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    なんなの

    @honmani_nannano

    日本語 トテモ むずかしネ

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    なんなの

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    深夜に三が凸する話

    【再掲】君に会う理由中学三年間あれだけ明け暮れた喧嘩も、高校へ進学してからはその頻度はがくんと減り、俺達も丸くなったよなあ、と笑うのが最近の定番ネタだ。
    最後にした大きな喧嘩と言えばおよそ一年前の今頃にあった体育館での一件くらいで、それ以降は月に一度、あるか無いか、その程度。
    暴れて発散させたいような鬱憤も無く、喧嘩の無い日々に慣れた頃には億劫にすら感じ、恐らく過去に二、三度揉めたのであろう連中からよう、洋平君、などと挑発されたところでやあ、洋平くんだよ、と笑顔でかわすようになった。
    二年生に進級した最近じゃ俺達の噂を聞きつけて入学したらしい後輩から中学では番長をしていました、どうかお手合わせをお願いします、と丁寧に喧嘩を申し込まれもするが番長でもない俺達がそんな遊びに付き合う理由は無い。
    だから噂はあくまでも噂だと説得し、この為に湘北へ入学したのに…などと意気消沈となって背中を丸めて去って行く姿を見届けるまでが日課になりつつある。
    元々俺は大の喧嘩好きってわけでもないし、無いなら無いで困りはしない。
    逆に喧嘩をするとどれだけ力の差を見せつけようと理解力の無い馬鹿は数をこさえてリベンジに挑もうとするのだからかえって面倒事が増えるだけだ。
    何事も平穏が一番。そう言う俺を友人達はジジくさいと笑っていた。
    喧嘩をしなくなった理由として、バスケ部で活躍する友人の応援に忙しくなったというのとはまた別に、湘北には謹慎処分相当の問題を二度起こせば退学、という校則がある。
    つまり、既に一度目の謹慎処分を食らっている俺達は残り二年もの間、鬱憤が溜まろうが無かろうが喧嘩なんてものは言語道断、はなから選択肢に無いのである。
    という学生手帳にも記載されていない校則を教えてくれた男、三井寿が酷く申し訳なさそうにしていたあの表情は一年経った今でも中々忘れられないものだ。
    あんたほどの問題児が現れやしない限り問題ねえって、と笑いながら言う俺に、あの人は真剣にもしもの時は自分が全員を養ってやる、出世払いを期待しとけ、と言っていた。
    勿論養われる気など無いし、たった三日程度の、それもドリブル一つ出来やしない俺達の謹慎処分にそれだけの価値があるだなんて微塵にも思わない。
    けれど真面目なあの人は一生後悔して過ごすだろうから、せめて少しでも安心させてやる為にも俺達は無事に湘北を卒業し、進学、もしくは就職して謹慎処分なんて何の障害にもならなかったというのを証明しなくてはならない。
    という使命を勝手に背負っていながら今もなお極稀に喧嘩をしてしまうのはこちらに理由が無くとも、相手側の一方的な恨みからそうせざるを得ないケースもあるからだ。
    特に、今夜のように何処からか仕入れた情報で自宅まで襲撃された時などがそうだ。

    「めんどくせえことになったなあ」

    すっかり夜も更け、時計が深夜の二時を過ぎた頃。
    バイトから帰宅したばかりで疲労しきった俺がシャワーを終えて部屋に戻ると誰かが乱暴な足取りでアパートの階段を上っている足音が聞こえた。
    それは両隣の隣人のものとは明らかに違い、俺の部屋の前でぴたりと立ち止まったことから望まぬ訪問者だと見なすことにした。
    続けてドアに向かって体当たりでもしているのか、足音同様乱暴なノックが繰り返され、唸り声まで聞こえ始めてしまった。
    まるでホラー映画じゃねえかと思いながら苦笑いし、手っ取り早い解決策を考えた。
    何処の誰が何の恨みを持ってのことかは知らないが、自宅を知られてしまった以上は二度とリベンジなんて考えられないよう徹底的に潰さなくてはならない。
    誰にも知られないように連れ込んでこの場で相手してやるかとも思ったものの、それでは家の中が散らかり、血で汚れては片付けが面倒だ。
    恐らく相手は一人で、下に仲間を待機させている可能性は低いだろう。
    ドアを前にしてどうしようかと悩むのも面倒になり、気配を察知されないようドアスコープを覗いた三秒後、俺の体は無意識にも鍵をあけ、ドアを豪快に開いていた。

    「ってえなあ何しやがる」
    「あんたこそ何してんのここ俺の家なんだけど…」
    「だから来てやったんだろうが」
    「いや呼んでない…って言うか何で酔ってんの」

