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    BfBru2knaS7308

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    いろいろ捏造

    兄上どんな人やろな、で捏造してる話(プロ〜ケ3)◯プロローグ

     「やあ、月永くん。日本に帰ってきてたんだね。君とこうしてテレビを見ながらたわいもない雑談できる日が来るとは思わなかったよ」

     「やあやあ千秋じゃないか。今はあいにく談話室のテレビはチャンネルを変えられないよ。今日絶対見たい特撮番組でもない限りは、僕と一緒に歌番組を見ていこうね」

     「そしてやっぱり、ふふ君はかかせないよね。敬人。さあ座って、一緒にテレビを見よう」

     おかしな面子だと思うかい? 確かに一堂に会しているのを見るとそうだね。僕を軸にすると、君たちにはある共通点があるのだけど。
     そう……君たちは、僕と病室でよくしゃべっていた友達だ。月永くんと出会ったのは夢ノ咲に入ってからだけど、敬人なんかはそれこそ幼い頃からの腐れ縁だもんね。
     おや、嫌そうな顔だね。僕にとっては最大限の親しみを込めているのに。そもそもね、僕は病気のせいで家族にも友達にも飢えている人生だったから、君たち全員に対してわりーと重い感情を持っているよ。
     アハハ、迷惑だって? いいじゃないか、僕がくたばるまでの辛抱だよ。
     そういう言葉が良くないって? うんまあ、そうだね。直らないな、こればっかりは。僕の死亡ジョークみたいなのは。ジョークにしないと一番自分が怖くてしょうがないのだろうと思って見逃してほしい。うんほら、こういう弱みを見せるのも君たちだからこそだよ。
     一応日和くんとかもここに加わりそうではあるんだけど。知っての通り、あの子はぼくに会うたびに憎まれ口ばっかりだからね。ひょっとしたら今ついてる歌番組にそのうち出てくるかな?
     ……え、彼に嫌われてるのは抗争時代のfineのことが原因なのかって? まああれも分かりやすく仲違いしていたけど。そもそも本当は同じユニットなんかも組みたくないくらい拗れてたんだよね、昔々に。……お家のこととかでね。

