カーテンの隙間から見える月明かりだけがシーツの上、縺れる2人の輪郭をぼんやりと照らす。肌から伝わる体温と絡み合う舌が互いの興奮を煽った。
「んっ…むぅ、ふぁ……」
「ん…ふっ……はぁ、アキラくん…いい?」
悠真の呼びかけに答えるように、背に回るアキラの腕にじんわりと力が篭もる。それを肯定と受け取った悠真は、まるで同じ男とは思えない触り心地の良い白い肌を指でなぞる。そっと内腿に手をかけ、グイッと開いたところでこの場に似つかわしくない小さな声が聞こえた。
「くしゅんっ……」
「え…?」
「あ……ごめん…」
咄嗟に口元へと抑えた手をそのままにアキラは少し恥ずかしそうにふいっと顔を背けた。
「もしかして寒かった…?ちょっと待ってね…」
ベッドの下の方に丸められていた掛け布団をグイッと引っ張ると、寒さに震えているであろうアキラに掛ける。そして今にも寝かしつけようとしてくる悠真にアキラは慌てて訂正した。
「ち、違うんだ!風邪とかじゃなくて…その、僕花粉症なんだ……」
「花粉症…?そっか、もう……」
ズズっと鼻をすするアキラの横でもうそんな時期かと思いに耽ける。執行官なんて忙しい仕事をしているとあまり日付の感覚がなくなるもので、僕はふとカレンダーを眺めた。
(そっか…今日からもう4月か…ん?4月?)
4月、その辺の子供達がきゃらきゃらと笑いながらウソをつきあう日。そう…今日はエイプリルフールではないか。
「ん?悠真…?」
(とはいえ…アキラくんが引っかかるわけないよな〜。でも…)
「アキラくんはいつから花粉症なの…?」
「そうだね、確か17の頃だったか…?悠真はなったことないのかい?」
「ん〜17かぁ、僕今18だからもしかしたらこれからなるかもね〜」
「ん…?」
「え?どうしたの…?」
(あれ…?もしかして…)
「悠真…。君、今いくつだって…?」
「えっと…18、だけど……」
その言葉にアキラの顔がどんどん青ざめていく。これはもしや…。
(アキラくん…僕の嘘信じてる!!?)
「悠真…緊急家族会議だ…。今すぐ服を着て、そこに座ってくれ…」
「え、っと…アキラくん?その…」
「いいから、早く」
「は、はい…」
アキラのものを言わせぬ雰囲気にとりあえず服を纏って、そこになおる。テーブルをひとつ挟んで向かい合う僕達は先程まで愛し合っていた恋人とは思えない空気を醸し出している。そう、まるで修羅場かのような…。
「あ、アキラくん?とりあえずコーヒーでも飲まない?一旦落ち着こう…ね?」
この空気を少しでもどうにかするため、暖かいコーヒーをアキラの手に持たせる。
「ぼ、僕は落ち着いているとも…!全然、ほんとに…」
「いやいやいや!コーヒーを持つ手がとんでもなく震えてるよ!」
(僕が未成年だからってこんなに動揺するなんて…まぁ嘘なんだけど…)
「そんなに動揺しちゃってどうしたの…?アキラくんらしくもない…」
「だ、だって悠真が未成年なんて…知らなくて…!そんな若い子に手を出してたなんて…僕は一体どう詫びたら…」
「え〜詫びる必要なんてなくない?僕が同意してるなら…」
「そ、そんな問題じゃない!とにかくこれから先、悠真が成人するまで僕は一切悠真に触れないから!」
「ぇ…え!?そんな!ほら!アキラくん一旦こっちおいで?キス好きでしょ?」
「だ、ダメだ!未成年淫行になってしまう!」
「同意してるならならないよ!」
(まずい…)
珍しく焦っているアキラくんが面白くて、そのままにしていたがこれはとでもまずい事態になった。このままでは本当に2年後まで性行為どころがキスすらさせてもらえなくなってしまう。
(潮時かな…)
「アキラくん…あのね?」
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「うぅ、アキラくんごめんって…そろそろ出てきてよ〜」
「悠真なんてもう知らない…!」
大きな布饅頭となってしまったアキラにどうにか許してもらおうと上から摩る。だがご機嫌ななめな僕の恋人はちっとも出てくる気配がない。
「まさかアキラくんがエイプリルフールの嘘を信じるなんて思わなかったんだよ…」
「悠真!君の嘘はとても分かりにくい!つくのならもっと大袈裟についてくれ!」
抗議するようにガバッと飛び出て来た、アキラの身体を捕らえるように抱きしめる。
「はい、捕まえた…」
「うぅ…僕がどれだけ焦ったと…」
「ん、ごめんね…。もうしないから機嫌直して?」
子供っぽく拗ねるように俯くアキラの首筋に口付けを落とす。
「そうすれば…また僕が絆されるって思って…」
「そんなつもりはないけど、僕は大好きなアキラくんにキスできなくなるのは嫌だからね…反省してるよ……」
「ん……」
「だから仲直りしてくれる…?」
今度はアキラの唇に己のをものを合わせると、アキラの腕が自分の首に絡む。許されたと解釈した悠真は口付けを深くして行った。
「ふぅ…もう寒くない…?」
「だからあれは花粉症だって…」
「あはは…そうだったね、じゃあ大人しか出来ないこと、しよっか?」
他の人より細い身体を軽々と持ち上げ、ベッドへと押し倒す。再度暗くなる部屋にアキラの赤く染まる首筋がとても映えた。夜の戯れはまだまだこれからである。