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    ねこの

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    一ぐだ♂はいまのところ同じ時間軸上で展開しています。その内纏めたい

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    ##一ぐだ♂

    国連機関、人理継続保障機関カルデア。
     大層な響きだが、聞いて具体的な想像が付くかと言われれば絶対に付かない。そもそも人理というものを意識した事など終ぞ記憶に無く、己が英霊などと呼ばれる大層な存在だったという自覚だって無かった。召喚時に擦り込まれる知識が無ければ喚び出されたその場で大立ち回りでも見せていたところである。
     人理焼却を越えて、クリプターによる人理の漂白。そのクリプターは元々カルデアの職員だったらしい。なんだ、要するに内輪揉めではないのか、と始めは思ったが実の所もっと込み入った事情があるようだ。与えられた知識と、召喚者である藤丸やダ・ヴィンチからの説明はされたものの、正直理解しきれるものではない。
     五つ目の異聞帯を攻略した後、縁有って斎藤一はセイバー――剣士のクラスでもって召喚された。もう既に洋の東西を問わず高名な者が集まっているというのに、刀を振るしか能の無い男にどんな役割があるのか。放っておかれるかと思ったが、召喚者はまた一人新たに加わった英霊を殊の外喜んだ。新選組は現代日本においてよくフィクションの題材になるようで、あまり歴史に詳しくないらしい藤丸の記憶に引っかかっていたそうだ。
     霊基再臨を繰り返し、適当と思われる場所で刀を抜く。その為に喚ばれたのだから否やなど有る筈がない。ところどころの判断に甘いところがあるように思われたが、どうやら彼が生まれ育った時代、国では日常茶飯事に戦は起きないらしい。与えられた知識ではそうなっている。あの日駆け抜け、文字通り命を懸けた道行きの先に彼のような人間へと繋がったというなら、きっと守るべき意味や価値が有るくらいに善良だ。
     ノウム・カルデアと喚ばれるこの施設は広い。生きている人間よりもサーヴァントの方が多く、その癖まるで生きているように生活している。基本的に成長したりする事は無いと聞いているが、勉強会や手合わせを熱心に行い、地下の図書館で読書に勤しむ。作家は新作を書いているらしい。また、食堂ではサーヴァントがその腕前を披露し、様々な献立を人、サーヴァント問わず提供していた。褐色肌の弓兵など一見して出身の予想がつかなかったが日本人らしく、挨拶を交わしたら目を丸くされたのが思い出深い。
     土方や沖田は召喚されてから随分と経つらしく、ここが実家とばかりのくつろぎっぷりだ。喚ばれた理由の悲壮さと反比例するように、ここの暮らしは生温い。
     しかしこの地こそが最前線。全てを奪われた者達が肩を寄せ合い、奪い返す事を虎視眈々と狙う。この地球に刻んできた歩みは間違いではないのだという決意に満ちていた。
    「――一ちゃんはもうカルデアに慣れた?」
    「だーから、一ちゃんは止めろって言っただろーが。生活自体には慣れたけどね。いや慣れざるを得ないでしょ。思ったより忙しくないから一ちゃん肩すかしよ?」
    「自分から一ちゃんって言うじゃん」
     思った通りの返しをされたのか、可笑しそうに肩を震わせた。
     藤丸は自室で待機してる間中はサーヴァントが誰かしらついている事になっている。今回は斎藤がその任を仰せつかった。護衛という意味合いもあるのか、武装を完全に解くことは許されていない。どうせこの身はエーテルで形成されているのだから、いっそ霊体化でもした方が良いと思ったが、それは許されていないらしい。
    「俺達がのんびりできる時は他のみんなが忙しい時だからね」
    「その辺りはどうしようも無いねえ。適材適所だ」
    「まああんまり弛んでてもいけないんだけどさ」
     インスタントの紅茶を差し出されたのを受け取れば指先がじんと暑さに痺れる。ここ暫くの生活で慣れた色の液体に息を吹きかけた。ふ、と湯気が立ち上っては消えていく。温度が管理されたカルデアではあるが、温かなものが胃の腑へ落ちると不思議と体と気が緩んだ。音を立てて飲まない、と念じながら少し含む。人類最後の地、という割りにどういう絡繰りなのかは知らないがこの手の物資に不足を感じた事はない。献立は豊富で、藤丸の出身地からか、それともエミヤの趣味なのか分からないが日本食に困った事は無かった。もっとも、斎藤が馴染んでいた味ともまた変わっていたが、美味い飯に異議申し立てなどできよう筈は無い。
     筋トレ終わりの藤丸に声を掛けられて自室まで連れてこられたが、これといった用事が有った訳ではないようだ。顔を合わせたのが斎藤だっただけだろう。
     適当に話を転がしながら、そういえば藤丸自身の事をあまり知らない事に気がついた。そこまで興味が無かったと言い換えても良い。己などよく使ってくれればそれで構わないと決めていたのだ。
    「そういや、マスターちゃんは随分と鍛えてるみたいだけど、前から?」
    「カルデアに来てからだよ。体育とかじゃ結構動いてたつもりだったけど、さすがに足りなくってさ」
     誰かの手作りらしい焼き菓子を口に運ぶ。噛み砕けばほろりと崩れる。指に付いた粉をべろりと舌で舐め取り、軽くウェットティッシュに擦り付けた。自身も相伴に預かり、一口で放り込む。甘さに目を細めながら、やっぱり蕎麦と酒が恋しいと思ってしまった。
