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    とむた

    @MhykTomuta

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    とむた

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    7月18日開催のパラロイオンリーで展示予定の長編です。愛憎中心になる予定だったのがほぼ因縁中心のオールキャラになった。
    モチベ上げるために序盤アップ。

    #パラロイ
    paraloy
    #愛憎
    loveAndHate
    #因縁
    fate

    パラロイ試し読み昼時も過ぎ、午後の勤務に慌ただしくなるのは、フォルモーント・シティポリスでも変わらない。街の巡視に向かうものや書類を抱えて廊下を通り過ぎていくもの、または犯罪者と思われる人間とそれを連行する厳しい顔の警官などで煩雑としている。周囲の人々の邪魔にならないように端を歩きながら、カインは愛車のカギを手で遊びつつ自身の部署へと向かっていた。
    「ようカイン!いま戻りか?」
    気さくに話しかけてきたのは同僚の男だった。片手をあげてカインも笑って返す。
    「ああ、午前は見回りで終わったよ。そっちは今から外回りか?」
    「まあな。そうそうお前に伝言があるんだ」
    「伝言?」
    「署長がお前のこと呼んでたぜ。戻ったら署長室まで来いってさ」
    カインは首を傾げる。最近のカインは品行方正に街の安全を守り、時折友人と休息をとる、という、特段事件や問題も起こさずに職務に励んでいた。しかし署長とは件のアシストロイド絡みの事件があってからその後始末や署長自身がカインを気に掛けていたりと、何かと接する機会が多くなっていた。またその辺りの話だろうか、と思案していると同僚は意地の悪い顔をしてカインを小突く。
    「おいおい何かやらかしたのか?心当たりがあるって顔してる」
    「お前が思っているような事なんてなんもないよ。どうせ厄介事の押し付けだって」
    「そうかあ?ま、何かあったら俺が酒の一杯でも奢ってやるから泣いてもいいからな」
    「言ってろ」
    カインも相手の肩を小突いて年相応に笑いあったのち、礼を述べて同僚と別れる。未だ慌ただしい廊下を行きかう人々を避けながら、カインは署長室へと足を進めた。

    署長室は署内の中心部にある。しかしその周囲は署長が許可をした人間のみが入ることを許されており、カインは最近まで近づく事すらなかった。連絡など通信端末で事足りたし、彼には何人もの部下がいる。つまりはカインのような若い人間が赴く必要などなかったのだ。それが今ではそれなりの頻度で呼び出される事が増えているのだから不思議なものだった。目的の扉はシンプルだが、所々に装飾が施されており利用者のセンスの良さが伺える。粗雑な様に見えて身だしなみや気遣いが男前な部屋主を思い出して、妙に納得してしまう。カインは指先でドアを叩く。硬質な音が廊下に響いて、数巡おいて「入れ」と短い声が返ってくる。それを確認してカインはハンドルを回して入室すると、部屋の主に向かって気さくに挨拶をした。
    「ボス、用事って聞いたんだが」
    「お前なあ、まずは失礼しますだろうが。あと敬語」
    カインの態度にブラッドリーは呆れた声と共に小言を零す。それに笑いながら謝罪をしたカインに今度はため息を落とすも、それ以上の言及はしなかった。
    「まあいい。お前に頼みたい仕事がある」
    「仕事?」
    カインにとってブラッドリーからの仕事の依頼など今更である。改めて呼び出されたうえでの命令になるならば、それは面倒な案件か機密情報が絡んだ案件となるだろう。
    「それで?どんな内容なんだ?」
    「とある要人の護衛だ。前もアシストロイドの護衛をしたことあるだろう?どこからかその噂を聞きつけた金持ちが、是非お前をとご使命だ」
    やるじゃねえか、と揶揄うブラッドリーにカインはこそばゆい心地になり、照れ隠しをするように一つ頬を掻く。そんな若手の微笑ましい姿にブラッドリーは目を細めて笑い、けれど瞬きの後には真剣な眼差しでカイン、と名を呼ぶ。
    「今回の仕事はお前にとってでかい案件になると俺は踏んでいる。だがお前ならやれるとも思っている」
    ボスのその声は重たくも凛と響き、自然と背筋が伸びる。厳格なその声音の中に、確かに自身への信頼も感じてカインは胸の内がじんわりと暖かくなる。普段は気さくなボスではあるが、屈強な男達を束ねて慕われるだけのカリスマ性があった。
    「俺の期待を裏切ってくれるなよ?」
    「はい!」
    「いい返事じゃねえか。普段からそれくらい従順でいてほしいもんだな。ま、ああは言ったが気負いすぎるなよ」
    困ったように笑うボスの表情に、必ず成果を上げてみせようとカインは心に誓った。