    ◯ケ・セラ・セラ 第一話

     今から数年前。とある落ちぶれ貴族の家。
     当日は十四、五歳だったこの家の跡取り息子が、お習い事の時間を控えて、庭園のチェアで一人項垂れていた。
     生まれる何年も前の財閥解体から彼が生まれた「巴」の家が財閥を名乗れなくなって久しく、跡取りの肩にはそんな一族の今後が背負わされている。しかし、彼は自分にそのような重荷を背負えるとはどうにも思えなかった。
    (うう、なんで上手くいかないんだろう。ピアノもお花も舞踊も、なんの才能もない)
     ちょっとしたお習い事ですら、自分の至らなさを恥じる事は多かった。これについては厄介なことに、一緒に習い事をしている弟からは才能を感じることに一因がある。弟には言いたくないことではあるが。
    「おっはようございます兄上! 今日もいいお天気ですね!」
    その弟が、にこにこと輝くような笑顔で兄の目の前に現れた。
    「びっくりした! 日和、声が大きいよ。もっとお上品に喋らないとお爺様に叱られてしまうね」
    「えー声が大っきいのはぼくのチャームポイントなのに! うー父方のお爺様はお小言が多いんだから!」
     弟の日和は兄と違い、いつも大声で笑ったり能天気そうにその辺を遊び回っていたりする少年だった。しかし兄からすれば、そんな遊び回っている弟なのに、生け花や踊りといった芸術方面のセンスがやたらによく、自分と比較されることが悩みの種だった。
     そして一方で、能天気そうに振る舞う弟も密かにそれに悩んでいることを、兄は知っている。
    「今日は生け花のお稽古ですよ! ぼくお花好きだしウキウキしてたね。一緒に行こうね」
    十代前半くらいまでの子供は、家族や友達と肩を組んだり手を繋いだりすることを、まったく邪念なく自然としてくることが多い。
    「ほらほらぼくの胸に手を当ててみて兄上! ドキドキ言ってるでしょう!」
     弟もまたそうだった。それどころか弟は親しい人間へのスキンシップが激しい方だ。どちらかというと引っ込み思案な性格をしてある兄は気恥ずかしくなった。
    「私は嬉しくない……」
    「ええどうして? 今の季節だったら……」
    「お前と比べられてがっかりされたくない」
    ぽろっと本音をこぼす。
    「えっ? でも……」
    「日和がお兄ちゃんを思いやって手を抜くのはもっと嫌……」
    言いかけた弟の言葉を兄は遮った。弟は急に無表情になり
    「……兄上。手を抜くのとはちょっと違います」
    真顔のまま弁解し始めた。
    「ぼくは自由に、ぼくっぽい表現をしてるだけだね。あと途中でつまんなくなったら普通にサボってるだけ」
    兄は(一生懸命、自分が馬鹿の振りをする言い訳を考えてきたのかな)と冷めた事を思いながら聞いていた。それすら察したのか、弟は今度は寂しそうな顔をした。
    「そりゃあ、兄上の方が真面目に見えてほしいというのはあります、けど……実際、兄上の方が真面目だもん」
    「真面目しか取り柄がないんだよね」
    「そういうこと言いたいわけじゃないね!」
    「あはは、私の口調の真似?」
    「違うね! ううん、真似はしてるかも。兄上は優しいぼくの大事な兄上だもん。兄上みたいに優しく喋りたいね!」
    「うんうん、ありがとね」
     いよいよ日和が泣きそうになってきたので、兄は微笑んで弟の頭に触れた。自分たちを取り巻く悩みが何一つ解決するわけではないけれど、少なくとも自分たち兄弟はお互いのことが好きだ。それは大きな救いだと兄も弟も思う。
    「……どうしたら、芸事の神様に愛されることができるのかなあ?」
    ふと話題が変わる。兄はなんとなく以前から空想していることを話し始めた。
    「芸事の神様?」
    「伝統芸能をやってる人とかって、舞台とか道具とかに神様が宿ってるって信じる人多いよね。そういう神様に愛されれば、もっと上達するのかな……って」
    「うーん。ぼくには神様がいるかいないかは分からないけど、兄上は信じていて、そしてその神様はこちらを愛するかもしれないと、感情を持ち合わせていると考えているわけですね?」
    「そうだけど」
    実際はそうでもない。空想はしていたものの「神様」の人格や感情まで考えてみたことはなかった。なぜそんなことを聞くのかと思っていたところに、弟はこう続けた。
    「でしたら、まずはこっちからめいいっぱい神様を愛するのがいいんじゃないですか? 大抵の人はやっぱり愛してくれた相手を愛したくなるものですよね!」
    日和は内心驚いている兄に向かってにっこり笑う。さっきから表情がころころと変わる弟だ。
    「ぼくは、兄上がぼくを愛してくれるから、兄上を愛しています!」
    「そ、そうか。えっでも、神様を愛するってどうすれば……」
    「今日の生け花、神様に捧げるつもりで頑張ってやりましょう! ほらほら早く行こうね!」
    「わ、わかったわかった」
     二人は笑って中庭から出ていった。その庭にもとりどりの季節の花が咲いている。この瞬間には、この家は平和だった。

     この時よりもさらに昔、巴一族がさらに貧しかった頃。跡継ぎである兄にしか英才教育をさせることはできないと方針が決まりかけた時、兄が珍しく両親に反発したことがある。
    「僕が家庭教師とかに何か習ってる時、せめて、ついでで同じ部屋に入れとくだけでもいいですから、日和にも習い事をさせてあげてください」
     長男の気持ちは分かるものの、本当にお金に困っていた両親は、幼い弟の方の意見を聞いてあげる……ように見せかけて、兄の隣に立っていた日和の言葉を誘導しようとした。
    「お勉強の時間が増えたら友達と遊べなくなっちゃうよ。嫌だよね? 子供は遊ぶのがお仕事だと思うだけなんだよ」
     日和は黙って家族の顔を見上げていた。不安そうな顔で震えている。幼いながらになんとなく分かったのだろう。
     ――もしここで、自分と兄の扱いが変わったならば、いよいよ自分は一族の中でただの添え物になる。
     それが分かったのだろう。兄は弟に向かって微笑むと、両親に話した。
    「この子はたぶん、自分の歳より上の勉強でも大丈夫だと思うから。どうしても駄目なら僕が教える」
    こんなことを言ってからしばらくして、先生側にも融通してもらい兄弟は同じ習い事を、二人分にしては格安の値段で一緒にすることが多くなっていった。
     兄は弟と出来を比較されて悩むことが増えたが、自分の言葉に後悔はしておらず。
     弟は兄に感謝し、兄より不真面目な振りをし、そのくせ先生に放り出されない加減を考えて習い事を続けていた。

