可愛い意地悪を許せ 手洗い場でリップを直して戻ると、見慣れた顔が見慣れない表情を浮かべ、一人公園のベンチでクレープを貪り食っていた。
「なに一人で先に食ってんだてめェ」
「いいだろ別に」
普段の甘ったれぶりはどこへやら、硬い声で返される。何やらぶすくれている幼なじみは勝己と目線すら合わせず、クレープをもりもりと食べ続けた。断面から察するに、具はツナマヨである。
「それ、半分こしたかったんじゃねーの?」
クレープを指して問うと、出久の声のトーンがさらに下がる。
「しない」
「なんで?」
「…僕ら、恋人じゃないし」
勝己はちょっと驚いた。
出久にしては珍しく変な拗ね方をしている。普段は嫌になるほど真っ直ぐだから、「拗ねる」ことそれ自体が不慣れなのだろう。
勝己の中で「面倒臭い」と「いじらしい」がぶつかり合い、僅差で後者が勝った。
出久の隣に座り、耳元に口を寄せる。
「おまえがしてぇなら、付き合ってやらんこともない」
くきゅん、と出久の喉が鳴る。きちんと咀嚼する前に飲み込んでしまったのだろう。耳元がじわじわと赤くなるのは、息苦しいからか、照れているからか。その両方かもしれない。
勝己の一挙一動でここまで乱れるなら、まあ悪い気はしなかった。
「どーすんの?」
俯いた顔を覗き込むと、じんわりとした涙目が悔しげに勝己を睨んだ。