オカルトアドバイザー with小柄な医学生「……む」
終帳探偵事務所オカルトアドバイザーである艮逢魔が歩いていると、突如バサバサ、という羽音と共に視界の端に灰色のシルエットが映る。
「すみません! 大丈夫ですか?」
声と同時に逢魔の肩にハトが止まる。振り返れば、逢魔より頭一つ分以上下の位置に白い頭髪が見えた。その頭にもまた、白いフクロウが止まっている。
肩にかかった上着を靡かせて、逢魔はポーズをとった。
「問題ない。この鳥は貴様の使い魔か?」
「使い魔……? あの、大丈夫ですか?」
白い頭髪の小柄な青年――御使ユウは顔を上げて逢魔を見やる。逢魔を思いやるはずの言葉はなぜか、冒頭に「頭」が付いたように聞こえた。
逢魔は「フッ」と笑い、何事もなかったかのように人差し指をピンと立てる。するとバサリと音を立て、ハトがそこに移動した。
「すみません。その子怪我をしていたので手当をしてあげたのですが、その後逃げられてしまって……」
「ふむ。慈愛に満ちたその行い……感服した」
「……?」
御使は困惑の表情を逢魔に向けたが、逢魔は特に気にした様子もなく一人満足げに頷いているばかりだ。御使は逢魔に何か言うのを諦めたのか、逢魔の指先に止まるハトに目を向けた。
「でも、これだけ動けるなら大丈夫そうですね。にしてもお兄さん、これだけ鳥に懐かれるなんて……すごいです」
「ふっ、この俺に何か感じるものがあるのかもしれないな」
「それは分かりませんが……」
「ところでこのハトの手当てだが、かなり綺麗に施されているな。もしかして貴様……医師か?」
「あ、いえ。医学生ではありますが、まだ学生です」
「いや、その出立ち……もう立派な医師のようだ。これからはドクターと呼ばせてもらおう」
「はぁ……」
その時、突然ハトがバサバサと飛び立った。
逢魔は顔に手を当て、辺りを見渡す。
「ぬっ……何かよからぬことが起きる予感がする。確かに今聞こえたぞ、彷徨える魂の慟哭が。方向は……こっちか?」
「魂の慟哭……本当に大丈夫ですか?」
御使はある方向を指を差した逢魔をじとりと見やる。
逢魔は腕を下さないまま、
「ふ、若きドクターよ。この身を案じてくれているようだが、その心配は無用だ。なぜなら俺は、オカルトアドバイザー……言うならば、オカルトの専門家だからな」
「若き? わたしあなたよりも年上な気が……いや、そんなことより、チョコボが凄く怯えてます! 何かすごく嫌な予感がします!」
見ると、白いフクロウ――チョコボが突如バサバサと翼を広げ、御使の頭上を旋回していた。逢魔は不適な笑みを浮かべ、チョコボの方を見やる。
「ほう……その鳥も気づいたか、この異常に」
「あの、あれ、なんですか……!?」
逢魔が指を刺していた方向――その建物の影から、異様に巨大な何かが姿を表していた。それは明らかに人間の形をしておらず、にわかには信じられないことが起きているということを二人に感じ取らせた。
「早くここから離れないとですよ!」
「まぁそう焦るな」
そう言うと、逢魔は左目の包帯をシュルリと解いた。隠されていた左目がゆっくりと開かれ、紫色の光を発した。
「邪眼発動」
逢魔がそう呟き、彼の瞳が怪物を捉える。その瞬間、怪物が鬱陶しそうに腕を払った。動きが緩慢になり、こちらへ放つ攻撃も当たらなくなる。
「……!? 相手の動きが鈍くなった?」
「ふっ……小さきドクターよ、この邪眼によって動きを封じているうちに逃げるがいい!」
「え……――! でも、また後ろから敵が!」
御使の視線の先、怪物の背後から4,5体はいようかという異形がこちらへ向かってきている。逢魔と相対する敵よりは小さいが、それでも無防備な状態で耐え凌げるものでは無い。
「くっ……仲間を呼んだか。急げ! 貴様は逃げろ!」
「いえ。食い止めるくらいなら、できるかもしれません!」
御使はそう言い放つと、取り出した笛を思い切り吹いた。どこか遠くから鳥の鳴き声と羽音が聞こえてくる。
「鳥よ! 来い!」
そう彼が叫ぶと10匹はいようかという鷲やスズメ、キジなど多種多様な鳥たちが頭上に現れた。逢魔は目の前の敵に視線を向けたまま、何か異常な事が起きているということは分かったのだろう、驚きの声を上げた。
「お前……その力は」
「わたし、鳥を呼べるんです!」
「なっ、……なるほどな。鳥使い、ということか」
「みんな、そいつを食い止めろ!」
御使が手を前に突き出してそう命じると、鳥たちがいっせいに怪物の背後の異形たちに遅いかかる。バサバサバサッ!! という大きな羽音と共に異形たちの悲鳴が辺りに響き渡った。
逢魔はハッ……と口の端から笑い声を漏らす。
「お見逸れした……貴様もまた、通常ならざる力を持つものだったか」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ! 一緒に逃げましょう!」
見れば、異形共を倒した鳥たちが今度は怪物の方へ攻撃を仕掛けている。動きが緩慢になった怪物は鳥たちの攻撃に視界を遮られ、こちらに全く意識を向けていない。
「あぁ、恩に着る。逃げるぞ、ドクター!」
「行きましょう、こっちです!」
そう言って2人同時にその場を駆け出し、路地を抜け、狭い道路をまた走り、気づくと、終帳探偵事務所を有する雑居ビルの前に立っていた。
「はぁっ……はあっ……」
「……ふぅ、どうやら巻いたようだな」
振り返れば、怪物の姿はもうそこにはなかった。首筋を伝う汗を拭い、逢魔は爽やかな笑みを浮かべる。
「しかし、やるなドクター。あの鳥を呼び出す力……なかなかの力だった」
「こちらこそ助かりました。でもあなたのその目……どうなってるんですか?」
「ふっ……尋常ならざる力を持っている、としか言いようがないな」
「はぁ……やっぱり、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。それに……そうだな。ドクター、まだ名乗っていなかったか。俺は艮 逢魔。この雑居ビルに拠点を構える、終帳探偵事務所のオカルトアドバイザーをしている」
「オカルト、アドバイザー……? あ、僕は医学生の御使ユウといいます」
「あぁよろしく、御使ドクター」
「よろしくお願いします……?」
そう言うと逢魔は手を差し出した。御使は背伸びをして、遠慮がちにその手をとる。傾く夕日が逢魔の学生服と、御使の白衣を照らした。色彩も立場も異なる2人が握手を交わす。その2人には奇妙な共通点があることに、本人たちですら気づいてはいなかった。
【出演PC (PL敬称略)】
終帳探偵事務所 case5、6:艮 逢魔
/PL ぜろつー/白夜零兎
灰の降る街、花吹雪の夢:御使 ユウ
/PL ユニ
(あとがき)
御使ユウ→両親と生き別れている
艮逢魔→両親が亡くなっている
そんなこと言ったら銀ちゃんもじゃんねえと書いてから思った。