    ◯ケ・セラ・セラ 第二話

     「ところで、あの天祥院の跡継ぎさんってお前の友達だったかい? 日和と同い年の子」
    生け花の習い事を終えて兄弟揃って帰る時、兄の方が声をかけた。
    「ああ、英智くん。いえ全然。仲良くしてたらそれこそ家の人に叱られちゃうね」
    弟は素っ気ない返事をした。
    「そうなの? 前に共謀して〈潮干狩り〉の現場覗こうとして二人してこっ酷く叱られてたじゃない」
    「あ、あれはぼくも向こうも興味があって、利害が一致したから手を組んでみて、でもあの、英智くんのせいでバレちゃって……」
    指摘すると弟が慌て始めたので兄はおかしくなってしまった。
     この辺りの地域では、天祥院という財閥が持つお屋敷に、他の高貴な身分の人間が集う年末の催しがある。巴家の兄弟も、ある年から親に連れられて訪れるようになっていた。
     こういう集まりがあると、弟の方は同い年である天祥院の跡取り息子に声をかけられることがあった。同い年だけあって二人は似ているところもあるものの、大きく違う部分もある。周りの大人たちは仲の悪い両家の子息が話しているだけで良くない噂をするのだが、日和はそれに気づくと天祥院家の子から離れようとし、向こうは気づいてもそれを無視し、気にしてないかのように話しかけ続けてくるのである。
     弟はそんな天祥院英智という子を鬱陶しがっているのかと兄は思っていた。しかし昨年の年末、大人だけのちょっとしたお遊び〈潮干狩り〉の現場を、日和が英智と共謀して覗こうとしたものだから、兄も他の巴家の家族もみな驚いたものだった。
     壁の一面が大きなガラスになっており、分厚く長いカーテンがその前を覆っていた広間。大人たちが集まり〈潮干狩り〉が始まる前の雑談をしていた時、誰かが目ざとく、もぞもぞ動くカーテンの一枚を見つけた。めくってみると、そこには隠れていた子どもが二人いたのである。

     「実際のとこ……兄上はこの前、始めて〈潮干狩り〉行ってましたよね? 何をする遊びなんですか?」
    弟はおずおずと聞いてきた。未だに遊びの内容が気になっているらしい。
    「うう、あーうん。怖かった……」
    兄は苦笑いする。実態はなんとも悪趣味なサバイバルゲームだったのである。知らない方がいいのではとすら思える。一応、この地域の歴史を元にした大事なもの……と、たまたま天祥院家の人が云われを説明しているのを聞いたことがあるが、それこそたまたま聞いていなかったら他の家の人は誰も知らなかったほど形骸化した行事だ。もはや、そこまで運動が得意でない人間にとってはひたすら心臓に悪い時間でしかないのである。
    「こ、怖いの……?」
    「そう……だからまだ聞かないでおくれ。むしろ大人になったあかつきには日和も参加させられのかと思うと、この兄上は……」
    真剣な顔で言うと、日和は何を想像したのか青ざめた。それが兄からするとちょっと可愛かった。
    「ふふ。そろそろ話戻していい? 何が言いたかったかと言うと……まあ友達じゃないからって気持ちが楽になるものでもないけど。天祥院さんのところの英智くん、また持病が悪化して入院したんだって」
    「……はあ」
    「うん。私も年が離れているから別にたいして思い出とかはないのだけど。むしろあそこの家はライバルみたいなもんだから……」
    何やら微妙な顔をし始めた弟をよそに兄は続けた。
    「……ただ。家の人が、いい気味だって……このまま後継がどうにかなって天祥院の家も落ちぶれちまえばいいって……私に聞こえる距離で話しているのが辛いんだ……」
    「……誰が言ってるのか知りませんが、もし召使いならなってないね。未来の当主の前でそんな話」
    弟から今度はピシャッと厳しく断じるような言葉が返ってくる。さっきまで〈潮干狩り〉に怯えてたくせに。そう思うと面白かったが、兄は言葉を濁した。あまり誰から言われたのか言及されたくなかったのだ。これを自分の前で話したのは……。
    「だいたい、そのセリフ。ぼくたちの一族が没落してるっていう前提の認識があるから出てる。それが余計、ムカつくね」
    「……実際、没落貴族みたいなものだよね。私たち」
    「兄上はそんな言葉、口にしちゃ駄目だね」
    さらに口をとんがらせて注意してきた。兄はその顔を見て、一旦考えていたことを打ち切って苦笑いをする。
     一方、日和は兄の様子を確認しながら、ひそかにこんなことを考えていた。

