いくつかの風景「……? あの、すみません。これ落としませんでしたか?」
「ん? あぁ。すみません、ありがとうございます」
「いえ……なんだかお疲れみたいですね」
「え? ……はは、そう見えますか」
「ええ。よかったらうちの店に寄っていきませんか。近くでカフェを営業しているんです」
「そうなんですか。それなら……」
その時、疲れた顔の男の携帯が鳴る。
「真山です。……お疲れ様です。はい。……はい。わかりました」
男は二言三言電話の相手と言葉を交わすと、通話を終える。そして申し訳なさそうな表情でこちらを見た。
「……すみません。上司から呼ばれてしまいました」
「そうでしたか。大変なお仕事ですね」
「まぁ……そうですね」
「残念ですが、またこの近くに来た際はぜひお立ち寄りください。この近くの雑居ビル1階の、甲子珈琲というお店です」
「親切に、ありがとうございました。……では」
***
「わり。ちょっとおっさん……俺が居候してるとこの奴に確認取るわ」
そう言って銀がどこかに電話をかけ始める。
「あーおっさん。これからちょっと仕事で出るんだけど、なんかヤバそうでさ。ナイフ持ってって良い?」
「おっけーだったわ」
「なんつーか……年そんなかわんねーはずなのに、すごいっすね、あんた」
「うむ。もうすでにそちら側に足を踏み入れているのだな」
「そちら側?」
「仄暗い世界だ」
「つーかもう、なんつーか……裏社会、じゃんすか」
「裏社会、はどうだろうなぁ。俺一応刑事のおっさんの家に居候してるからなあ」
「……!? 刑事にナイフ持ってく許可とったんすか!?」
「そうだけど」
「まじっすか……」
「なかなか理解のある刑事だな」
「そういう問題じゃねーでしょ……」
***
雷同多聞はタバコの煙を燻らせ、2丁拳銃を構えた。サングラスの奥の目が光り、薫を捉える。
「尻の青いガキゃあ引っ込んでろ」
「……ある程度、こっちも場数を踏んでるんだけど。あんたこそ誰?」
「俺ァ警察のもんさ」
「……最悪」
「あんだぁ? なんか後ろ暗いことでもあんのか?」
「別に。てかどいてくんない? それ、俺の仕事で俺の獲物なんだけど」
「はっ。ろくに相手もできてねェで何言ってやがる。……いいから黙ってそこで見てろ」