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    TONekonomiya

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    TONekonomiya

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    かぶき町四天王篇の映画も公開されたということで前に書いてた、おとせさんとさかたが出会ってから万事屋始めるまでの妄想小話を載せときますね

    野良犬よ、好きなように生きるがいいさ肌を刺すような寒い冬の日だった。
    灰色の空から降る雪にため息をつきながら店から出て旦那の墓参りに向かう老婆がいた。
    彼女の名はお登勢、本名は寺田綾乃だが源氏名で呼ばれることが多くもはや自分でも源氏名の方を自分の本名と勘違いしそうになるくらいにはその名で生きてきた。
    「年寄りには堪えるんだがね」
    そう言いながら供えるための饅頭と線香を持ち長い階段を上る。
    別に命日でも何でもない、昨晩の夢に旦那が出てきたのだ、随分と懐かしい顔で。
    その旦那が言ったのだ、たまには墓参りに来てくれと、助けてやって欲しいと。
    何をだい?と聞いたらふっと笑い消えていった旦那を黙って夢の中で見つめていた、何だか不思議な夢だったのだ。
    白い息を吐き、雪の積もった墓の前に立ち饅頭を置いて線香を立て両手を合わせて目を閉じると気だるげな声が聞こえた。
    「おいばばあ、それ饅頭か?食べていい?腹減って死にそうなんだ」
    ドキリとした、気配にはそれなりに敏い自分が気づかなかったのだ。
    墓の後ろにいる男はこちらの返事を待っているようで、しばらくどうしたものかと考えたがくれてやることにした。
    「こりゃあたしの旦那のもんだ、旦那に聞きな」
    そう言うと男は立ち上がりこちらに来た、銀色の髪に赤い瞳、こりゃ珍しい風貌だと思った。
    黙って立っていたら雪の精霊か何かと勘違いしそうだと、だがその肌は青白く身体中に打撲や出血の跡が見受けられた。
    こんな刺すような寒さだというのに裸足に草履、薄い着流し1枚、しかもだらしなく胸元を大きく開けていた。
    墓の後ろに戻り夢中で饅頭を食べていた、呆れながらその姿を見て思い出した。
    助けてやってくれという夢の中で聞いた旦那の声を、彼のことを助けてやってほしいのか、何だか後暗い男だがそんなものはかぶき町には五万といるから気にならならないが…と考えていた。
    げふりと音が聞こえ食べ終わったのかと思い声をかけてみた。
    「なんて言ってた?あたしの旦那」
    「知らねえ、死人が口聞くかよ」
    なんてやつだと思った、だが確かにそうだ、だが嘘のひとつも付けないのか馬鹿正直な男だと呆れる。
    「バチあたりなやつだね、祟られてもしらんよ」
    「死人は口を聞かねえし団子も食わねえ、だから勝手に約束してきた、この恩は忘れねえあんたの婆さん老い先短い命だろうが、この先はあんたの代わりに俺が守ってやるってよ」
    そう言って男は去っていった、なんの冗談だかとその時は思ったのだ。


    かぶき町四天王だなんて大それたくだらない名前で呼ばれるようになってから随分たつがまあ厄介な客が多く、適当にかわしているがそれでも警察を呼ぶようなことが多かった。
    にも関わらず最近の夜は随分と静かになったのだとタバコの煙を吐き出し考える。
    「最近、見慣れねえ白髪の若ぇ男がこの辺うろついてるんだってさ」
    と聞いた時に思い出したのはあの墓場の男だ、へぇと適当に返事をしていると酔いつぶれた常連の男はベラベラと喋り出す。
    「そいつ、ここいらで暴れてるんだってさ、お登勢さんも気をつけたほうがいいぜ」
    赤い顔で、眠たげな目でヘラヘラと笑う。
    随分酔っているな、足が立たなくなる前に帰らせようと思い徳利を取り上げて頭をぽんと叩く。
    「飲み過ぎだよ、もう帰んな」
    「えぇ〜」
    「明日も仕事あんだろ?続きはまた今度にとっときな」
    「あ〜しょうがね〜」
    ひっくとしゃっくりをして立ち上がり美味かったよまたね〜と千鳥足で店を出る男を見送った。
    店じまいでもするかと看板の電灯を落とすと怒声が聞こえた。
    「喧嘩かい?」
    すぐそこの路地裏だ、物騒だねと思いさっさと店に入ろうとすると男が吹っ飛んできた。
    「ぐはっ」
    「ちょっとちょっと、なんだい?はた迷惑な」
    「な、お登勢!てめぇいつのまにあんな番犬雇いやがった!」
    「はあ?」
    なんのことだい?と続けようとしたらぼんやりと路地裏から見えた白い男がこちらへ近づいてくる。
    「あんた…」
    ボロボロの着物に相変わらずの青白い肌、生気のない赤い瞳と月に照らされキラキラと光る銀髪が立っていた。
    「悪ぃなばばあ、こいつ連れてくから」
    「ひっ…もうやめてくれ!お登勢にはもう近づかねえから!」
    「ちょっともうよしな、そいつ殺す気かい?」
    「…」
    「た、助けてくれ!」
    男の首根っこを掴んだ銀髪は生気のない目で男を見下ろすとその目を見て怯えた男はこちらに助けを求めてきた。
    「あんた、このばばあ殺すって言ってた癖になにちゃっかり殺そうとした相手に助け求めてんだ?」
    ハンパやってんじゃねえぞ、情けねえやつと呟き頭を踏みつける。
    「情けないねぇ、あたしは別に構わないから逃がしておやりな」
    「…そうかい」
    存外素直なもんで、銀髪の男は足を下ろして逃がしてしまった。
    じろりと生気のない赤い瞳でこちらを見て、去ろうとする銀髪を待ちな、と引き止める。
    「なんだよ?」
    「あんた随分小汚いね、それに腹もへってんだろ?残り物しかないけど食わしてやる」
    先程気がついたのだ、この男の腹がなっている事に。
    あれから数日たっていたが出会った当初より痩せている気がしたのだ、それに先程の話も気になったために店に連れ込むことにした。

