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    なんなの

    @honmani_nannano

    日本語 トテモ むずかしネ

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    なんなの

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    人たらしが叱られる話

    【再掲】あの超問題児、ミッチーがバスケ部へ復帰してから暫くした頃、オレはあの人の癖みたいなものに気付いた。
    どうにもあの人は息をするように相手を褒める傾向にあるようだが、その誉め言葉のどれもが過剰に感じる。
    部活中に後輩へ厳しい言葉をかけながら良いところは良いと褒め、上手におだてて乗せるまではまだ分かるとして、問題は同級生やクラスメイトへの誉め言葉だ。
    例えば体操着を貸してくれた同級生や試験前にノートを貸してくれたクラスメイト、または部活前に頑張れよ、と声援を送ってくれたどこぞの誰かに対して一々

    「お前が居てくれてマジで助かったぜ。誰よりも一番に顔が浮かんだお前は間違いなくオレの救世主様だな」
    「オレマジで単位ヤバイからお前の助けが無いと終わるとこだったわ。しかもお前のノートってすげえ分かり易くてほんとに助かった。お前だけがオレの頼りだ」
    「応援してくれてサンキューな。照れくせえけどお前にそうやって応援してもらえるだけですげえ嬉しいわ」

    などといった言葉を恥ずかしげもなくつらつらと並べ、その上あの眩いほどの笑顔で言うのだからオレはきっといつか勘違いを起こす奴が現れる、と予想していた。
    あんな笑顔で、まるでお前だけがオレの特別、と思わせるような言葉を向けていればそれは当然だとも思う。
    しかもつい最近までグレにグレてこの学校の不良グループのトップに鎮座していた奴が多少のガラの悪さを残しつつも爽やかな好青年となって、本来の人懐っこさに加えて人たらしの才能によって距離も近くなるのだからギャップにやられる奴も少なくはないはずだ。
    だからもしも本当にそうなればあの人も言動を改めるだろうし、人との距離を学ぶ良い機会だと考えていた。
    助言するべきかと悩んだこともあったが、それは流石にお節介じゃないかという自意識が躊躇させた。
    何より、日頃からあちこちで愛想を振りまくあの男はこれまでに一度たりともオレに対して例の一件について感謝はおろか、謝罪の言葉すら口にしたことが無い。
    決して感謝や謝罪を求めてのことではなかったにしてもオレ以外に対してああも過剰だと嫌でも比較してしまうし、そんな恩知らずのことなど知ったことか、どうなろうとオレには関係無い、と思った…はずなのに。




    「だからさ…オレはいつか絶対こうなると思ってたんだよ。あんたね、ほんっとうに迂闊すぎ。自覚ある」

    昼休み開始から十分過ぎた頃、オレは旧校舎の屋上で恐らくミッチーの同級生らしい生徒の腹を蹴り飛ばし、逃げていくその情けない後ろ姿に唾を吐き捨てたあと、地べたに尻もちをついているミッチーにそう言った。
    けれど何故オレがここに居るのか状況が理解出来ていないらしく、腕を貸してやっても自覚とお手本のように首を傾げながら立ち上がるものだから溜息が出た。
    立ち上がったあともオレの正面できょろきょろと周囲を見渡し、塔屋の奥の方まで見上げ、オレ達以外に誰も居ないと分かると安心したように胸を撫でおろして

    「偶然とは言え水戸が居てくれてたお陰で助かったわ」

    と、あまりにもノンキな発言をするのでオレはキレた。

    「いやいやあんたほんとさ、ほんと馬鹿じゃねえの偶然この状況で偶然って思えるあんたが一人で思い詰めた顔して屋上に向かってんのが見えたからわざわざ助けに来てやってんの。しかも購買で買ったばっかりのパン全部廊下に落としたままでな。ついでに言うなら久しぶりに廊下を走るなって教師に怒鳴られたわ。どうせあれだろさっきのあいつ、最近やけにあんたに絡んでたけどあんたがやたらと褒めるから勘違いして告白しに呼び出されたんだろで、そんなつもりは無かったってお決まりのセリフに逆上されて襲い掛かられたんだろ違う違わないよなオレが駆け付けた時にはもう胸倉掴まれてたもんなそりゃあのクソ勘違い野郎が悪いけど、あそこまで勘違いさせたあんたにも原因があるんだから少しは改めろよな。あんた普段からリップサービスが目に余るんだよ。距離も近いし、絶対にまた同じことやらかすに決まってる」

    長々と叱る間、なんと恐ろしいことにミッチーは成程、と感心したような表情でオレを見つめ、オレが存分に喋り終えると己の左掌を右手の拳で叩き、こう言った。

    「水戸って普段からよくオレのこと見てるからまた何か問題起こすんじゃねえかって疑って監視してると思ってたんだけど心配してくれてたのか…ありがとな」

    しかも、嬉しそうにはにかむのはどういうことなんだ。
    やめろ馬鹿、まさかオレまで毒牙にかけるつもりか
    オレはそこいらのおめでたい馬鹿共と違ってこの男のたちの悪さは理解しているし、だからこそ今この場に居るわけだし、そもそもそんな言葉で心を掴まれるほど単純でもない…が、誤解させたのは悪かったと思う。

    「監視なんてそんなつもりは無いから…その、誤解させてごめん。たださっきも言ったようにあんた本当に迂闊だし、今もそんな大して危機感持ってねえようだし…だから、まあ、つまりは心配してたってことで…」

    いやおかしい。おかしいだろ。何でオレが謝ってんだ。
    それもオレがミッチーを心配してたそんなわけない。
    心配どころか一度痛い目にあってしまえと思っていたほどで、心配なんてただの一度もしていなかったはず。
    なのにこちらが下手に出て怯えさせないよう言葉を選んでしまうのがやはりこの男の恐ろしいところであり、オレが関わらないように警戒をしていた理由でもある。
    そんなことも知らず、誤解が解けると機嫌を良くしたミッチーはたった今オレが忠告したばかりなのにじゃれるように肩をぶつけ、背中を丸めてオレの顔を覗き込み、形の良い鼻筋を近付けると綺麗な瞳を細めて

    「オレさ、てっきり水戸には嫌われてるもんだと思ってたから心配されてたなんてすげえ嬉しい。水戸にだけは絶対に嫌われたくねえし…これからは水戸の言う通りに気を付けるって約束するから仲良くしてくれよ」

    といった文句なしの場外ホームランをかましてくれたのでオレは心の中で大切な何かが崩壊するのを感じながら、この馬鹿を徹底的に教育してやろうと決意した。
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