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    msk11170808

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    msk11170808

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    pixivにある「波風をたててみた。」の宿直室に向かったふたりの話です。
    書いた当初いらないなって削除した部分。

    #黒夜久

    波風を立ててみたのその後の黒夜久抱えられて運ばれたもののこの状態じゃドアを開けられそうにない。
    夜久はおろせばいいだろと言ったけど、黒尾がそれを聞き入れることはなかった。
    誰かいないかなと黒尾が人を探していたら、梟谷のマネ2人と出くわした。
    「何それ」
    「ウケる」
    開口一番そう言って笑った梟谷のマネ2人は、快くドアを開けてくれる。
    「じゃ、王子、お姫様布団に寝かせて~」
    と笑い混じりに指示を出すので、黒尾の腕の中にいる夜久は本気で憤死するんじゃないかとおもったほどだった。
    なのに、黒尾はへーいと適当に答えただけで、姫だの王子だのに堪えた様子はない。よし、あとで蹴り倒す。涼しい顔した黒尾を夜久が睨み上げると、お、元気そうじゃんとにやりと笑われた。
    「病院行く? 意識しっかりしてるから大丈夫そうだけど…」
    梟谷のマネにそう聞かれ、夜久はゆくる首を振った。まだ少しふらふらするけど、休めば平気そうな気がする。
    「とりあえず、コーチ帰ってきたらここにいるって伝えるね」
    飲み物などを用意すると二人は宿直室を出ていった。
    急に二人っきりにされて、夜久は何を言えばいいのか解らなかった。
    何であのくらいのことで赤葦を怒ったのか、連れ去るように宿直室まで運ばれた理由は? 部員の一人でしかないんじゃないのか? やきもち妬いたのかも…なんて、それはうぬぼれじゃないのか?
    ぐるぐると聞きたいことが頭の中を回るけど、何一つ口に出すことは出来なかった。
    「夜久、平気か?!」
    バタバタと慌ただしく直井が走り込んできて、ピンと張りつめていた空気が少し和らいだ気がした。
    一通り不注意を叱られたあと、ペタペタと身体を確かめられる。自分の状態を確認してる手の感触が少しくすぐったくて身動いだ。
    ふと黒尾の方を見ると不機嫌そうな顔で夜久と直井の様子を見つめている。
    何だろう? と思ったけど、直井が今後の指示を出し始め、聞くことは出来なかった。
    「まだ身体少し熱いから、脇の下と首、冷やすぞ。あと、水分を取って、休むこと。合宿は様子見になるな…。今晩はこっちで寝るか。エアコンあるし。俺が付き添ってもいいんだけど…」
    「あ、俺が付き添います」
    「…へ?」
    コーチの言葉の途中で挙手してへらりと笑った黒尾に、夜久は疑問の声を漏らす。
    「一応主将なんで」
    夜久の声は聞こえていたはずなのに、それを無視して黒尾はにこりと食えない笑顔を浮かべた。
    そうか、じゃ頼むと直井は特に疑問に思うことなく、黒尾の申し出を受け入れた。主将としての黒尾は監督、コーチともに信頼されているから、疑問に思うようなことでもないんだろうけど。
    「とりあえず安静にして、水分補給な?」
    「だってよ? ストローあれば飲めるか? 飲めねぇなら、あいつみたいに飲ませるけど…」
    直井コーチの言葉に、黒尾が乗っかってくる。
    さっきの不機嫌そうな様子はもうなくて、いつもの食えない男になっていて、夜久をからかうようににっと笑う。
    「飲める…」
    と、思う。という言葉は無理矢理飲み込んだ。
    顔は笑ってるのに、あいつみたいにって言った時の声が低くてちょっと怖かったし、有無を言わせず口移しされそうで、それも避けたかった。
    「そ?」
    いつものトーンに戻った黒尾にほっと胸を撫で下ろし、ストローの刺さったペットボトルに口をつける。直接よりはいくらかましで少量ずつではあるもののこぼすこともなく3分の1ほど飲み干すと、ぷはっと息を吐いた。
    大丈夫そうだなと呟き、夜久の頭をぐりぐりなでると直井はそれじゃあとはよろしくと部屋を後にした。夜久の状態がひどくないのを知って、直井一人今だ盛り上がり中の酒盛りから抜けてきたらしい。猫又先生一人にすると全員落とすから…と困ったように呟いていた。
    また二人きりにされてしまったことがひどく気まずくて、夜久はもぞりと布団の中で身体を動かした。
    さっきまで出しづらかった声も水分補給のお陰か喉が潤い、少し話しやすくなっていた。
    「黒尾…」
    「んー?」
    「部屋、戻っていいぞ」
    「何でだよ。何かあった時誰かいた方がいいだろ」
    「もう大丈夫そうだし」
    「万が一って場合もあるだろ?」
    「研磨はいいのか?」
    「誰かさんが自分そっちのけで面倒見てぶっ倒れたの知ってまでゲームしないだろ。おとなしく寝てると思うぜ?」
    「あー…飯は? 食ってこなくていいのか?」
    「何? 追い出したいの?」
    「…そういうわけじゃねぇけど」
    「そ?」
    「あ、風呂…」
