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    yun357

    @yun357のワンクッション置き場。

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    yun357

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    webオンリー「Sunlight Days」
    #生真面目な君と乾杯 にて展示作品その②

    ラジオスターの皮肉。朝起きて、静かな部屋にちょっと拍子抜けするなんて昔のオレなら思いもしなかった。静かな方がいい。怒鳴る声も、何かを壁に投げつける音も、強く自分を責める声もしない、静かな朝をずっと迎えたくて願ってばかりいた、家を飛び出した頃の自分なら。

    「……あー…そっか、全員いねぇのか…。」
    重たい体を引き摺る様にのそのそとベッドから這い出して、パンツ一枚とかろうじてベロベロのスウェットと着て大欠伸をしながらリビングへと出る。いつもなら「おいキース!だらしない格好で出てくんな!」なんてジュニアにギャンギャン吠えられるもんだが、広々とした空間にいつもの騒がしさはなくて。薄暗く、静まり返っていた。
    大晦日も近い冬の日、クリスマスリーグを終えたヒーロー達にもホリデーはやってくる。ディノもジュニアも、フェイスも。休暇をとって実家に帰って家族と過ごすと言っていた。休む予定も、帰る予定もないオレは「お〜、ゆっくりしてこいよ。」なんて、今とばかりにお気に入りのビールを空けて3人を見送ったのが、昨日の夜。特に休暇を取ることもしなかったオレは悲しくも通常勤務だ。
    「…顔洗ってくるかぁ……。」
    洗面所へと向かいながら1人でそうぼやいてみるが、そのぼやきにも返ってくるいつもの騒がしさが、今ここにはない。少しだけ考えてから目的地へと向けていた足を止め、リビングへと引き返して、リビングに置かれたポータブルラジオのスイッチを入れた。
    静まり返った部屋に少しだけざらついた音楽が響いて、あちこちを音が騒がしく埋めていくのを一頻り聴いてから、もう一度顔を洗いに洗面所へと向かった。

    Video killed radio star.
    Video killed radio star.

    有名なポップスをバックグラウンドに顔を洗って、髭を剃って、歯を磨く。
    「…朝めしは…面倒だしいいか。」
    誰かがいないと、途端に日々の営みが億劫になる。こういう時に元の自分の部分が露呈してくる。温かな騒がしさが当たり前になる程、静かになった途端にそれは顔を覗かせてくる。
    「……ちゃんと聴くと、暗い曲だな。これ。」
    のそのそと制服に着替え、タバコを一本取り出して火を付けた。煙を肺に吸い込むと、ぼんやりした頭が次第にはっきりしてくる。耳に入ってきた歌詞をちゃんと聴く方じゃないが、いざちゃんと聴いてみると思っていた様な曲じゃないのか、と少し驚いた。
    力の強い方が、当然のように弱い方を淘汰する。
    …いつか、淘汰する脅威の側に自分はなりはしないだろうか。
    なんだかジワジワと嫌な気持ちになってきて、ラジオを切ろうとスイッチに手を伸ばすと、そのタイミングで部屋の入り口が開いた。
    「キース、起きていたのか。」
    「…ブラッド。」
    毎日毎日同じように綺麗に身だしなみを整えたブラッドは、今日も当たり前のように整った姿でそこに立っていた。
    「お前、帰ってなかったのか。」
    「…仕事があったからな。…帰ったところで、フェイスがあまりいい顔をしない。」
    「ふぅ〜ん…?」
    「それと、ディノから留守中のキースの生活態度を見張っていてくれ、と頼まれている。」
    「ゲェ…ディノのやつ…いいよ、んなもん遠慮するって…。」
    「生憎サウスも残っているのは俺一人だ。貴様の生活態度を監視するのには特に不都合はない。」
    「仕事があんだろっ…ったく…お前に見張られてちゃ越せる年も越せねえの!」
    思わずいつものように叩いてしまった軽口のあとに、ブラッドが少しだけ顔を強張らせたのがわかった。今のが「今年は一緒に年を越そう。」って言う最高にわかりにくい恋人への誘いだと気づいて「あ、まずい。」と取り消そうとした時には既に遅い。ブラッドは少しだけ息を大きく吸った後
    「…そうか、わかった。」
    と普段と変わらない声音で言った。オレ達はそこに隠れた落胆と諦めを見逃さない位の関係では、ある。だけど踵を返そうとするところを引き留めて抱きしめる、なんてそんな事が出来るほど青くもなかった。
    「おい、あ、あー…待て、待て待て。」
    「…なんだ。」
    案の定、振り返ったブラッドの顔はあからさまな不機嫌顔だ。いや、まあいつもの顔なんだけど。オレはどうにかこうにか頭を巡らせて訂正と謝罪を入れるための時間を得るための取引材料を絞り出す。
    「…朝飯。そうだ、朝飯食ってないだろ?」
    「プロテインバーで済ませたが。」
    「そんなもん朝飯にカウントすんなって。ほら、どうせならついでだ。作ってやるから…あー…。」
    「…わかった。断る理由はない。」
    「……かわいげねぇな。」
    「誘ったのはお前だが。」
    「いや、まぁ…そう…ああ。悪かったよ、謝る。」
    両手をあげ、降参のポーズを示してブラッドの顔を盗み見る。眉を上げて、少し口角をあげた暴君様は
    「卵はオムレツがいい。」
    と勝ち誇った顔で部屋の中に戻った。
    「……了解。」


