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    愛憎(西)中心で、黒く染まってしまった西のある島に調査に行く話。

    ※賢者は、男女どちらでも読めるように書いています。
    ※NotCPのつもりですが、シャイムル好きが書いています。
    ※タイトルはそのままの意味を持ちませんので、あまり深く考えないで頂けると幸いです。

    #愛憎
    loveAndHate

    フォールアウト ――西の国で、一つの島が黒く染まってしまったらしい。

     毎日のように送られてくる依頼は多岐に渡る。人の手に負えない魔物退治から、復興作業など様々だ。それらに優先順位をつけて、魔法使い達に調査を振り分けるのが賢者の務めの一部になっている。
     近頃最も重要視されるのはノーヴァに関わりがありそうな案件だが、厄災の影響を受けたであろう事象の対応についても引き続き行っている。人知を超えた状況に対して人間は殆どは解決出来る手筈を持たない。もしかしたら大いなる厄災の影響かもしれないと考えて、この依頼を請け負う事にしたのだ。
     いつものように談話室に各国の先生方を呼び集めた賢者は、最後にその依頼についてを相談した。
    「一言で黒く染まると言っても、どういう染まり方なんだ? まだらなのか、島の一部なのか」
     そう訊ねたのは東の国の先生役であるファウストだった。それに聞いた情報を元に賢者は答える。
    「どうやら真っ黒らしいです。船で島を訪れようとした人が、目的地の島だと気づかずに通り過ぎてしまったくらいに面影なく」
    「住んでいた人は?」
    「……みんな行方不明との事です」
     絶望的である事を誰もが察したが、顔色を変える者はいない。北の先生役である双子はそれが日常だと言わんばかりだし、北で生まれ育ったオズとフィガロも似たような事を考えているのだろう。ファウストは口を引き結び、シャイロックは眉尻を吊り上げた。
    「発見が遅れたので、明確にいつ黒くなってしまったのかは分かりませんし、今更行っても助けられる命は無いでしょう。でも放っておいたら周りの島に同じ現象が起こるかもしれません」
    「つまり、染まってしまった原因を探れば良いんだね」
     そう話をまとめたのは南の国の先生役であるフィガロだった。助け舟に頷くと、フィガロはにっこりと柔らかく微笑んでくれる。そして「その件はどこの国が担当する?」と周りを見回した。
    「西の皆さんにお願いしようと思っています。……シャイロック、行ってくれますか?」
     シャイロックの口数がいつもに比べて少ない事に賢者も気付いていた。だからもしかしたら断られるかもしれないという一抹の不安を覗かせながら顔を向けると、彼は足をゆったりと組みなおしてから応えてくれる。
    「構いませんよ。賢者様も同行していただけるんですか?」
    「そのつもりです。引き受けて下さりありがとうございます!」
     ほっとした様子を表情に浮かべている賢者に、スノウとホワイトが駆け寄って頭を撫でた。しょっちゅう小さな子供扱いをする双子に嫌な気持ちはわかない。むしろ元の世界だったらとうに甘やかされる年齢では無いので、くすぐったい気持ちになるばかりだ。
     その後出発する日時を決め、その場は解散となった。皆が続々と談話室から退出する中、ファウストは前を歩くフィガロの腕を掴むと声を潜めて訊ねた。
    「お前は、何が原因か検討がついているんじゃないのか」
    「……シャイロックも予想はしていると思うよ。でも彼が何も言わないで引き受けたなら、俺が口出す事じゃないでしょ」
     その答えに眉を顰めるが、それ以上は何も聞き出せない事を察してファウストは手を離す。そして我先にとフィガロを追い抜かして部屋を出て行ってしまった。その背中を見送りながら、フィガロは誰に聞かせるでもなく溜息を吐いた。



