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    なんなの

    @honmani_nannano

    日本語 トテモ むずかしネ

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    なんなの

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    抗えない話

    みとくんはあらがえない「見ろミッチー、冷やし中華が始まったぞ奢ってくれ」
    「馬鹿言え。何でオレがお前に奢る理由が…あったな」

    これは先週の部活終わり、駅へ向かう途中にある中華屋の前を歩いている最中に花道が夏の定番である冷やし中華はじめました、の張り紙を見つけた時の会話だ。
    一度は反射的に断ろうとしたミッチーだが例の事件を思い出してか、行くぞ、と先陣を切って店に向かった。
    その後、花道は冷やし中華どころかチャーシュー麺に炒飯と餃子の満腹セットまでしっかりと奢られていた。
    ちなみにその場にはオレも居たのだが全額自腹だった。



    「こう暑いと喉が渇くよなあ…ミッチーもそうだろ」
    「うるせえな回りくどいこと言ってねえで早く選べよ」

    これも先週、校内の自販機で何を買おうか迷っている最中に朝練終わりのミッチーを見つけた大楠の会話だ。
    出会い頭にたかる大楠の意図を読むとミッチーは諦めたように千円札を投入し、次はねえぞと大楠を蹴った。
    ちなみにその場にはオレも居たのだが当然自腹だった。



    「ミッチーを見てるとどうも古傷が痛むような気が…」
    「分かった分かった全部分かったから好きなだけ食え」

    これも先週の昼休み、学食前でミッチーを見つけた忠のわざとらしく苦しむような演技をしながらの会話だ。
    とっくの昔に完治しているとはミッチーも知っているだろうに慌てて忠の腕を引いて学食へ入り、遠慮なく注文する忠にこれっきりだからな、と釘を刺していた。
    ちなみにその場にはオレも居たのだが勿論自腹だった。



    「頼むミッチー何か恵んでくれ腹が減って死にそうだ」
    「一日中食ってるお前が餓死するなんて絶対無いだろ」

    これも先週の放課後、部活を冷やかしに向かう途中で部室棟へ走っているミッチーを見つけた高宮の会話だ。
    露骨に嫌そうな顔をしつつもミッチーは鞄の中を探り、差し入れで貰ったらしいおにぎりなどを高宮に渡した。
    ちなみにその場に居たオレは完全に居ない者として扱われたが、四人への対応からミッチーが例の事件について罪悪感がある、と確信を得られたので良しとする。



    「よお、ミッチーじゃん。今帰りどう何か奢るぜ」

    これは四日前、部活終わりのミッチーと自然な形での遭遇を狙ったオレが三十分ほど前から待機していたコンビニの前でようやく現れたミッチーに放った言葉だ。
    待ち伏せしていたとは思われないようにあくまでも自然に声をかけ、笑顔も忘れず、更には何か奢るぜ、とコンビニに向けて親指を立ててまでみせたのに、非情にもミッチーはオレの前をさっさと通り過ぎやがった。
    いやマジかよこいつ。この距離で無視って酷くないか。
    とは思うものの毎度のことなので一々腹を立てるのも馬鹿らしいし、それでこそ三井寿だと謎に感動もする。
    無視されるのは想定内のことだ。慌てるにはまだ早い。
    こんなこともあろうかと下調べはばっちりで、生年月日から血液型、学食のお気に入りのメニュー、愛用ブランド、きのこ派かたけのこ派か、好きな映画のジャンルや好きなアーティスト、家族構成からペットの名前などなど、ミッチーについては全てリサーチ済みだ。
    これだけ備えているのだから何か一つくらいはきっかけとなってミッチーとの会話を弾ませてくれるだろう。
    そう信じてミッチーを追いかけ、あくまでも気さくに

    「ミッチーって来週の日曜日って暇だったりする実はバイト先で映画のチケットを二枚ほど貰ったんだけど誰も都合がつかなくって…良かったら一緒にどう」

    と、声をかけながら胸ポケットに忍ばせていたチケットを取り出そうとすると、なんとはじめてミッチーがオレに視線を向けて、はぁ、と露骨なため息をつくと

    「お前ってさぁ…いつもオレを見つける度によし、話しかけるぞって意気込んでるのがバレバレ。そもそも下心が見えるとこっちも萎えるんだよな。どうせオレと話がしたくて色々話題を準備してんだろ。あ、そのツラは図星だなうわぁ…童貞丸出し。出直してこい」

