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    hota_kashima

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    hota_kashima

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    きーやの過去の話(捏造)彼が征く事に躊躇いのない理由に、過去に色々とあったのだろうと考えて書いた話

    遺念燦々と降り注ぐ南洋の陽光は、高度を下げるとあっという間に機体の内部が灼熱と化した。

    機体の中はまるで蒸し窯だ。飛行帽の内側に汗がにじみ、頭がじっとりと蒸れる。額の汗が目に入り、視界が滲んだ。

    滴る汗にイライラしながらも操縦に集中していると、艦の甲板が視界に入る。ようやく着艦の順番が巡ってきた。ほっと息をつくが次の瞬間、機体が軽く跳ねた。

    「しまった…」

    フックがワイヤーを捉え損ねた。
    甲板の端ぎりぎりでエンジンを吹かし無理やり浮き上がる。
    (またやっちまった…)
    仕切り直して二度目の着艦、今度はうまく引っかかり機体がガクンと止まる。
    風防を開けて地上に降りると先に帰艦をしていた同期、佐野が腕を組んで待っていた。

    「おいおい鍵谷、またワイヤーすっぽ抜けか? 相変わらず着艦は下手くそだなあ」

    くくくと笑いながら煙草をくわえる佐野から差し出された煙草を一本受け取り火をもらう。数時間ぶりの一服が肺の奥にまで染み渡った。

    「くぅ…うめぇ」

    吐き出した煙とともに、くだらない冗談が口をつく。

    「あの甲板員の狙ってる女が俺に惚れちまってな。仕返しに細工されたかもしれん」

    「ははっ、鍵谷お前は昔から着艦は下手だったろ。言い訳すんな」
    軽く肩を叩かれながらも、その空気が心地いい。

    艦内の階段を降り搭乗員控室へ向かう。
    途中、ふと頭に浮かぶのはタウイタウイ寄港中に顔なじみになった女のことだった。

    「帰りもタウイタウイに寄港あるかね。本土帰る前にミッちゃんに挨拶してぇや」

    ミッちゃんは妹の歳とさほど変わらない朝鮮人の女だ。

    「貴様いつもピー屋に通い詰めてるがよく金が持つな。」

    佐野が呆れた声を上げる。

    「いんや、金なんざ払ってねえよ。控えの間に通されるんだ。そんで甘いもん渡して話をしてるだけだ」

    塩辛いものを好む俺にとって携行食の羊羹やキャラメルはただの荷物だった。
    ピー屋の裏で一人座っていたミッちゃんにそれを渡した日から、寄港中の一か月間とても良い話相手になってくれたものだった。

    「じゃあまあ甲板員の嫌がらせって話も信じてやるか。貴様は確かに恨まれるだけのことをしてる」

    「だから違ぇって!」

    二人で笑いながら部屋に入る。
    ふざけた会話ができる佐野とは居心地が良く、気がつけば2人で煙草を吹かしている事が多かった。
    予科練も同期だったことから、一度は部隊を離れた事はあれど気の知れた仲で、任務でも阿吽の呼吸で連携が取れる数少ない信頼できる男だ。
    マリアナ沖での大規模作戦に共に向かえると解った時は安堵をしたものだった。


    空母大鳳は竣工間もない最新鋭の空母で今回のあ号作戦が初陣となる。
    甲板は今までの板張りとは違い装甲で覆われており、大日本帝国海軍史上最高の不沈艦として謳われている最新鋭の空母に乗れたことにも舞い上がっていた。



    だが、運命は気まぐれだった。



    出撃前日、甲板に置かれた黒板の前で立ち尽くす俺に背後から声がかかった。

    「鍵谷…俺、控えに回された」

    佐野だった。

    その名は、出撃編成表のどこにもなかった。
    肩を抱くと、彼はぼそりと呟く。

    「お前とだったら敵無しだったんだがな…」

    俺は笑って言った。

    「今回は温存ってことだろ。何せこっちは400機で出る。楽勝だって上の連中も言ってる。敵さん、尻尾巻いて逃げるさ」

    本気で、そう信じていた。




    戦闘機から順に次々と大鳳から発艦していくと、上空で旋回しながら瑞鶴、翔鶴の編隊を待つ。
    蚊柱のような戦闘機の群れが次々と空に舞い上がった。
    最後に艦攻が飛び立ち全隊が編隊を整えた、その時だった。

    「航跡…?」

    海の表面を二本の白線が横切り、大鳳の側面にぶつかった。
    衝撃とともに黒い煙が立ち上り、海面は燃料で黒く濁る。

    「魚雷!?」

    俺たちは大鳳の後方で炎が吹き上がるのを見ながら、進撃を開始した。

    「佐野…いや、不沈艦の大鳳だ。大丈夫。」
    後ろ髪引かれる思いだったが、自分に言い聞かせるように呟いた。



    作戦は、惨敗だった。
    400機を超える日本軍に対して、敵はそれを上回る数で待ち構えていた。
    味方機が次々と油を含んだ真綿に火をつけたように燃え落ち、空に飲み込まれていく。
    次々と落ちていく僚機たち。気がつけば、俺の零だけが空に残っていた。

    一機で敵に突っ込んでも無駄死にしかないことに諦めを感じ、大鳳に帰艦を判断した。

    だが、どこまで飛んでも大鳳の姿は見えない。翔鶴も瑞鶴も、姿がなかった。

    燃料もあと僅か。
    このまま着水をしてフカの餌になるくらいなら海面に突っ込んで楽に死ぬことを選ぶか…その時だった。

    雑音しか拾わなかった無線が、不意に友軍の無線を拾った。
    それを頼りに、ボロボロの機体で半壊している空母「千代田」までたどり着く。



    そして、知らされた。
    大鳳沈没。

    本土に戻ってからも、佐野の名前を探して生存者名簿をめくった。
    だが、そこに彼の名はなかった。
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