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    みやこ

    @nevergivedog

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    みやこ

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    赤也が一人で入院中の幸村のお見舞いに行く話
    お題「パジャマ」

    たぶんのサクラかそれか何かの 幸村部長が倒れたとき俺もそこにいた。救急車で運ばれていくのも見た。なんていう病気か柳生先輩が説明してくれたのもちゃんと聞いてた。家帰ってからナンタラカンタラってその名前、自分でも検索したし。でも結局何が何だかよくわかんなかったけど。
     部長のことだから、入院とか言ったって、来週あたりけろっとした顔でコートに戻ってくるんじゃねえのかなって、そんでやっぱ強いまんまで、誰も勝てないって、思ってたんだよな。あのときはさ。
     自動ドアの向こう側に踏み込んだら靴が床とこすれてキュッという。ヤな音。慣れたけど、できれば慣れたくなんかなかった。
     案内行って、紙に名前書き込んで、面会用のカードは入院病棟行きのエレベーターの中で首にかけた。病院ってどこも息がしづらい。デカいとこはなおさら。母ちゃんとか姉ちゃんは俺がちょっと咳するだけでさっさと病院行けってうるせえけど、誰が好きで行くかっての。
    「こんなに足繁く通わなくたっていいんだよ。部活終わりは疲れてるだろ」
     幸村部長にもそう言われたし、なにも一人で来ることないんだよな。だけど、たまーに、なんとなく、今日はどうしても行かなきゃいけないだろって日があって、そういうの無視して真っ直ぐ帰るとだいたい夕飯食ってるときに悪いことしたみたいな気になって落ち着かない。
     誰も誘わないでお見舞いすると、ばったり真田副部長とはち合わせたりして気まずい。二年んときからずっと怖えけど、幸村部長が病気する前と後だとなんていうかその種類が違う。わざわざ言わねえけどみんなそう思ってんじゃねえかな。ってか、部活終わる時間は俺と同じなのにどうやったら先に着くんだろ? ダッシュしてんのかな。それはちょっと面白い。見かけたら絶対写メって一、二年のグループメッセージで共有してやろう。
     病室の前で足を止めるとちらっとネームプレートを見た。三〇五号室、幸村精市。よーく見てきた名前。トーナメント表にも表彰状にも盾にもトロフィーにもメダルにも学校のパンフレットにも地元の新聞にもテニス雑誌にも、いっつもこの人の名前があったのに、ここで見るとむずむずする。ここじゃないだろ。こんなとこじゃないだろ、あんたがいるのは。
     深呼吸して腹を決めるとドアをノックした。視聴覚で受けた柳先輩のお見舞い講習を思い出す。テニス部全員が視聴覚室にぎゅうぎゅう詰めになって黙って聞いてたっけ。あれって何ヶ月前だ? 配られたプリント、たぶん鞄の底でくちゃくちゃになってるな。
    「お疲れ様です! テニス部二年、切原っす」
     すぐに「どうぞ」と声がしたので遠慮なく開ける。
    「いらっしゃい」
     ベッドの端に腰かけた部長はさっきまで本を読んでたのか、持ってる本の間から栞のリボンが飛び出していた。
    「掛けなよ」
     ちょいちょいと手招きされて、お見舞い用に置いてあるパイプ椅子に座る。座るところが冷たくてヒヤッとした。体ん中の温度がスーッと下がっていく。
     ……あーあ、だめだな。やっぱガツンときた。もう初めてでもなんでもないんだぜ。知ってんのに、わかってんのに、食らってしまう。病室の部長がいっつも似たような薄い色のパジャマなのが、パワーリストを巻いてた腕の白いとこと日焼けしてるとこがどんどん同じ色になってくのが、消毒液のちょっとツンとしたにおいが、白すぎる壁紙が、その全部がキツイ。
     俺の知ってる幸村精市はカラシ色のテニスウェアを着てる。ジャージを肩に羽織ってる。おろしたてみたいなヘアバンドしてる。なのにさ。まいったなぁ。
    「赤也って花粉症だっけ」
    「え、なんでいきなりそんな話になったんすか」
    「だって鼻すすってたからそうかなって。今年はあたたかいらしいし、部活中はこたえるだろうなあ」
     幸村部長は窓の方を見ていた。ここから特に春らしいものが見えるわけでもないのに。
    「まあ、確かにあったかいかも? あーっ! それで思い出した、聞いてくださいよ! まだ夏前だってのにみんなウォーミングアップでへばってて。情けねえの」
    「本当? 関東大会前にそれじゃ心配だ。今度、真田に練習の様子を聞いておこうかな。お前も水分補給忘れるなよ」
    「はいっす」
     頷きながら俺はまた無意識のうちに鼻をすすってしまい、すんっと湿っぽい音がした。幸村部長にも気づかれたかもしれない。さすがに回数が多すぎるって言われたら、今日から花粉症になったってことにしよう。
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    みやこ

    DONE幸真
    きっといつか重たい雲の間から光がさすから。

    にわか雨に降られた2人が駅で雨宿りしています。
    いつか光がさすように 真田が怒鳴っていた。なにか言っているのはわかるのに、はっきりと聞き取ることができない。
    「聞こえないよ!」
     俺も負けじと声を張ったが、それも伝わったのかどうか。
     夕立は勢いを増すばかりで、バラバラと大きな雨粒が容赦なくアスファルトに叩きつけ跳ね返る。会話をしようとするとどうしても叫ばなければならなかった。意思の疎通が成功しているとはとても言えないけど。
     開けた海岸沿いの遊歩道に、雨宿りできそうな建物や葉の茂った樹木は見当たらず、ただひたすらにバシャバシャと水を蹴散らして駅へと走っていた。
     道を渡れば目的地はすぐそこなのに、ちょうど赤に変わった信号に足止めされ、こんなときに限って車は絶え間なくやってくる。点字ブロックのくすんだ黄色をじっと見つめていたら、雨をかいくぐっていらいらとした舌打ちがちっ、と耳に飛び込んできた。そっと真田をうかがう。真田はそうすれば信号が赤から青へと変わると信じているみたいに睨みをきかせている。責められているような気がするのは実際すまないと思っているからだろうか。
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