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    danraku

    @amayado_m

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    danraku

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    盗賊時代ブラネロ

    #ブラネロ
    branello

    大事にしたくて ブラッドリーは憤慨していた。眉を吊り上げて呆れてもいた。派手好きなわりに節度のある照明に照らされるのは宝石でも銃でもない。死に際の呪詛を食らった俺の、見るも無惨な手だ。
    「……痛いか?」
    「全然」
    「ははっ重症だな」
     軽く笑い飛ばしたくせに、眼光は鋭い。存外きれいななりをした指先が塗り薬を取った。筋張った俺の手の甲へと滑らせると、ぐっと練り込むように力を入れる。手首から先は錘が吊り下がるみたいに、ぶらんと揺れ動いた。
    「てめえの武器を大事にしねえって、どういう了見だ」
    「うわ」
     分厚い鱗のようにぽろぽろ浮き上がる肌から、煙が上がった。烟る先からチーズみたいに皮膚がこそげ落ちていく。痛みこそなかったが、正真正銘、俺の肌が硬くなったものらしい。剥がれる先から肉が覗き、すかさずブラッドリーは呪文を唱える。軟膏をたっぷり掬った手に包まれて、薬効に混ざった魔力ごと浸透していく。
    「何とか言ったらどうだ」
    「こ……こまで大ごとになるとは思わねえだろ」
     ふん、と鼻を鳴らされた。
     こんな大ごとにするとは、を危うく呑み込んだつもりだったのに。
    「魔法使いが呪い舐めてんじゃねえぞ」
    「うす……」
    「……」
    「……」
     機嫌は悪いのに、いつになく慎重な手つきはちぐはぐで、こそばゆい。
    「サフィが生きてりゃな」
    「ああ?」
    「あんたの手間かけさせなかったのかなって」
    「…………」
    「呪いを解くのはあいつが上手かったじゃん」
    「まあ、そうだな」
     卑怯な照れ隠しだった。ガキの頃でもあるまいし、ふたりっきりの部屋で、膝がくっつくほどの距離で。肩を抱いて酒飲んでつまみをかっくらうでもなく、気持ちよく酔っ払って手を繋ぐのでもなく、膝の上で眠りこけるでもなく、シラフのまんま——五日間月明かりにさらしたナントカの葉だとか、百五十年実をつけていない凍塊樹の表皮だとか、手間のかかったものを用意したのも、本当なら全身に及ぶはずの呪いを手首までに押し留めたのもブラッドリーで——
    「言いてえことはそれだけか?」
    「は? 他に何が……」
    「あるだろ」
     相棒と、向き合っている。
     皮膚が裂けて滲む血が堰き止められた。分厚い皮を剥がされて生肉同然だった手は人のそれらしい形を取り戻す。短い爪の形も見えてくる。ひくりと人指し指が折れ曲がった。俺の意思はたしかに伝わるようになった。
     あかぎれと酷似した手に、ブラッドリーの手が這わされた。小指から薬指、中指と人差し指と、一本ずつ撫でて、曲げて。見るからにぼろぼろの指が、陶器で作られた人形みてえに思えてくる。
     労りと慈しみを滲ませるそいつの手は、何度かお目にかかったことがあった。手にしたお宝や愛用の銃をバラして手入れをする時なんかは、華奢な首飾りの留め具を外す時より繊細で、神聖に見えた。ブラッドリーはそれらを等しく愛していて、俺の腕を同じように買っていることは誇らしくあったが。
     たぶん、そういうことじゃない。
    「……ありがとな」
    「おう」
     分かっていて、またしても俺は逃げた。それなのに、ブラッドリーはお構いなしに、無防備に笑ってくるから堪らない。こいつの相棒になったことが嬉しくて、まだブラッドって呼べないでいる。
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    44_mhyk

    SPOILERイベスト読了!ブラネロ妄想込み感想!最高でした。スカーフのエピソードからの今回の…クロエの大きな一歩、そしてクロエを見守り、そっと支えるラスティカの気配。優しくて繊細なヒースと、元気で前向きなルチルがクロエに寄り添うような、素敵なお話でした。

    そして何より、特筆したいのはリケの腕を振り解けないボスですよね…なんだかんだ言いつつ、ちっちゃいの、に甘いボスとても好きです。
    リケが、お勤めを最後まで果たさせるために、なのかもしれませんがブラと最後まで一緒にいたみたいなのがとてもニコニコしました。
    「帰ったらネロにもチョコをあげるんです!」と目をキラキラさせて言っているリケを眩しそうにみて、無造作に頭を撫でて「そうかよ」ってほんの少し柔らかい微笑みを浮かべるブラ。
    そんな表情をみて少し考えてから、きらきら真っ直ぐな目でリケが「ブラッドリーも一緒に渡しましょう!」て言うよね…どきっとしつつ、なんで俺様が、っていうブラに「きっとネロも喜びます。日頃たくさんおいしいものを作ってもらっているのだから、お祭りの夜くらい感謝を伝えてもいいでしょう?」って正論を突きつけるリケいませんか?
    ボス、リケの言葉に背中を押されて、深夜、ネロの部屋に 523

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    cross_bluesky

    DONEエアスケブみっつめ。
    いただいたお題は「ネロの初期設定傷ネタで、キスするブラネロ」
    リクエストありがとうございました!
    「なあ。ちょっと後で部屋来てくんねえ?」
     ネロにそう言われたのは夕食後のことだった。
     珍しいこともあるもんだ。というのも、ブラッドリーとネロは今でこそ度々晩酌を共にすることはあれど、誘いをかけるのはいつもブラッドリーの方で、こんな風にネロに直接的に呼ばれることは殆ど無かったからだ。
     適当に風呂を済ませてから、グラスと酒瓶を持って四階へと向かう。見慣れた扉を叩くと、しばらくして内側から開け放たれる音がした。
    「あれ、つまみ作ってたんじゃねえのか?」
     普段ならば、扉を開いた時点でネロが用意したつまみの良い匂いが漂ってくるはずだ。しかし、今日はその気配は無い。
     もしかすると、晩酌の誘いではなかったんだろうか。よく考えると、部屋に来いとは言われたものの、それ以上のことは何も聞いていない。
     ネロはブラッドリーが手に持ったグラスに目を向けると、ぱちりとひとつ瞬きをした。
    「ああ、悪い。ちょっと相談っていうか……でも、腹減ってんなら簡単なもので良けりゃ先に作るよ」
    「馬鹿、折角来てやったんだから先に話せよ」
     つかつかと歩を進め、部屋の寝台へと腰を下ろす。椅子を増やせとブラッドリーは再三 2351

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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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