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    pypy_ym

    @pypy_ym

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    pypy_ym

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    夫婦漫才のはじまりについて考えてみたやつ。

    「前から聞きたかったんだけど、君たちのあの路線、どうやって決まったんだ?」
     心の底から疑問だといわんばかりの万理の声が、千と百の鼓膜を刺激する。あの路線、というとまあ間違いなく夫婦漫才ネタのことだろう。万理とやっていた時の千は間違ってもあんなネタに乗る人間ではなかった。それが百と組みはじめて、イケメンだとかダーリンだとか呼ばれて微笑むようになっている。
     千は意地悪くにやにや笑って万理を見据える。
    「万、僕たちが出てるテレビは全部見てたって豪語してなかったっけ?」
    「気付けばああなってたろ。裏話を聞きたいんだよ」
    「へぇ」
     ちらりと百に視線をやった千は、「あれって結局どっちなの?」と百に確認を取るような言葉を発し、百はうーん、と腕を組んで悩みはじめた。
    「原因はオレで、発破をかけたのがおかりん、って感じ? 最終的にゴーサインだしたのもおかりんだったじゃん。ユキが嫌ならやめるつもりだったけど、ユキは乗ってきたし」
    「僕とモモとおかりんの総意だよね」
     おかりん、Re:valeのマネージャーである岡崎凛人の名前が出て万理は目を瞬かせる。小鳥遊事務所のIDOLiSH7のマネージャー、小鳥遊紡が凄腕なのは最初から見てきた万理がよく知っているが、仕事の話や時折サシ飲みをする程度の凛人の腕前をよくわかっていない部分がある。一癖も二癖もある目の前の二人を支えたのだから、彼らが言うように敏腕なのは間違いないだろう。
    「ユキと組みはじめて、まだあんまりテレビとかに出てなかったころの話なんですけど……」
     バラエティで数々のMCをこなす百の口から昔話が語られた。