    (それにしても、兄上が英智くんの話をするからバレちゃったのかと思ったね。ぼくが、家の人に頼まれたこと。没落貴族の醜い立ち回り)

    ◯ケ・セラ・セラ 第三話

     兄弟のやりとりから数日後。
     天祥院英智が入院するとある病室にて。彼の病室からは時折、ごほごほ、ごほごほと苦しげな咳の音が漏れ聞こえていた。
     ベッドの中で、天祥院英智は孤独に、少し気弱なことを考えながら過ごしている。
    (ああ、咳をしすぎて胸が痛いな。胸の骨折れちゃってないかな? 僕の体は貧弱すぎるから、本当にその程度で折れてもおかしくないよ)

     「……英智」
    孤独な英智を救うように声がかかった。これは僕の唯一の友達の声だと気づき、英智は瞬間的に心が温かくなった。だが〈あの約束〉をした友人の声だと思うと、逆に自分の〈お迎え〉に来た死神のようにも想像してしまう。そしてその想像すらも、英智を安らかな気持ちにさせてくれた。
     気づけば咳も止まった英智は、天使のように微笑みベッドから友達に声をかけた。
    「来てくれたんだね。敬人。今日こそ僕のためにお経をあげてくれるんだね」
     天祥院家と親しくしている寺の息子である敬人は、身分こそ違うが英智の相手をよくさせられている少年だ。英智は体が弱い上に、もう少し幼い頃は世を舐め腐った我儘坊ちゃんだったため、家では家族にほっておかれたり、もしくは病院に押し込められたりという人生だった。そのため、ほぼ敬人しか気安く話せる存在がいないのである。
     二人は……というか英智は、よく自分が死んだらという話題をおしゃべりの中に持ち出していた。敬人も敬人で、寺の息子なせいか“死”というものに慣れており、普通にその話題で盛り上がってくれた。そしてある日「もし英智が死んだら、俺がお経をあげてやる」と言い出したのだった。〈死んだら〉である。この日の敬人はもちろん、まだ生きている英智に文句を言った。
    「何を言ってるんだ、まだ死んでいない。病院でそういうことを言うのをよせ。一応言っておくが、英智が死んだら俺は普通に悲しむ。涙も流すだろう」
     真面目そうとよく人に称される顔立ちをした敬人は、口調まで子供らしからぬ固さをしていた。真顔のままベッド脇の椅子に座る。英智は彼の顔を見つめ、本気で心配してくれていることを表情で察した。しかし少し茶化しながら返答した。
    「どうかな? 敬人は最近墓場に通ってるとか言っていたじゃないか。あれだろう、僕を入れるのにちょうどいい墓を探しているんだろう? あの零ちゃんとかいう子と一緒に」
     だいたい敬人の堅物ぶりなんて、見せかけだけの張りぼてだ。頭のいい奴になりたいだけの見栄っ張りなんだ。大人は「敬人くんはしっかりしたお顔ねー」なんて言うけど、よく見てほしい。よく見れば目だって大きくて可愛い顔してるんだ、確かに怒られると本気で怖いけど。……英智は敬人に対してそんな認識だった。
    「むう。英智、俺が零ちゃんの話題を出し始めてからというもの、たびたびそうやって俺たちのことをからかってくるな。別にそういう関係じゃなくて」
     英智の本音を知ってか知らずか、敬人は首を横に振りながら不服そうにしている。
    「だって寂しいんだ。ぼくのたった一人の友達と言ってもいいくらいなんだよ敬人は。それをその『墓場零ちゃん』に取られたみたいで」
    「取られたとはなんだ。俺はそもそも誰のものでもないし、英智には一人しか友達ができないとも思わない。あとなんだ『墓場零ちゃん』って。『墓場鬼*郎』みたいだな⁈」
    「あはは、今日も敬人のツッコミは冴え渡ってる。でも僕、友達って実際いないんだ」
     ツッコミで早口になっている敬人の様子に、英智はとりあえず満足することにした。彼は最近〈零ちゃん〉とかいう、何故か墓場で逢引きしてるらしいお友達にご執心で、それもまた英智の寂しさを助長させるのだった。
     逢引きって表現が適当かはわからないけど、とにかく寂しいったら寂しい。
    「社交場で会う、姫宮さん家の桃李くんも、朱桜さん家の司くんもまだちっちゃいし」