    耳の横を通り過ぎていくのは、風と街の喧騒。街の至る所をネオンが彩り、電子音が頭上を飛び交う。その中を相棒と共に駆け抜ける瞬間がカインは好きだった。景色が移り変わっていくなかで、ふと見覚えのある2つの背中を見つける。カインは相棒を減速させると、歩道へとゆっくりと車体を近づける。エンジンを止めヘルメットを外すと、その背中に声をかけた。
    「オーエン!晶!」
    「カイン!」
    「カイン」
    振り返った2人はやはり見知った友人で、片方は満面の笑みを、もう片方は表情を変えずにでカインの元へと歩み寄ってくる。
    「カイン今日は仕事でしたよね?」
    「ねえ僕知っているよ。サボりってやつでしょ?」
    オーエンが意地の悪い笑みを浮かべてカインを揶揄い、それに苦笑しながらカインも言葉を返す。
    「違うって。外部での仕事が入ったから今から向かうんだ。お前こそこっちに戻ってきていたなら連絡の一つくらいくれればいいのに」
    「なんでさ」
    「なんでって、俺達友達だろう?大切な友達に会えるっていうなら俺はこいつを走らせるさ」
    指の節で軽く相棒の車体を叩けば、オーエンはぱちくりとその薄紅を瞬かせた後に居心地が悪そうに視線を逸らす。拗ねたように口を尖らす様が普段よりも幼く見えたが、それを揶揄えば今度は口をきいてもらえなくなる事は想像に容易い為、微笑ましく思うだけに留めた。それに晶も笑って、会話の軌道修正をするようにカインに目線を向ける。
    「外部での仕事ってどのような事をするのですか?」
    「今回は護衛任務だ」
    「護衛!すごいです!」
    晶の純粋な称賛の言葉に誇らしくなる自分を律しながらカインは何でもないような顔をする。晶の前では年相応の友でいたいが、警官としてのかっこつけもしたいような、年下の友人に対する少しのプライドがある。
    「おっと、もうこんな時間か。なあお前ら明日の夜空いているか?」
    「私は大丈夫です!」
    「なにかあるの?」
    「折角友人が集まったんだし飲みに行こうぜ!」
    カインが太陽のような笑みを浮かべれば、晶は瞳を輝かせ、オーエンは少し視線を外しながらもソワソワと身体を揺らす。晶に比べて分かりにくいが、これはオーエンが嬉しいときの仕草だった。
    「別に、カインがどうしてもって言うなら行ってもいいけど」
    「どうしても」
    「…しょうがないな。じゃあいいよ」
    やっとオーエンが真っすぐに笑う。それが嬉しくて、カインと晶は視線を合わせたあと、手と手をぶつけて音を鳴らせた。
    「よし約束な!そろそろ行くけどまた連絡するから」
    ヘルメットをかぶり直してハンドルを握る。相棒のエンジンをかければ軽快な音楽が流れ出す。アップテンポなその曲はいまのカインの気分にぴったりだった。
    「はい、カイン気を付けてくださいね」
    「約束破ったら許さないから」
    2人の言葉に片手をあげて応え、その場から離れる。サイドミラーに写る2人の影は、カインの視界から外れるまで大きく手を振っていた。



    カインがそこに辿りついたのは、夕暮れに街が染まる時分だった。ハイクラスエリアの中でも更に高級地の一角。歓楽街と呼ばれるそこは、所謂エリート達が生活を送る街、本来ならば一生足を踏み入れる事は叶わないような空間にカインは立っていた。ここに来るまでに出会った人間は身なりが整っており、殆どの者がアシストロイドを連れている。よく見れば人間同士で会話をしている者たちは極少数で、アシストロイド依存症の問題性が視覚化されていた。件の事件後は多少緩和されてきたとは言え、長年の慣習というのは治らないものだ。それに思うところがあれど、カインにとっての現状の問題はそれとは別の所にあった。
    「ここで、あってる、よな…?」
    カインの前にそびえ立つのは巨大な建造物。天にさえ届いてしまうのではないかというほどに高いビルは、見ているものを威圧さえする。手元にあるカードに記された住所とここが相違ないか、もう10回は確認した。顔を上げては下げるのを繰り返す警察官を周囲の人間は遠巻きに眺めるが、本人にとっては気にしてなどいられない。今回の護衛任務の対象が待つ場所として指定されたのは、確かに目の前にある高級ビルの最上階。
    (確かにボスはでかい案件って言ったけど。物理的にでかいとまでは聞いていないんだが…)
    それでもハイクラスに関連する護衛はカインにとって初めてではない。以前のアシストロイドの護衛だって、カインでは想像もできないようなお屋敷を目にすることもあった。しかし一般市民であり、まだまだ若手のカインにとってはどれも夢物語のような世界だ。自分と住む世界が違いすぎてなんだか落ち着かない。そんなことを気にしていても任務である事は変わりなく。カインは1つ大きくため息を吐くと足を一歩踏み出した。



