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    同棲しているアキにょへくです。

    結婚式に寄せて。「アキレウスくん、ちょっと手ぇ貸してくれる?」
    寝室にこもりっきりだったヘクトールの声がリビングに響く。柄にもなく、のんべんだらりとソファに横になり、雑誌をめくっていたアキレウスは、響いてきた声に上半身を起こした。
    今日は土曜日。本来ならば恋人としての甘やかな時間を過せる休日のはずなのだが、アキレウスは朝からヘクトールの肌はおろか、髪にすら触れられずにいた。
    声が聞こえた寝室に足を向けると、こちらに背を向けているヘクトールが見えた。
    出勤時には黒いジャケットにタイトなスーツ、普段着は緩めのパーカーにジーンズを着ていることが多いヘクトールだが、今日の装いは全く違う。
    いまヘクトールの体を包んでいるのは、濃い緑色のワンピースだ。さらりとしたその布地はヘクトールの肩口から足首までを包み、ウェストは細く締め上げられている。肩から袖にかけてはレース生地で作られており、覗く日に焼けない白い肌をひた隠しにしてくれている。腰から下はすとんとたれ落ちたようなロングスカートになっており、ところどころにあしらわれたプリーツが動くたびに美しい波を立てていた。
    「ごめん、後ろに手が届かなくて。ファスナーあげてくれる?」
    見れば確かに、背中の布地は真ん中かからぱっかりと二つに分かれ、真ん中に鎮座しているブラジャーの留め具を露出させている。自分の恋人をあられもない格好にさせているファスナーをあげるべく、アキレウスはヘクトールの背後へと近づいた。
    普段、首の後ろで一つにくくられ、馬のしっぽよろしく垂れ下がっている髪の毛が、見事なまでにまとめ上げられ、後頭部へと止められている。完璧なまでに白く輝きを放つうなじの上、まるで一縷の遊び心のように垂れ下がった後れ毛が絶妙な色気を放っている。その光景を目に焼き付けながら、アキレウスはヘクトールの背中のファスナーに指を掛けた。
    「会社の後輩、だったか。式、あげんのは」
    じじじ、と鈍い金属の音がやけに大きく聞こえる。緑の布地に透けないよう配慮しているのか、見える下着の色は黒い。見えた布地と白い肌が人前に露出しないよう、アキレウスはきっちりとファスナーをうなじの下まで引き上げた。
    「そう。ごめんね、構ってあげられなくて」
    自身の背に布地があたるのを感じたのだろう、ファスナーをあげ終わったのを皮切りにヘクトールは自身の両手をうなじに回す。指先にはきらりと光る銀の金具。あまりアクセサリの類はつけないが、こういうフォーマルな場につけていくものだけは、一式きちんと取り揃えている。そんな部分に自分とは違う、大人、の部分を感じてしまう。
    「帰るときに連絡するから、それまでおとなしく待っててね」
    「迎えは?何なら今、送っていこうか?」
    「あー……、いいよ、大丈夫。気にしないで」
    途切れた言葉の間を、勘ぐってしまう。
    随分と年の離れている自分たちの関係を、友人たちに自分をなんと説明するべきか、ヘクトールが図りかねているのだ。
    いわゆる恋人という関係になって五年、同棲してすでに三年が経っている。そろそろ結婚、を考えてもいい頃合いなのだろうが、口に出そうとすればヘクトールが遮りの声を上げる。
    大方、年若い自分がいつか離れていく、とでも考えているのだろう。そんな考えが消えるころまで付き合うつもりはあるが、そろそろ自分も我慢の限界を迎えそうなのも事実だ。
    ヘクトールの手が離れ、首に銀の鎖がかけられる。降り注ぐ蛍光灯の光を受け、きらりと光るそれが、まるで「この首は自分のものだ」と言っているように、アキレウスには見えた。
    だから、仕方がなかったのだ。
    ほかの準備にとりかかろうと動き出したヘクトールの両肩を掴み、自身に引き寄せる。近づいたうなじに唇を近づけ、光を放つ鎖を押し退ける。すると、引き寄せる際、わずかに俯いたせいか、首にはそれまで見えなかった頸椎がぽこりと浮き上がっていた。そのなだらかな山の頂きにアキレウスは自身の唇を押し当てた。
    「っ、つ、ぁ!?」
    ちゅう、と音を立てて吸えば、ヘクトールから苦し気な声が漏れた。加減はしたつもりだったが、それでも痛みは走ったのだろう、びくりと体が揺れる。そこで何をされたかに気付いたのか、慌てた様子でヘクトールが振り返る。普段垂れている瞳が大いに吊り上がり、怒りを露わにしていた。
    「なに、してんの」
    片手をうなじにあて、それ以上の攻撃を阻止しているようだが、アキレウスにはもはや攻撃の意思はない。
    「すまん。うなじ見てたらつい……」
    白々しくそう答えれば、呆れた様子でため息が吐かれる。跡、ついてないだろうね?と尋ねる声に、アキレウスはもちろん、と答えた。

    「じゃあ、行ってくるね」
    「おう。楽しんで来いよ」
    「……おかしい」
    「ん?何がだ?」
    「君が、私をそんな笑顔で送り出すはずがない」
    「んなことねぇって。さ、時間になっちまうぜ」
    にこにこと笑顔を浮かべたままヘクトールを扉へと追いやる。最後の最後、片足が玄関から出るまで、ヘクトールは疑惑の表情を向けていた。そんなヘクトールを送り出し、がちゃんと玄関の扉が閉まった後も、アキレウスは笑顔を浮かべていた。
    原因は、先ほどのうなじへのキス。
    跡は残っていない、といったが、吸ったのだからばっちり残っている。相当濃い跡だった、結婚式の間も消えることはないだろう。
    式場で、あの跡を発見した友人たちに、ヘクトールはなんと説明するのか、を楽しみにしながら、アキレウスはリビングのソファへと再び足を向けた。
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