遊園地 太陽の日差しが樹々の隙間から差し込んできた頃、今日も一人瞑想に浸る愛しの師匠の元へと向かう。
「ピッコロさん! やっぱりここに居たんですね!」
「悟飯、こんな朝からどうしたんだ?」
日差しに照らされる僕の師匠、ピッコロさんはいつも以上に綺麗でつい見惚れてしまう。
「あの……実は、今朝お母さんにこれを渡されて……」
「なんだそれは?」
「えっと、遊園地のチケットなんですけど……」
「何故それを俺に?」
ピッコロさん、そもそも遊園地なんて行った事あるのかな……いや、無いだろうな。
「あ、あの……お母さんが、たまには遊んで来いって…………ピッコロさんと、二人で…………」
自分でもわかるくらいに熱った僕の顔を覗き込むようにして、腕を組みピッコロさんはその場に座る。
「俺と? 何故だ?」
「お母さんは悟天とお留守番するから一緒には行けないって、だからピッコロさんと二人で楽しんで来いって……」
「そうか……それでお前は何故そんなに俯いているんだ?」
「……生まれたばかりの悟天をお母さんに任して、僕一人遊んでいいのかなって……」
「チチがそう言ったんだ。お前が悩むことでは無い」
ピッコロさんはいつも優しい。気を遣ってくれているのかわからないけど……。僕はいつもその優しさについ甘えてしまうんだ。
「う、うん……わかりました…………それと……」
「それと?」
「ピっ……ピッコロさん、一緒に行ってくれるか、不安で…………」
「……正直遊園地とやらはよくわからない。だから悟飯、お前が案内してくれるか?」
「……! は、はい!」
口角を上げ僕に笑いかけてくれるピッコロさんがあまりにも可愛くてドキドキした。
◇◆◇
園内に着くと想像以上の人の多さに目が回りそうだ。入り口付近のここは特別人が多いらしい。
孤独を愛するピッコロさんにとっては相当キツそうだ……。
「ピッコロさん大丈夫? こんなに混んでるなんて驚きましたね…………うわっ!」
人の波に流されてそうになった僕の腕をピッコロさんは掴んでくれた。
「わっ!! す、すみませ……ん!?」
今度は手のひらを……。
ま、まって……。今、ぼく、ピッコロさんと、手を繋いでる……!?
「逸れないようにしっかり掴んでおけ」
「……! はい! ピッコロさん!」
ピッコロさんと手を繋げる日が来るなんて……。ドキドキが止まらないよ……どうしよう。
緊張で胸が張り裂けそうなまま歩みを進めると、やがて人混みはなくなりアトラクションエリアへと到着した。
「ようやく空いてきたな。……悟飯、何か乗りたいものがあれば言え」
「じゃあ観覧車に乗りたいです!」
「あの回ってるやつか、よし行くぞ」
人混みが空いてもピッコロさんと繋がれた手は離れなかった。
暫く列に並んだあと無事ゴンドラへと二人で乗り込んだ。ピッコロさんは不思議そうに外を眺めている。
「こんな乗り物があったのか……」
「ふふっ……ピッコロさん、良かったら隣、座ってもいいですか?」
「ん? ああ」
ピッコロさんの隣に強引に寄り添うように座り込んだ。決して暖かくはないその緑の身体に僕の身体が触れる。
「……お前もまだ子供だ。いっぱい甘えればいい」
「……」
ピッコロさんは僕が甘えてると思っているのか。
違うよ、好きだからこうして寄り添ってるんだよ……。
観覧車を降りてからは、僕のわがままに付き合ってもらい、いくつかのアトラクションを楽しんだ。
◇◆◇
日が暮れる頃、近くで花火大会が開催しているらしく、遠くからそれを見守っていた。
「遊園地から花火が見れるなんてすごいですね!」
「花火とやらは初めて見るが、そんなに良いものなのか?」
「ええ、とっても綺麗ですよ!」
「そうか」と言って真っ暗な空を眺めるピッコロさんから目が離せなかった。
「もうすぐ始まるみたいです!」
――そうして打ち上がった花火に人々は目を輝かせ上を向いていた。
そんな中僕だけは、空を見上げたピッコロさんの横顔に釘付けになった。
「確かにこれは綺麗だな」
「……ピッコロさん」
「何だ? ……っ!」
地面から身体を浮かせ、口と口をぶつける。
「んっ……ふふっ……ピッコロさんの方が綺麗ですよ」
皆が空を見上げている中、僕たちは触れるだけの口付けを交わした。
「……っ!? な、何を言ってっ!」
顔を真っ赤に染めた姿があまりにも可愛くて、そのまま強引に手を引っ張って園内を出た。
「おい悟飯! 急にどうした!」
「あはっ! ピッコロさんと二人きりになりたくて!」
「もう園内はいいのか?!」
「うん! 十分遊び尽くしました!」
そして暗い夜道、繋いだ手は離さずに家路を辿った。
「ねぇ、ピッコロさん、今日は本当にありがとうございました」
「……楽しかったか?」
「はい! とっても!」
「なら、良かった」
本当に、楽しかった。だから、ピッコロさんと離れるのがいつも以上に嫌だとさえ思う。
「……ピッコロさんは?」
「俺はお前が楽しかったならそれで十分だ」
ピッコロさんはいつだって他人のことを優先する。そんなところが僕は嫌だった……。
「僕じゃなくて、ピッコロさんです」
「……えっ……あ、いや、その……お、お前と、同じ気持ちだと……思う……」
咄嗟に俯いたピッコロさんの耳は真っ赤に染まっていた。
ああ、またしたくなる。花火が上がった時と同じように。……そんな衝動を必死に抑えていると、ピッコロさんは静かに口を開いた。
「……おい、悟飯? そう言えばさっきのは何だったんだ?」
「さっきのって?」
今度は恥ずかしげもなく、人差し指で自分の唇を触った。
「ここに、触れただろ?」
「……っ! 本当に、知らないんだ」
「?」
ピッコロさんがこう言ったことに無知なのは承知の上だが、キスの意味すら知らないなんて……まだ子供の僕でもわかるのに……心配とさえ思う。
「ピッコロさん、僕、ピッコロさんが好きです」
「? 知っているが」
知っているなんて言うけど、きっと僕の言う「好き」の意味なんてわかっていないんだろうな。
「――じゃあ、大人になったら改めて言うのでそれまで待っていてくださいね!」
「? 何故大人になるまで待つんだ? そもそも何を待つんだ……?」
「ふふっ……いつかピッコロさんにもわかりますよ」
まぁ、わからなくても、わからせるんだけどね。
「あ! あとさっきのは僕以外の人とは絶対にしちゃダメですからね!」
「そうなのか?」
不思議そうに首を傾げてる姿はまるで僕よりも年下の子供のようだった。
「そうです!!」
「?? よくわからんが、わかった……」
だって貴方は僕だけのものなんだから。絶対に誰にも渡したりなんてしません。
――その時が来るまで待っていてね……ピッコロさん。