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    pypy_ym

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    pypy_ym

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    ユキモモの見た目をこれでもかと描写したかった

    アイドルにとって見目というのも才能の一種である。
     生まれ持った容姿や体格、そういった努力ではどうしようもないものがオーディションやスカウトで重視され、どれだけ手を伸ばしてもアイドルという夢を掴めない人間はごまんと居るのだ。
     そういった点で、目の前で優雅にワインを口にする千という男は才能に恵まれている。
     メンバーの天から、見た目で得をしていると言われる楽をもってしても、彼が持つ天性の美貌には敵わないだろう。
     切れ長の目に宿ったブルートパーズの瞳は存外に表情豊かで、歌唱、ダンス、演技において華を持たせる役割をしている。左目の下にある泣きぼくろは彼の端麗な顔立ちに色気を添え、高い鼻も、薄い唇も、黄金比としか表現できない配置で千の顔を作っていた。
     しかし、一度口を開けば笑いのツボは浅くて妙な場所にあるし、言動はやや社会性と協調性に欠ける。同じ空気を共有している大和が哀れな犠牲者になる場面を、楽は何度も見てきた。
     立ち上がればモデルのような姿勢の良さと、美貌や長髪に隠れて分かりづらい男らしい体格。外国人さながらの長い脚。しかし、千がその容姿を褒められて喜ぶのはたった一人に限定されている。
     大画面テレビで流れる映画の中で、盲目の大学生を演じている千の相方。彼だけが千に容姿を褒めることを許可された人間だ。
     千とドラマで共演した際、どれだけ美しい女優から見目に対する賛辞を送られても彼は口元でしか笑わず、適当にあしらった。楽ははじめて見る千の態度に驚き、同時に納得したものだ。千という人間は根っからのアーティスト気質なのである。彼の音楽に心底惚れ込み、全身全霊を捧げる百の言葉でなければ、千にとって容姿を褒められることなどどうでもいいのだ。
     映画の中の百は特徴的な白黒頭を真っ黒に戻し、リタイアを目前とした盲導犬と寄り添っている。百が演じる大学生と、長らく彼の目を勤めた盲導犬との別れを描いたストーリー。役者としての百の評価は中の上くらいで収まっているが、実際の演技はアイドルとしての彼を微塵も感じさせないクオリティに仕上がっている。別人のようだ、と言うのは過言かもしれないが、千の評価はこうだ。
    「モモは完全に憑依型の演技なんだけど、スイッチでもあるんじゃないかってくらい顔を切り替えるのが上手なんだよね。我が強いのかな」
     憑依型の演者は日常生活に支障を来すこともある中、百は一度だってアイドルの姿を崩したことがないという。その事を思い出した楽は画面の中の百を見る。帰宅し、愛犬のハーネスを外して満面の笑みで全身を撫で回す姿。しかし、盲目という設定を除いても目に覇気がない。そんな百を収録やオフで見た事は、一度もない。
     千を常日頃から褒め称える百とて、容姿や才能に恵まれている。しかし、芸能界の謎に数えられるほど、百本人はそれに気づいていない。
     ぱっちりと開いた意思の強いピンクトルマリンの瞳は受信機と発信機の役割を的確にこなし、視線一つで空気を変えるだけの力を持っている。本人が気にしている童顔は、愛らしさと力強さの幅を生み出しそれが人を魅了してやまない。スポーツマンである百の身体は衣装と彼が好むルーズな私服によって隠されがちだが、グラビアなどで晒す身体は男性の肉体美をはらんでいる。
     愛しい目のリタイアまで残り数日の日々を過ごす大学生の表情は、慈しみと悲しみ、パートナーに幸あれと願う心と自分に降りかかる絶望を噛み締め、百が演技向けに作った幼い顔に覚悟を宿らせている。いつだったか、天が言っていた。百さんは感情の幅が大きい、と。アイドルとしての彼は常に明るい顔を見せているが、役者としての百の表情を見れば、それも納得だ。トップクラスの役者として名をはせている千は、愛しいものを見る目で画面を見詰めている。この人のことだ、すでにこの映画を幾度となく見ているのだろう。
     エンドロールが流れ、凝り固まった身体を伸ばす楽と大和を横目に千は空になったワイングラスに手酌で赤ワインを注いでいた。大和が「いい映画でしたね」と口にすれば、千は自分を褒められたように顔を綻ばせる。
    「でしょう」
    「あんたのことは褒めてません」
    「だってモモが褒められたんだもの、嬉しいじゃない。撮影中大変だったんだよ。いつも以上に台本はボロボロだし、一人で台本読んで一人で泣いてるし。僕の顔を見ると余計泣くからって、構わせてくれなかったし」
     タイムリミット、パートナーとの離別。確かに、百の脆いところを容赦なく突く脚本だ。それを見事に演じきったと考えれば、百の演技に深みを感じる。
    「ラストシーンね、台本では主人公がずっと泣いてる事になってたんだけど、モモがお別れの時は笑顔で居たい、って、自分の役は何も見えてないけど、相手には自分の顔が見えてるから笑ってお別れしたい、って言って監督に直訴したんだって。監督も脚本も渋ってたけど、モモの演技を見てラストシーンを変えたんだって。すごいよね」
     ふふ、と幸せを絵に描いたような微笑を浮かべた千に、大和が今にも砂糖を吐き出しそうな顔と、映画の裏話に興味を引かれた顔をした。楽とて大和の『はいはいご馳走さま』とでも言いたい気持ちが分からない訳ではないが、今日もRe:valeは仲が良い、という気持ちの方が勝る。こうやって日常的にお互いを尊敬しあえる関係は、Re:valeならではだろう。楽が天や龍之介を褒めようと思えば、少しの気恥ずかしさが宿る。そういった点では龍之介の真っ直ぐな感情が眩しい。IDOLiSH7では七瀬陸や六弥ナギあたりがその役割だろうか。
    「百さんらしいっすね」
     楽は千の口から出た裏話を、素直にそう思った。そのシーン変更は百の感性であり、彼が演じた大学生の最後のプライドだ。見たばかりのラストシーンを思い出す。遠くへ離れていくパートナーへ笑顔で手を振り続ける彼は、パートナーが自分に存在しない視界から消えたことを家族に確認してから涙を零した。浮かべていた笑顔はパートナーのため。『大好きだよ』と『安心して』を表現し、零した涙は自分のため。
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    pypy_ym

