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    ねこの

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    一ぐだ♂はいまのところ同じ時間軸上で展開しています。その内纏めたい

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    ねこの

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    ##一ぐだ♂

    外の光差し込まぬノウム・カルデアであっても時計の示す通りに寝起きをする事が推奨されている。いざとなると昼夜を問わず働く羽目になるのだ。平時から無理をして心身の調子を崩す道理はない。
     比較的最近召喚されたと有ってか、それとも先日の一件が有ってか藤丸の部屋に呼ばれる事が増えた。Tシャツにハーフパンツといつでも眠れるような格好のまま、実も付かぬ話をする事が多い。同じ国の生まれ育ちではあるが、時代が隔たればまるで違う世界のようだ。藤丸が用いる携帯端末一つ取るだけでこれでどれだけ戦が変わるか知れない。そんな事はきっとここに来た英霊皆が思うことだろう。
     そういえば再臨で纏うスーツも当時のものとは少し意匠が異なっている。あれが現代風なのだろうか。記憶にあるよりも幾らか生地が薄く伸びる。戦闘がしやすい割りに、形の崩れも少なかった。
    「んじゃあ別に用立てなくても僕ってば現代に溶け込めそうって事なのかな?」
    「ああ、そうかもね。今度新宿とか行ってみる? レイシフトだからそっくりそのまま俺が知ってるのとは違うけど」
     そんな近い年代でも特異点が成立するものらしい。
    「そんな遊びに行く感覚で行って良いのかね……」
    「勝手に聖杯の欠片を拾って特異点作ったりする人も居るし、今更じゃないかなあ」
     ダ・ヴィンチやゴルドルフ辺りは頭を抱えそうだ。良識のある者ならば異変が有れば報告するが、自由な気質の英霊が多い。自由というよりは我が道を進む。そういう人間でなければ英霊まで昇華されるものではない、と言われればそうかもしれないが、そんな話を聞かされるとどうしたって乾いた笑みを浮かべてしまう。思えば我らが新選組副長土方だって大概自由だ。ノブ選組ってなんだ。あんなにたくあんにだけ執着する男だったか。
     それにしても新宿。あの辺りはそんなに繁華な街だっただろうか。あまり記憶に無い。ないが、特異点や異聞帯の記録を確認した時に、気になる記述が有った事は思い出せた。
    「新宿と言えばマスターちゃん、女装したんだって」
    「げっ、そこまで残してたっけ……どさくさに紛れて消しちゃえば良かったかな」
     善悪に分かたれたアーチャーも大概気になるが、今振る話題でもない。水を流せば思い切り嫌そうに顔を歪められてしまった。当時の記録映像を思い出すに、化粧をして体を誤魔化せば結構いけそうな感じがする。
    「本当だったの。へえ、どういう? やっぱ和装?」
    「まさか! パーティに潜入したからドレスだよ。ああでも、和服の方が良かったかもなあ。体のラインとか結構隠れるよね」
    「写真とか残ってないの? 一枚くらいさあ」
     髪を洗い、少ししっとりとした髪を緩く撫でる。一見した印象は東洋人なのに、よく見ると西洋の血が混じっている感じがした。瞳の青は空と思えば良いのか海と感じれば良いのか分からない。光の当たり具合で違うだろうか。唇はもう少しふっくらとしていた方がそれっぽいが、今の見かけの方が素朴で好ましい。
    「残ってないよ。あー……でも、いや、もしかしたら……」
    「誰か持ってるかも? それって誰よ」
    「いや、そんな記憶は無いし、大丈夫の筈……大丈夫……」
     ぶつぶつと記憶を辿るようにぶつぶつと言うが聞き取りにくい。モリアーティか、ホームズ、もしかしたらアルトリア・オルタやジャンヌ・オルタ辺りが、と名前を並べているようだ。記録に残っている通りの面子だが、特異点で出会う英霊とカルデアに呼び出される英霊は記憶を共有しているとは限らない。斎藤自身は辛うじて邪馬台国での記憶を持って現界しているが、皆が皆同じではないらしかった。藤丸が特異点で会い、カルデアに戻ってから話をして苦い顔をする、なんて事も多いと聞く。
     眠たそうに目を瞬かせる。話を逸らすつもりかと思ったが、そうでも無さそうだ。目蓋が重たそうにしている。
    「もう何年も前の事だから……あ、ふ」
    「眠いんならもう寝ときなって」
     潤んだ瞳は海というよりも湖のようだ。眠気を招くように頭を撫でてやれば、すりと懐かれる。それでも素直に寝るつもりは無いらしい。ぐぅ、と唸る声に、つい喉を鳴らす。からかう種を蒔かないでほしいものだ。
    「いやでも今俺が寝たら絶対一ちゃん聞きに行くでしょ、聞いてたでしょ」
    「聞いてたけど、いやでもどうせ写真とか有ったらもうばらまかれてるんじゃない?」
     沈黙が返る。そんな写真や記録が残っているならまず第一にマシュが黙っていないだろう。加えて基本的に喚び出したサーヴァントから大なり小なり好意的に見られている。この辺りは不本意ながら召喚される英霊は居ないからに違いない。興味や関心を抱いているから、皆人類最後のマスターの呼び掛けに応えたのだ。彼らだって藤丸が常と違う衣装を着れば気にするだろう。現在に至るまで見つかっていないなら、存在しないと思う方が自然だ。
     無言のまま立ち上がり、大人しくベッドに転がる。上掛けを掛けてやり、眠りに落ちやすいように照明を絞った。椅子をベッド近くまで寄せて、顔が見れるよう腰掛ける。
    「おっ素直だねえマスターちゃん。良い子には僕が子守歌でも歌ってあげようか」
     ぱたぱたと布団の上を叩いてやれば、強請るように視線が向けられる。これはもしかして強請られているのだろうか。子ども扱いするな、と言われるかと思ったが予想外だ。しかし自分から言いだしたのだから、何か歌わなければいけない。
     口ずさむのは晩年の流行歌。藤丸は知っているだろうか。随分と流行ったが、時の流れとともに褪せてしまった可能性だってある。
    「ああ、それ。おれも知ってる」
     顔に掛かった黒髪を軽く退けてやりながら撫でてやれば、飴が溶けるよう甘く瞳が蕩けた。調子を合わせるように続きを口ずさむ。詞もメロディも外れる事はない。
     男に向ける言葉ではないが、花の盛りを聖杯戦争に捧げた少年はもう大人になってしまった。
    「いやー、随分流行ったもんだけどマスターちゃんの時代まで残ってたんだねえ」
    「いい歌だよね。婆ちゃんが好きでさ」
    「そっか。ふぅん、マスターちゃんは恋はどうなの?」
     召喚される英霊は男女を問わず見目麗しい。秋波を送る者も少なくはないみたいだ。憎からず思う者だって多い事だろう。
     ずくりと腹の奥に沸いた感情がなんなのか、確かめてしまえばきっともう後には引けない。
    「……一ちゃん」
    「ん?」
     呼ばれたと思えば、そのまま顔を伏せられてしまった。……それは一体、どういう事だろう。尋ねようとも、寝かしつけたのは斎藤自身。起こすのは気が引ける。参った、と溜息を吐いても藤丸が体を起こす気配はなかった。
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    ねこの

