二月ぶりの逢瀬。
滅多にない二人きりの時間だと言うのに宿に入る前から半助はむっとした表情をしている。
利吉はあからさまに不機嫌ですという顔をした半助を見ておかしそうに笑う。
「なんだよ」
「別に。もう、何拗ねてるんですか」
こちらを不機嫌そうにじとーっと見てくる顔がたまらなく可愛い。
「利吉くんはなんでそんなに機嫌がいいわけ」
「拗ねる土井先生がかわいくて…あっ」
はっと口に手を当てたが遅かった。
言うつもりはなかったのに。
半助はおもむろに立ち上がり、利吉の横に座ったかと思えば寝転がって腰に抱きついてきた。
驚いていると利吉の腹にぐりぐりと己の顔を押し付けてくる。
「わ、ちょっと土井先生…ふ、ははっ!」
腹がくすぐったくて身を捩ると腰に巻き付いている腕にぐっと力がこもる。
「…ごめん」
「なぜ謝るんです」
もごもごと利吉の腹に向かって謝る半助が愛おしい。
利吉はもさもさした彼の頭を撫でる。
「せっかく久しぶりに会えたのに男女問わず言い寄られる様に嫉妬していじけているから」
「ははっ!素直でいいですね。いい子いい子」
半助は不貞腐れた子どものように一向に顔を見せない。
利吉は頭を撫でながら語りかけた。
「ねえ、半助さん。貴方だって男前だってよく言い寄られているじゃありませんか」
「だって君、ちっとも気にしないじゃない」
「ええ?とっても気にしてますし嫌ですよ」
もぞと顔を上げて利吉を見上げた半助は何か言いたげだ。
「いつも涼しい顔してなんてことないですって顔してるのに」
「嫌ですけど、私にしか見せない貴方の姿を知っていますし。お前たちの知らないこの人を私は知っていると毎回心の中で舌を出しています」
頭を撫でるのをやめて丸みを帯びた彼の頬をぷにぷにとつつく。
「じゃあさ」
ぷにぷにと頬をついていた方の手を取られる。
「私もそう思うことにするから、見せて。私しか知らない君を」
「…もとよりそのために来ましたから」
起き上がった半助の首に腕を回し唇を重ね合わせると、ゆっくりと押し倒された。
「たくさん見て…その目に焼き付けてください」