人をダメにする半助(もちもちのすがた)「半助、なんだかちょっと太ったな」
「えっ、本当ですか」
言われて腹を押さえると、確かにお肉が付いている。ここ最近、なんとなく体が重いと思っていたのは、疲れのせいだけではなく、実際に重くなっていたらしい。
思いつく原因といえば、いつもの学園長先生の思い付きのせいだ。またもや教科の授業が遅れまくった。ゆえに二週間くらい詰め込みで一年は組のよい子たちに教科の授業して、テストして採点して、授業の準備して、脳を働かせるために差し入れの甘いものを食べたりして、運動できていないままばたんきゅ〜で寝るという生活をしていたのだ。今までの人生で、太る、ということがなかったので、ちょっぴりショックである。それだけここが豊かで恵まれた、安全な環境だということかもしれないが。
「まあ、あんたは若いんだし、ここ最近生活が荒れてただけで、すぐ元に戻るとは思うが。あんまり根を詰めすぎなさんな」
「は、はい」
「今回は、実技に関しては騒動の中での評価ができたからなぁ。なんか手伝えることがあったら言いなさいよ」
「ありがとうございます、一応区切りはついたはずなので……、私が生活を戻すのを見張っていてもらえると助かります」
頬を押さえると、頬の肉も多少増えている気がする。見た目でわかるくらいなので、結構全体的に贅肉が付いたのだろう。手伝ってもらうことは特にないが、せっかくなら頼みたいことならあった。
「あの、ちょっとギュッと抱きしめてもいいですか?」
「はい?」
「人との触れ合いは心を満足させるといいます。ここで癒されておいて、明日からのダイエットへの気分転換をはかろうかと」
「はあ……、まあ別に構わんが」
軽く手を広げて受け入れ姿勢を取る山田先生に、遠慮なく抱きついて抱き込む。あれだけ強くてかっこいい山田先生が、抱きしめると自分の腕の中に収まってしまうのは、なんだか不思議でこそばゆい気持ちになる。背が高くなって得をした。山田家のみなさんに助けてもらった時には、山田先生とあまり目線が変わらなかった筈なのだが。それから栄養状態が改善され、忍術学園の教師になってからも食堂のおばちゃんの美味しいご飯ですくすく育ち、実はまだ身長が伸びているらしい。横に伸びるのは控えておきたいところだが。
「はぁ〜、癒されます……」
「半助」
「はい」
「なんかこれ……」
背中を抱き返してくれている手が、するすると背中を探る。背中から腰、横腹を撫でられて、皮下脂肪をむにりとつままれる。
「もちもちしてて、気持ちいいな」
すり、と体を寄せられてドキリとする。艶のある黒髪が視界でさらりと揺れた。
「いや、でも健康のためにも戻した方がいいな。太ってる忍者とか、教科担当にしても威厳がないし。休暇明けのしんべヱに説教するにも説得力に欠けるしな。となると、期間限定のもちもちかぁ」
「あの、それでしたら今のうちに堪能しておくというのはいかがでしょう」
生まれた下心のままに山田先生の腰を抱き寄せると、べしりと横腹を引っ叩かれた。ついた肉の分、いつもと音が違って不思議な気持ちだ。
「重い男を上に乗っける趣味はないです、潰れる」
はぁー、でもこの触り心地はなかなかいいなぁ、と抱きしめ直される。生殺しだ。あなた、潰れるようなヤワな体してないでしょう。絶対とっとと痩せてやる、と決意した。