with you.13期の研修期間を終えて、ブラッドと2人で過ごす時間が増えた。仕事の虫だったブラッドにも多少の余裕が出来て、最近はメシも2人揃って食べるようになった。
「……っとと、味噌汁が吹いちまう。」
和食は加減が難しい。火加減、味加減。おまけに工程も多くて、本当に何度作ってもうまく行ってんのかも未だにわかんねぇし。
本当に面倒だとうんざりするのに、食卓に皿を並べる時に分かりやすく下がるアイツの眉尻を想像すると、まぁまた作ってやるのも悪くないな、なんて思うんだから。本当に「惚れたが負け」ってこういう事だよな。
サトイモに火が通ったのを確認して、器に盛り付けていく。
「おーい、ブラッド〜皿そっちに持ってってくれ。」
「ああ、わかった。」
リビングのソファで仕事のメールに目を通し続けていたブラッドが、端末を閉じ出来上がった夕食を受け取り運んでいく。
今日のメインはマグロを日本風のフリットにして、副菜は煮たイモとトウフの味噌汁。それから、ブラッドが取り寄せたらしい燻したピクルス。これが意外に酒に合うもんで、すっかりオレの家の冷蔵庫に我が物顔で鎮座してる。
「…あ。やっべ。」
ピクルスのついでにビールを出そうとして、昨日で切らせていた事に気がついた。これだけの食事を用意して置いて、酒が無いなんてナンセンスだ。
「…仕方ねぇな、買いに行くか。」
あらかた料理は出してしまったから、少し冷めるけどすぐ近くのリカーショップで買って戻ってくるだけだ。オレは1人で肯いて、リビングのブラッドに声をかけた。
「なぁブラッド、先に食べててくれよ。オレ酒買ってくる。」
「そうか、わかった。」
素っ気ないブラッドの返事を背に玄関のドアを開けると、ひゅう、と冷たい風が舞い込んでくる。
「おお、さむ。」
思わず肩をすくめて息を吐くと、はぁと吐いた息が白く散って消えていく。早く戻らないと、と足早に街中へと踏み出すといつも以上にぎらぎらとする電飾がクリスマス前の街並みに色をつけて回っている。
そういえば、ブラッドと2人で過ごすクリスマスは久しぶりなのか、とほんの少し街の空気がキースの足取りを軽くさせているようだった。
行きつけのリカーショップで、顔馴染みになっている店員に目だけで挨拶をすると、いつも飲んでいる銘柄を数本カゴに放り込む。レジ前に貼られた「サケ、入荷してます」と雑に書き殴ってあるのを目に留めて、日本酒の小さめの瓶を指差して、それも。と代金を支払った。
「帰ったぞ〜…おぉ、部屋ん中あったけぇ。外が寒いのなんのって……」
そう言いながら買ってきた酒とグラスを手にブラッドの方へ目を向けると「そうか。」と少し目を上げて返事をしたブラッドの目の前には綺麗に載せられたまま、手をつけられていない夕食がそのままになっている。
「……お前、食べてろって」
「冷めてしまったが、少しだけだ。」
そう言って、早く座れ。とブラッドは目で促す。呆れたとばかりにため息をついてから、まぁいいか。と口の端をあげてさっき買ってきた酒をブラッドに注いで隣に座った。
「んじゃ、酒も揃ったし食おうぜ。」
乾杯、と軽くグラスを鳴らして少しばかり冷めてしまった夕食に箸をつける。
「……なぁ、一緒に食べたくて待ってた?」
「…食べるタイミングを測っていただけだ。」
意外と寂しがりの暴君様が、フリットを口に運んで頬を緩めるのを見ながら、オレはビールを傾けた。
まったく、最高のつまみだよな。