     紛らわすように英智は自分の身の回りにいる子供の方を思い返したが、結局余計にため息が出るだけだった。敬人も英智の付き添いで社交場に出たことが何度かあるため、頭の中でその名前の子供たちを思い出すことができた。
     桃李というのは確か、いかにも愛らしい姿をして、英智を遠くからうっとりと眺めていた子だったはずだ。隣でよく似た妹がものすごく不機嫌そうな表情で、そんな兄にくっついていたのも覚えている。司という子は桃李という子と同じくらいで、比べるとこっちの方がキリッとした顔立ちだったような気がする。
    「巴さん家の同い年の子は……」
     聞きながら、敬人はどんな奴だったかなと頭の中の検索を続けた。えっと、髪の毛がふわっとしていて、雰囲気も、黙っていれば柔らかそうというか優しそうな子だったか。
    「一度、友達になってって頼んだことあるけど、『家が仲悪いから駄目だね』だって。あの子、意地悪だね」
    どうも喋ってしまうとそんな奴らしい。敬人もため息をついた。
    「そうか……。仕方ない、それなら俺が世話をするしかないな」
    「うん、よろしくね」
    「まったく。病院の方で同じ年くらいの子は見かけないのか?」
    「こんなところで友達作りたくないよ」
    「そう言うな。どんな場所でも友情は花開く。お前が心底好きになれる人間とも出会えるかも知れんぞ」
    おっと寺の息子の御説教が始まったなと英智は警戒しつつも、ついくすっと笑ってしまった。二人のいる病室が少しだけ教室みたいな空気になってくる。
    「どうかな〜? しょっちゅう見かける同じくらいの年の子と言ったら、いつも特撮物のフィギュアを大事そうに握りしめて通院してる子しかいないよ。まさかあの子と友達になれって?」
    「どうしても寂しくなったら、それも選択肢の一つだと思うぞ」
    「ええ。体が弱いって嫌だな。友達を選ぶ選択肢すらそんなので」
    「そいつはフィギュアを持っているだけなのに、ひどい言いようだ」
    実はオタクに理解ある寺の息子敬人くんは、そんなコメントをして、またため息をついた。英智はまたくすくす笑う。
     いつの間に、病室に夕日が差し込み始めている。その光に敬人が気づいた。
    「おっと、こんな時間か。お見舞いのフルーツを置いていくから気が向いたら食べてくれ」
    「そんなあ。もうちょっといてほしいな。……あっもう帰っちゃった」
     横開きの扉をガラガラと開けたと思ったら、さっさと敬人は閉めて帰っていった。しばらく英智は閉まった白い扉を見つめていた。
     こうしている間にも敬人は病院の外まで進んでいるかもしれない。窓の方を覗けば、今度は外を歩く敬人が見えるだろうか。
     試しに扉から反対側にある窓の方へ目を向ければ、本当に遠のく敬人の背中が見えた。丸くて可愛くて憎たらしい後頭部が、歩くのに合わせて上下している。
    「イラっとしちゃうな。帰り道の敬人の頭めがけてこのフルーツ投げつけちゃおうかな……やめよう。農家の人に悪いや」

     ガラッ。白い扉が開く音がした。窓から、また反対側の扉の方へ英智が目線を向け直した。
    「こんにちは、英智くん」
    「えっ君は……」
    全く予想していなかった人物が立っており、つかつかと自分の病室に入ってきた。その人はにこりともしなかった。英智は驚きのあまりかける言葉を見失っていたが、やがて恐る恐る確認した。
    「巴さんとこの……」
    「このフルーツ、他の人のお見舞い?」
    日和は英智の質問には答えずに、敬人が残したフルーツバスケットを指差し自分の質問を上から重ねてきた。
    「……そうだよ。お見舞いに来た友達が……君とほとんど入れ違いに出ていって……」
    「ふーん。……ねえ。この林檎、向いてあげようか?」
    「う、うん……」

    (続く)


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