    ==============


    食卓を囲む時も、いつも何かしら曲が掛かっているのが、最近のオレの日常だった。放っておいても誰かがジュークボックスで気に入りの曲を流したり、面倒なときは、ラジオをつけたままにもする。それはいつの間にか、慣れという形でオレの中にも染み込んでいたみたいだった。
    「ブラッド、コーヒー淹れたぞ。」
    「ああ。…オムレツにチーズが入っているな。」
    「好きじゃなかったか?」
    「いや、うまい。」
    「ディノのヤツがピザ用のチーズ大量に買い込んで、余らせててな。使わねーとダメになっちまうし…ったく。」
    「…ディノらしいが…少し困るな。バターはあるか?」
    「ん、ほら。パンいいのか?トーストしなくて。」
    「ああ、大丈夫だ。…このパンもうまいな。」
    「そうか?フェイスが気に入ってんだよな、この店…なぁ、チーズ持っていってくれよ。アキラとか好きだろ?わかんねぇけど、多分。」
    「…まぁ、食べるし喜ぶだろうな。ホットドッグがチーズホットドッグになる。」
    「おお、そりゃうまそう。」
    「…キース。」
    「ん?」
    「……サウスも、さっき伝えたが…俺以外は、帰省していて不在だ。」
    「…ん。」
    「…さっきは、俺の言い方が悪かった。」
    珍しくしおらしい顔で長い睫毛をふせる様子に、柄にもなく息が止まりそうになった。さっきまで騒々しいポップスを流していたラジオが急に甘ったるいラブソングを流し始める。…空気読むなよ。
    「いや、あれはオレが…悪かった。」
    ごめん、と2度目の謝罪を伝えるとブラッドは驚いた様子で目を上げた。合った視線を捕まえたまま、オレはなるべくゆっくり言葉を継いだ。
    「年越しのニューミリオンは…ちょっと騒がしいだろ。」
    「…ああ。」
    「その〜…ほら、ちょっと離れた場所までドライブデート…ってのは?」
    「構わないが…酒は飲むなよ。シートを汚されても困る。」
    「うぐ……わかったよ。」
    「…決まりだな。」
    とブラッドはさも愉快そうに頬を緩めてから、飲み干したコーヒーカップを置いて席を立つ。
    「…ん、もう行くのか?」
    「あぁ、今から会議だ。…では明日の夜に。時間は追って連絡する。」
    相変わらず忙しいねぇ。と茶化すと少しムッとした顔をしたあと直ぐに破顔して
    「いい朝食だった。…ありがとう。」
    そう珍しく素直なお礼を置いて、部屋を出て行った。
    ラジオから流れていた甘ったるいラブソングはいつのまにか、また元の騒がしいポップスに代わっていた。


    ================


    夜のドライブは割と好きだ。まぁ専らハンドルを握るのはブラッドなんだが、助手席から窓越しに毎日飽きるほど見てるキラキラのネオンの光が遠ざかって行くのが、なんだか知らない場所に行けるのかもしれないって少しだけワクワク感があった。
    カーラジオからは、新たな年の訪れを待ち侘びるラジオDJが声を弾ませていて、ブラッドも心無しか上機嫌の顔でハンドルを握ってる。
    「……どこまで行くんだ?」
    「特に決めてはいないが…ハイウェイに乗って、郊外まで走っても良い。…カウントダウンももうすぐだ。車からでも花火は見える。」
    そう言いながら、街の方へブラッドが視線を向ける。既にだいぶ走っているが、これだけ離れていてもニューミリオンの中心のあたりは特別に明るく輝いて見えた。
    「…オレ達、いつもあんなところに居るんだな。」
    思わず呟いた言葉に、運転席のブラッドはふ、と少し笑いを漏らす。
    「…居るだけではないだろう。」
    「守っている、か?…そんなご大層なもんじゃないと思うけどな。」
    少なくともオレは、とまたお叱言を言われそうな台詞を吐いて、窓の外に向けた目をブラッドの方へと移す。すれ違う車のヘッドライトに一定のテンポを刻む様に照らされる顔は毅然と前を向いて、黙ったまま道の先を見つめている。…綺麗だな。と素直にそう思った。
    「……オレは、目の前のモンだけで必死だよ。」
    誰も彼も、ひいては世界を守るだなんて傲慢にも程があるだろ。お前みたいに傲慢さだって絵になる、完璧なヒーローが出来るヤツじゃなきゃ。
    「…お前は……」
    ブラッドが不満げに口を開いたタイミングで、軽快なイントロがラジオから鳴り出した。

    Video killed radio star.
    Video killed radio star.