     島へ向かう定期船はそもそも無く、借りられる船も手配出来なかったため、一向は箒で向かうしかなかった。乗せたがったムルには悪いが、長時間ムルのアクロバティックな飛行は耐えられそうにない。結局賢者はクロエの後ろに乗せてもらう事にした。他の三人に比べれば薄い彼の背中にしがみつくと、安心するように気遣いを幾度も見せてくれる。
    「小さな島だとしても全部を黒く染め上げるのって大変だよね。布だってそうだよ、すぐムラが出来るし」
    「布かぁ……。島が丸ごと黒い布で覆われてるだけだった……とかなら良いんですけれど」
    「だとしたら、俺達も知らない巨大な生物が布をかけたのかも!」
     布の内側では島民達が変わらず生活をしていて、助けを求めている――なんて状況は楽観的過ぎる事は分かっている。どうしても暗い表情になりがちな賢者をクロエは精一杯慰めてくれているようだった。
    「ラスティカはどう思う?」
    「そうだね……チョコレートが降っていて、お菓子の島になっているのだとしたら素敵だと思うよ」
     隣に並んで飛んでいるラスティカは、おっとりと童話のような話をした。いつぞやお邪魔した北の国にあるオーエンのお菓子の家を思い出してクスリと笑う。チョコレートだけでなく、ビスケットや飴など甘いもので作られた家は夢が詰まっていた。
     二人とも賢者の心を慮って言葉をくれる。そのやさしさに甘えてばかりではいられない、出来るだけ前向きにいようと考えながら上も下も青い世界を飛んでいく。
     予想だにしない行動が多い彼らだが、全員にとびきりの安心感を感じてしまうのも確かだった。年少者もおらず、団体行動も単独行動も得意である。だからどの国に任せようか悩んだ時は真っ先に西の国の彼らを思い浮かべてしまいがちだ。あの祝祭を執り行った時もそうだったように。
     ――しかし、静かすぎないだろうか?
     最初はそういう日もあるだろうと賢者は考えていたが、違和感が時間を追うごとに強くなっていくのだ。シャイロックが静かなのはそこまで可笑しな話ではないが、ムルが最後に会話をしたのは陸を離れる時だった。
    「あの、ムルっ! あんまり一人で先に行ってしまわないで下さいね!」
     風の音に負けないよう声を出したつもりだが、ムルは振り返らなかった。代わりに「見えたよ」と言って前方を指差す。それに反応したクロエが興奮したように声を上げた。
    「あれを見て賢者様! 多分目的地の島だよ!」
    「あれが……?」
     上空から見たそれは、海に浮かぶ巨大な黒い岩のようだった。あれが島なのか疑った。常人の視力ではただの黒い塊にしか見えない。徐々に近づいていく内その塊の凹凸が見えてきて、入江に繋いである船や、灯台のような細長い建造物がある事が分かった。しかしどれも色が存在せず、ただただ闇のように黒い。
    「ムル、危険かもしれませんから、戻って……っ!」
     異様な状況に不安に思って声をかけるが、聞こえなかったのかムルはどんどん進んで行ってしまった。高度を下げていくにつれ、上空の空模様が怪しく見えてきて身震いする。
    「雲行きが怪しいね。賢者様、大丈夫?」
    「はい。ただ、雨が降るのかも……ムルは、どこまで行っちゃったんでしょうか」
    「広場に降りたようだね。教会のような建物が見えるかな? そこから少し右に開けている場所があるでしょう」
     ラスティカに促されるまま視線を移動していけば、真っ黒い地上に一点だけ色彩がある。あの鮮やかな菫色は間違いなくムルだ。ひょこひょこと行ったり来たりしているので、ほっと胸をなで下ろす。
    「……でも、やっぱりおかしくない? あの雲」
     そう呟くクロエに、首を縦に振って同意した。先程から気になってはいたのだが、気付いた時には雷雲のように黒々と色づいていて、瞬く間に細く長い雨が降り出し始めた。その真下にあるものはムルが着陸した島だ。
     どこがおかしいのかと問われれば全てだとしか言いようが無かった。その雲は島の上空にのみ現れていて、少し離れた所にいる賢者達が雨に打たれる心配は無い。程なくしてその雨は急速に勢いを増して地上に降り注ぎ始めた。すると雲と島の間にある空間が黒く染まるのだ。まるで天と地を繋ぐ柱のように黒く聳え立ち、ムルを見失いそうになる
    「追いかけないと!」
     慌ててクロエにお願いをしようとした直前に、横から遮るものがあった。風に靡いている赤と黒と白のチェック柄をしたストールは、間違いなくシャイロックのものだ。どうして止めるのかと表情を窺うと、シャイロックは静かに応えた。
    「行ってはいけませんよ、特に賢者様は」
    「どうしてですか。行かないと原因究明の役に立てませんし、ムルを一人には出来ません」
    「どちらも不要だと言っているんです」
     島を黒く染めたのは、あの雨雲で間違い無いだろう。チョコレートではなく、黒い雨が島に降り注ぎ言葉の通り黒く染め上げてしまったのだ。でも、あんな雨の存在を賢者は知らないし、クロエ達も見た事は無い様子だった。だがシャイロックだけは正確にあの黒いものの正体を察していて、珍しく眉間に皺を寄せている。
    「雨に見えるでしょうが、実際は油のようにベトベトにまとわりついて、もちろん蒸発なんてしてくれません。降れば降っただけ積もり続けて、布で拭っても取れるどころか広がるだけでしょう」
    「……身体への害はあるんでしょうか」
    「あるだろうね、植物もただコーティングされているわけじゃなくて朽ちているから」
     疑問に答えたのはラスティカだった。どうやら賢者よりも鮮明に島の様子が見えているらしい彼の表情は痛ましいものを見るもので、クロエの口数も減っている。
    「だとしたらムルが危険です……!」
    「良いんですよ、気が済むまで放っておけば」
    「どうしてそんな事を……」
     シャイロックは依然として静かな目をしていた。だが酷薄にも見える彼の表情は以前見たものに似ていて、その炎のような緋色の瞳は紛れもなく軽蔑の色を湛えている。その目を覗いた瞬間、可能性に気が付いてしまった。
    「……これも、ムルのした事なんですか?」
     そう口にしながら、それは違うと賢者は思った。恐らく魂が砕け散る以前のムルが発明した魔法科学装置に関係があるのだろうと当たりをつける。島に降りたムルを目で探すが、彼の鮮やかな色彩はとっくに黒く染まっていて、目を凝らしても賢者の目には映らなかった。あそこに行ってくれとクロエに頼める状況では既に無く、ただ焦りを募らせる。
     顔色を蒼く染めている賢者を横目で見たシャイロックは、ふぅっと煙を吐くように諦めたみたいに息を吐いた。
    「……私が行きますから、ここで待っていてください」
    「でも、」
     シャイロックがあの黒い泥のような雨に打たれる事を想像した賢者は制止の言葉をかけようとして、途中で辞めた。シャイロックを止めるという事はムルを見捨てるのと同義だ。真っ直ぐにシャイロックを見据えて、「お願いします」と言い直した。