    教育はなっているらしく、食事を出せばぐーぐーと腹を鳴らしているのにも関わらずちゃんと手を合わせていただきますと言ってから食べた、箸の持ち方も綺麗なもんだと見つめる。
    「それで、あんたなんであたしの番犬なんてやってんだい?」
    「んぁ?」
    「さっきの男が言ってたんだよ、それにこの辺りで暴れ回ってるって聞いた」
    ふうとタバコの煙を吐き出し、味噌汁を飲む男を見つめると生気のない目が返ってくる、これでこの男と会うのは2度目だが毎度毎度この目に背筋が氷つくのだ。
    「言ったろ、あんたの旦那と勝手に約束したって」
    「…あたしを守るって話かい?」
    「あぁ」
    あの約束をちゃんと守っていたのかと感心した、最近厄介事がなくなっていたのだから働きは上々だ、だがそれにしちゃあこの待遇はないのではないか。
    「たった数個の饅頭でかい?安いもんだね」
    「今ここで飯も食わせてもらってる」
    「残り物だよ」
    「飯は大事だ」
    そりゃそうだがね…となんだか飯は大事だという言葉に嫌な重みを感じてしまった。
    「あんた住む所は?」
    「木の上」
    「猿じゃないんだからさ…」
    「寝床には十分だろ」
    どこがだ、だからそんなに小汚いのかと呆れてしまう。
    これはいけない、この男全くと言っていいほど己に興味がないのだ、下手をすれば自分の命にすら興味がない可能性がある。
    そういえばとお登勢は上を見た。
    「2階」
    「ん?」
    「家の2階がね、空いてるんだ」
    「うん」
    「そこを貸してやるからそこに住みな」
    「なんで」
    なんで?と来た、ほとほと呆れ返る。
    この男に用心棒代だと言っても住みはしないだろう、そんな気がする。もし住んだとしても自分が居なくなった時にこの男はどうするつもりなのか、もっと己のために生きろと教えてやるべきだが自分で気づかせた方がいい、他人に教えられたものなど呆気なく崩れ落ちる。
    お登勢は考えた、男はもう食事を終えたのかお茶を啜っている。
    「…やりたいこととかないのかい?」
    「…やりたいこと?」
    男はぼんやりと考えているようで湯のみに入った茶を見つめていた。
    「やりたいことがないなら、なんでもやったらどうだい?あたしを守るってのは片手間で構わないさ、あんたの強さはこの辺りでもう証明はれてるだろ…面倒事はもう起こらないだろうさ」
    だから考えな、というと男は頷いた。
    「上の家はね、元々あたしと旦那が住んでいたんだけどもうあたし一人だから無人なんだ、家具も家電もひとしきり揃ってるから住む分には悪くないはずだよ、それと看板が付けれる場所もある、あんたも何か店を構えてもいいんじゃないかい?」
    「店?」
    「そう、てめぇの店を持つってのは夢があるよ」
    「…あんたがそういうなら」
    皿を片付けながら男は興味なさげにそう言った。
    いや、多分ちゃんと考えているのだろう。
    何を考えているか一見分からないがそんな気がする、そのうちこの男の生気のない目にちゃんと生気が宿ってくれれば、ちゃんと自分の人生を歩んでくれれば正直それでよかった。
    家賃は取るつもりは無かったがそれではこの男はたぶん自分の人生を生きない気がするから家賃はきちんともらうことにした。
    働いて、食って、寝る、それで自分の人生を生きられるのだから、それだけで人生は輝くのだ。

    それから数ヵ月後に男は万事屋銀ちゃんを構えた、やりたいことが何もないから何でもやることにしたのだとか。
    そのうち一人2人、そして1匹と男に家族が増えたが相変わらずその目に生気は宿らない、だがお登勢は知っている。
    この男は大切なものを守るために戦う時に目に生気を宿らせるのだということを。
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