相容れない情報屋「……なんでお前がここにいるんだ」
不機嫌を隠そうともしない表情と声音。向けた相手は、無感情の冷めた視線をこちらへ投げる。
「なんでも何も……仕事だけど」
「情報屋は二人もいらないだろ」
「じゃあ君が帰ったら?」
舌打ちをこぼす。それも、相手は意に返す様子もない。
声をかけた黒いコートの男――小日向は諦めてメガネに表示されたディスプレイから情報を読み取る。無断で取り付けたGPSを頼りに、刑事の動きをざっと追う。どうやら与えた情報と、そこから導いた計画の通り行動しているようだ。予測通りの行動に少し興醒めすらする。
次に怪盗側の動きを追おうとした時、小日向が会話していた相手――彩音が声をかけてきた。
「今日は、僕の領分だから」
「……は」
「あんまり、首を突っ込まないでくれるかな」
鋭い視線を向ければ、占い師のような格好をした情報屋が静かにこちらを見つめていた。
「……どういう、意味だ」
「どういうって、そのまんまの意味だよ。教えてあげないとわからないかな。情報屋なのに」
小日向は顔を顰めるのと同時に、胸がざわつくのを感じていた。
――なんだ? これまでにこいつが一つの情報に固執したことがあったか?
なんとなく嫌な予感がして、それを誤魔化すように小日向は笑う。
「はっ……まぁ、もとよりそういう取り決めではあるか。わかったよ、手を引けばいいんだろう?」
「……いいの?」
「いいも何も、そっちが言ったんだろ」
もちろん、このまま大人しく帰る気もないが――そう内心で呟く。彩音はじっと小日向を見つめていたが、やがて興味を失したように目を逸らす。
「……別に、従わなくても僕は構わないけど。でも、教えてあげるのは君のためでもあるんだよ」
「それも、お得意の占いか?」
「そう。君はきっと、今日ここにいないほうがいい」
吐き捨てるように笑った。
「そうかい。ご忠告どうも、占い師さま」
「…………」
ひらひらと手を振りながら、小日向が背を向けて歩いていく。
夜の闇に消えゆくその黒い背中を、占い師はただその場に立ち尽くして見送っていた。
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Q. なんで彩音さんは小日向さんにここにいないほうがいいと言ったの?
A.怪盗2+刑事1にわけもなく後頭部を蹴られるから。