    軽快な機械音と共にエレベーターが動作を止める。電子版には最上階を示す文字が点滅し、数秒してドアが左右に開く。目の前の床はよく磨かれた大理石であり、既に一歩を踏み出す勇気がしぼみかけるが、そこは警官のプライドを駆使して凛と歩き出す。街の喧騒とは打って変わって、静かな空間に足音が響く。カードに記された店は高層ビルの最上階の最深部にあった。
    その店は外観こそシンプルに見えるが、所々に拘りがあった。壁は木目をイメージとした赤銅色で統一されておりシックな雰囲気となっており、真鍮のハンドルは年季が入り傷や塗装の剥げがあるが、それもこの外観の味の一つになっている。此方と彼方を隔てる扉も周囲の壁と同じ材質を使用しながら、中心に請託な一輪の薔薇が彫り込まれておりそれだけで絵になる。外からは中の様子が一切うかがえなかったが、カードに記された場所と特徴からここが目的地であるのは間違いない。ここまで来たというのに雰囲気にのまれ、扉を開けるのに二の足を踏んでしまう。
    「ねえ入らないの?」
    「いやちょっと待ってくれ心の準備が…え?」
    「じゃあ僕先に入っちゃお」
    横から見覚えのある白い腕が伸びるのと、目の前の扉が音を立てて開けられるのはほぼ同時だった。葛藤を無視してあっさりと扉は開かれるが、カインにとってはそれどころではなかった。
    「オーエン!?」
    「うるさいなあ」
    「オーエンが急に声をかけるからですよ」
    「晶まで!?待ってくれどうなっているんだ?」
    オーエンの後ろからひょこりと顔を出したのは晶だった。先ほど約束を交わした友人2人が、自身の任務先であるこの場にいる事に混乱する。それに煩わしそうに顔をしかめるのはオーエンだった。
    「それはこっちの台詞なんだけど。なんでカインがここにいるのさ」
    「いや、だから俺は護衛任務で…」
    「私たちこのお店のオーナーの調査をフィガロに頼まれたんです」
    「は、調査って…」
    「私のことでしょうね」
    凛とした声が空間に響く。歌うような、囁くような、甘美な心地よい優しさが含まれた聴く者の耳に残る声だった。声のする方、オーエンが無遠慮に開いた空間の先に、1人の人間が立っている。一瞬女性かと思ったが違う。妖艶ではあるが、体つきや所作、表情などが男のものであった。その美しいひとは、すっかり固まってしまったカイン達一人一人にゆっくりと視線を向け、そうして花の様な笑顔を咲かせる。それは全てを許す慈愛の微笑みのようであって、けれどとっておきの玩具を見つけたこどもの笑みにもカインには見えた。後になってあの時の感覚は間違ってなかったと彼は語る。
    「驚かせてしまい申し訳ありません。店の前で何やら気配を感じたのですが、一向に扉を開けてくださらないものですから」
    「すまなかった。こういう場に不慣れで…」
    「ほら、カインがモタモタしているから」
    オーエンに言いたいことは山ほどあったが、それでも初対面の人物の前なのでぐっとこらえる。カインの百面相に今度は楽しそうに笑いながら男は言葉を続ける。
    「お気になさらず。初々しい反応も嫌いではありませんよ。それで?私に用事があって此処までいらしてくださったのではないですか?」
    男の言葉にカインはアッと声を上げる。目の前の男やオーエン達の登場ですっかり抜けてしまったが、そもそも自身は任務の為にここまで勇気を振り絞ってきたのだ。慌てて姿勢を正すと真っすぐと相手を見つめた。
    「俺はカイン・ナイトレイ。フォルモーントシティポリスの巡査部長だ。ここの店に来れば依頼人と会えるとボ…署長に言われてきたんだが、あんた何か知らないか?」
    「カイン・ナイトレイ…ああ、あなたが。ふふ、お待ちしておりました、その依頼人とは私のことです」
    男が一つお辞儀をする。てっきり待ち合わせ場所に指定されただけだと思っていた為、店主の様に見えるこの男が依頼人である事に思わずたじろぐ。
    「え?そうなのか?あ、いや、そうなのですか?」
    「かしこまらないでください。ありのままの貴方でいいのですよ」
    本心の見えないままの笑みを浮かべながら男は握手を求める。カインは数巡悩んだ末に、そっとその手を握り返す。きゅ、と緩やかに力を込められた手がゆっくりと離れる際に、やっぱり男の手だな、なんて場違いな考えが過った。
    「ありがとう…えっと、」
    「ねえ、お前が例のシャイロックってやつでいいの?」
    そういえば名前も知らなかったとカインがあげた声をオーエンが遮る。オーエンの口にした名称がやけに耳について首を傾げている間に、男は笑みを崩さぬままオーエンへと視線を向ける。
    「どのシャイロックなのかは存じ上げませんが、フィガロ様の名前が出た以上あなたの想定するシャイロックでしょうね。あの引き籠り博士はお元気ですか?オーエン」
    「うんざりするくらいにはね」
    「こちらの可愛らしいお嬢さんは?ファウスト辺りは好きそうですが、フィガロ様の趣味ではなさそうです」
    「個体名は晶。僕とカインの友人。知ってるのはそれだけだよ。他に情報なんていらないでしょう」
    「そんな警戒なさらずとも、とって食べたりなんてしませんよ」
    「どうだか。お前と理事長は特に信用してないんだよね」
    2人のまるで旧知と会ったかの様な会話に戸惑ったのはカインだけではなく晶もだった。不思議そうな2つの視線を受けてオーエンはげんなりした顔をする。
    「僕個人は知らないよ。データとしてあるだけ。シャイロック・ベネット、フォルモーントラボの理事長の友人」
    「へえ、あれ?シャイロックってどこかで聞いたような…」
    カインは晶と共に首を傾げながらオーエンが連ねた説明を反芻し、暫し考える。シャイロック・ベネット、理事長の友人。歓楽街の高層ビルの店主。妖艶な見た目と柔らかい物腰。
    「シャイロック、ベネット…って、あー!?」
    それら一つ一つがピースのように合わさった時、カインは思わず大声を上げた。
    「うわっ」
    「うるさいな」
    「シャイロックってあの!?高級ワイナリー社長の…!?」
    「おや、私も結構有名人ですね」
    相手を指さしてはいけないという両親の教えが聞こえた気がしたが、いまのカインには何の効力にもならない。そんなカインの反応に、悪戯が成功したこどもの様な笑みを浮かべたシャイロックは芝居がかかった仕草で礼を一つする。ふわりと舞った芳香は、いつかの花を連想させた。たっぷりの時間を使って上げた相貌に妖艶さを張り付け、ルビーを煌めかせながら瞬いた。形の良い唇が、現実から非現実の扉を開く音を紡いだ。
    「ベネットの酒場へようこそ、可愛らしいお客様方。あなた方に逢える日を心待ちにしておりました。ここは日常から一歩先の特別な空間。どうか、刺激的で魅力的な一夜をお過ごしください」
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    とむた