    MOURNING多分完成させない性癖のやつ
    ユキモモ
    「ただいま」
     久方ぶりの外出だった。
     普段はメールや通話アプリを通してのやり取りで仕事を進める千斗だが、今回の仕事は前々から千斗が尊敬しているアーティスト直々の依頼ということで、いつもは面倒極まりない会議にも積極的に顔を出した。向こう側も千斗を気に入ってくれ、音楽の話でもどうだ、と食事に誘われたのが今日のこと。同居人には遅くなる、と連絡を入れ、酒も食事も放って音楽の話に花を咲かせた。
     帰宅した千斗を冷たい部屋が迎え入れる。
     時計が日付変更線を跨ごうとしているこの時間、一般的な会社員である同居人が帰宅していないとは考えにくく、また、彼の性格上、このくらいの時間ならば起きて千斗の帰りを待っているだろうに、存在するのは暗く冷ややかな部屋。千斗は大股で部屋に入り、同居人の彼を探す。
     彼はリビングのソファに横になっていた。
     常は明るく朗らかな表情はすとんと抜け落ち、瞬きを繰り替えす瞳には生気が見られない。帰宅したその足で倒れ込んだのか、彼はスーツ姿のままだった。
    「モモ」
     屈み込み、彼の視線の上に自分の姿を置いて名前を呼ぶ。瞳がくるりと動いた。モモーー百瀬は手を重たげに上げる。その 1735

    pypy_ym

    MOURNING夫婦漫才のはじまりについて考えてみたやつ。「前から聞きたかったんだけど、君たちのあの路線、どうやって決まったんだ?」
     心の底から疑問だといわんばかりの万理の声が、千と百の鼓膜を刺激する。あの路線、というとまあ間違いなく夫婦漫才ネタのことだろう。万理とやっていた時の千は間違ってもあんなネタに乗る人間ではなかった。それが百と組みはじめて、イケメンだとかダーリンだとか呼ばれて微笑むようになっている。
     千は意地悪くにやにや笑って万理を見据える。
    「万、僕たちが出てるテレビは全部見てたって豪語してなかったっけ?」
    「気付けばああなってたろ。裏話を聞きたいんだよ」
    「へぇ」
     ちらりと百に視線をやった千は、「あれって結局どっちなの?」と百に確認を取るような言葉を発し、百はうーん、と腕を組んで悩みはじめた。
    「原因はオレで、発破をかけたのがおかりん、って感じ? 最終的にゴーサインだしたのもおかりんだったじゃん。ユキが嫌ならやめるつもりだったけど、ユキは乗ってきたし」
    「僕とモモとおかりんの総意だよね」
     おかりん、Re:valeのマネージャーである岡崎凛人の名前が出て万理は目を瞬かせる。小鳥遊事務所のIDOLiSH7のマネージャー、小鳥 3088

    pypy_ym

    MOURNINGユキモモの見た目をこれでもかと描写したかったアイドルにとって見目というのも才能の一種である。
     生まれ持った容姿や体格、そういった努力ではどうしようもないものがオーディションやスカウトで重視され、どれだけ手を伸ばしてもアイドルという夢を掴めない人間はごまんと居るのだ。
     そういった点で、目の前で優雅にワインを口にする千という男は才能に恵まれている。
     メンバーの天から、見た目で得をしていると言われる楽をもってしても、彼が持つ天性の美貌には敵わないだろう。
     切れ長の目に宿ったブルートパーズの瞳は存外に表情豊かで、歌唱、ダンス、演技において華を持たせる役割をしている。左目の下にある泣きぼくろは彼の端麗な顔立ちに色気を添え、高い鼻も、薄い唇も、黄金比としか表現できない配置で千の顔を作っていた。
     しかし、一度口を開けば笑いのツボは浅くて妙な場所にあるし、言動はやや社会性と協調性に欠ける。同じ空気を共有している大和が哀れな犠牲者になる場面を、楽は何度も見てきた。
     立ち上がればモデルのような姿勢の良さと、美貌や長髪に隠れて分かりづらい男らしい体格。外国人さながらの長い脚。しかし、千がその容姿を褒められて喜ぶのはたった一人に限定されてい 2504

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