     こういうのは沖田が欲しがりそうだ。幾らか手土産にしてやれば喜ぶだろうか。そう顔にでも出ていたのか、笑いながらいくらか寄せられた。食堂でエミヤが配っていたのは見たが、あれは子ども向けだった筈だ。お裾分けできる程の量を与えられたのなら、メインは藤丸で残りを配っていたのかもしれない。
     斎藤から見れば多少童顔に見えるものの、成人していると言われれば認識としては大人だ。本人もそう扱われる事を望んでいるよう感じられる。しかし学生だった時分から見守っている者達から見れば違うのだろう。時が流れる生者を、死者は見送るより他にない。
     一度横道に逸れた話を元に戻しながら、自らを戒めるようゆっくりと目蓋を閉じる。よくよく見る戸、目の下に寝不足を示す隈が横たわっていた。
    「俺は礼装がなきゃ魔術も使えないからさ。せめてそういう……フィジカル面では足手纏いになりたくないなって思って。いや、まあサーヴァントのみんなと比べると全然非力なんだけど」
     人は銃弾で呆気なく死ぬものだ。槍で刺されても、刀で斬られても簡単に命は失われる。魔術やら神秘やらに関して斎藤はまるで門外漢だが、それが怖ろしい事は理解できた。
     争い事の少ない国で生まれ育った少年にはさぞ怖ろしく思えただろう。
    「でも、俺は俺のできる精一杯をやりたいから。一ちゃんも付き合ってくれると嬉しいな」
     しかし、怖いからという理由で逃げては世界が終わる。それはどれほどの重荷となるか。少ない人数でノウム・カルデアは運用されている。個々の肩に掛かる責は重いが、英霊の要石となるマスターとなれば尚更の筈だ。
     答えようと唇を開いた瞬間、藤丸の端末から呼び出し音が響く。便利だが、無粋でもある機械だ。慣れたものなのか、慌てた様子もなくボトムのポケットから薄っぺらい板を取り出す。
    「あ、待って、管制室から連絡――ダ・ヴィンチちゃん?」
    『おっと立香くん、ティータイム中に悪いね。ちょっとだけ確認したい事があるんだけど、こっちまで来られるかい? 出来れば直でやりたい事なんだ』
    「エマージェンシーとかじゃないんだね。分かった、すぐ行くよ」
     ダ・ヴィンチと挨拶を交わして通話を切る。こちらへ向けて申し訳無さそうに表情を曇らせた。そんな気に掛けてもらうようなものでもないのだから、適当に扱えば良いものを。
    「ごめん、ちょっと行ってくる」
    「お供はいるか?」
     律儀ものなのだろう。少しばかり視線を巡らせ、首を振った。
    「そんな大した事じゃ無さそうだから平気だよ。すぐ戻ってくるとは思うけど……あ、でも沖田さんにお菓子届けるなら早めに渡してあげた方が良いかな」
    「すぐ腐るもんじゃないだろ。本でも読んで待ってるさ」
     図書館から本を借りているから、それを読めば時間も潰せそうだ。適当に手に取り、軽くぱらぱらと捲る。思った通り、異国の言葉ではなく日本語の活字が躍っていた。山からいくらか取り分けて、斎藤の前に寄せてくれる。中を検めれば短編集らしく、短い時間でも充分楽しむ事が出来そうだ。
    「この辺が小説だから楽しめると思うよ。ごめんね。いってきます」
    「ん、いってらっしゃい」
     ゆるりと手を振り、藤丸を見送る。他人の部屋と言っても斎藤が与えられた部屋と大して変わる所は無い。置いてある私物にバリエーションが有るくらいだろう。そういえば、何故か沖田や信長達はボイラー室の横を自室としていたがあれはどういう趣味なのだろうか。以前そうだったから、ここでもそうじゃないとなんだか落ち着かない、と言っていた。
     部屋主が居なくなった空間でくるりと視線を回す。そういえば、在不在、就寝時を問わず侵入してくる者も居ると聞いた覚えが有った。もしかしたら、そういう意味の留守居を任されたのかもしれない。
     不意に、さっきまでは無かった物が落ちているのに気がついた。
    「ん……なんだこりゃ。マスターちゃんのポケットから落ちたのかね」
     端末サイズに印刷された写真らしい。伏せられたものを拾い上げながら、申し訳無いと思いつつ印画面を見た。
     ――見て、しまった。
     何かの記念写真だったのだろうか。映っているのは四人。その内二人には見覚えが無かった。見慣れぬ制服らしい服を着て、ボロボロだが目尻を下げて笑う藤丸は今よりも随分と幼く見える。ああ、この時分から知っていたらあれこれと世話も焼きたくなる筈だ。マシュの表情は随分と固く、というより感情をどう現したら良いのかを知らない人形のように思える。それから保護者然として後ろに立っている大人二人だ。一人はどこかダ・ヴィンチに面影がある女性である。もう一人は検討もつかない。温かな色をした髪を一つに結い上げ、カルデアの職員と似たような制服を着ている。どこか頼りなさそうだが、柔和に笑っていた。
     何度も握りしめたのか紙は皺が寄り、水滴を落としたようにぽたぽたと印刷が滲んでいる。よく見れば日付が書いてあった。2015.XX.XX。今は一体何年だっただろうか。人理焼失と漂白を越えた世界は年月の進みが曖昧にさせる。だが、藤丸立香の歩みを短縮させはしない。
     薄々勘付きながら、ただ己の仕事が果たせれば良いと見ない振りをしていた。何も知らない子どもが、己に繋がる全てと切り離されて尚歩み続けなければならなかった。ただでさえ過酷と分かる道程である。その上、支えになっていただろう大人たちでさえ、この彷徨海へ辿り着くまでに失っているのだ。
     一人唸り、軽く髪を掻き回した。腹にぐずりと沸いた衝動はここでじっと藤丸を待つ事を許さない。
     積まれた焼き菓子に埃が掛からないようティッシュを掛けて、外れ無いよう端を本で抑える。行儀が悪いが許してもらわないといけない。
     走り書きでメモを残し、慌てて藤丸の部屋を出た。