    「やっぱ出てけって?」
    「ち、違う!」
    そう答えた夜久に黒尾はふっと笑った。
    「まぁ、とりあえず安静に、だろ?」
    「…おぉ」
    不貞腐れたり、怒ったり、穏やかに笑ったり、いつもよりコロコロと表情のよく変わる黒尾の様子をちらちら確認していると、大きな手を自分に向けて伸ばされて、夜久はびくっと身体を跳ねさせる。
    自分の反応に驚いた夜久は、何この反応、別に怖がってねぇし? だって、相手黒尾だしなんて布団に横になったまま、黒尾と視線を合わせた。その手を避けたりでもしたらびびってるみたいでしゃくだからと、そらすことなくじっと見つめる。
    「まだ身体が熱ぃな」
    確かめるように触れてくる手に心拍数が跳ね上がった。
    顎のラインにあるリンパを確かめるように首に触れ、肩や腕、腹にも手を当てられた。おかしな意味で触れているわけじゃない。そんなことわかってる。でも、さっき直井に触れられた時とはまったく違うのだ。黒尾の手に、好意を向けている相手の手に、身体を触られて、平気でいられるはずもない。研磨や他の部員にたいしてはわりとはげしめなスキンシップも、自分相手では鳴りを潜める。黒尾が夜久に触れることは滅多にないことだった。
    ドキドキと心臓うるさいのに、その手はとても心地いい。
    自分の身体より大分冷たく感じる黒尾の大きな手は気持ちよくて無意識のうちにうっとりと目を閉じる。
    「冷たい…」
    はぁ…と黒尾の大きめのため息がきこえ、目を開くと至近距離に黒尾の顔。
    「さっきの…赤葦とか、直井さんに対してもだけどさ、お前無防備すぎ…」
    呆れたような、怒ってるような怖い顔。じっと睨むように見下ろされ、いつもなら何だよ? って喧嘩腰に聞くような場面なのに、研磨の件や自分が倒れたこともあって、少し罪悪感があった。
    「…怒ってんのか?」
    口をついて出た言葉に自分でも首を傾げる。怒る? 何で? 無防備だから? 無防備だと何がいけないって言うんだ?
    「怒ってないよ」
    ほら、怒ってないって言ってる。怒る必要なんて黒尾にはないんだ。
    「…だよな」
    呟いた声がやたらさびしそうに響いて、なんて声出してるんだろうと他人事みたいに思った。
    「ただ…」
    そんな夜久をあやす様に黒尾の手が夜久の頬を撫でる。言葉の続きを求めるように、じっと見つめると濡れタオルを押し付けられた。額どころか目まで覆うみたいに。
    「やっくん、その目やめて?」
    困ったような黒尾の声。今、自分はどんな目をして黒尾を見てたんだろう?
    「…その目って、どんな目だよ」
    「色々抑えるのも大変なんだから、もうちょい自覚して?」
    ため息と共に落とされた台詞に首をかしげる。
    色々って、抑えるって、何なんだよって思うのに、冷たい濡れタオルと、そのタオル越しに伝わる黒尾の手の心地よさと、日中の疲労が重なってうとうとし始めた。
    「おさえ、るって…」
    「ほら、寝ていいぞ」
    話を続けたいのに、襲ってくる眠気に抗えない。子守唄でも歌うみたいに優しい声で言われて、意識が飛びそうになる。
    もやがかかったような思考回路できちんと伝えられてるか解らないけど、一応これだけは伝えておこうと重たくなってきた口を開いた。
    「抑えるって…何かよくわかんねぇけど、抑えなくて、いいんじゃね? 俺、黒尾にされて…嫌なことねぇ、し」
    「おっ、前ねぇ…解ってないのにそう言うこと言わないの」
    「でも…」
    「いいから、寝ろ」
    そう言って、少し乱暴に頭を撫でた掌が離れていく。
    心地よい感触が離れていく気配に、夜久は、あっ…と声をもらし、その手を掴んだ。ついでにすりっとその手に頬を寄せる。
    「まだ…もう少し…お前の手、落ち着くし、気持ちいい…」
    一瞬固まったあとぴくりと動いた頬に触れる指先に、ふと重たいまぶたを持ち上げて、黒尾を見上げると、眉間にシワを寄せて、固く目をつぶり、喉の奥をぐるぐるっと鳴らして呻いていた。まるで、猫みたいだな。喉撫でたらもっと鳴くかな? なんて黒尾の面白い表情を見つめる。
    黒尾が目を開いた瞬間、夜久もふわふわの雰囲気から現実に戻される。なんかおかしなこと言ってた気がする。いや、おかしなこと言ったって思ったけど、すでに遅かった。
    喉をごろごろ言わせてやりたいと伸ばした手は布団に縫い付けられている。自分の頭の両サイドを黒尾の腕に囲われる、いわゆる床ドン状態で、真上から見下ろされた。
    「な、に…?」
    押し倒されてるって言ってもいいような状態で、夜久は顔をひきつらせる。
    「ギリギリだって言ったよな?」
    「…う、ん?」
    「何されても嫌じゃないって言ったよな?」
    若干湾曲してる気がするけど、まぁ、そんなことは言ったような気がする…。
    「あー、うん…」
    「今のは、完全に夜久が悪い」
    低く落とされた声が聞こえ、蛍光灯の光がおかしな寝癖に塞がれる。
    うっすら暗くなった視界には黒尾の顔しか映らない。
    今まで経験したことないほど至近距離にいるっていうのに、更にせまってくる気配を感じて、夜久はぎゅっと目を閉じた。

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