     Re:valeがデビューしてはじめのころの仕事といえば、ライブハウスでのライブ、深夜帯のテレビの小さなコーナー、地方巡業、事務所の力を借りて無名の彼らはコツコツと仕事を積み上げ、着実に土台を固めるしかなかった。
     そういった仕事の打ち合わせの後、凛人が話を切り出したのだ。
    「百くん、もう少し、千くんにフランクにできませんか?」
     百はもともと千のファンで、仕事ではなんとかやっているがプライベートでは未だに「ユキさん」と呼び、敬語を使っていた。千はそれにもどかしさを覚えていたので、岡崎さんナイス、と心の中で声援を送る。言われた百といえば、顔色を悪くして自分の反省点を探っているようだった。それを見た凛人は咳払いを一つ、仕切り直す。
    「言い方が悪かったですね。百くんは千くんの魅力を見つけて発信することにかけて、現時点では自分より上手いです。けれど、百くんが千くんの良さを伝える時、どうしても距離を感じる物言いになってしまっています。アイドルデュオでその距離、いわば上下関係があるように見えるのは欠点になり得ます。仲が良いお二人なんですから、仲の良さを使ったアピール方法もあると思うんです」
    『現時点では』の言葉に好戦的な色を乗せたものの、凛人は二人を分析し、将来のことを思って発言した。グループ内でギクシャクしているところなどファンが見たい物ではないし、ファン以外の人間にも見られるメディア露出となると、なにを言われるか分かったものではない。だから、今の距離感は欠点なのだと。
    「仲……良いんですか?」
     百は控えめに疑問を口にする。
    「仲が良くない二人は止む終えない事情があっても、ひとつ屋根の下で暮らすことに耐えられませんよ」
     その通りだろう。生まれ育ちも違えば生活習慣も好き嫌いも違う。それでも二人が同じ部屋で寝起きしているのは、お互いを尊重できるからだ。千などは集団生活が出来ない人間の最高峰のようなものなので、百との暮らしが苦痛でない時点で相性の良さは証明されている。分かっていないのは百だけだ。
    「仲の良さを使ったアピール……」
    「はい、百くんは千くんの良さを先行配信されている状態で、その上で百くんは千くんの良さを広めたいと思っている。ファンの布教活動はステージの上でやることではないです。Re:valeとして、千くんの魅力を発信してください」
     千は先行配信の言葉に笑ってしまったが、凛人の言うことは間違っていない。百はライブのMCでも、誤解をうみやすい千の態度や人柄を、エピソードを交えて良い部分に変えて話してくれる。千はそうやって百が話すのを聞くのが好きだから、自然と笑顔がうまれる。百の良いところも話したくなる。
    「うーん……」
     唸って悩みはじめた百に、千は「僕はこのままでいいの?」と凛人に聞いた。
    「いいですよ。千くんは自然に百くんを褒めています。……できれば、貧乏ネタは自虐になりかねないのでやめてほしいですけど」
     貧乏ネタ、やったっけ。やったかな、と千は頭を巡らせる。前日の夕飯の紹介だけでも貧乏ネタになりそうな生活をしているのはわかっている。けれどその生活の中でも百の良さは光り輝いているのだ。そんな人間の美徳を固めたような百の方を見ると、耳まで赤くして顔を覆っていた。
    「モモくん、どうしたの?」
    「百くん?」
     千と凛人の声を受けて、百は真っ赤な顔を上げる。
    「あの、そ、の、考えてみたんですけど……オレが知ってるユキさんのよさを、仲良しを交えて話すと、それ……惚気みたいになりません……?」
     言い終わって、百は「恐れ多くてムリ!!!!」と再び顔を覆う。
     言われた千は悪くないと思う。百はバイトを掛け持ちして、交友も広い。けれど、あのオンボロアパートの一室で無邪気に笑う百を知っているのは千だけだ。そして、そんな千を褒めてくれるのも百だけ。千にとって惚気なんて、聞くのは鬱陶しいし言ったこともない未知の存在だが、百に言われるのなら嫌な気はしない。
    「惚気上等です! 試しにやってみてください!」
     凛人といえばナイスアイデア、と言わんばかりに握りこぶしを作る。追い詰められた百はテーブルの上に残っていたミネラルウォーターのペットボトルを一気に煽り、クールダウンして、長い深呼吸。モードの切り替え。
    「この間、オレってば布団も敷かずに寝ちゃったんだよね! 電気もつけっぱなしで、ほんと恥ずかしいし畳の跡が顔面に残るじゃん? でも、次の日アラームで起きたら、布団の上だったんだよ。あれっ? オレってば夢遊病になっちゃった!? ってびっくりしたけど、それをやってくれたのがユキだって知ってめちゃくちゃびっくりしたよね!! こんなイケメンなのに寝落ちしたオレを布団に寝かしてくれるユキ、優しいイケメンすぎない? 心までイケメンなユキ、ほんとかっこいいよね!!」
     ライブのMCから考えればヤケクソが入った口調で言い切った百に、凛人が親指を立ててグッド、と示す。そして凛人の視線が千に、つまり、ネタに乗れ、だ。
    「モモの寝顔、可愛かったよ」
    「はゔっ……」
     ダメージをくらった百の声に千と凛人の笑い声が重なる。
    「この方面でいけそうですね」
    「そうね。楽しい」
    「まっっって、オレの、オレのメンタルは!?」
    「慣れて」
    「慣れてください」

    「というわけでして」
     言い終わった百ははじめた当初の恥ずかしさを思い出したのか、ほんのりと顔を赤くしている。聞いた方の万理と言えば、納得したようなしていないような、微妙な顔をしている。
     万理の知っている『百くん』が『ユキさん』を褒めれば、確かにファンの語り口になってしまう。それがアイドルのやることではないのも分かる。分からないのはそれが熟年夫婦と新婚夫婦を足して二で割った状態までエスカレートしてしまった事実だ。
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    pypy_ym