    俺が豪快にドアを開いたせいで派手に頭を打ち付けたらしく、深夜の無礼な訪問者、見慣れぬジャージ姿の三井寿は廊下へ転倒し、理不尽にも開口一番に怒鳴ってくれた。
    起き上がらせようと腕を貸せば鼻先の触れる距離で再度怒鳴られ、大きく開いた口からアルコールの香りが漂い、首まで赤くなっているのは飲酒によるものだと理解出来た。
    それを指摘すると酔っ払いにお決まりの酔ってねえという言葉が返され、俺は深夜だから静かにね、とこれ以上この人を刺激しないよう優しく宥め、掴んだ腕を自分の肩に回して仕方が無く部屋の中まで運ぶしかなかった。
    ミッチーと会うのは卒業式以来で、それ以降の交流は無い。
    在学中もほぼ交流らしい交流は無かったし、お互いの連絡先すら知らない仲だ。
    強いて言うなら一度だけ、俺が喧嘩で負った傷による発熱で学校を休んだ際に課題のプリントを届けに来た花道の隣にどうしてかこの人まで一緒に居たことがある。
    部屋の中まで入りはしなかったが、あれで自宅を覚えていたのだろう。
    だからと言って卒業後、こんな時間に一人でやって来た理由は何だろうか。
    都内の大学へ通うようになってからはこちらの部活に顔を出したのは一度きりで、花道の話では部活よりも勉強の方で苦労しているために中々時間に余裕が無いとのことだ。
    そのたった一度きりの訪問も俺は後から知り、まあ、そんなもんだろうと飲み込んだ。
    養ってやるだの、出世払いを期待しておけだの、あれだけ自信たっぷりに約束しておいてこの人は自分の進学が決まるなり春から大学生だと喜び、笑顔で湘北を去って行った。
    卒業式ですら律儀に挨拶へ来たかと思えば世話になったな、もう喧嘩するなよ、とだけ言うと旅立ちの日に相応しい満開の桜を背にして誰よりも幸せそうに笑っていたのだからあんな約束なんてとうに忘れているのかも知れない。
    見ての通り大学生となった途端に自分が二十歳未満であることも忘れ、徘徊するほど酒を飲むような青春を謳歌しているようだから相変わらず勝手な人だな、とため息が出た。
    俺としてもあんな約束は期待してないし、世話になる気も無いのだが。

    「こらミッチー。寝るならその前に水飲んどけって」
    「こらってお前なあ…先輩に向かって何だその口のきき方は」
    「はいはい三井先輩。心配なのでお水飲んで頂けますかね」
    「しょうがねえ奴だなあ」

    勝手な男はどこまでも勝手で、座布団の上へ降ろしたはずなのに俺がグラスに水を注ぎに往復している僅かな間にさも自分のものでもあるように敷きっぱなしにしていた布団の上へ寝転がっていた。
    そのままウトウトしているものだから肩を揺さぶって起こし、どうにか水をグラスの半分以上飲ませたところでもう要らない、と突き返された。
    見たところ怪我は無く、あると言えばドアに打ち付けた額が赤く腫れてる程度。
    何処で飲んでいて、どうやって此処まで来たのかは不明だ。
    そもそもこれだけ酔っている人間相手にまともな事情を聞けそうにないし、終電も無いこんな時間に追い返すのは流石に可哀想なので一晩くらいは泊めてやろう。
    そこでふと、これは花道に報告すべきかと悩んだのは一瞬で、すぐにこんな時間帯にアイツが起きているわけもない、と首を左右に振った。
    ミッチーとしても後輩にこんな醜態を知られるのは本望ではないだろう。
    という俺の優しさを知りもしないで、風呂上がりの俺の姿を下からじっと眺めてはガキみてえ、と一人で楽しそうに笑っているこの男をどうしてくれようか。
    酔っている最中の記憶は残らないタイプという可能性に賭けて熟睡後に衣類を全て脱がしてやり、朝になったらミッチーに襲われた、とからかうのも面白いかも知れない。

    「なあって、水戸聞いてるか」
    「ああ、ごめんごめん。聞いてない。酔っ払いが何の話飴でもくれるって」
    「…ほらよ」
    「ははっ、何で持ってんだよ」

    ふくれっ面でこっちを見ろと言わんばかりに布団を叩き、かと思えば嬉しそうにポケットから謎に大量の飴を取り出したこの酔っ払いの考えていることはさっぱり分からない。
    片手いっぱいの飴を受け取りはしたものの、どうせ体温で溶けてベトベトだ。
    まともに食えそうにないそれらをちゃぶ台へ置き、寝かしつけるよう畳に寝転ぶと寝るなら布団で寝ろ、と尤もらしいことを言いながら壁際によけてスペースを空けてくれた。
    いやいや、家主は俺だし、布団の持ち主も俺なんだけど。
    同じ布団の上に寝転んで初めて、これは失敗したと光の速さで後悔した。
    せめて早く寝かせるよう灯りを消すべきだったか、それはそれでまずかったろうか、そもそも子供じゃあるまいし、寝かしつけるもなにも放っておけば勝手に寝てただろうにこんなことをする必要はあっただろうか、この距離は流石にまずくないか、男同士でまずいもなにも、そう意識すること自体おかしくないか、俺は、おかしくなったのか。
    ミッチーが騒いでくれたら雑念も消えるのに、黙られては本当におかしくなりそうだ。

