見守るチョロカラ(未完)「パチンコ行く人~!」
ニート第一号、おそ松が高々と人差し指を掲げる。
本日も変わらぬ松野家の変わらぬ居間。変わらぬ様子でだらける六つ子マイナス一人のうち、この指止まれに応じる者はいないようだった。
なお、「マイナス一人」の十四松は野球に行ってしまって不在である。
「おれはいい。外出る気分じゃない」
「ボクもパス」
一松は部屋の隅から動かぬ所存のようで、トド松もスマホを見るのに忙しい。いつものことである。
「お前らは?」
二人を諦めたおそ松がチョロ松とカラ松を見ると、チョロ松もまた同じようにカラ松の方を振り返り見た。
「カラ松はどうする?」
「今ちょうどリリックが降りてきているんだ! 悪いがパチンコに興じている暇はナッシング!」
「あ、そう。なら僕もいいや。仕事で忙しいし」
「は?」
どうやら作曲活動の波が来ているらしい。小難しい顔をしたカラ松もまたパチンコの気分ではないようだ。
しかしそれより問題はもう一人の松である。とんちんかんなことを言って求人誌を読み出した彼に、思わず声をあげたのはおそ松ではなくトド松の方だった。
「え、仕事って何? チョロ松兄さん別に働いてないでしょ? ていうか今も全然忙しくなんかないよね?」
「働いてるよ」
「うそ、チョロ松兄さん本当に就職したの? なんの仕事?」
「痛々しいカラ松がイタくならないように見守る仕事だよ」
「てやんでいチキショウ! どうせそんなことだろうと思ったよバーロー!」
あまりに予想通りの展開に、チビ太の魂がトド松へ乗り移った。
なんせこの話はチョロカラなのである。チョロでカラなのである。起承転結全てにおいてチョロ松がカラ松のことをチョロでカラしているので、三男坊がチョロカラな行動を取っているのも自然の摂理なのである。
全ての気力をなくして大の字に寝転がったトド松に、チョロ松は真顔で追撃をかました。
「ちなみにカラ松だけじゃないよ。皆のこともを見張ったり見放したり見届けたり見限ったりするのに忙しいだから」
「おそらく残りのボクらに当てはまると思しき動詞が五人分ある」
「誰がどの動詞に当てはまるんだろう……」
「それはさすがに言えないよ。FC特典のネタバレになっちゃうもん」
「もうここまで言ってるんだから別に良くない!? あとさあ! もうツッコむのもクッソ面倒なんだけど一応言っとくとさあ! それ仕事じゃないよね!?」
「れっきとした仕事だよ。これだから社会に出たことないやつは」
「出てんだよ! どの松より先に出てんだよ! 一期七話見返してこい!」
「トド松、どうどう」
社会舐め腐り松に掴みかかりそうな勢いのトド松を、意外にも一松が宥めて引き止めた。野良猫の喧嘩に通ずるものがあったのかもしれない。
なお、正確なことを言うと六つ子が社会に出た(?)のは一期二話である。みんなで仲良くブラック工場に就職し、一松に至っては班長にまで出世した。
班長松になだめられたとあってはトド松も引き下がるしかない。大事なのは冷静になることだ。トド松は深呼吸で心を落ち着けた。
その間に一松が、触れなきゃいいのにチョロ松の「仕事」について聞いている。
「イタいのを防ぐって例えば具体的に何してんの?」
「具体的に言うと、例えば……。カラ松の痛々しいファッションをごく常識的なものに直したり」
「えっ……、あのジャケットとか? 直しちゃうの?」
「僕も本当はカラ松の好みを尊重したいよ。でもさ、鼠蹊部ぎりぎりのホットパンツ着て外をうろつかれるのはさすがにねえ」
「鼠蹊部って言い方が鳥肌立つほど気持ち悪いけど、確かにカラ松兄さんのファッションで周囲が痛々しくならないように防ぐのは大事かも」
「でしょ? 痛くてアバラも軋むし、変に露出が多いから見てると股間も痛くなっちゃうしね」
「ならねーよ! 下ネタじゃねえか!」
「あと、カラ松が家で痛々しい言動を始めたら被害が拡大しないようにする」
「なるほど。確かにクソ松のクソさは防いでもらいたい」
「でもどうやって?」
「部屋からみんなを避難させて、部屋を閉め切って僕ら以外誰も入れないようにする。カラ松の鼠径部も誰にも見せたりなんかしない」
「善意に見せかけた独占欲か?」
「まだ鼠径部こだわってんの!? 怖あ!」
「それにいくら痛々しさを防ぐって言っても、一人取り残すとあいつの心が寂しくて傷ついて痛々しちゃうからね」
「過保護! 甘い! 甘すぎるよチョロ松兄さん!」
「クソ松ごときで避難しなくても別にいいでしょ……。うざいのは確かだけど」
「そんなこと言ってアバラが折れたら大変だろ。大丈夫だよ一松、みんなの優しい兄さんであるこの僕が、お前のこともちゃんと避難させてあげるからさ」
「ヒッ……!」
「ちょっとやめてよチョロ松兄さん! 魔女宅でミルク飲んでる最中にオ○ノさんにウィンクされたジジみたいに一松兄さんがびっくりして怯えちゃったじゃん!」
「あいつが逆ナン待ちしてたらそっと止めたりとか」
「それは周囲の人のためにも止めた方がいいかもね」
「でしょ? ずっと声かけられずに一人っきりだったら、あいつの心も痛々しちゃうし」
「だから甘い! 甘っちょろすぎるよ甘チョロ兄さん!」
「町中でフリーハグしてたら……」
「止めるの?」
「いや、僕が最初のハグしに行ってあげる」
「キツいよ! 甘いのを通り越してキツいんだよ! 頼むからボクと同じ顔でキツさをプレリュードしないで!」
「だって一人もハグに行かなかったらあいつの心が」
「痛々しちゃうんだろ! もういいよ!」
(未完)