     スルスルと島へ降りて行ったシャイロックは、直径の広い傘を魔法で呼び出すと雨が当たる間際に差した。魔法で強化された傘は降ってくるものを弾いていくので積もっていく心配は無い。地面は思っていたよりも固まっていて、今降り注いでいるものも足を取られる程泥濘んではいなかった。黒い雨の中に入ってしまえば、外から見るのとはまた違う景色が見えてくる。
     ムルは変わらずに広場に居た。ひとところに留まっているとは思いもよらず、シャイロックはその場に立ち尽くした。かける言葉も出て来ずに、ただムルを見つめる。
     広場に居たムルは、まるで楽しげにステップを踏んでいるようだった。自分も黒く染まりながら、その雨と遊ぶように踊っている。その光景はただただ異質で、そこに意味は無いように思えた。
     この黒いものの正体は、汚染だ。兵器の開発が盛んなラングレヌス島のような都市とまではいかなくても、この近辺の島々はどこも工業が盛んで、そのいずれかの、もしくはそれらの島々から集まった澱が集った結果がこの雨なのだろう。海が汚れ、空が汚れて、島が死ぬ。魔法科学装置に夢と希望と欲望を抱いた故の当然の結果なのだ。

     先日、真白い灰に覆われた街を見たばかりだった。
     それは南の国と東の国の境界にある半島で、大いなる厄災の影響で活性化した火山による爆発的な噴火が原因だった。賢者の魔法使い達が呼ばれた理由は、事後処理である。南の魔法使い達とたまたま暇を持て余していた西の魔法使いで向かったのだ。
     早々に批難が行われたおかげで住民への被害は最小で済んだと聞いている。だが、その街で暮らしていた人達から見ればこの世の終わりのような景色だった事だろう。
     だが、火山灰で覆われた街は美しく見えた。目に痛いくらいの白い世界は気を狂わせてしまいそうで、北の国の雪を彷彿させた。
     そして今度は黒い雨が降っている。厄災が関与しているとはいえ、噴火は自然の現象だ。だが、今目の前にある黒い世界はただただ人による汚染でしかない。
     その原因を作ったのが、子供のように踊るムル、その人だ。