    「そういやこの曲、昨日も聴いたな。」
    お小言の続きが始まらないうちにとちょっと強引に話題を変えると、ブラッドもそれ以上は言わずに短く「そうか」と返して前を向き直した。
    「聴いたことあるか?」
    「有名な曲だ、かなり古いが。」
    「……思ってたより、明るい曲でもなかった。」
    あんまり好きじゃない。と言いながらオレがヘッドレストにトン、と頭を当てるのを横目で見てからブラッドは言葉を探すように口を開けて、それからため息を吐いた。
    「…運転する時は、大体ラジオを付ける。必要な情報も得られる上、ドライブを楽しむには効率的だ。」
    「………ふぅん?」
    「…そんなに簡単に消えたり、無くなるようなものではない。」
    「まぁそりゃ…わかってるけどさ。」
    「お前もだ。……しぶといだろう、それもかなりな。」
    「……へ。」
    オレが間抜けな返事を返すと、ブラッドは少しだけ目を細めて笑ったあと、人気のない道の端にゆっくりと車を停める。周りを見渡しても少し先にモーテルの看板が今にも力尽きてしまいそうにチカチカと光ってるだけで、あとは街灯の一つも無い。先に運転席から出たブラッドに促され、助手席のドアを開けて車を降りる。タバコに火をつけて、遠くの方で一際光を放っている街を眺めてからゆっくりと煙を吐いた。
    「……遠くから眺めるのも、悪くないだろう。」
    「ちょっと遠すぎねぇか?…エリオスタワーの先っぽくらいしか見えねぇぞ。」
    「花火くらいは見える。」
    そう言って、隣に立ったブラッドが「もうすぐだ。」と街の方を見つめたまま呟いた。
    付けたままのカーラジオがいつの間にかカウントダウンを始めていた。

    『5!』

    「…さっきの話だが。」
    「蒸し返さなくていいだろ…。」

    『4!』

    「お前は、ちゃんとディノを救った。」
    「……いや、それは…」
    「結果として、守られているのがあの場所だ。」

    『3!』

    「………。」
    「…俺はお前を、誇りに思う。」

    『2!』

    「………ブラッド。」

    『1!』

    オレは新しい年が来るその瞬間に恋人とキス、なんて一生しないと思ってた。きっとブラッドもそうだろうな。重ねた唇が離れて、目があったオレ達は二人で苦笑いをして、もう一度今度は深く口付けた。
    「……花火を、見逃した。」
    「…そんなの、見たがるタイプじゃねぇだろ。」
    形のいい唇を啄みながら、視線はついモーテルの看板に向かってしまう。ブラッドの反応を見ながら少し強めに抱き寄せて、出来るだけ甘えた声で名前を呼んだ。
    「なー……ブラッド。」
    「……着替えは、無い。」
    「そんなのオレもねぇけど。…明日は?さすがに仕事だとか言わないよな?」
    ぐ、と珍しく言葉に詰まる仏頂面の頬を撫でて、もう一度やさしくキスをした。

    「…帰りは貴様が運転しろ。」
    「まぁ、そんくらいはお安い御用で。なー、ご主人様?あイテッ!!おっ前蹴…イッテェ!!」
    「さっさと乗れ。…時間が勿体無い。」
    そうして車に乗り込んで、チカチカと誘う看板の方向へ。

    In my mind and in my car.
    We can't rewind, we've gone too far.
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    💘💘💘💘💘💘🙏💒💒💒💒💒💒💒❤❤❤💒💒💒💒💒💒💒💘💘💘💘💞💞💒💒😭👏👏👏👏👏👏👏👏👏
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    「……あー…そっか、全員いねぇのか…。」
    重たい体を引き摺る様にのそのそとベッドから這い出して、パンツ一枚とかろうじてベロベロのスウェットと着て大欠伸をしながらリビングへと出る。いつもなら「おいキース!だらしない格好で出てくんな!」なんてジュニアにギャンギャン吠えられるもんだが、広々とした空間にいつもの騒がしさはなくて。薄暗く、静まり返っていた。
    大晦日も近い冬の日、クリスマスリーグを終えたヒーロー達にもホリデーはやってくる。ディノもジュニアも、フェイスも。休暇をとって実家に帰って家族と過ごすと言っていた。休む予定も、帰る予定もないオレは「お〜、ゆっくりしてこいよ。」なんて、今とばかりにお気に入りのビールを空けて3人を見送ったのが、昨日の夜。特に休暇を取ることもしなかったオレは悲しくも通常勤務だ。
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