「それちょうだい」
出会い頭、何を言うかと思えばこちらに拒否権は無いと言わんばかりにすっと差し出された手のひら。
「…俺の意見を聞くつもりは毛頭ないようだな」
その手のひらをじっと見つめ、何を、何故、何のためにちょうだいと言っているのか考える。主語もなければ修飾語もなく、彼が言うのは単なる要求のみ。それに、昨日や一昨日まではオロルンが何かを欲しがる素振りを見せることはなく、これまで通り与えられた天幕の中で寝て起きて食べて周囲を調べて…という生活をしていたはずだ。その時オロルンと何度かは言葉を交わしたが、どちらも忙しく、こんな出会い頭に何かを要求されるような会話はしていない。
つまるところ、全く分からない。考えた時間が無駄だった。
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