    「あ、のさ…さっき、なんて言ったかもっかい教えてくれない」
    「お前俺の話に全く興味ねえのな。特別に教えてやるからよーく聞けよ。あのな、来週の日曜日…初試合なんだけどよ、スタメンに選ばれたんだぜ」
    「………まさかそれを言う為に来たとか」
    「何か問題あるのかよ」

    まさかのまさか、本当にそれを伝える為に来たらしい。
    悪くはないけど…と歯切れの悪い俺を睨み、折角頑張って勝ち取ったのに、と拗ねる様にあんたいくつだよ、と言いたくなった。
    大学生となって間もないからか、以前と違って見違えるほど大人びたという印象はない。
    慣れない酒に飲まれて徘徊しているくらいだ、中身もあの頃と変わらないだろう。
    そう冷静に分析しながら、変に意識してしまうのはきっと布団の上だからだ。

    「これで出世に一歩近付いたからな。お前らにもしもがあっても立派な三井御殿を建てて何不自由なく生活させてやるぜ。あ、でも問題は起こすなよ。せめて高校は卒業しろ」
    「え、待って待って…あんた、馬鹿なのもしかしてあの約束守ろうとしてるわけ」
    「あ未来の扶養者様になんて口きいてんだてめー」
    「いやいやいやいや、え、馬鹿、馬鹿じゃん…あははっ、馬鹿、馬鹿だよあんた」

    これは酔っ払いの戯言でもなく、この人の本心だ。
    本心であるからこそ面白く、一度笑い始めると止まらなくなった。
    ついには腹を抱えて笑えば不貞腐れて頬杖をつき、こちらを睨む姿が視界の端に映ったものだから俺の笑いは益々大きくなり、涙まで出てきてしまった。
    バスケは例外として、あまり賢いタイプの人間ではないことはよく知っている。
    それがここまでお馬鹿だなんて誰が想像出来たただろうか。
    こんなにも面白い笑い話を体を張ってまで持って来てくれたからには一晩の宿代くらい大目に見てやるし、朝になったら朝食を御馳走してやっても良い気さえしてきた。

    「じゃあさ、我らが偉大なる扶養者様は何で酔ってんの誰と飲んでたかも教えてよ」
    「お前の連絡先知らねえし、部活終わりに勢い任せで来たはいいけど二人で会うなんて初めてだろ。だからどうすっかなって悩んでたら公園で酒盛りしてる連中に誘われて…」
    「それで飲酒がバレてスタメン取り消しになったらどうするわけ。二度と禁止な」

    飴もその連中から貰った、とよくもまあ恐ろしいことを呑気に言えるものだ。
    何もされなかったか、と聞けばブランコを押してもらった、と言うのだから凄い人だ。
    あんな馬鹿げた約束を本気で果たそうとしているのだから凄い人、と言うしかない。
    潔く湘北を去っていながら、あの約束を覚えていただけでも俺は十分なのに。

    「前にも言ったけどあんたほどの問題児なんて早々現れないんだから俺達の退学なんて心配しなくて良いって。自分からプレッシャー背負ってもプレーに集中出来ないだろもしもの時はもしもの時で存分に食事でもたかってやるからそれだけ覚悟してな」
    「お前はそう言うけどな、それじゃあ俺の気が済まねえんだよ。俺の人生の大切な一部でもあるからな、しっかり背負って生きてやる。だから大船に乗ったつもりで待ってろ」
    「それは、まあ…随分と長い付き合いになりそうな話で」
    「当り前だろ。俺は長生きするからな。お前らも生命線を書き足しとけ」

    それって意味あんのと笑い、自分の掌を確認していると隣で大きな欠伸の気配がした。
    つられて俺も欠伸をすると寝ようぜ、と声がかかり、拒否する理由も無いので灯りを消すと真っ暗な部屋の中でも俺よりも遥かにでかいシルエットが浮かんだ。
    一通り笑った後なので先ほどのように妙なことを考えはしないし、暗闇に目が慣れると相変わらず綺麗な面してるな、と無遠慮に目の前の御尊顔を堪能するだけの余裕がある。

    「俺さ、バイクの免許も取ったし、バイトで貯めた金で欲しかったバイクも買ったからさ、会いたくなったらこんなことしねえで電話してよ。番号教えるし、会いに行くから」
    「………約束だからな」

    暗闇の中、遠慮がちにTシャツの裾を引っ張られ、早くも俺はおかしくなりそうだった。
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