「会宮さん」
「ん? ああ、名取か」
いつも通りに妖と人が入り混じり賑やかな会合の場で、ふいに声をかけられて振り返った先にいたのは名取であった。彼と会うのは先日の箱崎邸以来となる。
「この間は残念だったな」
せっかく良いものが手に入りそうだと名取も誘ったのだが、結局秘密の部屋の入り口は見つけられず、噂によれば式の手で全てが燃やされてしまって、あの的場一門ですら何も得られなかったのだという。強引に裏口を開いたとも聞いたので、それが式の不興を買ったのかもしれない。力のある一門とはいえ、そのやり方にはいつも冷や汗をかいてしまう。
「いえ。誘っていただいてありがとうございました。こちらはお礼です」
そう言いながら名取は菓子折りと符を一揃い渡してきた。
「は? いや、名取、これ」
名取の符は一部の間でかなり人気で、本人が他者へ流出させないことも相まってもし手に入れられたならちょっとしたラッキーアイテムとして扱われる。世間一般でいうところのプレミアというやつで、下手をすればそこいらの多少有名な御人が書いた書より価値があるのだ。そんなものを渡されて、一体何事だと会宮は驚愕した。
「その、おかげで少しだけ友人と仲を深められまして。これくらいしかお渡しできませんが」
名取がそう少しばかり照れ臭そうに言うものだから、会宮はますます驚いてしまう。昔から人と一線を引くところがあった名取が、最近はよく行動を共にしている少年がいるとは聞いていた。力が強いと聞いていたので、そういう関係で連れているのかと思ったがどうやら噂通りではないらしい。目の前にいる名取は年頃の青年らしい表情で、その少年が友人だと語っている。