     記録ごと持ち出して来ているらしく、新参のサーヴァントも閲覧出来るようになっている。記録室を使う者は思いの外多いのか、あまり怪訝な顔もされず通された。残されているのは映像記録と、藤丸とマシュのレポートだ。
     どれから、と思ったが主観を追うよりも切り離された映像記録を追う。日付を確かめて再生ボタンを押せば、ノウム・カルデアと似た雰囲気だが違う作りの施設が映った。定点撮影なのか、視界にブレはない。
     また見た事が無い女が張り切った様子で説明をしている。レイシフト実験、人理保障。どこか鬼気迫った様子で声を張り上げていた。藤丸が頭を揺らしていたのか、それを見咎めて出て行くように指で示す。ああ、それで彼が生き残ったのか。他人事に流れる過去の出来事はこの先を暗示しているように思われてならない。――自分達はどうだっただろう、と思考を掠めた。
     マシュ以外にあの写真のメンバーは居ないようだ。本来ならば彼女が語る通りに進む筈だったのだろう。それが突然、女の足元が爆発して映像が途切れた。よくもまあここまでも残っていたものだ。一瞬でその場に居た人間全てを殺すという意思でも籠もっていたのではないだろうか。
    「はーん……ここで切れちゃうのね……」
    「そう。所長の前で寝ちゃってさ。そんで俺が追い出されてる時に爆発が起こったんだよね」
    「うわっ、マスターちゃん、どしたの」
    「メモ残してったの一ちゃんじゃん」
     本当に少し確認するだけだったのか。瞬きをして見上げている内、次はこれ、と観測記録を再生される。今でもレイシフトをする際に行われている藤丸とマシュの存在証明だ。音声記録はよく残っているが、映像は見方がよく分からない。
     すぐに出るつもりはないのか、隣の席に腰を掛けて、椅子を軽く寄せられる。写真の面差しが色濃く残った横顔だ。しかし当時はあったあどけなさは随分と薄れているよう感じられた。
    「まあそうなんだけど。普通追い掛けて来ないでしょ」
    「いや追い掛けるでしょ。俺の写真、持ってったじゃん」
     そう言われて、大人しくしてる訳ないじゃん。と続けられると頷かざるを得ない。置いていこうとした筈なのに、気付けば握り締めていた。大人しく返せば、ありがとう、と溢して視線をやる事無くポケットにしまいこむ。
    「この辺りの事は俺もよく覚えてなくってさ。マシュが鎧着てるし、俺がマシュのマスターって言われても全然そんな自覚なかったし吃驚したんだよね」
    「今よりちょっと固い? 感じだな」
     昔の沖田に似ているだろうか。いやそれよりももっと無機物じみている。ナビ音声に近い感じだろうか。言葉遣いも独特だ。
    「マシュにはマシュの事情が有ってさ。そういえば先輩って言われても始めはピンと来なかったなあ。俺、補欠で選ばれたらしくってさ。ここに来るのも一番最後だったんだよ。それなのにすぐ先輩って呼ばれるから混乱したなあ」
     一般枠の補欠。魔術も神秘も知らないが、人類最後のマスターとなったのだ。普通に生きていれば人の死体を見る事さえ人生を通じて数度あるばかりと与えられた知識は教える。そんな子どもが文字通りの死地へ放り込まれて、歪まず背を伸ばしているのはここにはもう居ない大人たちのおかげだろう。
     首を傾げて、眉尻を下げて笑った。その表情に、写真が見せた幼さを思い出す。
    「俺一人だったら、きっととっくに諦めてたよ。本当はさ、……まだここじゃないけど、一回諦めたんだ」
     声を落として、落として、例え不意に誰かが入ってきても斎藤以外に聞こえないくらいにボリュームを絞る。この辺りは記録に残っていないのかもしれない。誰も知らない、知られてはいけない。最後のマスターが折れるとは、要するに世界の終わりを受け入れる事だ。
     ああ、違う。まだ違う。そうではない。
    「危なっかしいな、おい。命ってのは落としたらおしまいな訳よ。何かを為したと思っても、そこで終わりじゃねえんだぞ」
    「うん……あそこで死ななくって良かったよ」
     分かっているようで分かっていない。写真を見た瞬間と同じもどかしさが喉を詰まらせた。
    「いーや、分かってねえ。全然分かってねえ。俺は絶対あんたを戦いとは無縁の生活が送れるようになるまで生き残らせるからな。藤丸立香。あんたは確かに人類最後のマスターだが、それだけで終わるなんて事はあっちゃならねえだろうがよ」
     じっと見つめれば、蒼い瞳が驚いたように目を丸くする。数度目を瞬かせ、堪えきれなかったようにぶっ、と噴き出した。手の甲で口元を抑え、笑いを堪えるように肩が震える。
    「思ってたけど……一ちゃんって格好付けるとき分かりやすいよね」
    「人が真面目に話してんだから、ちゃーんと真面目に聞こうよマスターちゃん」
    「いや、うん。ありがとう、勿論頼りにしてるよ」
     ディスプレイは彼が歩んで来た道程を映し出す。当時から喚ばれていたら、果たして自分はどんな感慨を抱くだろうか。
     藤丸にとっても懐かしい記録なのか、見つめる瞳は幾分か潤んでいるように思えた。
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    ねこの