    MOURNING多分完成させない性癖のやつ
    ユキモモ
    「ただいま」
     久方ぶりの外出だった。
     普段はメールや通話アプリを通してのやり取りで仕事を進める千斗だが、今回の仕事は前々から千斗が尊敬しているアーティスト直々の依頼ということで、いつもは面倒極まりない会議にも積極的に顔を出した。向こう側も千斗を気に入ってくれ、音楽の話でもどうだ、と食事に誘われたのが今日のこと。同居人には遅くなる、と連絡を入れ、酒も食事も放って音楽の話に花を咲かせた。
     帰宅した千斗を冷たい部屋が迎え入れる。
     時計が日付変更線を跨ごうとしているこの時間、一般的な会社員である同居人が帰宅していないとは考えにくく、また、彼の性格上、このくらいの時間ならば起きて千斗の帰りを待っているだろうに、存在するのは暗く冷ややかな部屋。千斗は大股で部屋に入り、同居人の彼を探す。
     彼はリビングのソファに横になっていた。
     常は明るく朗らかな表情はすとんと抜け落ち、瞬きを繰り替えす瞳には生気が見られない。帰宅したその足で倒れ込んだのか、彼はスーツ姿のままだった。
    「モモ」
     屈み込み、彼の視線の上に自分の姿を置いて名前を呼ぶ。瞳がくるりと動いた。モモーー百瀬は手を重たげに上げる。その 1735

    pypy_ym

    MOURNING夫婦漫才のはじまりについて考えてみたやつ。「前から聞きたかったんだけど、君たちのあの路線、どうやって決まったんだ?」
     心の底から疑問だといわんばかりの万理の声が、千と百の鼓膜を刺激する。あの路線、というとまあ間違いなく夫婦漫才ネタのことだろう。万理とやっていた時の千は間違ってもあんなネタに乗る人間ではなかった。それが百と組みはじめて、イケメンだとかダーリンだとか呼ばれて微笑むようになっている。
     千は意地悪くにやにや笑って万理を見据える。
    「万、僕たちが出てるテレビは全部見てたって豪語してなかったっけ?」
    「気付けばああなってたろ。裏話を聞きたいんだよ」
    「へぇ」
     ちらりと百に視線をやった千は、「あれって結局どっちなの?」と百に確認を取るような言葉を発し、百はうーん、と腕を組んで悩みはじめた。
    「原因はオレで、発破をかけたのがおかりん、って感じ? 最終的にゴーサインだしたのもおかりんだったじゃん。ユキが嫌ならやめるつもりだったけど、ユキは乗ってきたし」
    「僕とモモとおかりんの総意だよね」
     おかりん、Re:valeのマネージャーである岡崎凛人の名前が出て万理は目を瞬かせる。小鳥遊事務所のIDOLiSH7のマネージャー、小鳥 3088

    pypy_ym

    MOURNINGユキモモの見た目をこれでもかと描写したかったアイドルにとって見目というのも才能の一種である。
     生まれ持った容姿や体格、そういった努力ではどうしようもないものがオーディションやスカウトで重視され、どれだけ手を伸ばしてもアイドルという夢を掴めない人間はごまんと居るのだ。
     そういった点で、目の前で優雅にワインを口にする千という男は才能に恵まれている。
     メンバーの天から、見た目で得をしていると言われる楽をもってしても、彼が持つ天性の美貌には敵わないだろう。
     切れ長の目に宿ったブルートパーズの瞳は存外に表情豊かで、歌唱、ダンス、演技において華を持たせる役割をしている。左目の下にある泣きぼくろは彼の端麗な顔立ちに色気を添え、高い鼻も、薄い唇も、黄金比としか表現できない配置で千の顔を作っていた。
     しかし、一度口を開けば笑いのツボは浅くて妙な場所にあるし、言動はやや社会性と協調性に欠ける。同じ空気を共有している大和が哀れな犠牲者になる場面を、楽は何度も見てきた。
     立ち上がればモデルのような姿勢の良さと、美貌や長髪に隠れて分かりづらい男らしい体格。外国人さながらの長い脚。しかし、千がその容姿を褒められて喜ぶのはたった一人に限定されてい 2504

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