌を傷付けないように、彼が生きていた時と同じように、道満は丸めた指の背で死人に触れた。眦に埃が付いていると言って触れた時のように。あの時とは違って温もりを一切感じることができぬまま、深く刻まれた皺を撫でる。
     道満にとって顕光の死は、落ち目とはいえ大貴族の後ろ盾を喪ったことを意味し、それ以上に激しい喪失感を孤独を与えるものだった。いつだって彼は道満の味方で、いつだって信じてくれた。顕光にも道満にも互いの思惑はあったが、それを踏まえても道満にとって顕光は寄る辺だった。頼りにされては喜んで、褒められては喜んで、なんと自分にとって得難い御方かと思っていた。子が親に懐くように忠を奉して道満は仕えていた。彼がいなくなったらいよいよ道満は孤立する。寄り添う相手が誰もいなくなる。
    「顕光殿……冥途の途をお供致したくとも、まだ貴方様とのお約束が御座いますれば……」
     本当であれば道満はこのまま共に棺に入れられて、共に荼毘に伏されたかった。共に焼けて朽ちていければどれだけ幸せだろうかと思った。だが死の間際に顕光と交わした約定があったし、棺は道満が入るのには狭かった。晩年の顕光は随分と憎しみに身を浸していた。権力闘争に負け、上の娘は出奔し、下の娘は夫を奪われた挙げ句まだ小さな子供を遺して死んでいき、頼みの息子は出家してしまった。老いた妻も死んだ。轟々と燃え栄える憎悪が老爺を焼き尽くした。
     見舞いに行くたび、恨み言を呟く顕光の枕元に侍った道満はそれを一々肯定した。誹りと呪いの言葉を繰り返す顕光に「仰る通りで御座います」と囁いた。道満はどうにか延命を試みたが、既に顕光の心は死んでいてどうしようもなかった。憎しみだけで生きていた。道満には彼が安息を得られるように祈ることしかできなかった。
     死に際に顕光は道満に自らと契約させた。「死後、自身の全てを譲る。それを用いて道長を苦しめよ」と。道満は拒みたかった。契約を受け入れて結んでしまえば、顕光は死後の安寧を二度と得ることはできない。道満が喚び戻すために冥途の辻で永遠に留まっていなくてはならない。妻や娘の待つ楽土へ行くことも叶わない。道満が死んで漸く解放されても二人で共に地獄に堕ちるのだ。
     道満は考え直させようとしたが、虚ろな穴のような瞳にはそれ以外の望みが無かった。だから道満は今この一瞬の安らぎを与えるためだけに頷いた。それを見て顕光はやっと安らかな表情を浮かべ、そのまま息を引き取った。
    「顕光殿……顕光殿……お約束致します……必ずや貴方様の恨みを…………」
     何年掛かっても晴明の守護を打ち破って、何年でも道長を苦しめると道満は約束する。

     
     夜が明けると棺が運ばれてきて、死後硬直が解けた死体を道満は自分一人で納めた。運び出された棺と共に道満は屋敷を出た。崩れてしまった化粧も直さぬまま、焼き場へと向かう。道満は顕光の骨を幾らか分けてもらい、仏舎利のように懐へ絶えず持っていようと考えた。
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