    PROGRESSキーボードが来るまでストップノウム・カルデアは閉鎖された空間だ。外気は通らず、日光など取り入れられる道理も無い。施設内に疑似日光を再現できる部屋は有るが、あくまで疑似だ。シミュレーターなんかもそうだが、どれだけ限り無く本物に近くとも欺瞞に過ぎない。
     漂白された地球が一体どうなっているのかを斎藤は知らなかった。聞いてもきっと分からないだろう。記憶にあるよりもずっと技術の進んだ施設は便利だが味気ない。昼も夜も同じよう室内を照らす照明も、人間に害を及ぼさぬよう常に働く空気清浄機もよくできていると思うものの、揺らめく火を眺めたくなる。或いは様々なものが混じった土のにおいを嗅ぎたくなった。思えばシミュレーターはこの辺りが足りない気がする。エネミーを斬ったとて血や臓物の臭いが鼻の奥にこびりつく感触は無い。
     レイシフトに手を上げたのもそういう理由だ。今回は多少の揺らぎが観測された土地の調査とあって緊張感が薄い。ベースキャンプを作り、ここを拠点に数日間の探索を行う。野営には慣れているのか、随分と手際が良かった。
     頭上には晴れ晴れとした晴天が広がっている。放牧地なのか草が青々と生い茂り、寝転べば心地良さそうだ。敵性生物の気配 9055