    PROGRESSキーボードが来るまでストップノウム・カルデアは閉鎖された空間だ。外気は通らず、日光など取り入れられる道理も無い。施設内に疑似日光を再現できる部屋は有るが、あくまで疑似だ。シミュレーターなんかもそうだが、どれだけ限り無く本物に近くとも欺瞞に過ぎない。
     漂白された地球が一体どうなっているのかを斎藤は知らなかった。聞いてもきっと分からないだろう。記憶にあるよりもずっと技術の進んだ施設は便利だが味気ない。昼も夜も同じよう室内を照らす照明も、人間に害を及ぼさぬよう常に働く空気清浄機もよくできていると思うものの、揺らめく火を眺めたくなる。或いは様々なものが混じった土のにおいを嗅ぎたくなった。思えばシミュレーターはこの辺りが足りない気がする。エネミーを斬ったとて血や臓物の臭いが鼻の奥にこびりつく感触は無い。
     レイシフトに手を上げたのもそういう理由だ。今回は多少の揺らぎが観測された土地の調査とあって緊張感が薄い。ベースキャンプを作り、ここを拠点に数日間の探索を行う。野営には慣れているのか、随分と手際が良かった。
     頭上には晴れ晴れとした晴天が広がっている。放牧地なのか草が青々と生い茂り、寝転べば心地良さそうだ。敵性生物の気配 9055

    ねこの

    TRAINING外の光差し込まぬノウム・カルデアであっても時計の示す通りに寝起きをする事が推奨されている。いざとなると昼夜を問わず働く羽目になるのだ。平時から無理をして心身の調子を崩す道理はない。
     比較的最近召喚されたと有ってか、それとも先日の一件が有ってか藤丸の部屋に呼ばれる事が増えた。Tシャツにハーフパンツといつでも眠れるような格好のまま、実も付かぬ話をする事が多い。同じ国の生まれ育ちではあるが、時代が隔たればまるで違う世界のようだ。藤丸が用いる携帯端末一つ取るだけでこれでどれだけ戦が変わるか知れない。そんな事はきっとここに来た英霊皆が思うことだろう。
     そういえば再臨で纏うスーツも当時のものとは少し意匠が異なっている。あれが現代風なのだろうか。記憶にあるよりも幾らか生地が薄く伸びる。戦闘がしやすい割りに、形の崩れも少なかった。
    「んじゃあ別に用立てなくても僕ってば現代に溶け込めそうって事なのかな?」
    「ああ、そうかもね。今度新宿とか行ってみる? レイシフトだからそっくりそのまま俺が知ってるのとは違うけど」
     そんな近い年代でも特異点が成立するものらしい。
    「そんな遊びに行く感覚で行って良いのか 2725

    ねこの

    TRAINING国連機関、人理継続保障機関カルデア。
     大層な響きだが、聞いて具体的な想像が付くかと言われれば絶対に付かない。そもそも人理というものを意識した事など終ぞ記憶に無く、己が英霊などと呼ばれる大層な存在だったという自覚だって無かった。召喚時に擦り込まれる知識が無ければ喚び出されたその場で大立ち回りでも見せていたところである。
     人理焼却を越えて、クリプターによる人理の漂白。そのクリプターは元々カルデアの職員だったらしい。なんだ、要するに内輪揉めではないのか、と始めは思ったが実の所もっと込み入った事情があるようだ。与えられた知識と、召喚者である藤丸やダ・ヴィンチからの説明はされたものの、正直理解しきれるものではない。
     五つ目の異聞帯を攻略した後、縁有って斎藤一はセイバー――剣士のクラスでもって召喚された。もう既に洋の東西を問わず高名な者が集まっているというのに、刀を振るしか能の無い男にどんな役割があるのか。放っておかれるかと思ったが、召喚者はまた一人新たに加わった英霊を殊の外喜んだ。新選組は現代日本においてよくフィクションの題材になるようで、あまり歴史に詳しくないらしい藤丸の記憶に引っかかっ 6565

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