please call me.『クソみたいに使えねぇガキに呼んでやる名前なんかねぇよ。』
『おいゴミ。』
『名前?要らないだろ。どうせこの仕事が終わったら他人だ。』
『盗っ人!!』
『疫病神!』
『…犯罪者』
誰も、オレの名前を呼んでくれなかった。
ディノと、ブラッドに出会うまで。
「キース!」
「…キース。」
ちゃんとオレの「名前」を呼んでくれたのは。
『……誰だ?』
キースだよ、キース・マックス。
『………そんな奴知らない。』
『そんなやつ、しらない。』
「…………っ…!!」
悪い夢を見て、目が覚めたあとは身体中の血がざぁっと流れ出していくような感覚に襲われる。
荒い息と跳ねるような心拍が落ち着くのを待って、そっと目を開ける。隣に感じられる体温に手を伸ばして起こさないようにそっと触れて静かに眠るブラッドの顔を視界に入れた。
「………やな夢だな。」
ディノの事が落ち着いてから、「あの日」の夢は見なくなった。その代わり、別の夢を見るようになった。
夢の最後はいつも必ず、ディノがオレ達を知らないと言った日の記憶で目が覚める。もう、きっとこれから先そんな事はありはしないのに。
「っと……タバコ…。」
ベッドサイドに雑に放られたライターと、ヨレたタバコの箱に手を伸ばしてつかむ。ブラッドを起こさないようにシーツの間からそっと抜け出そうとすると腕をぐ、と引っ張られた。
「…何処へ行く。」
「おわ。…悪い、起こした?」
引っ張られた力の方に視線を向けると、ブラッドはまだ眠そうにあくびを噛み殺して「…そうだな。」と言ってから大きくゆっくりと息を吐いてベッドに沈み込む。
「あー…すまん、タバコだけ…」
「…その前から起きていた。」
「へ。」
「…悪い夢でも、見ていたのか。」
掴まれたままの腕が少しだけ強めに握られる。
「…魘されていた。」
「……そっか。」
悪い。と短く謝って手にとっていたライターとタバコをもう一度放り出した。毛布を被り直そうとするブラッドの顔を捕まえて、キスをする。何度か啄んで、今度は深く。舌を誘い出して口内を舐ったあともう一度軽いリップ音を立てて、唇を離した。
寝起きでしつこく口内を犯されて、苦しそうに息を吐いたあと、ギロリと不満そうな視線を向けてくる。
「っ…何をする。」
その抗議を無視して、紅潮したその頬に指を這わせてブラッドの肌の感触を確かめる。
…大丈夫だ。ここにいる。
温度も、感触も匂いも、ちゃんと手の中にある。
「……大丈夫か。」
「…まぁ、うん。」
赤い小さな跡の残るブラッドの肩口に頭を寄せると、そのまま両腕で抱き込まれる。汗と、ブラッドの匂いがした。
「……ブラッド。」
「なんだ。」
「…名前、呼んでくれよ。」
まるでガキみたいに抱かれたまま、そう言って目を閉じる。
「…キース。」
ブラッドの手が優しく宥めるようにトン、トン、とオレの背中を叩く。心地よさに目を閉じて
「…ん。」
と小さく返事をした。
今日は休暇だから、あと少し隣で眠ろう。
きっともう、悪い夢は見ない。
目を閉じると、もう一度ブラッドがやさしくオレの名前を呼んだ。