    ねこの

    TRAINING外の光差し込まぬノウム・カルデアであっても時計の示す通りに寝起きをする事が推奨されている。いざとなると昼夜を問わず働く羽目になるのだ。平時から無理をして心身の調子を崩す道理はない。
     比較的最近召喚されたと有ってか、それとも先日の一件が有ってか藤丸の部屋に呼ばれる事が増えた。Tシャツにハーフパンツといつでも眠れるような格好のまま、実も付かぬ話をする事が多い。同じ国の生まれ育ちではあるが、時代が隔たればまるで違う世界のようだ。藤丸が用いる携帯端末一つ取るだけでこれでどれだけ戦が変わるか知れない。そんな事はきっとここに来た英霊皆が思うことだろう。
     そういえば再臨で纏うスーツも当時のものとは少し意匠が異なっている。あれが現代風なのだろうか。記憶にあるよりも幾らか生地が薄く伸びる。戦闘がしやすい割りに、形の崩れも少なかった。
    「んじゃあ別に用立てなくても僕ってば現代に溶け込めそうって事なのかな?」
    「ああ、そうかもね。今度新宿とか行ってみる? レイシフトだからそっくりそのまま俺が知ってるのとは違うけど」
     そんな近い年代でも特異点が成立するものらしい。
    「そんな遊びに行く感覚で行って良いのか 2725

    ねこの

    TRAINING国連機関、人理継続保障機関カルデア。
     大層な響きだが、聞いて具体的な想像が付くかと言われれば絶対に付かない。そもそも人理というものを意識した事など終ぞ記憶に無く、己が英霊などと呼ばれる大層な存在だったという自覚だって無かった。召喚時に擦り込まれる知識が無ければ喚び出されたその場で大立ち回りでも見せていたところである。
     人理焼却を越えて、クリプターによる人理の漂白。そのクリプターは元々カルデアの職員だったらしい。なんだ、要するに内輪揉めではないのか、と始めは思ったが実の所もっと込み入った事情があるようだ。与えられた知識と、召喚者である藤丸やダ・ヴィンチからの説明はされたものの、正直理解しきれるものではない。
     五つ目の異聞帯を攻略した後、縁有って斎藤一はセイバー――剣士のクラスでもって召喚された。もう既に洋の東西を問わず高名な者が集まっているというのに、刀を振るしか能の無い男にどんな役割があるのか。放っておかれるかと思ったが、召喚者はまた一人新たに加わった英霊を殊の外喜んだ。新選組は現代日本においてよくフィクションの題材になるようで、あまり歴史に詳しくないらしい藤丸の記憶に引っかかっ 6565