    DONEルチミス。不思議なシュガーのお話。
    いずれ夢十夜みたいにしたいな(願望)
    君に夢を 夜の帳も下りた頃、魔法舎の自室で一人ミスラは空を眺める。そこから見えるのは忌々しい傷をつけた厄災。今日も今日とて、望まぬ長い夜を過ごさなくてはいけない元凶を一つ睨みつけるも、当たり前だが何の効力にもなりはしない。いっそ得意の空間魔法を繋いで直接壊してやろうかとも考えるが、魂が砕けるのは望むことではなかったので考えるだけに留める。その他にもオズへの襲撃も考えるが、身体のダルさを考えるとそれすらも気分が乗らない。連日の寝不足で働かない頭で考える事はどうも纏まりがなかった。何度体勢を変えても、抱き枕を抱え直しても一向に訪れる気配のない意識の消失にそろそろ我慢の限界だった。オーエン辺りにちょっかいをかけに行こうか、と考え始めたあたりで、聞き逃しそうな程小さな音が部屋に響く。部屋へと身体の向きを変えるも音の発生源となるものはなく、気のせいかと瞼を閉じかけたあたりで、また一つコン、と音が鳴る。今度ははっきりと聞こえたそれは、ドアの向こう側から響いたものだった。少し考えて、まあどうせ眠れやしないし、と酷く緩慢な動きでドアへと足を進めた。
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