    「愚かなムル。相も変わらず責任から逃れて……愉しいですか?」
     ムルは答えなかった。代わりに古い歌を口ずさむ。パーティで演奏されるような華やかなものでは無い、家庭で母親が子に聞かせるようなそんな歌だった。
     それに更に苛立ちを膨らませたシャイロックは、返事の無い彼に話しかけ続ける。まるで壁を殴りつける気持ちで。
    「この島には未来永劫人は住めないでしょう。あなたがした事ですよ」
     一歩、また一歩近付くと、ムルが笑っているのが見えた。なんて無邪気に笑うのだろう、この世の悪を知らぬかのように。何が悪なのかを問い始めたら一朝一夕では答えは出ないだろうが、間違い無くこの島にとっての悪はムルだろうに。
    「嘆く事も許されない事を、あなたが一番理解しているでしょうけれど」
     そして傾ければ傘も届く距離まで近付いた時、伸ばされた腕はシャイロックのものではなくてムルの方だった。突然傘を持つ手首を掴まれて、突風に飛ばされたかのように傘が舞う。ここまで濡れずに来たというのに、この一瞬で努力の全てが無に帰した。頭から黒い雨を被りながら、手を引かれるままにムルのダンスに巻き込まれる。ワルツなのかタンゴなのかも分からない。拍子も目茶苦茶、頼りになる筈の音楽も同様で。ただ足場の悪い中で足を縺れさせてバタバタと無様に動き回っているだけだ。
    「ああ、もう……ッ」
     こんな事をシャイロックにさせられるのはムルくらいだ。苛立ちが頂点に達しているというのに、掴まれた手を振りほどけないでいる。それもムルの笑顔が口元だけである事を知っているせいだ。
     その後幾度かバシャバシャと水を蹴り、くるりとシャイロックを支えにして回転したムルは、そのまま地面へと倒れていった。しかし頭が地面を打つ事は無い。変わらずシャイロックが支えていたからだ。
     無駄に息が切らしながら、自分と同じくらい重量のある男を抱える。全身がずぶ濡れでベトベトして気持ちが悪い。この島を離れたらすぐに魔法で清めるつもりだが、この気持ち悪さは消えてはくれない事も分かっていた。
     意識を失ったムルの顔を見ながら考える。ムルひとりで負える責任など、とうに超えていると分かっているのだ。彼が実際に責任を取ろうとしたら石になるのしかないのかもしれない。そして小綺麗な石になった彼は、魔法科学装置の燃料となって更に禍を引き起こすのだろう。
     ああ、なんて救えない。救おうとも思わないし、きっと救われたいとも思っていないだろうけれども。
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    Replies from the creator

    tono_bd

    DOODLEフィガファウ冥婚企画(https://mhyk.web.fc2.com/meikon.html)で書いたお話です。
    レノックスと任務で東の国に行くファウストの話。
    任務についてがっつり書いて、恋愛要素は潜ませました。
    ああそういう事だったのね、という感想待ってます。
    赤い川を渡って そこに横たわっていたのは血のように赤い色をした川だった。
     流れがひどく緩慢なため、横に伸びた池のような印象がある。大地が傷つき、血を流した結果出来たのがこの川だという言い伝えがあってもおかしくは無いだろう。濁っているわけではなく、浅い川であることも手伝って川底の砂利まで視認出来た。尤も、生きた生物は視認出来なかったが。
     任務でこの地を訪れたファウストは、地獄を流れる川のようだと感想を持った。
    「きみは驚かないんだな」
    「見慣れた風景ですので……懐かしさすら覚えます」
     水質を調べようとファウストは手を翳したが、既に手遅れであることは誰の目にも明らかだ。オズくらいの魔力があれば力業で全ての水を入れ替えてしまえるのかもしれないが、正攻法であれば浄化になる。媒介は何が必要で、どのような術式で、とぶつぶつ呟きながら暫く考えていたが、少なくとも今打てる手はファウストには無い。
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    tono_bd

    DOODLE同級生の中で一番初体験が早かったのが生徒会長だったら良いな……って思いながら書きました。
    スペースに集まった人全員「夏の現代学パロ」というお題で一週間で作り上げるという鬼畜企画でした。
    私が考える「現代学パロ」はこれだ!!って言い切るつもりで出します。
    どう見ても社会人パロとかは言わない約束。
    ノスタルジーが見せる 夏休みを失って二年が経った。
     手元で弾けている生ビールの泡のように、パチパチと僅かな音を立てて消えていく。気付いたら無くなっているような二年だった。社会に出れば時の流れは変わるのだという言葉の信憑性を疑った時期もあったが、自分がその立場に立ってはじめて理解出来るものだ。
     ノスタルジーが生み出す感傷だろう、自分らしくないなと思いながらジョッキを傾ける。
     同窓会なんて自分には縁の無いものだとファウストは思っていた。誘う友人もいないし、誘われるような人柄では無いと自覚している。それなのに今この場にいるということは、認識が間違っていたという事だろうか。今日の事を報せてくれた淡い空色の髪をした友人は目立つ事も面倒事も厭うきらいがある。そんな彼が声をかけてくれたのは、単に僕がのけ者にされないよう気を遣ったのか、巻き添えを探していたのだろう。
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