いちゃいちゃ ワールドカップも終わり日本に帰国してからというもの、真田はよく烏龍茶を飲むようになった。部活帰りに水筒が空になってしまったときなど「わざわざ外で水を買うのはしゃくなのだ」と緑茶を選んでいたあの真田が。しかも選ぶのは決まって割高の黒烏龍茶なのだ。
よく冷えたジャスミン茶のペットボトルを手に取りながら、もしやと考える。
「ねえ、それってもしかしてお前の黒龍にかけてるのかい?」
「よく気がついたな!」
「間にカラスが入っているよ」
「うむ。だがまあ、黒龍には変わらん。自分の編み出した技に愛着がわくのは当然だろう」
そうかな。俺はべつに街で見かける鏡という鏡に親近感を持ったりはしないけど。
それよりも、ちょっとだけつまらない気持ちになっていた俺はすっかり油断している様子の真田の脇腹をつついた。
「こ、こら、幸村っ! 何をする!」
「真田はさあ、もう風林火山のことはどうでもよくなっちゃったの?」
「は?」
「発案者としてはもっと大事にしてもらいたいな」
困惑したように真田は眉を寄せて、三秒ほど考え込んでからはっと目を開いた。
「言い出したのはお前だが、言っても共同名義というところだろう」
ずっと昔にテニスクラブのコートでラリーを続けながら交わした会話を、真田はちゃんと覚えていてくれたのだ! 思わず口もとが緩んでしまう。気づいたら真田は調子に乗るだらうから顔を背ける。すると焦ったように真田が弁明めいた言葉を続けた。
「言っておくが蔑ろになどしとらんぞ」
「本当に?」
「風林火山は俺の大切な礎だ。陰と雷が生まれたのもさらに嵐森炎峰へと進化を遂げたのも俺の努力の結果だが、そこにはいつも精進するお前への尊敬があった」
勝手に不安になるな、と言い置いて先にレジへと向かった真田の背を見つめているうちに、こらえきれず破顔していた。
「まったく。いつの間にこんなに頼もしくなったんだろうね」
「何か言ったか?」
「ううん、なんにも」
悔しいから、お前の言動で俺の心のうちが天気のように変化することを教えてなんかやらない。俺がすねたり笑ったりするのに、お前も悩んだり嬉しくなればいい。