    と言って、告白どころか一言交わす夢さえ打ち砕かれ、オレは膝から崩れ落ちてアスファルトにへばりついた。
    ちなみに、オレはこの一件で三日三晩高熱で寝込んだ。




    「ったくよぉ…なぁーにが童貞丸出しだってんだよオレが何かしたかいやしてねぇしさせてもくれねぇじゃんなぁおかしくないかあんまこういうこと自分で言うとダサいけどオレって確実にあの人の恩人じゃんでけぇ貸しがあんだろなのに何でオレだけ無視しかもガン無視ガンだぜ無視は無視でもガンときやがった感謝しろとまでは言わねぇけどそれなりの態度ってもんがあるよななのに無視って何でだよどうしたら恩人相手に無視って選択が出来るんだあの場で真っ先に庇ってやったのオレだぜそのオレだけ無視って何でなんだお前らばっか良い思いしやがってほんっと許せねぇオレだって一緒に冷やし中華食いたいいや食ったけど食ったけどもでもずっと居ないも同然の扱いだったし奢ってくれなくて良いから「美味いな」ってオレの方を向いて微笑んで欲しいもっと言うなら以前の癖で麺をすするときに今はもう無い長髪を耳にかける仕草を隣で拝みたい奢るから学食デートだって全男子高校生の夢だろオレなんてお前らと違って全額負担するし欲しいもんがあるなら何だって買ってやるし自販機が空になるまでポカリ買うし何本だって買うから少しはオレの方を見ろよ話してくれよ何でオレだけ無視なわけ童貞丸出しだからかチクショーそんなのオレだけじゃねぇじゃんお前らだってそうなのに何でなんだオレなんていつ空腹のあの人と遭遇しても良いように差し入れの菓子からおにぎりまで準備万端なのにおかしくねぇいやおかしい絶対おかしい百歩譲って…百歩譲ってだぞ百歩譲って無視ならまだしも告白する前からフラれるって何でだよオレってそんなに露骨かって言うか逆に露骨じゃ駄目な理由でもあんのかよ今時草食系男子なんて流行らねぇだろマジで何で何でオレだけ駄目なわけほんと無理全然納得いかねぇ何でああも偉そうなんだ腹立つほど可愛いなもう大好きさ」

    これはたった今、昼休みの屋上で叫んだオレの怒りだ。
    花道、大楠、高宮、忠たちと五人で揃って円陣を組むように地べたに座り込んだところで一気に怒りをまき散らせば四人がオレの怒りや苦しみを理解して涙を浮かべる…なんてこともなく声を揃えて「五月蠅い」と一蹴されてしまったオレは構わずに話を続けてみせた。

    「オレが休んでた三日間、あの人どんな感じだった」
    「どんなもなにも…別に、いつも通り。普通だったぞ」
    「そうそう。洋平が休んでるなんて気づいてなかった」
    「洋平が寝込んでるって教えてもだからって感じで」
    「だからって言うより…誰それって感じだったよな」

    オレがフラれたショックによる発熱で三日三晩も寝込んで学校を欠席していた間、オレの不在に気付いたあの人が花道たちに「水戸は」と寂しそうに聞いたり、病欠を知って「お見舞いに行きたい」と言い出したりしていないかと期待したのに、結果は酷いものだった。
    だからはまだ分かるとして、誰それは流石に傷つく。

    「もうほんと理解出来ない。何でオレだけこんな塩対応されてんのあの人なりのファンサだったりする」

    打つ手なし、とまで言って背中から倒れ込み、日差しを遮るために上げた左腕を目元でくの字に曲げてみた。
    すると花道たちからは泣いているように見えたらしく、一斉にオレを嘲笑うゲラゲラと下品な笑い声が響いた。
    続けて各々が持参した昼食のパンやおにぎりを開封するビニールの音や、割り箸のパキッと割れる音まで聞こえ、挙句の果てにはあえて四人で声を揃え、コミカルなトーンで「いただきます」と言って食事を始めた。
    そこまで冷たくされると起き上がって怒る気もなれず、オレに出来るのはうだうだと一人で愚痴ることだけだ。

    「マジな話、あの人があんな高飛車になったのは堀田一味が姫プさせたせいだよな。何だよあの姫プ。三っちゃん三っちゃんって馬鹿みてぇにちやほやしやがって。オレが彼氏だったら絶対そんなことしねぇよ。飴と鞭どころかもう鞭一択で徹底的に躾けてやんのに…」

    あくまでも冗談で、視界を覆っている左腕とは逆の空いてる右腕で鞭を振るうように左右へ大きく動かした。
    それがよっぽどウケたようで、こんな低レベルな下ネタに珍しく花道の笑い声まで聞こえた。更には四人で

    「鞭なんかであのミッチーが躾けられるとは思えねぇ」
    「ただでさえ洋平をなめきってるあのミッチー様だぞ」
    「洋平が鞭持ったところで鼻で笑われておしまいだろ」
    「乗馬の練習かお前には仔馬がお似合いだぞってな」

    などと言うものだからまんまと挑発にのってしまったオレは勢いよく上半身を起こすと胡坐をかき、四人に

    「好き勝手言うなよ。なぁにがミッチー様だ。あんなおてんば、オレの手にかかりゃ一晩でそりゃあもう…」

    と言って、拳を握ったところでオレは違和感を覚えた。
    オレが倒れ込むまで、四人はいつも通り輪になって座り込み、オレの右隣には花道、左隣には忠が居たはず。
    それがどうしてオレの正面で横一列に座っているのか。
    そしてオレの背後に感じるこの気配は誰のものなのか。

    「ミ、ミッチー様…こんなところで会うなんて奇遇じゃん。どうしたのまさか迷子とか?オレが教室まで送ろうかあ、それともオレに会いたかったとか」

    恐る恐る振り返れば長い長い足があり、全身で冷や汗をかきながら、見上げた先に眩しいほどの男前が居た。
    凄い。下から見上げても顔が良いのか。最高。なんて浮かれながらも危機的状況であることを理解して即座に正座で向き合うオレに花道たちがこれ以上ないほどの笑い声を上げ、ようやくはめられたことに気付いた。
    ミッチーの右手には体育館の改修工事の日程を知らせる紙が数枚握られ、ここには部活の伝言で来たらしい。
    そこでタイミング悪くオレの下品かつ無礼な発言を耳にしてしまったというのに動揺するオレの姿がよほど面白いのか、楽し気に口角を上げて正面で膝を折ると

    「お前がオレを躾けるだって上等だ。やってみろよ」

    と言って、人差し指でツン、とオレの額を突いたので、オレは腹を出して寝転がり、忠誠心を証明してやった。

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